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覇王の走狗(いぬ) ~皇華走狗伝 星無き少年と宿命の覇王~  作者: 喜多村やすは@KEY
二ノ戦 楼国炎上

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終幕 炎(ほむら) 蒼く熱く高く その2

終幕 ほむら蒼く熱く高く その2



 誘われて向かった先は、母屋のくりやだった。

 普段、と言うよりもしょう姫がこの3年間で母屋に向かったことは、数える程しかない。

 当然だ。しょう姫は『皇室の姫』であるが、夫である真は『側妾腹の子』なのだから、母屋にゆえなくして赴くなど有り得ない。

 だからしょう姫は、この屋敷に嫁いできた婚儀の際に先祖の廟を詣った以外には、盆と正月、そして法要や節句などの節目の時以外には、上がったことなどないし、まずもって声をかけられもしない。呼ばれたところで、行く気など二人はさらさらないのだが。


 さてつまり、しょう姫はそれだけの回数しか、真の生みの母であるこうとも会った事がないことになる。が、この時代においては、別段特異な事ではない。

 真の母、つまり宰相・優の側室であるこうは、真と共に離れ屋に住むのではなく、母屋の一角に居を構えていた。

 優遇されているのではない。その逆だ。

 立場上、優は宴などの有宴会を月に何度も行うが、その際の食事の用意などを仕込んでいるのは、真の母・好だった。側室でありながら、厨付きの下女並みの扱いをさせられても黙っているのは、偏に真の存在があるからだ。

 真の乳離れが済むと直ぐに、好と真の母子は、正室であるたえの命令により引き離された。離れに追いやられたむすこを守る為に、こうは黙って主人あるじである正室のたえに従うしかない。

 しかも。奥向の事に関しては、たとえ家長の優であろうとも口出しが出来ない。

 これが、当代における一般的な家の奥向の仕来りだった。


 無論、正室・妙にしても自室を素通りして側室である好の元へ足繁く通う良人おっとの姿と、逆に目が届かないからとありったけの蔵書に埋もれながら、皇子を主人あるじに得た上に、なんと王女を妻に娶り、悠々とした生活送る側妾腹のこどもの姿を見せ付けられ、それに耐えているのだから、どちらがどうとも言えないのであるが。



 さて、真としょう姫は二人して母屋の厨の中に忍び込むと、こそこそとあちらこちらを物色して回った。

 この3年の間に、真によって摘み食いの腕前を大いに鍛えあげられたしょう姫は、実に探りの勘働きが良くなっていた。真よりも先に目当ての物を発見し、ちょいちょいと手を振って呼びつける。


「我が君、もしかして、これ?」

「そうそう、これです。凄いですね、姫」

 しょう姫が指先で摘まみ上げた布巾の下には、焼き魚を使った御馳走の膳が丁寧に仕立て上げられている。

 真は、懐から仕舞いこんでいた書付を取り出した。そして折り紙の要領で、綺麗な飾り折を作り上げ、魚に刺してある串にくくりつけると、しょう姫に目配せした。しょう姫がこくんと頷いて、布巾を戻す。


 本来の目的を達成した二人は、今度は別の机に移動する。お菓子の皿が用意してある机だ。あれやこれやと物色していると、今度は真が、何かを見つけたらしい。ひょいひょいと手招きされて、しょう姫が真の傍にこそこそとやってくると、お皿の上に、小さな一口大の柿を使った菓子が二つ、仲良く並んでいた。

 一人分を用意するのが宴のお作法なのに、二人分のお菓子を一つのお皿に? としょう姫が訝しんでいると、真は笑い声を堪えながら、そのお菓子の敷紙としてあった懐紙ごとくるんで、慣れた様子で懐の中に隠してしまった。


「さて、目的は達成しましたし、逃げましょうか、姫」

「うん」

 こそこそと囁きあいながら、笑い合う。

 くすくすと笑い声を漏らしていては台無しなのだが、二人は楽しそうに厨を後にしたのだった。



 母屋から随分離れた所まで逃げてくると、二人は同時に顔を見合わせて身を捩り腹を抱えて弾けた笑い声をあげあった。

「あ~、楽しかった。でも母屋の厨に忍び込んで摘み食いだなんて、我が君、悪いんだから」

「だから言ったでしょう? 見つかったらちょっと大変ですからね、と」

「ちょっとじゃないじゃない」

 母屋に側妾腹の子が出入るなどとは、天地がひっくり返ってもあってはならない事だ。それを『悪戯』と称してほいほいとやってしまうのだから、やはりこの真という青年は人をくっている。


 笑うしょう姫の手のひらの上に、真は「ちょっぴり拝借」してきた柿のお菓子を一つ、のせた。いつも「ちょっぴり拝借」と言っては、摘み食いのお菓子をくすねてきていた。しょう姫に言わせれば「食べてお腹におさめてしまったら、どうやって拝借したものを返すの?」なのだが、真はどこ吹く風だ。


「美味しいね、我が君」

「ですね、人様のものだと思うと余計です」

 二人でこそこそとお菓子を食べていて、ふと、しょう姫は何時も気になっていた事を尋ねてみた。

「ねえ、我が君」

「はい、何ですか?」

「どうして、何時ごろから、『ちょっぴり拝借』するようになったの?」

「……知りたいですか?」

「うん、知りたい。教えて?」

 きらきらした眸で、好奇心を剥き出しにしてくる幼い妻の額に手を置いて、仕方ないですね、と真は笑って髪をくしゃくしゃにした。



 ★★★



 どうにかして母親に会いたいと思っていた幼い真は、ある時、気がついた。


 母親のこうは、宴の配膳を準備する為に厨に篭る事が多い。

 それなら、宴がある日を狙って厨に忍び込めばいい。


 幼い真は、とうとうその作戦を実行した。厨の中に忍び、樽の影に潜んで母・好が現れるのを待ち続けた。

 果たして、狙い通りに好が身支度を整えて現れた。

 端女はしためたちを従えて、くるくると小気味よく指示を出して働く母は、幼い真の目にも美しかった。

 思わず、身を乗り出した真の目と好の目が出会うのと、潜んでいた幼子が見つかるのはほぼ同時だった。叫び声をあげる端女たちを厳しく叱って下がらせると、好はまだ腰ほどまでしか背丈のない息子に向かって、優しく、けれどこわい口調できっぱりと言った。


「お戻りなさい。此処に居てはなりません。見つかったら、何とするおつもりですか」

 そう言って、真の手の平に小さな菓子を握らせて、背中を押した。身を隠しながら厨を後にした真の耳に、正室・たえ婦人の金切り声と平謝りする母・好の声が被さって聞こえてきた。

 しかし、怒られても懲りない可愛げが、幼児の頃の真にはまだあった。

 次の宴の時にも真は忍び込み、そしてまた発見された。

 今度は自ら、菓子をくすねていて見つかったのだが、またまた母親に背中を押されて厨を後にする。そんな事を数度繰り返す内に、いつしか、厨の机の一角に、少年用の菓子が先に用意してあるようになった。



「とまあ、こんな感じです」

 真は何時もと変わらない様子で、片方の頬だけを膨らませて、もごもごと柿の菓子を食べている。全く悲壮感がないのは、根っから「そんなものだ」と割り切っているからだろうし、それが当たり前すぎて、他にどう捉えようもなく過ごしてきたからだろう。


 しかし、しょう姫は菓子を口にする動きが止まってしまう。

 同じ敷地に住んでいながら、会うことが許されないなんて。

 宴の時に用意する、お菓子を「ちょっと拝借」する時だけが、母息子おやこの繋がりが感じられる時なんて。

 真の甘いもの好きのはじまりが、こんな事がきっかけであったとは思わなかったしょう姫が瞳を潤ませていると、真が再び額に手をあてて撫でてきた。


「泣かないで、姫。私は、この母との繋がりが、とても好きなんですから」

「ど、どうして?」

 ぐす、と赤くした鼻をすすりながらしょう姫が聞くと、真は髪をくちゃくちゃにしてきた。

「だって、こうして腕を磨いていなかったら、姫と一緒に椿姫様のお菓子を『ちょっぴり拝借』しに行けなかったじゃないですか」

「え、ええ?」

「そうしたら、人生の楽しみが半減してしまうじゃないですか」

「えええ? そこまで?」

「当然です。人間、悪さをする時ほど、楽しくてわくわくする事はありませんからね」

 笑う真に、しょう姫も笑顔をかえす。

「だから泣かないで下さいよ、姫。私は自分の立場を悔しいとは思っていても、惨めだと思ったことはないんですから」

「うん、分かったわ」


 今日、お菓子は二つ用意してあった。

 きっと、真の母の好が、彼と彼の幼い妻が忍び込んでくると思い、用意してくれていたのだろう。

 親子がひとつ屋根の下、睦まじく暮す事が叶わないのは、確かに側室と側妾腹の息子であれば当然だ。だが、それを二人共悔しいとは思っても惨めとは思わず生きてきたあかしが、あの用意された菓子に現れているようにしょう姫には思われた。

 どんな境遇であっても、親子のえにしを大切なものとして結びつきあっている以上、真とその母・こうは、他人がどう思おうと、きっと幸せなのだ。



 しょう姫の元気な答えに頷きつつ、真がくちゅん、とくしゃみをし、ぶるり、と身体を震わせたる。

「やだ、どうしたの、我が君」

「いえ……何だか少し、悪寒がして」

「いやぁん、我が君、お風邪? 早くお部屋に戻りましょう。生姜をたっぷり入れた、葛湯を入れてさしあげます」

 お願いします、と頭をかく真の指先に、久々にこつんとあたる感触があった。父に・優の鉄拳制裁が作り上げた「たんこぶ」だ。

 やれやれ、今度のは大きいですね、何時頃ひいてくれることやら、と苦笑いしつつ真はもう一度、今度は盛大に、ぶしゅん! と、くしゃみをした。



 ★★★



「ひ、姫、その、い、痛かっただろう? 私は、その、こう、人より大きいし、その」

「い、いえ、そんな、痛くなんて……」

「いや、相当に辛かった筈だ、一晩中だったのだし」

「そんな、私、辛くなんて……」

「こんな、ずっと、離さないつもりではなかったんだ、すまない、姫」

「あの、本当にわたくし、大丈夫ですから、皇子様みこさま……」


 戰と椿姫とが、寝台の上に膝を突き合わせて正座し、向かい合って座っている。

 戰が、大きな身体をこれでもかと小さくしていた。実際に戰は、穴があったら入りたいという心境だったのだが、生憎と彼のような巨体を仕舞う穴が何処かにぽっかりと空いているなど、王宮ではありえない。



 明け方、優しい手触りを額に受けて、ゆっくりと目を開けた戰は幸せを感じていた。頬にあたる感触が何時もの硬い枕などではなく、この上もなく柔らかで穏やかなものだったからだ。しかも、素晴らしく芳しい良い匂いまでする。

 不思議に思いながら、手で撫で付けて確かめてみる。

 そして漸くそこで気がついて、仰天する。

「ひ、ひひひひひ、姫っ!?」

 一気に目が覚めて、寝台の端まで飛び退る。椿姫は、昨晩そのままの姿で膝を揃えて座っており、静かに微笑んでいる。


「お目覚めになられましたか?」

「さ、覚めました、すっかり覚めました」


 こくこくと頷きながらも、戰は昨晩の出来事を必死で思い出そうと試みる。

 が、全く思い出せない。

 青い顔で冷や汗を垂らしている戰の様子に、くす、と椿姫が小さく笑みをこぼした。

「皇子様は、あれからずっと泣き通しになられて、お疲れになられたのでしょうか、そのままお眠りになられてしまわれたのです」


 泣き寝入り!

 私は子供か!?

 戰は頭を抱えた。この部屋から飛び出して、逃げ出したくなった。



 全身を真っ赤にして照れの極地にいる戰に、椿姫は膝を使ってにじり寄る。

 はっとなった時にはもう、彼女の両の手が戰の頬を包み込んでいた。

 彼女の手に添えられていた絹布が、戰の頬に残っていた涙の後をふき清めていく。

「お気持ちが、少しは晴れやかになられましたか?」

「ああ、姫。有難う。思い切り泣いたら、すっきりしたようだ」

「良かった……」

 姫の細い指先が、戰の額にかかる解れ毛を、静かに横に払ってくれた。


 ああ、この人に、傍にいてもらえて、私はなんて幸せなんだろう。

 唐突に、しかし激しく戰は思った。

 本当に、彼女がいなければ今頃自分はどうなっていたものか、皆目見当もつかない。きっと訳の分からない感情を持て余して荒れ狂い、どうしようもなくなっていただろう。けれど、そのどうしようもない気持ちは泣いてしまえば良いのだと、ずっと寄り添ってくれた。

 それだけが、ただ、戰には素直に嬉しい。


「姫」

「はい?」

 戰はゆっくりと腕を伸ばして、椿姫を胸の中に招き入れた。抵抗する素振りなどみせずに、椿姫はされるがままに胸に抱かれる。

「有難う」

「いいえ」

 椿姫も、戰の背中に手をまわしてきた。


「でも」

「んん?」

「皇子様の、泣きっぷりには驚きました」

「……え?」

「遠慮もなく思う様泣かれて」

「……」

「まるで、子供のように」

 くすくすという椿姫の笑い声に、戰の額を流れる冷や汗が、揺れた。




 格子戸の向こうから、気配のない蔦の声が来訪者の訪れを告げてきた。

「郡王陛下」

「どうした」

「兵部尚書様が、火急に謁見をと、お望みに御座いまする」

「分かった、会おう。通してくれないか」

 戰の声と顔付きが、椿姫の知る優しい彼のものではなく、強く凛々しい『祭国郡王』のそれになっていた。



 ★★★



 皇太子こうたいしてんの部屋には、弟皇子である皇子みこらんが珍しく訪れていた。

 此度ばかりは互いが繰り出している角を引っ込めて、一時休戦中の様相をなしている。事の成り行きを、面白可笑しく眺めていたいという思惑が、一致している為だ。


 昨晩、蒙国皇帝もうこくこうていらいの強襲により、諸国として領土を安堵していた楼国が陥落したとの一報が齎された。


 弟皇子である戰が祭国郡王に上り、且つ又祭国の王女椿姫を新たな女王として推挙認定した旨を大々的に広めた日にだ。寄りにも寄ってこの日を選び抜いた蒙国皇帝の雷を、二人は褒め称えてやりたくて仕方がない。

 普段は決してする事がない兄弟盃を交わしながら、宰相にして兵部尚書である優の登場を待っている。

 この事態を読めず、放置し、蒙国の勝手にさせた罪は大きい。

 しかも、この栄えある祝賀の日に、事を起こさせた。

 どのようにしても罪は拭いきれるものではない。


 昨晩早々に、兵部尚書の息の掛かった判官はんがんの一人が責任を取ると申し出、辞表を提出してきた。余りに騒ぎ立てては、この諸王が王宮内に多く滞在中の今、事が露見する。

 この国の恥部を曝け出すなど、絶対に避けねばならない。

 その為の措置として、これは正答であろう。

 が、皇太子・天と皇子・乱は、二人して吏部尚書りぶしょうしょに受け取りを保留させた。あくまでも保留だ。拒否は、得策ではない。保留という形をとれば、相手方により多くの精神的圧力を掛けることができる。受理や拒否ではそれこそ、そこで終わりをみてしまう。


 そんな簡単に片付けてなるものか。

 徹底的に追い詰めて痛めつけてやる。

 兄弟は珍しく、揃って笑いあう。



 ざわめきと言うよりも、響めきが部屋の外で起こった。

 何事かと天と乱は顔を見合わせた。

「こ、皇太子殿下、兵部尚書・優様が謁見をお申し出になられておられるのですが……!」

「おう、来おったか。思いの外、早い到来であるな」

 舎人が泡を喰った様子で、伝えに来る。


 来たか来たか、待ちかねたぞ、と天はほくそ笑む。

 だが舎人の奴は、一体全体何をこのように慌てているのか? まあ良い。先の件の事もある、今日は存分に、兵部尚書をいたぶってやる。


 兵部尚書は、戰の義理妹いもうとであるしょう姫を妻に迎えている側妾腹の息子を抱えている、つまり一番の身内であり理解者であり後見保護者であると言える。しかも郡王就任の件の折に、自身の立場を明確に表明している。

 ここでこの兵部尚書の殿中での勢力を削いでしまえば、それは即ち弟・戰の立場を弱めるという事に他ならない。遠く祭国に出向いた弟の、国内での立場を守るべき兵部尚書という強大な後ろ盾を失う。


 べろりと舌舐りをしつつ、天はまだ舎人に答えない。

 時間をかけるのだ。

 この私の言葉こそが至高であると、思い知らせる為にも。

 しかし、そんな兄を横目に、ふん……と胸の内で乱は嘲笑う。

 勿体ぶったところで、その矮小な腹が大きく育つ訳でもあるまいに。

 格好付けばかりが上手くなる事に気が付かぬとは、哀れなものよな。


 たがどんなに腹の中で互いに嘲り笑いあってはいても、今は兎も角、弟の戰が追い詰められていく様が楽しくて仕方が無い、天と乱だった。

 さて、戰よ、どうするつもりだ?

 二人の皇子は、にやにやして、弟の悲報をより深く楽しむつもりでいたのであったが、それを舎人の、空をつんざく叫び声が消し去った。

「そ、それが、兵部尚書様だけではありませぬ! 兵部省に属する全ての武人どもがこぞって謁見を申し出ておるのです!」

「な、何だと!?」

 皇太子・天は盃を手から取り落とした事すら気が付かずに、立ち上がった。



 舎人の声に被さる天の驚愕の叫び声が終わるのと同時に、皇太子殿の扉が大きく開け放たれた。

 扉の向こうに、一大集団が見える。

 その先頭に立つのは、宰相にして兵部尚書である優であり以下兵部省に属する、通判官である侍郎、判官である郎中・員外郎、検勾官けんこうかんである二十四左右司郎中・二十四左右員外郎・左右都事、主典さかんである主事・令史・書令史など、ぞろぞろ延々と続いている。兵部の武人が、勢ぞろいしていた。

 元が兵部に属するため集結すると『雁首を揃えた』という表現こそがぴたりとはまる、有り体に言ってしまえば『王宮に使えているから、まだ破落戸ならずものに堕ちずに済んでいるだけの武辺一辺倒の偏倚へんいな猛者集団』だ。

 礼装に身を包んでいても、いやだからこそか。その厳つい風貌もあいまわり、強烈で殺気じみた鬼気迫るものが、ズンズンと異様な迫力で迫って来る。恐怖を感じずにはいられず、天と乱は思わず知らず、腰を浮かした。


「おやこれは、皇太子殿下のみならず、二位の君であらせられる乱皇子様でご同席とは」

 兵部尚書・優の言葉に、乱は脳天にカッと血が昇るのを感じた。

 『二位の君』とは、乱を蔑して天が影で放っている言葉だ。

 『奴は私の次にしか立つことができぬ、二位の君だ』と。

 しかし何とか堪える。

 ここは兄である天に収めさせなくてはならない。いや、収めることが不能とならねばならない。そして自分が事を収めるのだ。

 そうしてこそ、兄と自分の立場は逆転する。

 突然降って沸いた絶好の機会に、乱は怒りを何とか宥め賺していた。



 そんな乱に構わずに、優は引き連れた部下を背に、ずい・と一歩踏み出す。

「本日こうして、皇太子殿下の御元に罷り越しましたのは、他でもござらぬ、我が領土である楼国が蒙国の卑劣なる手段により奪い去られし責任を取らせて頂く為に御座います」

「ほ、ほう……。しかし、責任をとるとして、何故このような一大集団で……」

「皇太子殿下」

「な、何だ、兵部尚書よ」

しん・優、宰相にして兵部尚書という重席を皇帝陛下より賜り、此れまで禍国に尽くして参りましたが、此度の失態、誠に己に恥じ入るばかり、不徳の致すところに御座います」

「ほう?」

「故に、臣・優、責任の所在を明らかにすべく、宰相と兵部尚書の任を辞させて頂く所存にござる」

「ほう」


 言うなり、優が礼装を丁寧に脱ぎ、冠を外した。

 位と官の象徴である礼装と冠を外す優の姿に、天と乱は口元を歪める。

 兵部尚書め、相当に追い詰められているな。

 すると、優の脇を固める部下の一人が、優のすぐ背後にまで歩を進め出た。


「皇太子殿下」

「何だ?」

「直接お声を賜り、恐悦至極に存じ上げます。また、我ら兵部尚書様に仕えし兵部省の者も共に責任を取らせて頂きたく、これにて全員、辞任させて頂く所存に御座います」

「何だと!?」

 部下の宣言が終わるや否や、背後に控えた全ての部下が礼装を脱ぎ捨て冠を外した。

 


「たわけ者が! そんな身勝手な振る舞いが、許される訳がなかろうが!」

「何が勝手なことが御座いましょうか。責任のありかは明確に致さねばなりませぬ。我ら皇帝陛下に仕えし兵部の者、これ全て恥を知り責任を負うのは我であるとして、こうして皆、罷り越したのであります」

「馬鹿者が! 兵部省全ての人員が辞めるなぞ、許される訳が無かろうが!」

「いえ、既に許されております」

「阿呆が! 尚書じょうかんに連座辞任するなど、聞いたこともないわ! 止めんか、兵部尚書! そもそも、如何なる事か!」

「私は既に兵部尚書を辞させて頂いた身の上に御座いますれば、その命令には従いかねますな」

「ええい、屁理屈はよい! 申せ!」

「では僭越ながら。此処で悶着を起こしても、確かに話が進みませぬ故。実は先に、刑部省と吏部省りぶしょうに赴き、共々に受理させて参ったのです」

「何だとっ!?」


 早い話が優は、此処に来る前に刑部省に寄り、罪の所在を明らかにしその処断を司法に乗っ取り執り行う旨を承諾させ、更に吏部省に兵部省の全人員に対しての離職を承諾させ罷免状を作成させてきたのだ。

 つまり、刑部省、吏部省が共に兵部省側に、いや戰の側についたという意思表示をした事にほかならない。


 皇太子・天の叫び声が、虚しく天井に突き刺さる。

 この、兵部尚書如きが、何をやらかしてくれる!

 むらむらと怒りのままに兵部尚書・優を打ち据えようと振り上げた天の腕が止まった。


「それでは、此れより我らは戸部省こぶしょうへと参りますので、此れにて失礼致します」

戸部省こぶしょうだと? 何故そのようなところに」

「官位を剥奪されし我々は」

「誰も剥奪などしておらん!」

「まずはお聞き下され。我々は既に、殿上叶わぬ庶人同等の身の上。此れを恥じ入るが故、最早この禍国にて居場所をとは望みませぬ」

「な、何?」

「其れ故に、我々は此れより祭国郡王陛下の御元に集う所存。一兵卒より再び叩き上げ、全てをやり直す所存に御座います」

「ふ、ふ、ふざけるなぁ!!」

 こ、この上、こ、戸部省までが呼応しておるだと!?

 一体全体、何処まで人を虚仮にしたら気が済むのだ、此奴らは!?

「この莫連ものどもがぁっ!!」

 天の金切り声と共に、盃が優に向かって投げつけられた。



 飛んできた盃を掌底で打ち払うと、優はふん、と胸を張る。

 天と優のやり取りを脇で眺めながら、乱は胸の内でほくそ笑む。

 良いぞ! もっとやり合うがいい! 

 すると、くるりと優が乱の方へと向き直った。

「幸いにも、乱皇子様におかれましては大令・中殿の甥御にあらせられる。お執り成しを是非に」

「な、何ぃ?」

 矛先が此方に向き、乱が慌てる。


「何をそのように慌てなさるか。大令と申さば、百官の統率と勅旨の施行を行う郡省の頂点に立たれる御方。今、この皇太子殿下と私との間に嘴を挟まずにおられたということは、我々の意思を尊重して下さっての事でありましょう。故に、我々が郡王陛下の元に馳せ参じる旨をより潤滑に執り行えるよう、大令・中殿におとりなし願えるものと」

「ふざけるのも大概にせよ! そんな事が出来るか!」

「ふざけてなどおりません。何しろ、此れだけの大所帯がごそりと抜け出るのですからな。給金の計算だの、離職票の作成から新たな求人の為の試験の設定、またぞろやるべき事柄が急務な上に、積算されるのですからな、胸が痛みます。いや誠にこれからの大変を、お察し申し上げる」

「そんな的外れな心配なんぞするな、この頓馬!」


「的外れとはこれはまた心外な。我々とても、この禍国を愛しておるのです。故に心の底から案じておるのです」

「な、何をだ」

「我々、兵部省の者がなべて首を切られたる、この後」

「誰も切っておらん!」

「この禍国を統る皇帝陛下の御意に添いたまう御国を護りしは、さて何処の何方の腕によるものであろうかと」


 優の一言が、稲妻のように天と乱を打ちのめした。

 今まで散々、のらくらと言い合いを募らせてきた為、肝心なことを忘れていた。

 そうだ。確かにそうだ。

 戦の陣頭に自ら立つ宰相にして兵部尚書・優を筆頭にして、兵部省に務める者が全て離席したあかつきには、一体誰がこの禍国を守る責を負うというのだ!?


 天と乱は同時に青ざめる。

 追い詰めて、そしてとことんまで虐め抜いて楽しむつもりであった。だが、逆に牙と爪を喉元にめり込ませた状態で押し倒されていたのは、自分たちの方だったのだと、漸く気がついた。


「さて、長居が過ぎましたな。我々は此れにて失礼し、戸部省こぶしょうにてお待ちになられておられるであろう祭国郡王陛下の元に参る所存。皇太子殿下並びに二位の君におかれましては、どうぞお健やかにお過ごし下さいますよう」

「ま、待て!」


 一斉に踵を返す優を筆頭とした兵部省の面々に、天と乱が同時に腕を伸ばした。



 ★★★



 扉の影に隠れながら事の次第を立ち聞きしていた戰は、笑いを堪えるのが大変だった。

 全く、真は相変わらずな事を考えるものだな。


 礼装と冠を正して退室してきた兵部尚書・優の姿に、戰は笑顔をむけた。

「よもやの時の為に控えていたけれど、大丈夫だったようだね」

「は。郡王陛下にご心配をお掛けするとは、臣・優、不徳の致すところにて」

「いいよ、そんな畏まらなくても。でもさすが歴戦の猛者、兵部尚書だ。舌戦においても強いね」

「――は、有難うございます」

「まるで真を見ているようだったよ、流石に親子だね」

「……は、はぁ……」

「どうした?」


 妙に歯切れの悪い兵部尚書・優の様子に、戰が首をひねる。

 実は、此れらの言葉は、真が全て仕組んだ言葉だったのだ。

 一語一句過たず諳んじ、且つ、このように出られたらこう返す、あのように迫られたらどのように切り返す、と条件反射で問答出来るようになるまで、昨晩徹夜で、息子にそれはそれは厳しく、徹底的に仕込まれたのだった。


 夕餉の軽い宴の折、優は自身の膳の上に踊る魚の飾りに不自然な物を見つけた。気取られぬようにそれを手に取り隠し、確かめると、息子・真からの書付だった。


 ――此度の打開策を考案致しましたので、気になるのでしたら書庫までおいで下さい。


 頭に来て、今度は何処に鉄拳をぶち込んでやろうかと肩を怒らせ書庫まで来ると、息子は布団に幾重にも包まれた、もこもこの簀巻すまき状態で生姜入りの葛湯をすすっているところだった。


「何をやっておるのだ」

「何って、風邪をひいたようだと言ったところ、妻が身を案じてこのようにして下さったのですよ?」

「ふ、ふん」

「良い妻を持って私は幸せ者です」

「喧しいわ」

 正室に恵まれなかったが故に、真の母であるこうを側室に迎えた優には、耳の痛い言葉だ。苦虫を数万匹一気に噛み砕いた顔ばせで、唸る。


「それで例の話だが」

「例の話とは?」

「恍けるな。宴の膳に出された魚の飾り結びを手紙にかえて知らせてきたであろうが」

「ああ、気がつかれたのですか」

 真は、ずずっ、と音をたてて葛湯をすする。


「とっとと話さんか」

「私は全く何の役にも立ちませんが、それでもよろしいのでしたらお話致しますよ?」

「喧しいわ。全く、ああ言えばこう言う」

「はい、明日は父上こそが、まさに私如きになっていただかねばなりません」

「なにぃ?」

 目を眇める優に、真は、あちち、と小さく舌を出しながら葛湯をすすった。



 元々、武辺だけでなく政治にも明るかったが故に此処まで出世した優ではあるが、真の教育的指導は辛辣を極めていた。

 少しでも間違えば、冷徹極まる言葉の刃を容赦なく飛ばす。

 流石の優も、郡王・戰の御為、また部下の為とはいえ、堪えがきかなくなってきた。

「真、お前、親をなんだと思っておる」

「何って、郡王陛下の御為にお役にたつ御方であるとしか?」

「何だと?」

「ああそれとも、あれ程偉そうに語っておられたと言うのに、この程度の事で根を上げられる・と」

「何ぃ?」

「私のような、ものの役に立たぬ者に言いくるめられて負けるのがお嫌だと、その程度のお役にしかたたれるおつもりがないと、まあそういう事ですか?」

「な、何だと?」

「ご自分の都合の良いようにしか役に立たぬおつもりでない部下にしか恵まれていない郡王陛下が、ああ哀れに御座います」

「喧しい!」

「と、怒る気力があられるのでしたら、どうぞ一言でも頭に言葉を収めて下さい、さあお続け下さい、父上、ほら早く」

 


 優の憮然とした横顔を笑い声を堪えつつ、戰は眺めている。

 同時に、優と真、彼ら親子が羨ましくもあった。

 自身と皇帝である父との間には、このように血の通った関わりが果たしてあったであろうか?


「兵部尚書」

「は、郡王陛下」

「結局、当初、退官を求めてきた者の離職で、この件は終わるのだね?」

「はい、そのようになるかと」

「ならばその者、私が貰い受けても構わないだろうか?」

「――は?」

「それくらいは、させてくれないか」


 戰の申し出に、優は静かにこうべを垂れた。



 ★★★



「真、居るかい?」

「はあ、居るにはいますが……」

 戰がからりと書庫の引き戸を開けると、優に聞き及んだとおりに、厚着をさせられた真が、ふうふうと息を荒くしながら布団から起き上がり、葛湯をすするところだった。


「大丈夫か、真」

「大丈夫ですよ。それで、戰様が此処においでになられたという事は」

「うん、万事上手くいった、とは言えないかもしれないけれど、そこそこ上等な具合にはなったのじゃないかな?」

「それで宜しいのですよ。万事並べて上手くいくなどと、ありえませんからね」


 戰と真は二人で顔を見合わせて笑った。

 笑ったが、戰としては実は内心笑えない。

 自分勝手に悲しみに沈んでいたが、その裏で、真や優たちはどれほど自分の為に奔走周旋してくれた事か。

 恥じ入るばかりだ。

 彼らに尽くしてもらう事を、当然と思っていてはならない。

 彼らの意気に報いる事ができる人物に、ならねば。

 戰は初めて、自分の立場を強く意識するようになっていた。


「ところで、風邪の方はどうなんだい? 兵部尚書に聞いて心配していたのだが、辛そうだな」

「ええ、これでも随分と楽にはなったのですが、此方の方は良好とは言えませんね。でもまあ、ここを最後の根城にするのも良いかと思いますし」


 実際に、真の風邪は少々タチが悪く、治りが遅かった。いつまでたっても熱が引かぬ上に、鼻が詰まって仕方ない。

 もう直ぐ祭国に出立しようかというこの時期に、しょう姫に風邪をうつしてしまっては一大事であるので、真は寝床を別にするのは嫌だとごねるしょう姫を宥め賺して、この書庫でひとり篭る事にした。

 しかも、この書庫には様々な思い出が詰まっている。それなりの感慨にふけりながら、残り少ない禍国での時間を噛み締めつつ、真は書庫で簀巻になっていたのだ。


 戰同じ気持ちなのだろう。

 部屋をぐるりと首を巡らせて見回している。

 小さく笑いながら、真は葛湯に口をつけた。

「ただ鼻が詰まってしまって、臭いも分からなければ味も分からないのが、つまらないですね」

「またそんな事を」

「そんな事とは何ですか。人間、食事を味わう楽しみがなくなってしまったら、人生の喜びが半減しますよ」

 食い意地を張った嘆息をつく真を笑いながら、ごそごそと、戰が懐を探り小さな包を取り出した。


「それは?」

「柿を使ったお菓子だよ。真、好きだろう?」

「有難うございます、しかし戰様、風邪ひきに柿は禁物ですよ」

「それは、痰が絡んで喉が痛い場合だろう? 真は熱と鼻詰まりなのだから、いいじゃないか」

 そう言われれば、真も元々甘いもの好きでならしている。

 それでは、と開かれた包から一切れ、柿菓子を手に取った。かじる真に、戰がおずおずと訪ねてくる。


「真……実はずっと確かめたかったのだが」

「何ですか?」

「その……」

「なんです?」

「そのだね、真が、『男』としての経験があると言うから、どのような経緯だったのかとずっと気になっていて……」

 ああ、と菓子を飲み下しながら、真が短く笑った。


「気になるのですか?」

「ま、まあ……」

 そんな楽しい話でもありませんがね、と前おいて、真は語りだした。



 6~7年前のことだ。

 正室の息子のひとりが戯れに放った毒虫に噛まれ高熱を発し、意識を混濁させ昏倒した事があった。泡を喰った母・こうが薬師や医師を呼びつけたのだが、正室・たえの妨害によりなかなか正規の者が捕まらない。ようよう、裏稼業として生計をたてているひとりに診断を受けることができた。

 その医師は『瀉血して悪き生気を抜けば良い』と至極真っ当な言葉を残し、治療して終えて帰っていったのだが、動転した母親は『悪い精気を抜けば息子は助かる』と父・優に懇願したのだった。言葉を聞いた父も父で、何をどう勘違いしたものであるのか『精を抜けば良い』のだなと、家に数人にも及ぶ春を鬻ぐ女たちを呼びつけた。

 そして彼女たちの手に掛かり、真は数日に及び『盛大に精を抜かれ』まくったのであった。




「そんな訳でして」


 傍に用意してあった葛湯を手にとって、ゆっくりと噛んでいた菓子を飲み込む真に、戰は笑い声を上げた。

「何だ、そんな事だったとは」

「そんな事とは?」

「いや、自分の意識がないような状況だったのだろう? それでは、経験があるとは言えないではないか」

 どこかほっとした、それでいてそ、なんだ結局真もそれ見たことかという話じゃないかと言いたげな、戰の声音だった。

 実に嬉しそうな戰を横目に、ずず、と音をたてて葛湯をすすりながら、真が呟く。


「誰がそれのみだと申しましたか?」

「……えっ……」

「初手は確かにまあ、自慢できるような経験ではありませんでしたが、それはそれです、それ以降は違いますよ」

「えっ、ええ!? そ、それはどう言う意味だ、真!?」

 青ざめながら、戰が真に食ってかかる。が、真はふらついたかと思うと、ふわ~……と枕に向かって倒れ込んだ。


「し、真……? ど、どうしたんだ……?」

 戰が慌てて覗き込むと、真は真っ赤な顔つきで目を向いて倒れている。

 明らかな酩酊状態で、伸びている。


「し、真!? い、一体これは?」

 戰がおろおろとしていると、からりと書庫の引き戸が開け放たれた。

「我が君、ちゃんと葛湯は飲めました? 器を取りにきたのだけ……ど、どどどど、どうしたの!? わ、我が君? 我が君!? いやあぁん、お兄上様、一体我が君に何をしたの!?」」

しょう姫、そ、それが私にも何が何だか……」


 半狂乱で真に縋るしょう姫は、ふと、真が手にしている小さな菓子の欠片に気がついた。それを手にして、クンクンと匂いを嗅いで確かめる。

「……お兄上様」

「な、何だい、しょう姫」

「このお菓子は、お兄上様が? これ、何というお菓子か知っているの?」

「あ、ああ、真は柿をつかった菓子が好きだろう? だから態々用意させたのだが」

「お兄上様、これはね、樽柿と言って、樽の中に柿を入れて潤るまで熟させたものなの」

「へえ、そうなのか?」

「そうよ、焼酎を造る樽の中に入れるの」

「――えっ……」


「お兄上様……。お兄上様は、我が君は、お酒にとても弱いって、知っていらっしゃるわよね……」

「しょ、しょう姫、その、あのだね、これはその」

「知っていらっしゃって、このお菓子を用意して、我が君に食べさせたの……?」

「そう、いや違う、これはその、私も知らなくて、知らないが故の不可抗力と言うべきでね、あの、しょう姫」

「いやあぁああああん! 我が君、我が君ぃ!」


 涙目で真の胸をゆさゆさとしょう姫は揺するが、真は、ふ~……にゃ~……と、何やら言葉になるようならないような呟きを漏らすばかりだ。目の焦点も定まっておらず、かくかくと揺さぶらるままだ。

 きっ! としょう姫が、戰を睨みつけてくる。

 その迫力に、戰が手を振りつつ後退りする。


「しょ、しょう姫! す、済まない! 態とではないのだ、けっして、けして、態とでは!」

「お兄上様の、馬鹿馬鹿馬鹿ぁ!」

「や、やめろ、しょう姫! な、殴るな、蹴るな、引っ掻くな、か、噛むな! う、うわあああ!」




 書庫の外で、様子を伺っていたときつたが、互いの顔を見合わせあう。

「ほんに、面白い御方らに御座いまするな」

「じゃろ? 全く楽しゅうてならんのだわ、これがのう」

 鯰の触覚のような髭を紙縒りながら、ほっほっほと梟のようにときは笑い声をあげ、蔦もころころと鈴の音のような笑い声を上げた。





   覇王の走狗いぬ  二ノ戦  楼国炎上     了




此れにて、覇王の走狗・二ノ戦 楼国炎上 は終幕と相成ります。


炎上とありましたが、『炎上』したのは一体どこだったのでしょうかね? てな具合になってしまいました。

読んでいただくとわかると思うのですが、「その2」の冒頭数千文字は本来なら「その1」に掲載すべきなのです。しかし体調不良の為、取り敢えず掲載を!と意気込んだが為に、「その2」がこのようなビッグボリュームになってしまいました。お楽しみ頂けましたでしょうか


さて三ノ戦は、舞台を祭国にうつし、いよいよ本格・・・的に動か・・・ないと石を投げられてしまいますかね?

というかウブ過ぎる戰と椿姫は、ちゃんとくっつのでしょうかね?

どうなのでしょうかね~? 取り敢えず、まだまだ人集めは続きます

(⇒まだ増えるのかよ!とは言わないで!


という訳で、三ノ戦 皇帝崩御 で、再びお会いしましょう!

(⇒章タイトルで全てがわかるから読まなくていい、なんて思わないで下さい!


         2014年10月28日  作者拝

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