放課後の雪
雪柄のクマのマスコットがついた、小さな手帳を拾った。
放課後も半ば過ぎの廊下には人気がない。だが、HR棟から昇降口へ続くこの廊下を通るのは全校生徒であるため、持ち主を見つけるのは骨がおれるだろう。
しかし幸いにも――いや、早く帰りたい俺にとっては不幸にも――持ち主とその居場所は大体の見当がついている。
「仕方ねぇな……」
まだ帰っていないことを祈りつつ、足早にHR棟へ引き返した。
「篠原」
閉館時間ギリギリの図書室の、一番奥の席。静かに読書を楽しむには最高な場所だ。
「あれ、こうちゃんどうしたの」
いい加減そう呼ぶのはやめてほしいのだが、言ったところでこいつは聞かない。
「これ、お前のだろ」
「なんでこうちゃんが持ってるの!?」
篠原はあわてて俺の手から手帳をひったくった。中を見られたくなかったのだろう、となんとなく思う。
「一階の渡り廊下に落ちてた」
「そ、そっか。ありがと、でもよくここにいるって分かったじゃん」
別に分かったわけではない。コイツが行きそうな場所――空き教室やら中庭のベンチやら、特別棟の屋上へ出る扉の前やら――をいくつか回って、やっとみつけたのだ。しかし説明するのも面倒なので、まぁな。とだけ答える。
「特別棟じゃなくてよかったよ。あそこまで上がるの面倒だしな」
「屋上のドアのとこ?人来ないし、静かだし、空も見えるしいいとこだよ?」
立ち入り禁止の場所だと分かっているのだろうか。
「でもこうちゃん、落とし物とか普段絶対拾わないのに。めずらしいこともあるもんだね」
そうだ。なんでいつも落とし物なんか視界にも入らない俺が、廊下の隅に落ちていた手帳なんか拾ったのか。それは手帳に、
「それがくっついてたから」
雪柄のクマのマスコット。それは、名前がユキだからちょうどいいと思って俺があげたものだ。しかも、まだ篠原のことを「ユキちゃん」なんて呼んでいた頃に。
その時に、「雪」ではなく「幸」でユキと読むのだと教えられた。
「お前それ、必ず大事なものにつけるだろ」
「……なんで知ってんの?」
「何年一緒だと思ってんだよ」
保育園からの付き合いだぞ。とつけたす。
「もう落とすなよ。じゃあな」
時計を見ればもう閉館時間だった。最近は日が長くなったとはいえ、外は薄暗くなってきている。
「こうちゃん、あたしも帰る!」
「はいはい、二人乗りはしないからな」




