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おーばーすぺっく・でっどりぃ・きゃのん -- ふぁいあ

 公伝歴・青銅2048年。

 総勢数千人の革命派がこの日のある時刻を以て。


 一斉に砲弾を叩き込む。


「で、一握りの砲台担当者がこうして隠密に発射装置に待機しているんだ。名のある技術者か熟練の頑固親父か金持ちの破壊好きか。総じて気前の良いアホどもだ」


 計32の砲台のうち第17砲台担当の技師ルシアスは、自分でそう言いながらその屈強な顔の窪んだ瞳を潤ませていた。理由を聞けば嬉し泣きと誤魔化すだろう、それ以上問い詰めればその太い毛むくじゃらの腕で押しやられるだろう。彼は第31番目の砲台が設置してある方角を見ていた。


 上空数千メートルに砲台担当者の中で最も高い軍事力(という言い方を彼らは嫌うので、「威力」とする)を備えるミライチの砲塔飛空艇が風と雲を蹴散らしていた。ミライチは飛空艇から地上へ正確に最高クラスの砲弾を叩き込む。飛んでいるのは余興でしかない。一番最初の打ち手に名乗りを上げた彼に誰も反対しなかったのは彼が単にお金持ちだからではない、財力技術人望すなわち威力が申し分なく皆を鼓舞するからである。

 彼の飛行艇の表示が示すタイミング、これより31:54.373後にターゲットの遥か上空で、特大の砲塔が火を噴く。第1砲台セントミライチ。


 計32発の砲台を待ち構えるのは他でもない、非道の限りを尽くした鉄鋼領事省の中央要塞だ。鉄鋼領事省側からすればちんけなアホどもが何やら騒いでいるのは承知の上、大した威力のない鉄砲遊びが今日のどのタイミングで行われるのかも筒抜けなのだ。そして不動だった。慌てる必要も迎え撃つ必要もない、傷一つ付かないことを知っているからである。


 第8砲台の操者ヒイラは天を仰いだ。珍しい女性技師の彼女は博学な父が設計した砲台の精度を疑っているのではなく、ただこの日に感謝を込めて。概念無き澄んだ偶像へと。


 名のある技術者の多くは砲台作動の瞬間を少し離れたところで愉しむ。スイッチがあれば彼らが近くにいる必要はなく、鉄鋼領事省に自らの撃った砲弾が着弾する瞬間を見ることもしたいからだ。



 無数の轟音が既に数発それぞれの地点で起爆した。音はあまりにも遅くそれぞれが計算した距離地点から不規則な円状の協奏を創る。


 第18砲台担当のセネガルはまだ年端も行かない少年だ。彼は並外れた頭脳で作り上げた砲台に手を添えていた。そろそろ自分の発射タイミングが来る。砲台の数字は概ね発射順番だ。32の各砲台は鉄鋼領事省からそれぞれ好きな距離を取ってもはや隠れることもなく堂々と設置してあり、それらが同時に着弾するように、計算されたタイミングで作動させる。それくらいの計算ができなければ32名に選ばれることは無い。そしてこれくらいの威力が出せなければというのもまた叱り。

 彼は砲塔に手を添えていた。作動時に伝わる振動が最上の体験なのだ。彼の砲台は基準威力を優に超えていた。時間だ。第18砲台が破壊的に火を噴いた。


 無数の砲弾が空中にある時間は長く短い。


 第25砲台と第26砲台のズドウとルッシは仲良く隣り合った砲台を完全に同時に作動させた。2つの砲台は鉄鋼領事省を中心にした円周上にある。そのむさくるしい友情は二つの砲台の同期をより完璧なものにし、威力を単純な足し算以上のものにしたことだろう。



 そして、第31砲台のカメコは誇らし気な表情で鉄鋼領事省を見据えていた。彼女の砲台は情けと先代の威光でそこに建てられていた。


 どうみてもおんぼろの砲台には、基準威力生み出すための過剰な設計が詰め込まれている。砲弾発射の衝撃に耐えうるだけの土台ではない。資産が足りなかったのだ。要は高さを得た砲塔部分をなるだけ強烈に爆発させ、放射状に広がるその威力をなるべく砲弾へと集中させる。玉は前へ飛ぶ。砲台上部の操作室を含めた機構は粉々に吹き飛ぶ。時限式の複雑な装置を組み込むことはできなかったから、カメコ自身が操作室でいくつもの手順を踏み砲台を作動させる。つまり彼女は発射と同時に粉々になる。


「鉄鋼領事省め、みておれ」


 親父譲りの潔いセリフが放たれる。カメコは誇らし気だった。そろそろ彼女の番だ。第32砲台は皆が認める最強威力のトリが待っている。20番台後半辺りの砲台は正直期待されていないのだが、それでもカメコは誇らし気だった。



 猛威を振るった鉄鋼領事省に、この日ある瞬間、つわものあほどもの放った32の砲弾が完全に同時に着弾した。

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