23 合従連衡 その2-1
23 合従連衡 その2-1
大歓声に包まれて、意気揚揚と烈が舞っている。
勝利の舞は獅子動きを模しているといい、勇壮なものだった。
首輪に飾られている帛巾が、まるで獅子の鬣のように勇ましい動きを見せる。
文字通りに無敵の強さを誇る烈の優勝を拍手をしながら真が讃えていると、闘が馬乳酒を手に此方に来い、と手招きしているのに気が付いた。
やれやれ、と肩を竦めながら真は闘の傍に移動する。
「どうだ? 相撲は楽しめたか?」
「はい、其れはもう……そもそも、こうした武術の催し物自体が、禍国にも祭国にもありませんので。御声掛け頂き、有難う御座いました」
「そうか。楽しんだのなら、其れでいい」
からからと笑いながら、闘は杯を傾ける。たぷり、と白い酒が波を打った。
「其れにしても、烈殿下はお強いですね」
「烈の奴は、相撲が得意でな。奴は生まれて此の方、相撲で負けた事がない」
自慢気な闘の口調に、おや? と真は誂うような視線を向けた。
「では、陛下も烈殿下には敵わないのですか?」
「戯けが。私以外に、に決まっておるだろう」
高らかに笑いながら、闘はぐっと杯を高く傾けた。
一気に空にすると、ふっ、と息を吐き出した。
幾ら酒気が弱い酒だとはいえ、相撲の勝負が行われている間、闘の前には家臣たちが列を成して王に酒を注ぎに来る。一度も断らず、闘は飲みっぱなしだが、呂律もしっかりしているし頬も赤くならず、全く乱れる様子を見せない。
とんでもない酒豪であらせられますねえ、と真が苦笑していると、舞を終えた烈を闘が手招きした。
では、と下がろうとすると、ぎろ、と闘が睨んできた。
「何を逃げるか」
「逃げているつもりはありません。私が烈殿下を、苦手なだけです。まあ殿下も私をお嫌いのご様子を隠そうともされておられませんし、何かと突っ掛かっておいでになられますしね。折角の祭りに、無粋で無用な衝突は避けた方が無難かと思いまして」
「放っておけ。奴の都合など、貴様が気にする必要はない」
はあ、と適当な返答を返す真を跳ね飛ばす勢いで、烈が闘の前に跪く。
「よくやった、烈よ。流石だ」
「お褒めに預かり、恐悦至極に御座います」
声を震わせる烈に、闘が盃を差し出した。
顔を赤くしながら、頂戴致します、と両手を差し出した烈に闘が笑う。
「褒めているのだ。硬くなる必要はない。堂々としていろ」
「は、はい」
闘が馬乳酒を注いでやると、益々顔を赤くして、烈が杯に口を付ける。
そして、隣に座る真を睨んでくる。
どうだ、と云いたげに誇らしげな様子は餓鬼大将に認めらて調子に乗っている悪餓鬼宛らで、真は危うく吹き出し掛けた。
此れまでの烈であれば、真の肩が緩やかに揺れたのを見れば途端に爆発していただろう。
しかし見咎める言葉も掛けず、逆に挑発するようにふふん、と鼻先で笑ってみせる。
どうやら何か、悪巧みを思いついたらしい、と気が付いた芙が、こそりと真の服の袖を引っ張った。
此れ以上居るのは危険だ、下がり時です、と伝えてくる芙に、まあ、待って下さい、と真は静かに笑う。
首を傾げる代わりに、烈の余裕ぶった態度に視線を鋭くした芙は、真の方の此の余裕に苛つきを感じていた。
――烈の餓鬼が面倒を起こす前に、逗留地に戻った方が良い。
真も同じだと思っていたのだが、今の彼は烈が此方に喰って掛かって来いとばかり斜に構えている。
どうするつもりだ、と内心まんじりとしつつも、仲間たちと真を守るべく目配せをしあう。
そんな芙たちの前で、果たして、恐れ乍ら、と烈が一歩前に進み出た。
「どうした?」
「陛下、此度の相撲の試合の勝利の景品ですが、私の望むものを頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」
馬乳酒を飲み干した烈が、杯を返しながら申し出る。
ほう? と闘は身を乗り出した。
「面白そうだな。烈よ、何を望む」
「はい、強いと申しましても、私の強さはこの剛国内だけのもの。私は他国の者と戦った事が御座いません。ですので、其の機会を此度、与えて頂きたく」
「――相手は? 誰を望む?」
楽しげな闘の口調に乗っかるように、烈もきらりと瞳の端を輝かせた。
「はい、祭国郡王陛下の最も寵深き家臣として名高い、真殿と」
おやおや、此れはまた、分かり易く仕掛けて来ましたね、と真は杯に満たしてある白湯をちびちびと舐めながら、小さく笑った。
★★★
闘の、そうか、其れは面白そうだ、私も見てみたいぞ、という鶴の一声の後押しもあり、あっという間に相撲とやらの相手にさせられる事が決定してしまった。
あれよあれよと云う間に烈の家臣に囲まれた真は、其のまま、拉致されるようにして広間に連れて行かれる。
慌てて後をついて来た克と芙が、真の背後で烈の家臣たちに睨みを効かせる。
「どうする? 何だったら、俺が代わるぞ?」
「大丈夫ですよ、心配ありません」
「しかしなあ……」
にこにこしている真の自信が一体何処から来るのか分からず、克は口をへの字にした。
体力の無さもだが、真は壊滅的に武術全般に対して才能と言うものがまるでない。
あんなに頭がいいのに、どうして身体の動かし方みたいな簡単な事が分からないんだ、と克などは心底不思議がるのだが、無理なものは無理なのだから仕方が無い。
ともあれ、眼の前でどう倒して恥を掻かせてやろうか、とにやにやとしている烈の相手を真がするのだとなると、此れは大いに問題がある。
誰から見ても、真に勝ち目など到底無い訳で、烈が仕合に託つけて、脚の一本でも圧し折ってやろうか、腕の一本でも捻り折ってやろうか、という目論見が透けて見える。あわよくば、生命を奪えれば儲けもの、すら思っている節がある。
底光りする烈の眼光は、獲物を品定めする狩りに従う犬のようだ。
「何を企んでいるのか知らないが、止めておかれた方が無難だ。何なら、俺が代わる」
「真殿、芙の言うとおりだ、別に俺が代わってもいい。兎に角やめとけ」
克と芙が、ずい、と上半身を覆い被せるようにして真に迫る。
いやまあ、待って下さい、と真は呟きながら真は頭をぽりぽりと掻いた。
「確かに芙が予想している通り、企んでいるんですけどね」
「だから何を? 返答如何によっちゃ、無理矢理掻っ攫ってでも止めさせるぞ?」
勢い込む克を、まあまあ、と制しながら、すら、と真は答える。
「烈殿に勝利して其の褒美に、闘陛下に御出兵願おう、とまあそういう塩梅です」
「何ぃ!?」
思わず大声を出してしまった克は、慌てて両手で口元を抑えた。
「いや、しかしな、真殿、分かるが、そりゃあんまり……」
烈の申し出を受ける条件として、真の方も闘に対して、勝利を得た場合は此方の望む物を与えて欲しい、と願い出ている。
最も、闘は真の願いを聞き入れるかどうかは勝利する姿を見てから考えてやろう、と至極当たり前にしか答えていない。が、真には、闘は自分の申し出を受け入れる筈だという確信があった。
――寧ろ、此れ幸いと思っておられるでしょうね。
闘としては、そろそろ真が句国に居座る備国王を討つ為に動き出す、と目測を立てていた筈だ。
問題は、どうやって、闘の口から共闘を言い出すのか、だ。
闘としては、なるべく、真たち祭国が助力を願い出るという形を取りたいに違いない。
其の為には、此の烈の相撲の申し出はうってつけだ。
真が勝てば、戦に出て欲しい、と言えるのであるし、闘は一旦口にした許しを翻すなど王者にあるまじき、と共闘を受け入れられる。
「しかし勝てなければ意味がない」
「芙、其れは私は勝てない、と断言してるって事ですよね?」
「今からでも遅くはない。止めた方がいい」
真の質問を無視し、芙は平坦な声音で舌打ちしながら云う。
真が勝てるなどと、頭から信じていないのだ。苦笑しながら、真は長衣を脱ぎに掛かる。
「大丈夫ですよ。まあ、見ていて下さい」
しかし、平素ののんびりした趣味に生きる好々爺のような生活を見ている二人には、どんなに真が大丈夫ですから、と言っても心配が拭い取れる訳が無いのだった。
相撲の勝敗の付け方は、至極単純で明快だ。
張り手や組手、寄り切り、膝裏蹴りなどどんな方法でも良いので相手を倒して、地面に身体を付けさせれば良い。
そして基本的に、脚の裏以外の場所が地面に付いてしまった時点で負けとなる。
但し、拳で殴ったり腹に蹴りを入れるのは反則で、此れ等の技を繰り出した時点で、即刻負けが確定する。
勝負を行う組手は決まっており、膝で立ち手を組んで向かっている姿勢から始まる。そして、始めを告げる声で立ち上がり試合の開始となる。
「さて……」
広場の中央に、真は視線を向けた。
独特の上衣は借りずに、袴だけの姿になっている。勿論、其れでは危険だからと脛に脚絆を当てられ革製の長靴だけは与えられた。
「……しかし……貧相だなあ……」
ぽろ、とつい克が本心を零すと、ぶふっ、と芙と仲間たちが小さく、しかし勢い良く吹き出した。
指摘しないでおこう、と気を使っていたのに克の一言で台無しだった。
元々、真は食べても身に肉として付かない痩せ立ちの質なのだが、3年前の大怪我以降、其れを良い事にまともに身体の鍛錬を行っていないのだから胸板などまな板のようにつるっぺたであるし、腕などがりがりの棒きれだ。
おまけに、常に書庫に篭りきりだから日にも焼けておらず、肌は生白く、日陰で育った豆の苗のようにひょろひょろとしている。
一人前の大の男が、どうしたらこんな貧相になる、と不思議がられるのも当然だった。
「其れはどうされます?」
「肩掛けの紐は、流石に外しますよ。引っ掛けられでもしたら事ですから」
左腕を釣り上げている布を外しながら、真は苦笑した。長手袋も外して芙に手渡す。
「姫の手袋を汚しでもしたら怒られてしまいますからね、お願いします」
では、と真は広間で待つ烈の前へと、のんびりと歩み出た。
★★★
真は見様見真似で拙い舞いを披露ながら広場の中央に立ち、礼をしながら立て膝となった。
そして、猛烈な眼光で睨んでくる烈と組手を交わす。
最も、左腕は使えないので右手だけだ。此の右手も、何とか直したとはいえ、節の辺りで奇妙な方向に曲がってはいる。
真の手の感触の気色悪さに、烈は明白に顔を顰めてみせた。
――何だ、此奴の手は。薄気味の悪い。
烈は蔑みの目を、真の右手に注いだ。
指の節が悪いせいで握る力も弱いのだろう、手の平を合わせている程度の感触しか伝わって来ない。
戦いに身を投じている武人として、真の右手の指の曲がり具合から、拷問に掛けられて手を潰されたのだろう、と察しはつく。
然し乍ら、戦場で捕虜になれば日常茶飯事だが文官がこうした拷問を受けるのは稀だ。
――左腕は、もっと酷いから隠している、という訳か。
そう云えば、城に居ついていた間も薬湯を手放せずにいたが、左腕の痛みが取れずにいるのか。
妃である瑛が連れてきた宮女の照が、何かと彼に甲斐甲斐しく構っていたのを思い出した。
安全な後方に在りながら何故、障碍の身になっているのかが不可解だが、大方、身体を鍛えておらぬ文官が下手に武張って不評を買い、性根を入れ替える為に体罰を受けたのだろうな、と烈は勝手に理解した。
――其の程度の漢だろうよ、貴様など。
そうとも、其の程度だと、兄上の眼の前で暴露してやる。
「用意はよいか」
闘が自ら昼間に降りてきて勝利を判定すると知り、烈の体温は一気に上る。
――此奴に無様な土を付けてやる。
そうすれば、兄上も目を覚まして下される。
下らぬ男への執着心を、解いて下さるに違いない。
闘の傍に、さも当然そうな顔付きで侍っている斬の存在も気に入らない。
――貴様程度が、兄上のお傍に。
兄上が国王とならんと志された時。
他の兄弟共を蹴散らした時。
他国に攻め入った時。
最も頼られ最も陛下の為に働いたのは、他でもない、此の私だ。
私以外の誰が、兄上の御役に立てるというのか。
――出しゃばるな、斬め。貴様如きが、思い上がるな。
「……見ていろ……思い知らせてやる……」
ぼそり、と呟いた烈は、ちら、と真の左腕を見た。適当に巻かれた包帯は、緩んで来ている。
少し手を引っ掛ければ解けてしまいそうな程に。
微かに俯向いて、にや、と笑うのを隠す。
――丁度良い、此奴にも恥をかかせてやる。
どんな障碍を得たのか知らぬが、負けを味合わせると同時に晒し者にしてやろう。
「そうすれば、国元に飛んで帰るだろうさ」
何しろ、武人の父を持ちながら戦から逃げて回っているような根性のない男なのだからな――
ぼそ、と烈が零すのと、闘が腕を振り上げ、そして勢い良く下ろす動作をしてみせるのとは、ほぼ同時だった。
「始めよ!」
闘の掛け声と共に、烈は組み合っている手に力を込めて、無理矢理真を引きずり上げた。
強烈な痛みに真の顔が苦悶に歪む。
此の程度の事で、と鼻先で烈はせせら笑った。
喘ぐように空を彷徨う真の左腕を、烈は無造作に掴んだ。叫び声を上げるかと思ったが、思いも寄らず眼の前に居る男は唇の端を噛んで耐えて見せた。
「ふん、痩せ我慢とは、泣かせるではないか」
嘲笑を浴びせながら、烈は包帯の結び目に手を掛けた。
――だが、そう耐える事はなかろう
「逃げたくば、とっとと逃げ出すがいい! 楽になれるぞ!」
烈は、そうれ! と威勢の良い掛け声と共に、力任せに包帯の端を引っ張った。
★★★
ずるり、と桃の皮がずる剥けるようにして包帯がずれる。
隠されていた真の左腕が顕になった。
そう、深い火傷を負い、痕も痛々しい左腕が。
分厚く盛り上がっていた火傷痕こそ、この3年の間に随分と落ち着いてきているとはいえ、酷く爛れ、そして強い引き攣れを起こして赤茶色く変色を起こした腕と、そして折られたまま変形して固まった指は、悪鬼妖怪に取り憑かれている怪異に見える。
そんな腕が、顕となった。
「ふ――う、ぬおぉっ!?」
ぬるり、と突き出された真の左腕を目にした烈は、余りの気色の悪さと恐怖に、思わず知らず大声を上げて仰け反っていた。
そして烈の攻撃心に隙が出来たのを、見逃す真ではない。
す、と右腕の力を態と抜くと、力みすぎていた烈はあっさりと体制を崩した。
上半身がぐらつくのを見定めてから、真は身体を捩って烈の側面に周り、膝裏を軽く脚で叩いた。
かく、と膝から地面に落ちる。あっという間も無かった。
均衡を崩した事すら理解できず、身体の制御の仕方を忘れてしまった烈は、真のような武術に暗い男の張り手の一発で地面に叩き伏せられていた。
烈が、ど、と音を立てて勢い良く肩から地面に倒れて転げた。
自身の身に何が起こったのか、全く理解出来ていない烈は、呆然としている。
「決まったな――」
然し、敬愛する兄王の勝者を定める宣言を耳にして、はっと我に返る。
「あ、兄上! 今の勝負は無効です! 何卒、仕切り直しをお認め下さい!」
闘の脚元に飛んで行き、烈は額を地面に擦り付けて平伏して懇願する。
しかし、闘は冷たい一瞥を呉れるのみだ。烈に申し渡す声音は抑揚というものが一切無い。
「烈、お前も剛国に生を受けた漢であれば、素直に負けを認めよ」
「兄上! まともな組み合いすらしておらぬ、斯様な卑怯な手段を講じての勝利など、勝利と呼べません! 兄上、何卒もう一度……」
「喧しい!」
縋り付く烈を蹴り飛ばす勢いで、闘が怒鳴った。びく、と烈は身体を縮み上がらせる。
「あ、あにう……」
「許しも得ず私を兄と呼ばわるとは慮外千万! 控えよ!」
鋭い眼光が烈を射抜く。
ひっ、と短く息を吸い込み、烈は再び平伏する。
其の横で、芙が拾った包帯を、真は静かに巻き直していた。
★★★
広間では、また新たに別の組の相撲が始まったらしい。
歓声を遠くに聞きながら、真と克、そして芙は王の間に居た。
王座に座る闘の最も近い位置は、空席のままだった。本来であれば此処は烈が座るべき座だ。
しかし今、烈は末席に居る。斬よりも低位の席に、だ。
青白い顔色で烈は俯向いている。ぽたぽたと音を立てて汗が床に流れ落ちているのが、真の位置からも見て取れた。
――御自身の今の現状を、認めたくないのは分かりますが……。
真は胸の内で嘆息する。
烈のような周囲をまるで見ていない敬愛、いや、殆ど崇敬や讃仰に近い愚直なまでの一心の愛情を只管に寄せて来る者には、可愛げである、と一言添えて愛でてやるのが一番だ。
其れ以外に必要無い。寧ろ、一本気質の人物は嫉妬や譫妄で発憤興起させるのは危険だ。自らを悋気の炎で焼くばかりでなく、周辺にも延焼する。
――闘陛下も、罪作りな事をなされますね。
というよりは、闘陛下こそ、烈殿下の無償の愛情に甘えておられるでしょうね。
どんな無茶な要求や理不尽な叱責、荒誕極まりない言葉の数々を浴びせ掛けたとしても、烈は自分から離れないと闘は信じて疑っていない。
高位の妃から産まれた兄王子たちを差し置いて王となるべく立ち上がった時から常に傍に控えて、迷いのない畏敬の念を抱いて仕えている烈に慣れてしまったのだろうか。
青白い顔はまるで霊鬼のように生気がない。怒りを通り越して、魂が抜けてしまっている。
――危険ですね。
烈は今や、怒りと屈辱で周囲が見えていない。闘から受けた叱責すらも、自分や斬を攻撃する材料に為っているのだろうし、最早、誰の意見も耳に届くまい。
烈の姿に構わずに、闘は上機嫌で真に声を掛けて来た。堂々たる姿は、戰とは違う意味で王者の風格がある。
気品、というよりも、威厳があるのだ。
戦いを勝ち抜いて来た者が自然に身に纏うものであり、此ればかりは、努力だの血筋だのだけではどうしようもない。正に闘本人の、気質と才能の融合あってこそだろう。
「真よ。先の仕合いはよくやった。約束だ。何でも望むままに褒美をとらせよう」
「……はい、其れでは」
烈の姿には哀愁を感じるが、しかし真も此の機会を逃す訳にはいかなかった。
句国に居座る備国王を討つには、闘の茶番劇に乗るしか無いのだ。
――申し訳御座いません。烈殿下に恨みはありませんしお可哀想であるとは思いますが、私も戰様の為とあらば、そんな醜態を晒しておられる烈殿下を利用しても、心は痛まないのですよ。
「実は、我が主君である祭国郡王より闘陛下へ伝言が御座います。是非とも、其の言葉を受け入れて頂きたく」
「ほう?」
殊更に脚を高く上げて組むと、闘は目を細めた。
闘だけでなく、烈の顳かみも郡王と云う言葉に反応して、ひく、と蠢く。
「郡王は、我が国に対して、何と言ってきているのか。許す、申してみよ」
すぅ、と真は深呼吸する。
「一両日中に、祭国軍と禍国軍は南方より句国の領土へと到達する。剛国には、我が軍と呼応し北方より攻撃を仕掛けられたし」
一瞬の間を置いて、闘の哄笑が王の間に響き渡った。




