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神のみぞ知る先の世  作者: 握り飯太郎
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小林家


 あれよあれよと言う間に先程出会ったやや年配の女に、優一と天子は屋敷の居間に通された。

 優一と天子、二人が座敷の中央に座るとその左側に大男一人と少年少女が並んで座り、上座には老人が座って優一達に視線を向ける。

 天子は心臓しんのぞうが握られる思いで座布団に正座をしておりその横で優一はどっかりと胡座をかいて頬を掻いていた。


(こ、恐いわ……私人目に晒されると穴に入りたくなる……うう……部屋の隅に行きたい……)


 大男は優一と同じく背が高く身体つきも筋骨隆々な男であり、品定めでもするかのように天子をジロジロと人を殺せそうな眼差しで睨み付け、明らかに警戒をしている。


「さて、話の前に……佐助さすけ、それから紅緒べにおは席を外しなさい」


 老人の一人が声を発すると少年と少女が座布団から立ち上がる、少女は長く艶やかで真っ直ぐの癖のない黒髪に唇と目元にはべにを塗って化粧をしており、幼さがまだ残るが顔立ちは美しく雰囲気だけで見れば落ち着いていて大人のようだった。

 少年は顔付きが少し優一と似て目力があるが挑発的な瞳をしていて、癖っ毛な髪も結わず肩まで伸ばし八重歯が特徴的であった。

 その二人は真っ直ぐ姿勢正しく立ち上がると会釈をして天子の脇を通って行く。

天子が横目で立ち去る二人を見上げると美しい少女とすれ違う際に目が合い、思わず自分の膝へと視線を落とした。


「優一……生きていたのか」


 老人が先に口を開いた。


「おうとも。生きて……生きて来た。親父様は大分歳を召されたな」


「……随分と逞しくなった」


「親父様! 本当にこいつが優一と言うのですか!? 証拠がない! どこぞの者が我等をたばかる為についた偽り事かも知れません!」


 目付きの悪い大男が優一を指差し片膝を上げて前のめりになると、天子は不安げに優一の顔を見る。

 優一は天子にあっけらかんとした笑みを返した。


「疑ってくれて構わんが、儂が優一と証明するのは難しいのう。昔の思い出と言えば……勇二郎、お前が寝小便垂れて儂の布団に泣きながら入って来た事と、山で遊んだ時にお前がかわやへ行きたくなったが間に合わずその場で糞を……」

「それ以上言ったら殺すぞ」


 顎を掴み昔の事を思い出しながら話す優一に、目付きの悪い男が恫喝的どうかつてきな声を出しながら立ち上がると大股で天子と優一の前まで歩み寄る。

恐らく優一が話した過去話に出てくる勇二郎とはこの男の事だろう、まさかこんな公の場で記憶その物を消し去りたい程の恥ずかしい話をされるなんて……少し憐れに天子は思った。


「おい貴様、今俺の事を可哀想に思っただろう……? 同情しやがったな!」


「ぴっ!!」


 勇二郎が血に飢えた獣のような眼光を天子へ放つと、天子は小鳥のような声を上げて震えながら四つん這いで優一の背後へと逃げ出した。


「天子をいじめるのはやめんか馬鹿たれ!」


 優一は天子を己の背後へ隠すように片腕を広げる。


「……先程から疑問に思ってはいたのだが……その娘さんは優一のなんだ?」


 上座に座る老人がそう尋ねると一気に視線が天子へと集中し、天子は石のように硬直した。


「おお! 天子と言ってのう。説明が難しいんじゃが共に飯を食い、共に寝て、儂の裸を見た女子おなごじゃ。儂が天子に迫った時、どうやら天子は男にあまり慣れてなかったようで気絶させてしまった事があってなぁ……あれは今でも反省しとる」


「ぶっ!」

「げっほ! げほげほ!」


 天子が思わず吹き出してしまい老人が咳込んで背中を丸める、勇二郎は固まり天子への怒りはどこへやらと吹き飛んでしまっている。


「ごっ、ごめんなさい! 裸を見た事は正直申し上げると本当ですが、私達は皆さんが思ってるような間柄ではありませんので誤解をなさらないで下さい!」


 天子は老人へ土下座を深々とすると。老人も天子へ胡座をかいたまま頭を下げた。


「こちらも申し訳ない……息子がどうやらあなたにとんでもない事をしたようだ……身体は大事ないかい? まさか……気絶までさせるなんて……」


「ち、違うんです優一さんと私は肌が密接に触れ合った事すらありませんっ」


 同じ格好のまま固まっていて石像と化していた勇二郎がようやく動き出すと、大股に脚を開いたまましゃがみこんで土下座をする天子の顔を覗き込み鼻で笑った。


「格好がまるで物乞い、そして見た目も地味、犬ころのように小さくて何より華がねぇ。優一が女房でも連れて帰ったと思ったが、そんな事ありえないな」


「い、犬よりかはまだ大きいのですが……」


 天子が土下座の姿勢から恐る恐る面を上げると、勇二郎を見上げる。


「じゃあ何か? 狼に食い殺される前の狸か」


 見上げた先で優一と似た顔で修羅のように表情を歪めて逆毛立つ勇二郎に、天子は小さな声で「米粒程私は小さいです」と呟いた。


「名乗り遅れてすまないね天子さん、私は小林久松、優一の父だ」


 老人が勇二郎と天子の話を裂くようにそう名乗ると、天子は丸い瞳に改めて久松の姿を映して座り直すと頷く。


「そして血気盛んなのが勇二郎、失礼な発言をしても許しておくれ」


 勇二郎は先程から天子に対して態度が辛辣なこの男だった。

 髪は耳にかかる位まで切られ鋭い八重歯と眼力はまるで狼のよう、そして優一よりも着物を着崩した格好をしていて殆ど胸板が見えていた。


「……ちっ……」


 続けて久松は言った。


「それから優一、お前はどうする? もし構わないならここにまた昔のように住まないか?」


「ありがとう親父様、こちらも親父様が構わないならそうさせてくれ。それと、天子もここに住まわせてくれんか?」


「…………え?」


 優一の突然の申し出に天子の目が点となっていると久松は間髪入れずに返事をした。


「構わん」




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