ムキムキでもアタックしたい。
突撃!隣の晩御飯!の巻き。
ある国にそれはそれは勇猛果敢な凛々しい姫様がおりました。
剣をふるえば、ばったばったと相手をなぎ倒し、
組手をすれば、軽々と投げ飛ばし蹴り飛ばし、
走れば風のように早い。
その肉体は鋼のように強く…なんと言いますかムキムキマッチョでした。
姫様は六人の弟妹がおりました。
二の姫から五の姫まで、おまけに末の弟も皆が美しいと評判の王妃様に似ましたが、その姫はそれはそれは父である国王の面差しに似ていましたので強面でした。
父である国王は周辺諸国どころか隣の大陸まで名を轟かすほどの強さを誇り、かつ戦場では冷酷無慈悲な悪魔の王と呼ばれ恐れられておりました。
そんな父に似た姫は大変男らしい顔立ちな上、ムキムキマッチョでした。
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姫様血塗れ(苺汁まみれ)事件の翌日のこと。
一の姫様ことムキムキマッチョな姫様は簡易キッチンの前におりました。
急な遠征や依頼で各地を飛び回る事の多い姫様は深夜出発やら何やらで急に食事をすることもしばしばでしたので、
城のみんなに迷惑をかけずに食事を取るために簡易キッチンをつけてもらっていたのです。
殺気すら漂う姫様の前にはひとつの鍋。
赤黒く、ふつふつ煮たつその正体は苺ジャムでした。
正確にはジャム製作中でした。
甘い香りさえなければ、おぞましい光景でした。
うっかり目が合おうものなら煮込まれそうな雰囲気です。
それだけ真剣でした。
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二日酔いから復活した侍女のロッテいわく脈はあるかも知れないと言われて、
興奮しすぎた姫様はうっかり複雑高度な魔術が編まれていた樽を粉砕してしまい、中の残った苺もぐちゃぐちゃになってしまったのでした。
姫様は泣きました。
鼻水が垂れ嗚咽を漏らすほどに泣きました。
ロッテは慰めるどころか、邪魔なので出てってくれと姫様をその部屋から追い出し、部屋をきれいにしてくれました。
無事だった苺はなく、どこかしら潰れたりえぐれたりしていました。
そこでジャムにする事にロッテが決めたのです。
姫様はメソメソしてましたが、お礼のお礼に手作りジャムを作って渡す口実で会えばいいのではと言われて泣き止みました。
恋する乙女は立ち直りも早いのです。
材料の手配もあるので、製作は翌日となりました。
元々、女子力は高い姫様。
順調に作り進め、とろ火でジャムが焦げ付かないよう見張り中です。
敵に狙いを定めたゴ○ゴのようです。
そんなこんなで愛情たっぷりなジャムが完成しました。
職場に行ったら迷惑かなッ…とドキドキ悩むうちに日が暮れてしまいました。
仕方無しに父親であるメイズ経由にしようと思いきや、残業にアワアワする部下を残し定時上がりしやがったのこと。
「おのれ…ッ…」
ギリリと爪を噛む姫様に魔術師たちはガクブルしました。
そんなことは気づきもせず、礼を言って去っていく姫様。
しょんぼり自室に戻った姫様はメソメソし始め食事もろくに喉を通りません。
「なんてタイミングが悪いんだ…やはり駄目なのか…」
「姫様、へたれだから仕方ありませんわ。」
「ロッテ、奥ゆかしいとか、内気とか言いようがあるでしょ!?」
幼馴染みでもあるロッテは歯に衣着せないのが良いところですが、時として毒舌過ぎます。
姫様のライフはゼロに近くなりました。
「へたれですが、姫様はやればできるへたれです。
なのでやる気を出させてあげますわ!
明日の昼までにジャムを渡せなければ、それは私がいただきます。
姫様のへたれ治療を目指し目の前でパンに塗りたくり、完食してあげますわ。」
そうなれば姫様は絶望にさいなまれ、ロッテは体重増加し絶望にさいなまれてしまいます。
死ねばもろとも。
そんな言葉が目に浮かびます。
「ロッテ…!!
私、頑張るから!だからそんなこと言わないで!」
「姫様、私信じてますわ!」
夜も更けていくなか、二人は友情を確かめあったのでした。
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「まぁまぁ、いらっしゃいませ。
残念なことに主人も息子もおりませんの。
もしよろしければお茶でも召し上がって下さいませ。」
翌日、リヒト君もメイズもお休みと知った姫様は小一時間ほど頭を抱えて悩んだあげくお宅訪問したのでした。
しかし、
二人は不在で出迎えたのはリヒト君の母親でした。
リヒト君と面差しが重なります。
笑った顔は瓜二つ。
ほわほわほわんとした雰囲気に押され頷いてしまった姫様。
この後、どうなってしまうのでしょうか。
ある意味ラスボスなリヒト君の母親登場!