終章 新句国王・戰 その1
終章 新句国王・戰 その1
「此れは……」
戰は仁王立ちになり、眉根を寄せて顔を顰めた。濃い憂いの影が、額に落ちる。
眼の前には、黒々とした煙が入道雲のように空に向かって駆け足で、而も幾筋あるか数える気にもなれぬ程多くの煙が、立ち昇っている凄惨な姿を晒す邑があった。
「さて此れは、敵ながら勇猛果断と称えるべきか、其れ共、容赦会釈を知らぬと断ずるべきなのか……」
冷静にとは言い難いが、自分に言い聞かせるかのように独り言ちる戰の横で様子を伺っていた真は、おや、と思った。
――以前の戰様ならば、お怒りが先に立たれたものですが。
其れだけ、若さが失せて年齢相応の落ち着きを得たのだろう。無論、悪い意味で世に慣れ、冷めてしまった訳ではない。
寧ろ逆だ。
内側には、熱い思いを沸々と滾らせている。
時として青年期特有の熱さは、人の目には美徳に映る。
特に君主や将軍など、人の上に立ち指導する立場の者の、いい年をした青臭さは人心に響き、掌握し易さに通じる事が多々ある。
だが、熱血にばかりに頼るようでは所詮は其処までだ。
何れ立ち行かなくなる。
人の心に、素直に感じる透明さと実直さを忘れて良い訳ではない。
だが、多くの人民を率いる君主である自覚を持ち、円熟無礙の極みに自ら達しつつ、且つ、畏敬と信念で人と国に尽くす純粋さを忘れぬ二面性こそが、王道を征く者には肝要なのだ。
――良い傾向だ、覇王としてお立ちになる気概を持たれたか、遅くに逸したと嘆く前に漸く重い腰を上げられたか、禍国の為にも重畳、と父上ならば小躍りする処ですね。
平原の民より、明るい色合いの戰の長い髪が、風に靡く様を眺めながら、真は苦笑した。
真が帰参して直ぐ、戰と二人きりで天幕で何を話したのか、優は尋ねてこない。
――聞き耳を立てておられたでしょうに、突撃して来られないとは。
常の優であれば天幕に入りさまに、此の不心得者が! 陛下に対して何という畏れ多い事を! と鉄拳を繰り出すだろうに、其れが無い。
考えられぬ静けさに、真は何とも言い様のない、温い濡れ雑巾で首筋をぴちゃぴちゃ叩かれているような、厭な気分を味わい続けている。
――万が一にも、戰様に泣き付いて心情を吐露するような失態を犯した私を見て見ぬ振りをしてやろう、という気になったとして、ですよ。其れは其れとして、父上が黙っていられるとは思えないのですがねえ……。
一気に王者としての風格と人物の奥行きを増した戰に対して、優が喜ばぬ筈が無い。喜び勇んで、心して御仕えせよ、と矢張り突撃してくるだろうに、してこない。
此れまでの自分への態度に思う処があるのだろうか、とふと思い、まさか、と真は直ぐ様首を横に振る。
――父上は、そういう御方ではありません。
項辺りを掻きたくなるのを堪えながら、真は嘆息した。
自分は兎も角、母親の好に対して恥じ入るとか反省するとかいった類の感情を、父が持つとは思えない。
よしんば、持てたとしても素直に表に出さないだろう。
実際に、自分たちの会話に聞き耳を立てていた筈なのに、優の態度は変わらない。
演じている訳ではないのは、見ていれば分かる。
そう、優は古い体制の中にあって這い上がり成り上がった男で在りながら、旧態依然とした体制の中でしか成功を掴めない人物だ。
だからこそ、戰には優が必要なのだった。
――禍国における、大保様の、退嬰的な保守層を打ち破らんとする思惑は急進に過ぎますからね。
つまり、前衛的と言い表せる大保・受の思想は禍国という老体には劇薬であり、下手をすると其の儘死に至る。
大保・受が目論むのは、正に其れだった。
――大保様ならば、眉一つ動かさずに言い放たれる事でしょう。
「古いばかりで見栄が先立っており、中身は薄い。その上、中身が腐っておれば是非も無い。外面ばかりの虚栄の張り子など、赤子の拳一つ程度で木端微塵になるあろう。なれば何を気遣う必要がある。半歩先であったか十歩先であったか程度の違いでしかあるまい。気に掛ける価値も無い。下らぬ。国が傾く危険を鑑みよ? 疾うに傾いておるものに、どうせ倒れると確定しておるものに、何を遠慮する必要がある、馬鹿めが」
そんな禍国の、良くも悪くも守旧的な禍国の体質の中でしか頭角を現せない固陋家であった優は、因循苟且な輩と常に戦い抜いてきた、謂わば百戦練磨と言える。
折衷案のようで、其の実、己に最大限の利益を齎す改革案を提示する能力に長けている優は、この先、戰が禍国の帝室を牛耳るのに必要不可欠な人物だ。
――ですから、父上には今更、変わって頂かなくても良いのですよ、其れに……。
「……反省されて、殊勝に落ち込んでおられる父上の姿なんて、想像するのも気持ち悪いだけですしね……」
戰に聞こえないように、ぼそり、と真は呟いた。
★★★
「烈殿は戦においては、妥協を許さず一歩も仮借する事が無い人物であるとは思っていたが、情け知らずでは無かったと思っていたのだがな……」
注意して呟いた真の声が聞こえなかったのだろう、戰が苦々しく零す。明らかに、烈を見誤っていた自分を責めている口調だ。
「此の先も、此の様な状態が続くのだろうか」
「有り得ません」
真は即座に断じた。
「此の邑が最後でしょう。烈殿下にとって、斬殿下との軋轢を思えば、己の立場の不鮮明さから来る腹立たしさを吐き出す策に縋ったに過ぎません」
「……だと良いが……」
「戰様に負け越したままで居るなど死を賜った方がまし、と考えられる御方です。此れは、子供の八つ当たりですよ」
何処かで、ばちっ、と何かが激しく爆ぜる音に反射的に身を竦めながら、真は鰾膠も無く答えた。
「一刻を争う事態なのは、戰様より寧ろ、烈殿下の方です。此の先も此れを続ければ、流石に闘陛下が王城に入ると同時の拝謁が叶わなくなります」
「……そうだな」
「酷烈な為さり様ですが、全ては戰様への対抗意識が生んだ、躁狂に過ぎません。策として評価するに値しないのは勿論ですし、烈殿下を無駄に恐れる必要は有りません」
「真……」
「況してや、怒りの持って行き場を誤られる事など有りません」
「真は、事、こういう行為に関しては容赦無いね」
「戰様は、敵の思惑に対して、必要以上に、そして素直に引っ掛かり過ぎるのです」
手心の欠片も無い、辛辣を極める真に、戰は苦笑いしきりだ。一方、戰とは裏腹に、真は不機嫌そうに目を細めて口を曲げている。
――何処まで本気で御答えになっておられるのやら……。
全身を使って嘆息した真は、じろ、と戰を睨む。
「戰様、笑い事ではありません。力押しのみと思われていた烈殿下が、多少ではありますが、使える頭を持っているのだと動いて見せられたのです。其処は、気をお引き締めになられて下さい」
「うん、そうだね」
「其れと、無駄に敵を怖れるな、と申し上げましたが、烈殿下を過小評価して良いと私は言ってはおりません」
「うん、分かっているよ、真」
「寧ろ、大いに思う所有りとなって頂かなくてはなりません。今まで、戰様が対峙してこられた帝室内の皇子様方もですが、個人的な怨恨を、其の侭、国と国との対立関係に持ち込もうとされる馬鹿さ加減が烈殿下にもお有りになられます。怨嗟の鎖を無視してならぬは、思いも寄らぬ方向に、而も双方にとって想定外の害となる方へと転がる危険があるからです」
「珍しく、諄いなあ、真」
「私は元々、諄くて鬱陶しい粘着質な性格ですよ、戰様」
苦笑いしつつ溜息を吐く戰の傍から、真は静かに一礼しつつ下がった。
遠くから克が、殆ど全身を使って手招きしていたからだった。
袖で半分欠けた視界の先には、邑ごと焼け出された句国の領民たちが群れを成していた。
何の備えもない小さな邑が、烈が率いる剛国軍の強襲を受けたのだ。
一溜まりもないとは此の事で、嵐に吹き飛ばされた木の葉よりも他愛も無く邑は壊滅状態となっていた。
――烈殿下は、敵視するだけあって、戰様のご気質の中の子供のような部分を良く分かっていらっしゃる。……無論、私の事も、ですが。
真もであるが、焼け出され、路頭に迷う貧民を見て戰が放置出来よう筈がない。
其れを見越して、烈は城迄の道縋らの邑を殊更目立つよう焼いて回ったのだ。
――句国王陛下の軍旗を手に入れられなかった以上。烈殿下が此のような策に走られると、何故、予見出来なかったのですか、私は。
戰を荒い口調で嗜めたのは、自分自身への憤懣の裏返しだった。
烈は、ただ戰を足止めする為にのみであろうと、無辜の民に対する虐殺行為を躊躇無く行える。
――此れが句国王の座を懸けた戦である以上、戰様を出し抜くには最良の策を、烈殿下は兄である闘陛下に捧げる為ならば逡巡なされない。
そして其れは、国盗りを行う乱世に生きる王の立場の目で見れば、『正義』として映る。
先程は、戰が口にしなかったので、敢えて話題にはしなかったが、真の胸に去来したのは5年前の、蒙国の強襲だ。
嘗て、蒙国皇帝・雷が、戰の母・麗美人と薔姫の母・蓮才人の母国、楼国を一夜にして地上から消し去った、たった一晩で、小国であるとはいえ一国を地上から殲滅せしめた、あの戦だった。
烈は知らずに行われたったのだろう。だが、戰に精神的打撃を与えるには此れ以上無い策だ。
――しかし、戰様も、私も、5年前と同様では無いのです。
大きく手を振る陸の元に大股で歩み寄りながら、真は珍しく自分の身体が殆ど怒りに支配されているのに気が付いていた。
ふと、自分の脚音の後ろから地面を踏み締める音が耳に付いた。
振り返ると、戰が追って来ている。
礼を捧げながら肩が並ぶまで待ち、二人で歩き出すと、ちら、と戰が視線を落としてきた。
「真」
「はい、戰様」
「今は、何が最良の道なのか、一瞬で選び取るのは難しい。だからこそ、迷いながらも最善を尽くす努力を怠らずにいこう」
はい、と言いながらもう一度礼を捧げた分だけ、真は戰の後ろを歩く事になった。
★★★
克の傍には、杢が苦い顔をして立っていた。
「どうですか?」
真の問いに克は至極彼らしく、憤懣遣る方無い怒りを隠そうともせずに唸りながら、酷いもんだ、と赤ら顔を横に振る。
噛み締めた奥歯がぎりぎりと鳴らしながら、眼尻をぎゅっ、と切れ上がらせ、顳かみには青筋を浮き出たせている。怒り方が父親の優に似てきたな、と真は場違いながらふと思った。
「残された備国軍を殲滅せんという題目の元、悪逆無道の限りを尽くしていてな。とてもじゃないが、見ておられんよ」
「撫で斬りとまで行きませんが、明らかに無差別に襲い掛かっております。犠牲になった女子供の数は計り知れません」
「果たして、元通りの姿に戻してやれるかどうか……どうにも、やりきれん」
熱血漢である克は兎も角として、普段は物静かな杢までもが、珍しく強い憤りを見せていた。
此処までの所業を見るに、烈が率いる剛国軍は各地の要所をまるで疾風の如くに次々と攻め落としてと言うのに、全く疲れを見せていない。
烈の行く手を阻む者は尽く死者と成り果て、霊鬼に導かれ冥府へと旅立つしか道はなかった。
少し考えれば分かるようなものだ。
確かに、備国軍の残党兵を狩り尽くすのと同時に、剛国軍の強さを句国の民の肺腑に浸透させられ、尚且、祭国と禍国の連合軍を足止め出来るのだから、一挙両得以上の話しだ。
が、句国の民とって、剛国兵は備国兵と変わり無い。
只の無頼・無法の徒だという印象しか与えなかった。
備国軍により不幸のどん底に突き落とされ、陰鬱たる禍害の日々を送っていた句国の民は、今また、剛国軍により辛酸甘苦を上書きされたのだ。
つまり、烈率いる剛国軍は、己が国と王の悲運の運命に悲憤慷慨していた句国の民が備国に対して溜めに溜めこんでいた怨嗟と遺恨を、剛国に向けて流れを変えてしまったのだ。
国王・玖の敵討をという思い。
我が郷を荒らした者に報復せんと決意する心。
必ずや会稽の恥を雪がんとする句国の民の瞋恚の炎。
剛国軍に、正しくは剛国王弟・烈に真っ直ぐ向けられてしまった。
烈にとっては誤算、いや、最初からそんな想像など微塵もしなかっただろう。
が、皮肉な事に、烈が苛烈であればある程、戰が行う救民の姿は句国王・玖の経世の御姿を思い起こさせる。
現に、郡王・戰こそが句国王・玖が禅譲を行うに相応しいと定めた人物であると、句国の民は自然に受け入れて呉れ始めている。
句国の王座を臨む戰にとって領民たちの後押し程、今の戰にとって心強いものはない。
「本当に、酷いな……」
「……はい」
「割ける時間は少ない。が、出来る限りの事はしてゆこう」
「はい、戰様」
窮状に顔を顰めながら、戰は的確な命令を出す。戰の横で、真も手際良く指示を纏めて行く。ふと、此の状況を、実際に大保・受が目にしたならば、何と言うだろうか、と思った。
「句国の民が窮すれば窮する程、陛下にとっては追い風になる。幸災楽禍である、状況を創り上げたのは王弟・烈だ。恥じ入る要素は何処にも無い。利用するだけ利用すべし。真とやら、陛下に降り掛かる毒を我が身に被る気も無いのに、傍に突っ立ってだけかなのか。馬鹿めが」
大保・受であれば、一言で終わらせるだろう。
――我がの想像でありながら、余りにも有り得過ぎますね……。
ぶる、と真は頭を振るって脳裏に浮かんだ言葉を打ち消した。真は到底、大保には成り得なかったからだ。
――大保様。
大保様の思いとは全く逆方向に向かいながら、中華平原の中央に、戰様を立たせてみせます。
★★★
結局。
連合軍は半日も邑に逗留し続けてしまった。
一度手を貸せば、目に付く問題は全て解決して置いてやりたくなるのは人事情というものであるし、戰の性格上、疲弊しきった領民を見捨てるような行動は出来なかった。
先ず早々の離脱は叶うまい、と皆腹を括っていたから然程の弊害は無かったが、時間を喰ったのは実際痛手だ。
「急ぐぞ! 我らが先導に郡王陛下の未来が掛かっておると心得よ!」
「おう!」
馬首を王都方面へと向ける頃には、既に夜の帳が落ちかけていた。
感謝の言葉と感激の涙、そして激励と期待の視線を浴びながら、連合軍は失った分の時間を取り戻すべく王都を目指して怒涛のように動き出す。
先頭を預かっているのは、今や句国の将兵の代表格となっている趙だ。表情は硬く顔色は緊張で白くなっているが、堂々と胸を張り、句国兵を良く率いている。
見事に大将格の任をこなしている趙であるが、つい数日前までは本の百人隊長の任に就く程度の力量であった事を思い起こせば、何とも皮肉と言えよう。何しろ、上司である姜を亡くしたからこそ、若者の才能は一気に開花したのだから。
一人の得難き大人物の死が、次なる英傑となる漢の出現に一役買った。
心情は言葉に出来ぬものがある。
だが、群雄の時代はとは、冷酷無情で残忍なものだ。
自ら強く望んで姜が残した馬具を譲り受けた趙の背中には、国の未来を託された悲壮感が漂っている。
が、其れ以上に、亡き国王・玖と大将軍・姜へ新たな国を我が手で開き捧げるのだ、という興奮に勇ましく奮い立っているように誰の目にも見えていた。
★★★
全軍が上げる土煙の色が、夜空の藍色に染まり出した。
「松明を用意させろ!」
優の命令が、返答が帰るより早く実行に移された。松明の灯りが夜道に竜鱗のように次々と浮かび上がる中、戰が優を手招きした。
「思いの外、大きく時間を費やしてしまったか……兵部尚書、どう思う」
「仕方ありませんな。此処で心を砕いて手を差し伸べておかねば、陛下におかれては、後ろ髪を引かれ続けてどうなるか知れたものではありませんからな」
態とらしく咳払いをしつつ、戰と並んで馬上の人となっている優が、ちくりと釘を刺す。つまり、もう此れ以上は寄り道をせぬように脇目も振らずに駆けよ、と言外に奏上しているのだ。
「真は此れ以上はこうした邑は出ない、と言ってはいたが……では、もう少し馬の脚を早めるとしよう」
ちら、と戰は優を見遣ったが、禍国一の歴戦の猛者である漢は何も言わなかった。
急にだんまりを決め込んだ優に、戰の愛馬・千段が首を巡らせ、カッ、と歯を剥き出しにしながら嘆ずるかのように鋭い嘶きを発する。
まるで人語を解し、戰の味方であると意思表示するかのような鳴き声と動きをしてみせる巨躯を誇る黒い愛馬に、戰は笑みを向けて首筋を撫でてやった。
苦笑しつつ、優は引き下がる。
速度を上げようと思えばもっと上げられるというのに、此の速さで馬を走らせている理由は一つしかない。
――偏に、馬に弱い真の為に、陛下はお気を使っておられる。
ちら、大きく前後左右に揺れながら、遅れまいと必死で食らいついて来る戦車の上で青白い顔で横たわっている息子を見遣った優は、やれやれ、と大きく頭を振る。
其れだけでの身振りでも、戰が跨る黒馬は、ぎょろり、と巨大な目玉をぎらつかせて見ているぞ、と言わんばかりに鋭い嘶きを発する。
まるで一廉の武人の如き戦績を誇る戰の愛馬の勇名を知る兵士たちは、千段の嘶きに力を得て、おお! と雄叫びを上げて闘志を燃やして速度を上げている。
「……単純な奴らめ」
嘆息しながらも、その単純明快さが今の連合軍には必要だと優は理解していた。小難しい理屈を捏ねられるよりも、敬慕する人物をもり立てんとする一途な勢いの方が、時と場合によっては勝る時もある。
だが、理解しているのと納得して受け入れられるのは別問題だった。
――所詮は寄せ集めに過ぎんからな。
剛国の出方によっては、継ぎ接ぎでしかない軍の縫い目を突かれて一瞬で終わる。
此処まで来て其れは悪夢に等しい。
ぶつぶつと呟きだした優を、再び、ぐるりと首を巡らせた千段が、真っ赤に血走らせた目を向ける。分かった、と優は手を上下に振ったが、まだ千段は定期的に此方をじろじろ睨んで来る。
「其れにしても……陛下は兎も角として、陛下の愛馬まで味方につけておるのか、真め……」
優はぼそぼそとぼやいた。




