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鳥籠。

作者: たま

 今日もあなたはここに帰ってくる。

 平然と、あたかもここが自分の帰る場所であるかのように。


 

 この虚しさは一瞬。あなたに会えたらそれだけで忘れてしまう。

愚かだと、馬鹿な女だとそう言われていることだろう、そんなことは知っていたし、それでいいとさえ思っていた。

 けれども最近あの人の足を運んでくる頻度が減ってきて、埋まらぬ寂しさとぽっかり空いた何かが私を苛立たせていた。


 あの人にとっては、きっと何気ない寄り道で止まり木程度の感情だろう。

それでも、ここに来て?ここで羽を休めて?と一生懸命に枝を伸ばしてしまった。

 長く、永く、延ばし過ぎてしまった。

 戻れないことも気付かぬほどに。


 はたと気づいた時はすでに遅く、振り向いた先にあなた以外の誰かを見つけることは出来なかった。


 いい歳して、とどこかで私の泣いた声がする。

頭で分かっていても、分からずやの私はずるずるとこの関係にすがっては、あの人を枝に絡めようとしていた。

 止まり木に飲まれてしまえばいい、と。

 ここが帰る場所であると錯覚させてしまえばいい、と。

 そんな自分よがりで焦っていたから周りが見えなかった、否、見なかったのだ。周りだけでなく、あなたのことも。

私が可愛ければいい、大事にされればいい、とても我が儘で欲張りな私は、もう元の木には戻れなかった。

伸びてしまった枝は切るしかないでしょう?だってお隣さんにお邪魔だものね。垣根を越えてずぶずぶと図々しくてごめんなさい。これくらいの枝なら自分でも切れるわ、と止まり木である現実を見た。

 こんな感情さえなければきっと傷つかないうちに枝なんて切ることができたのに。


 あなたの優しさに触れて、ガラス細工のように繊細に扱われ、そうして錯覚してしまったの。私はあなたの巣なのだと、あなたの帰る場所なのだ、と。

 

 ただの鳥籠であることを忘れて。


 もう私の鳥籠には止まり木は置かない、そう決めた。

決めたはずなのに、温かな滴が私を濡らす、大好きでした、愛していました、と言葉にしてはいけない気持ちがただただ溢れ出た。


 止まり木のない鳥籠にあなたは帰ってくるだろうか、そんな分かりきったような先のことに淡い淡い期待を寄せてしまっている。

 どこか遠くで温かな談笑が聞こえてくる、あの人の声だと思ったのはなんとなく。

ただあの人が帰るべき巣で笑ってくれていればいいと思った。私のもとになんて来なければいい、と。


 もう私のもとに飛んできたりしないでね?

私の枝なんてあなたがばさりと切ってくれないとどうもあなたへと、この枝は伸びて行ってしまうんだから。


 誰もいないこの鳥籠に止まり木は必要はなくなった、それならいっそ取って捨ててしまえばいい。


 それでも誰かが帰ってくるんじゃないか、なんて淡い期待を持ちながら止まり木のない鳥籠にこの先もずっとずっと私は住むのでしょう。


 そんな私は囀る誰かの声に今日も耳を傾けている。



 fin. 

実ることのない実を一生懸命に結実させようとしたにもかかわらず、自分の意思で諦めた、否、諦めざるを得ない状況の女性を鳥籠と止まり木で表わしてみました。


割り切った関係で始めたとしてもその先に人の心はついてくるものです。情が移り、その人を思い、そうして気付けば惹かれていた。

それでも相手が幸せな道を歩めるならば自分の実を腐らせましょうということです。

相手の優しさなんかに触れてしまえばそれが最後と言わんばかりにずるずると引きずってしまうものです、相手が優しいのであればなおさら自分を思って冷たくしてもらいたい、そんな気持ちを書いてみたのですが伝わったでしょうか。


本文の中に書いてある隣の庭に~図々しくてごめんなさいというのは相手の家族内にある信頼関係に向けた言葉なのですが上手く表現できていればいいな、、、。


何かが伝わったのなら幸いでございます。

ここまで読んで下さった皆様ありがとうございました。

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