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覇王の走狗(いぬ) ~皇華走狗伝 星無き少年と宿命の覇王~  作者: 喜多村やすは@KEY
七ノ戦 星火燎原

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23 合従連衡 その2-2

23 合従連衡がっしょうれんこう



「面白い事を云う奴だ。郡王が『』からやって来る、だと?」

 手で顔を隠しながら、闘は笑い続ける。

 しかし真は至って冷静に、はい、と礼拝を捧げつつ答えた。

 暫くの間、闘は顎を上げて笑っていたが、不意に真顔になると、ぐ、と身を乗り出した。手が届くなら、真の襟首を引っ掴んで締め上げていただろう。


「真よ。貴様の云う事成す事、成程、面白みがあると思っておったが、此ればかりは無視できん。何故、どうやって、郡王の奴が南からやって来られると云うのだ? 奴は今、禍国本土からの命を受け、那国と戦っておる筈だろうが」

 底光りする闘の鋭い眼が、ぎろり、と容赦無く真を睨んで来る。対する者の心を射竦める強烈な光を孕んでいる。深淵に隠してあるものも、決して見逃しはしないと言わんばかりの此の闘の眼力を前にして、口を噤んでいられるのは、相当な胆力の持ち主と言えるだろう。

 しかし真は、肩を軽く竦めてみせた。而も、笑顔を浮かべてすらいる。其れを見た闘が神経を逆なでされたのか、珍しく眉を跳ね上げて声を荒げた。


「答えぬか、真」

「お気に触られたのでしたら、幾重にも伏して……」

「形ばかりの、糞にもならん謝罪の文句を聞きたいのではない」

 丁寧に頭を下げた真の後頭部を、闘の痛烈な言葉が通り過ぎていく。おやおや、闘陛下とあろう御方が、随分と余裕が無い事ですね、と真は今度は内心で肩を竦めた。

 ――闘陛下のような御方は、御自身の想定が他者により外される事を極端に嫌われますからね。仕方無いのかも知れませんが。

 闘が相手であっても全く悪びれる事無く、はあ、と云いつつ真はぽりぽりと後頭部を引っ掻いた。


「答えよ、真。郡王が、何故、南からやって来る。那国を倒してから句国に向かっておるのなら、当然、本国の禍国を通り東から入るはず。いやそもそも、本当に那国との戦を終えたのか?」

「そうですね。那国を倒したとしても、句国に到着するには余りにも早すぎます――が、陛下」

「何だ?」

「我が主、祭国郡王が倒したのは那国のみにあらず。那国から西に登り、契国の内乱をも平定して、句国に向かっているのです」

「何ぃ……?」

 闘の片眉が、別の方向に跳ね上がった。

 暫し無言で、真と闘は睨み合う。其の静寂を破ったのは、闘の方だった。


「面白い」

 再び、顎を跳ね上げて高く笑い出したのだ。



 ★★★



「成程な、分かったぞ」

 何が分かったのか、と云いたげに斬は視線を闘と真の間できょろきょろと彷徨わせている。会話に全く入っていけない辛さを知る先輩としてだろうか、克がそんな斬を僅かながら哀れみを含ませたで見た。


「郡王の奴め。紅河を遡って来たのか」

「はい」

「其れならば合点が行くぞ。全く、此方の予想外の事を平気で仕出かす漢だな」

 楽しげに闘は笑う。斬はついに、ぽかん、と口を開けて見詰めるしかなくなった。こんな闘を見るのは初めてなのだろう。いや、家臣とした兄弟たちと共に議論を戦わせて楽しむ事は、闘はよくやっている。しかし其の時の闘は、寧ろ兄弟たちが琢磨し、互いに論破し合う様子に耳を傾ける楽しんでいる、と言った方がよいというべきか、自分は遠巻きにしているだけで嘴は殆ど挟んで来ない。

 しかし、今はどうだ。

 真とかいう漢との舌戦を、明らかに楽しんでいる。

 ――こんな陛下を拝見するのは、初めてだ……。

 不敬であり無作法であると知りつつも、ごくり、と喉の奥を鳴らせてしまう。今更ながらに、自分の初陣に勝利を与えた真とかいう漢を、兄王が如何に評価しているのかを斬は思い知った。


 衝撃を受けている斬に気が付いているのかいないのか、くっくっく、と闘は喉を鳴らしながら笑う。

「陛下には楽しんで頂けたようで、何よりです」

「ああ、充分楽しんだ。郡王は面白い奴だ。よくもまあ、そんな戯けた策を思い付いたものよ――いや」

 だが、と不意に笑いを納めると、じろ、と真を横目で睨み据える。

「郡王は実行しただけで、考えた奴は別におるのだろう、なあ、真よ」

「はあ、陛下がそう思われるのでしたら、そうなのでしょうか」

 真と闘が、お互いに平静の仮面を被って問答し合う様を克ははらはらしながら眺めている。

 こうなると、自分など嘴を挟む余地などないのだから見守るしかないのだが、其れにしても此の二人が遣り合っている処は、まるで5年前に祭国に闘が乗り込んできた事変の時を思い出させて胃の腑に悪い。

 ――最も、あの時は真殿の勝利で終わったのだから、其れと重ねて考えるのであれば縁起が良いと思うべきなのだろうけどなあ。

 しかし、口を動かす脳がない克としては、落ち着いていられるものではない。はらはらしながら、真をちらちらと盗み見る。


 克の心配を余所に、闘と真は変わり無い。いや、笑いを納めた闘のには、既に戦への関心が滾っている。

「郡王が南からやって来た意味が分かった。其の点は良い。が、奴の軍勢の総数は幾らだ? よもや、我が剛国に及ばぬとは言わせぬぞ?」

 はい、と真の方も真面目くさって闘に礼拝を捧げる。

「祭国軍が2万5千、我が父・兵部尚書が率いし禍国軍が4万。総勢6万5千余になります」

「騎馬と歩兵の内訳は?」

「祭国軍は騎馬1万5千の歩兵1万、禍国軍は騎馬1万の歩兵3万となります」

「……ほう?」


 闘の顔に、戸惑いの表情が浮かんだ。

 禍国の兵部尚書と云えば、此の平原で最も早く騎馬の優位性に眼を付け、戦車軍団から騎馬隊への変換という大舵を切った人物だ。

 喩え5万を切る軍勢であろうとも、彼は常に騎馬を多く率いていた。其れが彼の常勝を支えてきたからだ。

 ――なのに今回は4万の軍勢の内、たった1万の騎馬しか率いていない、だと。

 つまり、彼自身が大将を務めて率いられる騎馬軍団しか手元にない、と見て良い訳か。

 しかし、と闘は礼拝を捧げている真の後頭部を睨む。

 ――真が禍国の内情を知る切掛となる情報をいとも容易く此方に開示した意図は、何処にある?

 此の漢と居ると、先が読めぬ話が出て来る。だからこそ離し難いのだ。


「禍国本国は、随分と自国を守護する兵を多く残したのだな。其れだけ、郡王に戦をさせて疲弊させたい、という腹なのか?」

「まあ、其れも御座いますが」

「其れも有るが、何だ?」

 ずばり、と切り込んで来る闘に、背筋を伸ばした真はぞんざいな口調になって、ぽりぽりと後頭部を引っ掻いた。


「今の禍国には、闘陛下が思われているような力は、もう無いのですよ」

 何食わぬ顔のとぼけた口調で、真は恐ろしい真実を口にした。



 ★★★



 王の間の空気が一変した。

 特に斬などは明白に顔色を変えた。赤くなったかと思えば白くなり、かと思えば赤黒くなり、次の瞬間には青ざめている。

 少年らしい逸る気持ちが出た結果であるが、忙しい事だ、と芙は冷めた口調でぼそりと呟いた。


「真よ、其のような大事を私に暴露して良いのか? 仮にも禍国は貴様たちにとって本国であろう。仇なしたとなれば禍国皇帝が黙ってはおるまい」

「そうですね、皇帝陛下でなくとも、黙ってはおられないでしょう」

 ――色々な意味で、特に大保様などはお喜びになられるでしょうねえ。

 とは言うものの、此処で闘陛下を御味方に引き入れねばなりませんし、となると、此方もある程度は腹を見せないといけませんしね。

 大保様に踊らされているのは、少々気に喰わないですが戰様の為ですからね。


 真の心の内を知ってか知らずか、にや、と口角を持ち上げた闘は身を乗り出してきた。

「どういう意味だ? 禍国の帝室で何か起こっておるのか?」

「まあ、闘陛下が期待されておられるような楽しい事は無いのですが。黙っていないだけ、と云いましょうか、口で叩いて万人の前で頭を下げさせて溜飲を下げるのがせいぜい、其の程度です、という話です」

「ほう? 何処の国も阿呆が玉座に腰を据えると、家臣は堪らぬな」

「まあ、そう云う事になりますね」

 顳かみに指を当てた闘が、だが、と真に切り出す。

「流石に、郡王がこうして我が国と勝手に密約めいた話を取り付けるのまでは見逃しはすまい。皇帝も、郡王が己の地位を脅かす存在であると、いよいよ身構えるだろう。どうするつもりだ?」

「はい。ですが、皇帝陛下は此方を見逃さなくてはならないのです」

「ほう……? 放っておく、と言うのか?}

「はい。ですから我々も無視しております」

 ずばりと言い切られ、闘は一瞬、仰け反り気味に身を引いた。が、構わずに真は続ける。


「今、禍国に我が主以上の軍の統率力を持つ御方はおられません。恥ずかしい、と皇帝陛下が思っておられるかどうか怪しいものですが、郡王の専横は目に余るとして実際に陛下が、討て、と御命じになられて、即、実行に移し成功させ得るだけの実力を備えた人物を禍国の家臣の中で上げるとすれば、我が父・兵部尚書くらいなものでして」

「ほう、其れは其れは……」

「ですが、父に然様な命令を下そうものならば、一刀両断を覚悟せねばなりません。長生きして甘い汁を吸い尽す御積りの皇帝陛下が、斯様な御命令を下されるとは思えませんので、其の辺りは大丈夫でしょう。ですから陛下は見逃さざるを得ませんし、私どもも無視しております、と申し上げました」

「ほう」

「とは云うものの、名が示されている通り、郡王陛下は所詮、郡王でしか有りません。禍国の許しを得て祭国に主として存在しておりますが、実の王として学陛下がいらっしゃいます。いざ、事を起こすにも余りにも心許ないが故に、今の今まで、挙兵を堪えておられただけに過ぎません。ですから今、郡王陛下は禍国の命令を受けて、仕方無しに備国・・を眼の前にしておられるのです」


「ほう、備国・・、とな?」

「はい。禍国皇帝陛下より、備国・・を何とかしろ、と命令を受けてもおりますので」

 真の言い表し様に、闘は益々面白い、と膝を叩いて笑った。



 ★★★



「真よ」

「はい、闘陛下」

「つまり、貴様はこう言いたいのだな? 郡王は此の先、禍国に楯突く腹つもりでいる。其の為には己自身の領地が必要となる。郡王として納めている祭国との連携が容易く、禍国に攻め入り易い位置に在る備国が居座る句国・・・・・・・・を手に入れたいから協力しろ、とな」

「はい」

「そして後々、我が剛国を牽制する為の布石ともなるな句国は、いや備国・・という土地は」

「そうなりますか」


 話している最中に、真の笑みに余裕が無くなって来ているのに闘は気が付いていた。

 ちら、と怪異な姿をしていた左腕に視線を落とすと、真は庇うようにしてそっと隠した。何かと斜に構えて余裕ぶった口調と態度を崩さぬ真の中に、珍しい部分を見付けた、とでも思っているのだうろか、ふっ……、と闘は短く笑った。

「まあ、そんな先の話はどうでも良い。取り敢えずは、今の話をすべきだろうな」

「そうして下さりますと助かります」

 良いだろう、と言いながら闘は背筋を伸ばして背凭れに身を沈める。

 肘掛けに腕を掛けて、ゆったりと構えると見目と体格、そして全身から匂うようにして漂う圧倒的な風格に気圧される。

 王者、とはこうしたものだ、と空を轟かせている闘の気配に、克も、そして芙までもが額に冷たく粘り気のある汗が浮かんで垂れて行くのを感じていた。


「郡王が率いる軍勢が凡そ6万5千余。然し乍ら騎馬中心で考えれば3万5千。備国相手では、ものの役に立つかどうか危うい線だ。貴様が我が国に助力を求めるのは順当ではある」

「はい、そして陛下も其れを待っておられたのではありませんか?」

 さらりと指摘する真に、くっくく、と闘は喉の奥を鳴らす。

「お前は本当に面白い奴だ。普段の、のんべんだらりとした砕けた様子からは到底想像もつかぬ、その打てば響くような問答を繰り出す口を持ち合わせておるのだからな」

「お褒めに預かり、恐悦至極に御座います」

「褒めておらん、誂っておるだけだ」

 闘は手を振って、頭を下げようとする真を止める。


「其んな事はどうでも良い。其れはそうと、だ。備国軍が一体如何程の兵を残しておるのか。真よ、貴様は掴んでおるのか?」

「句国と戦った折、備国王が率いてきた軍勢は大凡5万、内、騎馬は3万です」

 騎馬3万か、と闘は顎に拳を当てながら呟いた。

「然し乍ら、備国王は其の後、本国より更に軍勢を此方に回してきております」

「ふむ、矢張り奴は、句国領を新たな備国本土とする腹つもりか」

「其のようですね」

 真の言葉に、ふふん、と闘は目を細めた。

 備国王・弋の父王・よくを攻めに攻めたてた挙句の果てに憤死させたのは、他の誰でもない、闘だ。

 闘の攻めに負けに負け、決死の逃避行の最中にぶつかり合う羽目に陥ったのが、戰だけに美味しい思いをさせてなるものか、と勝手に出張って来た当時の禍国王太子・天だ。恐慌状態で対峙した天と域の軍勢は、泥沼というか修羅と化した。其れを徹底して踏み付けにしたのが、追いついて来た闘が率いる剛国軍だった。


「元々、備国は平原に打って出る気概を常に表に出している国柄でしたし、考えられない話ではありません。寧ろ、大いに有り得るでしょう」

「其処に加えて、句国が保有しておる軍馬を投入出来るからな。さて……仕掛けたとして総数何万で此方に対応してくるか」

「8万から9万、いえ、此処が正念場と備国王が腹を据えられたのであれば10万近くまで行くでしょうか。何しろ、国を守る為の兵を残しておく必要を感じておられないでしょうし、持てる兵力の全てを惜しげも無く投入されるでしょうね」

「となると、備国の騎馬の内訳はどうなると読む?」

「大元が3万でした。が、句国の軍馬を軒並み搾取し抱え込んだとするならば、軽く見積もって最低でも5万、実質は6万、いえ7万を超えてくる可能性も無きにしも非ず、と思われます」

 7万、という考えてみた事もない数字に、斬が身震いを起こしている。弟の可愛げのある反応を楽しんでいるのだろうか、闘が目を細めた。


「郡王は率いる軍勢だけでは、到底敵わぬな」

「はい、現在、陛下が率いる事が可能な剛国軍でも敵いません」

「はっきり言うな」

「言葉を濁してどうかなるようでしたら、陛下のお望みの通りに幾らでも濁してみせますが、今は無意味ですし時間の無駄でしょう」

 言い切った真に向け、貴様、何という不敬を働くか! と烈が叫びながら剣を抜いて構えた。



 ★★★



 無論、克も黙ってはいない。

 烈に遅れる事なく剣を抜き放ち、構えを取る。克と烈の間で、眼光がぶつかり合い火花が散った。


「止めよ、烈。此の戯けめが」

 舌打ちしかねない低い声で、闘が腕を振る。

 だが、咎める口調には、先程の刃のの如き痛烈な激しさは無い。

 寧ろ、どうしようもない奴め、という烈に対する可愛げを内包しているように感じられる。烈は顔を赤らめながら平伏した。

 どんな場であろうとも、名を呼ばれれば直ぐに有頂天に成れるのだから実に安い漢だ、と芙は冷めたで烈の赤い横顔を盗み見ていた。

 烈が引き下がるのを見た真が、克殿は? と優しく問い掛ける。一瞬、仰け反気味にして鼻白んだ克だったが、渋々ながら剣を納めて引さがった。

 騒然としかかった場が収まると、闘はまた、身を乗り出しながら真の言葉に答える。


「真よ、確かに貴様の言う通りだ。我が国を上げて軍勢を整えれば10万は行くだろう。だが無論、全軍上げてなど無理な話だ。戦場に持っていけるのは、いってせいぜいが5万だろうな」

 随分と真っ正直に話をなされますね、と真は心の中で呟いた。

 確かに、剛国の国力からすれば其れが妥当だろう。対露国、東燕、禍国に対しての防衛を怠る訳にはいかない。但し、5万の軍勢と云えども、内訳に於ける騎馬の実数が如何程になるかで軍としての強さが違ってくる。

「陛下。剛国軍が備国に対して投入できる5万の軍勢の内、騎馬は如何程となりますか?」

「5万だ」

 真の質問に、闘は間髪を容れずに、ぴしり、と言い放つ。

「歩兵は祭国と禍国のもので事足りる。我が剛国は全軍を騎馬として、5万を投入するだろう」

 ――今の闘陛下が持てる騎馬の兵力が5万。

 睨み据える闘の眼光を、真は真っ向から受け止める。


「祭国郡王が率いてくる軍勢と合わせて、騎馬軍団だけで8万5千だ」

「いいえ」

 と真は闘に否定の言葉を被せる。不快さを隠さず、ん? と片眉を跳ね上げた闘に、恐れ乍ら、と真は礼の姿勢を取る。

「此方に、5千の騎馬軍団を逗留させて頂いております」

「合わせて、9万。備国を下すには充分な数だ」

 闘が如何にも態とらしく口角を持ち上げて、にやり、と笑ってみせる。

「最も、今、私が言っただけの軍勢を投入すれば、だがな」

「ですね。陛下の御立場で、私のような他国の、愚にも付かぬような漢の言葉を其のまま受け入れるなど、笑止千万でありましょうし、忠臣の方々もお許しにはなられないでしょう」

「分かっておるではないか」


 目を細める闘は、真との会話を心底楽しんでいる。

 焦燥感に駆られながらも、烈は二人の遣り取りを睨むしか無い自分自身の歯痒さに呻く。

「此度の戦に割いてやれる騎馬は、3万だ」

「充分です」

 真は厳かな態度で闘に礼拝を捧げてみせた。



 ★★★



 郡王・戰が率いている1万5千騎と現在剛国に居座る5千騎を合わせて2万。

 そして禍国兵部尚書・優の1万騎。

 其処に剛国の3万騎を合わせて都合6万騎。


 句国を乗っ取った備国軍が根刮ぎ動員してくるであろう実数7万には及ばないが、歩兵を合わせた総数でみれば三国間の合計は、10万に届く大部隊となる。

 10万と10万の軍勢が真正面からぶつかり合う。

 平原で此れだけの軍勢が動いた歴史は、嘗てない。


 備国が句国の領土から根刮ぎ動員を掛けたとしても、太刀打ち出来ぬと逃げ出さねばならぬ数ではない。

 寧ろ、剛国が助け舟を出すと言って呉れたからこそ、此処まで兵力が拮抗するに至ったのだから、真たちがどうこう言える立場ではない。


「然しな、真よ」

「はい」

「兵を貸してやるのは吝かでは無いのだが、一つだけ条件がある」

「はい、何でしょうか」

「3万騎の兵。大将は私が指揮権を与えた者が率いる」

「はい、否やを口に出来る立場に我々は在りません」

「では、うち一万は此の私が直接指揮を執る。其れは良いか」

「はい」

「残る2万。一万は、此の斬が率いる。そしてもう一万は、お前たちの傍に在る烈が率いる。此の条件が呑めねば、共闘は受け入れてやれん――どうだ」

「先程も申し上げました通り、我々には、否、と口には出来ません」

 恭しく頭を垂れる真を前に、にや、と闘は笑ってみせた。


「そうか、では貴様の策に、乗ってやろうではないか」



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