終幕 炎(ほむら) 蒼く熱く高く その1
終幕 炎 蒼く熱く高く 1
楼国が、その北位上部に存在する一大新興勢力にして強国・蒙国に攻め込まれたという一報は、怒涛のように禍国の重臣たちの間を駆け巡り、襲った。
蒙国が帝国を名乗りだしたのは、現在の皇帝・雷の時代となった、ここ10年程の事だ。その間、厳しい冬期を除いてほぼ戦漬けだ。
皇帝・雷自らが軍馬に跨って陣頭に立ち、将兵を率い、一気に戦場を駆け抜けつつ猛攻撃を仕掛けるその騎馬軍団の凄まじさは、稲妻とも雷霆とも紫電とも喩えられえている。皇帝・雷は、彼こそはまさに生まれついての皇帝であると知らしめるかのように、今、蒙国は、領土拡大勢力攻勢の一路を邁進し続けている。
その紫電と恐れられる皇帝・雷。彼が、冬に入る前のこの時期に、戦を仕掛けてきたのだ。
否。此れは、戦などではなかった。
ただの、蹂躙だった。
宣戦布告もなしに、蒙国の騎馬軍団が突如として現れ、楼国を駆け巡りその大地を荒し、全ての生きとし生けるものの命を根こそぎ奪い去り、そして最後には火を放ち楼国を文字通り火達磨にして、地上から消滅させた。
受け取った早駆けの伝令が短く伝えた事実を、真はそのまま戰に告げる。
「何故」
「……」
「何故、蒙国は、そのような非道な行いを躊躇逡巡する事なく実行した」
「……」
「何故、この世から楼国を消し去ったのだ」
「……」
「知っているな、真」
「……」
「答えろ」
これまで戰は、このような口調で真に向き合ったことはない。
冷たく、そして、冷え冷えと冴え渡るが故に、蒼く燃え盛る炎よりも熱く鋭い声だ。真は暫く無言でそんな主人を真正面から見据えていたが、やがて、肩を大きく上下させて嘆息すると、あらぬ方向へと声をかけた。
「……蔦」
真の呼び掛けに応じ、全く気配を感じさせる事無く蔦が屏風の後ろから姿を現した。懐に手を入れると、黄色い包を取り出す。
「それは?」
「鵜片に御座いまする」
戰の目が眇められる。戰とても皇子の端くれだ。
鵜片が如何様な効果をもたらすものかであるか、熟知とまではいかなくとも知識として充分すぎる程知っている。戰の魂を串ざす鋭い眼光に、珍しく蔦が冷や汗を額に浮かべ出していた。
「その鵜片が、どうしたというのか」
「これなる鵜片を産しましたるは、楼国に御座いまする」
粗方の予想はしていたであろう言葉だったが、正面から告げられて、戰は衝撃に言葉を失う。静かに、蔦は続けた。
「我々ように此れなるを取り扱う下衆の者の間では、つとに有名な話に御座いまする。鵜片の上等楼国産に勝るものなし、と」
「……まさか」
「その、まさかです。二十余年前、我が禍国が楼国を攻めたのは、正しくこの阿片が国内で問題となっていたからです」
数十年前までは、楼国は赤石や碧石などをそれなりに産出して潤っていた国だったが、それが突然枯渇した。周辺に畑などを広げられない楼国は、主収入源を絶たれて狼狽する。西方と中華の、交易の中心として需要があるとはいえ、このままでは、何れ遠からぬうちに国は立ち行かなかくなる。
そこで思いついたのが、鵜片栽培だ。それまでも薬として細々と栽培してきたこの鵜片の引き合いが実は多いという事に気がついた楼国王が、自国を一大産地へと変貌させたのだ。
鵜片の交易の収入で、たちまちのうちに楼国は栄えた。が、それは同時に、鵜片により国を危うくさせられた他国の怒りを買うことになるとまでは、愚かにも楼国王は思い至らなかった。禍国は、その怒りにより立ち上がった国だったのだ。
当初、楼国全土を根絶やしにするつもりであった皇帝・景であったが、楼国王室の美貌の少女・麗との出会いにより、それを思い止まった。
そしてやがて、楼国が生み出す鵜片の歳入金の額の多さに驚きをみせた。よもや此処までと思っていたのだ。禍国は楼国に諸侯を置いて支配するにとどめ、国を存続させ金を生み出し続けるよう決定した。
ただ、これは極秘事項であった。国が中心として鵜片栽培に手を出していると知られればどうなるのか、自分たちが一番よく知っているからだ。鵜片を生み出しているのは、楼国でなくてはならないし、その事実も極力広めないようにしなくてはならないと努めてきた。
だが此度、20年以上の時を経て、同じく楼国の鵜片に国の民草を惑わされた蒙国皇帝・雷の怒りを買った。
ただ、唯一にして絶対的な相違として、攻め入ったのが同じ皇帝でも蒙国帝・雷であった事だ。
彼は許しはしなかった。
自国の民を苦しめ惑わし遂には死に至らしめる魔障――鵜片を産する楼国を。
徹底的に、完膚なきまでに。
老若男女、貴賤貧富、楼国人禍国人の差なく楼国に根付く全てを叩き潰した。
馬鹿な、とは戰は口にしなかった。
真が語った事は、どう考えても理にかない過ぎている。
蒙国皇帝・雷がとった行動は、禍国から、いや戰や真から見れば極悪非道極まる所業かもしれない。だが其れまで蒙国の民が被っていた悲哀と慟哭を思えば、雷は、皇帝としてあるべき行動をとったに過ぎない。
例え人倫に悖るとの誹りを受けようとも、迷いなく断行する強さを持っているからこそ、蒙国皇帝此処にありと君臨する事を許されているのだ。
全てを凌駕超越し、毅然として非道を善道と転化させた、皇帝・雷。
故に、蒙国皇帝・雷は、皇帝として為政者として、正しい。
しかし。
「真、それに蔦」
「はい」
「済まないが、独りにしてくれないか」
張りもなく力もこもっていない戰の声に、はっとしながらも真と蔦は、二人頭を垂れて、戰の部屋を後にした。
★★★
力なく寝台の上に腰を落ち着けた戰を、声もなく、ただじっと静かに椿姫は見守っていた。
項垂れ、握った拳を白くなるほど固くして震わせている戰を、ただ静かに。
その戰が、ようやく思い出したように、椿姫に声をかけてきた。
「姫」
「はい、皇子様」
「済まないが、貴女も下がってはもらえないだろうか」
声までがいつもの戰ではなかった。いつもの、朗らかでそれでいて暖かで穏やかな、戰ではなかった。椿姫が答えずにいると、戰がもう一度、促してきた。
「姫」
「いやです」
間髪入れずに強く否定の答えを口にした椿姫に戰が驚き、視線を上げると、何時の間にか彼女は同じく寝台の上にあがり、膝を揃えて座っていた。
そして戰の頬に両手を揃えて充てがうと、静かに自らの膝の上に伏せ、俯せ寝の姿勢をとらせた。椿姫の体温を直に頬に感じ、戰は動揺する。
「ひ、姫?」
「お傍に居させて下さい。私は皇子様のように広い背中も立派な腕も持ち合わせていないけれど、こうして膝をお貸しするくらいの事はできます」
「姫……?」
「どうか、今は、皇子様の心のままになさって下さい」
「……姫」
「貴方は、私の国が辛い時に、ずっと尽くして下さいました。ですから、今度は私に、貴方の為に尽くさせて下さい」
椿姫の右手が、優しく戰の肩に触れた。背負ってくれた時、広く逞しくあんなにも頼りがいのあった背中が、寂しく小さい。
「辛いのでしたら、泣いて下さい。哀しいのでしたら、泣いて下さい」
細く白い指が、戰の背中を幼子をあやすようにさすり始める。さらり、と音がなり、椿姫の長い髪が戰の頬に触れた。
「私が、お傍にいますから。ずっとずっと、いますから」
空いた椿姫の左手を、戰は固く握り締めると、そのまま椿姫の膝に顔を埋めた。
そして、声を上げて、子供のように泣いた。
戰の嗚咽が漏れて聞こえてきた。
真は深く嘆息すると、背後に控える蔦を振り返る。
「蔦、すまないけれど、お二人を頼むよ」
「はい、然と」
うん、と頷くと真は踵を返した。
時刻的に、もうこれ以上は王宮に留る事は危険だった。それよりも真は、父・優に確かめねばならない事があった。
兵部尚書である、父に。
★★★
真は帰宅するなり、久々に父・優の突撃を受けた。有無を言わさぬ鉄拳を即頭部に受け、真横に吹っ飛び書棚に激突する。その書棚が、随分隙間が目立つようになってきているのは、徐々にではあるが祭国に向けて運び出しているからであり、そのため、容易に本は真の頭上に雪崩をうってばさばさと落ちてくる。意外と、その二次被害である本の角が痛い。
「殴られるいわれはないのですが。正直、八つ当たりはやめて頂きたいです」
「喧しい!」
兵部尚書である優の苛立ちは当然だった。
此度の事の重大さを鑑みれば、父は罷免失職の憂き目にあってもおかしくはない。いや、本来であればそうすべきだろう。
しかし、今、優に兵部尚書の職を辞されては、困るのだ。
戰が、困るだ。
戰の政治基盤は、文字通り脆弱だ。何も元手のない、一から全てを積み上げて行かねばならない。それには時間がかかる。その間、彼の立場を守り続ける政治力が絶対的に必要であり、今現在、天皇太子の後見である徳妃・寧の父、大司徒・充と、乱皇子の後見である貴妃・明の父、大令・中に対抗しうる地位と名勢とを有しているのは、この兵部尚書であり宰相でもある優をおいて他、存在しない。
だが、此度の蒙国の侵攻を全く予見できなかった罪を咎められでもしたら、優は苦節の末にたどり着いたこの職務を手放さねばならなくなる。そうなる前に、優に成り代わり、責任を負う者を仕立て上げ無ければならない。
幸いに、というのも妙な表現であるが、優を慕う部下の中には、有能かつそれなりに出世している者が居る。その者が早々に自らの責任を被る旨を兵部尚書である父に、申し出たという。自ら職を辞すことで、事態を治めるべく身切り役を買って出たのだ。
「人身御供もよいところですね、都合のよろしい事です」
冷めた口調で吐き捨てる真に、優の鉄拳が飛んだのだった。
「大層な口をきくな。真、貴様なんぞは身を切っても、何の役にも立たん。むしろ、無位無官の側妾腹の汚れた血が無駄に流れただけの事だと、郡王陛下が物笑いの種になるだけだ」
「……」
「奴の犠牲で事が全てが収まる、それだけ奴に地位も名誉もあればこそだ。お前には、何も無い。良いか、勘違いするな。今、郡王陛下を守る為に必要なのは、お前のその薄ぺらな知識や小手先の話術などではない」
鼻息も荒く、書庫を後にしようとする父・優の背を、真は呼び止めた。
「父上」
「なんだ」
「その方は、どうなるのですか」
「そのまま放逐となる。二度と殿上の叶う身分には、戻れまい」
「……」
「奴は、この私が手塩にかけて育て上げた。何れ腹心となり、やがては私の跡目を継ぐようにと、武も政も叩き込んだ」
「……」
「だからこそ奴は何も言わず、充分すぎる程に応えてくれたのだ」
「……」
「奪われるのは、正直、惜しく恨めしい。お前なんぞより、確実に役に立つ」
言い置いて、父・優は、赤く腫れた拳を隠しもせずに書庫を後にした。
結局、そういう事だ。
真は柄にもなく項垂れ、胸を熱くさせた。
今回の事で、父・優も己の地位を失わずにいる為には、身内を見捨てねばならなかった。自分がこの政局から屠りさられれば、より難局を迎える事になる。何としてもそんな事態だけは、避けねばならない。
父・優の決断は正しい。
そしてそれに何の不思議も異論も挟まず、黙して語らずただひたすらに意に沿う程、その部下もまた、優秀であり父と父の立場を良く理解しつくしているのだ。
役に立っているのだ。
この敗北感はどうだろう。
戦って負けたのであれば、まだ自身を納得させる事ができる。だが、戦うことすら許されず認められもせずに、ただ敗北した事実をのみ、宣告された。
全てに負けた。
蒙国皇帝・雷にも。
禍国の宮廷内の政治劇にも。
父・優にも。
決定した負けだけを、受け入れるしかない自分。
なんと未熟で甘く、そして弱く頼りなく役立たずな存在なのだろう。
「情けないですね……」
ぼやきながら、真はそのまま、机の上に突っ伏した。ごん・と額が不平の音を盛大に漏らしたが、真は構わなかった。
★★★
からり、と静かに書庫の扉が開く音がした。手にした盆の上に埃よけの布巾をかけた皿をのせて、薔姫が、ひょこっと顔を出した。
「我が君? 起きているの?」
「……はい、一応」
「どうしたの?」
「落ち込んでいます」
「どうして?」
「自分の馬鹿さ加減が情けなくてです」
薔姫の目の前には、突っ伏して額を机に押し付けたまま、身動ぎもせずにいる真がいる。
なる程、確かに実にわかりやすく、全身全霊全力で落ち込んでいる。
手にした盆を脇に置くと腰に手をあてて、ふう、とため息をつくと、薔姫は真の腕を掴んでゆさゆさと揺さぶった。
「さ、ほら起きて我が君。お腹が空いたでしょう? お菓子を作ってを持ってきたの。一緒に食べましょう」
「う~ん……姫、有難いですけれど、今、そんな気分では……」
揺さぶられながらも、真は机から額を離さない。すると、皿の上にかけてあった布巾を薔姫はさっと取りはらい、机の下に差し込んできた。途端に、ふわりと甘く優しいそして食欲をそそる香ばしい香りが漂い、真の鼻腔をくすぐった。
……ぐぅ。
あっさりと、真の腹が、陥落した旨を告げる音をあげた。
「……う~ん、人間というものは、長らく飲み食いしなければ、どんなに気分が優れなくても、ちゃんとお腹は空くものなのですね。知りませんでした」
薔姫が持ってきた皿の菓子を竹串に差しながら、真面目くさって真は唸る。
「この団子一つが、人間様を翻弄したのですね。すごいものです」
目の前に持ち上げた少々焼き目をつけてある団子菓子を、寄り目にして睨みつけた。その横で、くすくすと薔姫が明るい笑い声をたてながら、竹の器に白湯をたてている。
「我が君でも、知らない事があるの?」
「どうも、それだらけのようですよ」
薔が用意してきた菓子は、甘藷を蒸して皮を剥いて甘蔦で甘味を足しながら練って形を整えたもので、真の好物のひとつだ。
竹串を口に運んで、団子状にしてあるそれを一口にする。甘味と共に、香ばしさが口の中に広がった。今日のは、更に焼いて香ばしさを出してあり、これまでのものとはまた違った味わいがある。
「美味しい?」
わくわくした表情で真に擦り寄りながら聞いてくる薔姫に、真は無理に笑顔を作った。自分よりも10歳以上も年下の幼女に気を使わせて、何が人の立つものだと偉そうな、父上の言う通りですね、とまた情けなくなる。
「ええ、美味しいです。今日のは一味違いますね」
「うん、今日は椿姫様のやり方ではなくて、お母上様に教えて頂いた方法で作ってみたの」
「……そうですか」
薔姫の母・蓮才人は、戦の母・麗美人と同じく楼国の王族出身だ。つまりは、薔姫も同じだ。
姫も、戦様と同じく、辛い思いを抱えているのでしょうか?
――しかし、それにしては何処もこだわりを見せず、明るい様子だ。このような少女が、堪えられるものなのだろうか?
戰様ですら、衝撃を隠しきれずにあのようになられたというのに?
「姫」
「なあに?」
「私の父から、聞き及んでいるとは思いますが、楼国が……」
「うん、知っているわ」
すらりと答える薔姫の声音は正直だ。ただ、事実として知っているとだけ告げている。
真は、はっとなる。
そうだ、この反応こそが正しい。戰様の気持ちに寄り添いすぎて、見誤るところだった。
いくら母が楼国の王族の出身であろうとも、戰も薔姫も、禍国の皇族なのだ。
戰は皇子であり、薔姫は王女。これは揺るがない。
だから、薔姫は、楼国が蒙国に攻め入られその地を奪われたと聞かされても、ただ自国の大切な領土が失われたとしか受け取らない。
しかし、戰は違う。
母・麗美人の祖国を己の祖国そのもののように、大切に感じていた。だから、楼国が奪われた事実に、あのように衝撃を受けた。
おかしい。
生まれ落ちて直ぐに、星見や月読や人相位などを占うとされた占術眼を持つ陰陽師や星占師たちにより、『覇王の宿星を持つ』と占われ、皇帝・景に愛された大切な麗美人より産まれた皇子、戰。
当然、この禍国の皇子としての大切な素養を身につけるべく、皇太子とまではいかなくとも兄皇子と遜色がないほど、身分不相応な寵を受けて教育を施された方だ。
であるはずなのに、何故、戰様は禍国の皇子としての自覚を持たれず、楼国こそが我が国であると胸に秘めるにまでなられた?
敗戦国の、ただ金を産み出す諸国として飼う事のみ許された国を、このようにまで愛するように仕向けたのは、誰なのだろう?
そしてもう一つ。話している間に、重大な事に気が付いた。
まだだ。
勝つとまでは行かなくても、負けずに済むかもしれない。
「姫、有難うございます。元気が出てきましたよ」
「本当? それなら良かった。じゃあ我が君、もっと食べて食べて」
「後で頂きますよ。それよりも、少し書き物をしたいので」
「じゃあ、私が用意をしてあげるから、我が君はちゃんと食べて」
言うよりも早く、薔姫はもう、硯箱と墨壷の用意をし始めていた。
「ほらほら我が君、どいてどいて」
言いながら、ぐいぐいと腕で真の身体を横にずらしていく。紙を広げて文鎮を置き、筆置きに筆を滑らかに並べて準備を整えていく。
一瞬、呆気に取られながらも真は目を細めて微笑んで、有難うございます、と礼を言った。
そして、次々に竹串に新しい団子を突き刺して口に運び、一気に頬張る。頬袋に団栗を溜め込んだ栗鼠のような顔に一瞬なった真だったが、暖かい白湯と共に、ごくりと飲み下した。
薔姫が手元を覗き込んで邪魔する中でも全く気にせず、真は器用に一番細い筆で、さらさらと何やら文字を書き連ねていく。こう見えて真は普段、結構男性的な厳つい文字を書く方なのであるが、細筆の時だけは何故か、妙に女性的な文字になるのだった。小さく紙を折り畳んで懐に仕舞いこむと、真は薔姫を振り返った。
「姫、ちょっと悪戯しに行きませんか?」
「うん、行きたい!」
「でも、今回は、見つかるとちょっと大変ですからね? 覚悟して下さいよ?」
「大丈夫よ、我が君と一緒だもん!」
「では、行きましょう」
「うん!」
そう言うなり、薔姫は真の腕に絡みついた。嫌がる素振りもなく、真は明るく、行きましょう行きましょう、と歌うように言いながら笑っている。
大切な我が君が、いつもの我が君に戻ってくれた。
薔姫は、嬉しかった。




