5 初他火(ういたび) その1
5 初他火 その1
水揚車の試運転が終わると、真は克たちに後片付けを頼んで施薬院へと向かう事にした。
薔姫が心配だからだ。
「其れはそうと、真、明日にも兵部尚書が王都に入るそうだよ?」
「いいですよ、戰様、いちいち教えて下さらなくても」
心底げんなりしている真の様子に、そうかい? と、戰は笑う。
兵部尚書として禍国の軍事を一手に司ってきた優であったが、真たちが祭国に帰国した後の皇帝・建の言い掛かりを撃退するや、大保・受を大司馬に任命してきた。
大司徒一門の直系でしか担うことが許されぬが故に、欲しても願ってもどれほど生命を掛けて武勲を立てても、決して優は得る事が叶わなった大司馬の地位。
しかし其れを、武の何たるかを丸で知らぬ受が、あっさりと手に入れた。
其れまでの優であれば、軍配も握った事もなければ馬に跨った事もなく、剣と薙刀と矛の違いも分からぬであろうと思しき受を大司馬として仰ぎ下知が齎されるのを待つなど、到底、赦し難かったであろう。
「あんな若造に国領を守る大事の何たるかが分かるか!」
事実、優は受が大司馬となった後、怒り狂って雲上しなかった。
「此処で大保様に取り入らねば家門が潰えます! 鷲と隼らの為にも、雲上なさって頭をお下げなさいませ!」
正室の妙に狂犬宛らに喚き散らされても頑として受け付けず、梃子でも動かなった。
優が急速に態度を軟化させた理由は、偏に、受が優、というよりも兵部の此れまでのやりように、一切合切手も口も出さなかったからだ。我が子一人、真への行為と禍国一国の安寧秩序とを天秤に掛けるような事はせず、大保を見る目を曇らせないのは優が一廉の人物である証拠でもあるのだが、受は、兵部に対して手出し口出しをしなかった。然も、金庫の鍵を固く閉ざすような無粋な事もしない。
優の存念を第一に取り上げ、彼らの言を由として逆に従う態度を見せられれば、懐柔とまではゆかなくとも片意地を張って対立をするのも馬鹿げている。
大司徒一門の頂点にありながらも政策その他の面において、受は、徹底して禍国の未来に即したものの見方をしているのは紛れもない事実であるからだ。
――国益を思えば、互いに利用できるうちは利用しつくすのみ、結論を保留した態度で良かろう。
受を戰の敵でもありながら、禍国にとっては失えば甚大な損失である、と優は武人であるが故に認めざるを得なかった。
ただし受は大司馬として唯一、年に数回の近隣諸国との国境の偵察を優に命じた。
しかし、その帰りに何処に寄り道しようとも受は全く意に介さず口も出さなかった為、優の国境偵察の帰り道は、勢い、祭国との隣接部が多くなった。
★★★
近々、その国境偵察に出る、と父・優から実に浮かれた書体の木簡を受け取っていた真だったが、今回もその帰路として祭国を通る道筋を選んでおり、そろそろ王都に入る頃なのだ。
祭国に寄った場合、本来であれば王城にて歓待を受け、鴻臚館に逗留すべきであろう。
しかし優は、何卒、と引き止める内官たちに、いやいや、と彼が知る者が居ればぎょっとせずにはいられない愛想の良さで手を振る。
「いや結構。お気遣いなく。このような時でもなければ息子と盃を差し向かわせる事など叶いませぬ故」
最もらしい口上を述べて辞退して真の家に滞留し、心ゆくまで好と娃との親子の時間を堪能してから帰って行く。しかし、たまったものではないのが真の方だ。母と娃と過ごすのはいい。可愛い盛りを見逃している分、存分に堪能してくれればいいと思う。
とは言うものの、父が傍に居られると、どうにもこうにもやりにくい。
いや、はっきり言って邪魔で仕方がない。
何かというと真の仕事の様子を気にして、部屋に突っ込んでくる。
「父上、いい加減にして下さい。そうそう部屋に覗きに来られては私も仕事になりません」
「……ぬ」
其処で素直に引き下がる優ではない。
今度は気配を殺して廊下に立ち始めたのだ。
夜中になってさあ寝よう、と書院から出た所に鉢合わせて互いに叫び声を上げること数回、遂に真は我慢ならなくなった。
「戰様、申し訳御座いませんが、父専用の別宅を用意しては頂けませんでしょうか?」
「いや……私は別に構わないが、いいのかい? 真だって親孝行を……」
「私が居ない方が孝行になるのですよ、戰様」
いやだが折角なのだから親子で……、とまだぶつぶつ言っている戰を半ば押し切るようにして、真は優の在留用の別宅を用意して貰った。
こうして優は、祭国に来た折には別宅に母と娃とを呼び寄せ、愛しい妻子とゆったりと水入らずで過ごせる事となった。
「やれやれ、全て丸く治まりますね」
「……そうかしら?」
「ですよ。此れで一安心です」
無事に平穏を我が手に取り戻したよ、と真は何度も何度も、うんうん、と頷き、心底ほっとしたものだ。
……だが。
甘かった、実に甘かった。
大甘も大甘だった。
優はやはり口出ししてくる。
「宴を開くぞ。折角であるから無礼講で行くぞ。杢や克たちも呼んでやれ」
「……父上、私は酒は飲めないのですが……」
「構わん」
「いえ、構って下さい、是非」
幾ら抵抗してみせようとも、結局、呼び寄せられれば薔姫と共に出向かぬ訳にはいかない。溜息と共に蔦に頼んで、珊たちに宴を仕切って貰う。
久しぶりに、母・好の手料理に舌鼓を打ちつつ、優は上機嫌で絡んでくる。
体調はどうだから始まり、本当に陛下のお役に立っているのか、足手纏いになってはおらぬかと続き、祭国周辺の国政状況はこうであるから備えておけ、云々かんぬん……最後には、酔いに任せた説教に近い小言が続く。
「いっそのこと耳が悪くなって眩暈を起こせれば楽なのですが」
「我が君、そんな事言わないの」
いやしかしですね、とげんなりする真の横で薔姫はお気の毒様ね、と悪戯っぽい笑みを浮かべている。
結局、何処にどうしていようとも、父・優に振り回されるのだ。
早くこの災禍が過ぎ去り被害が最小限である事を祈るばかりの真だった。
最も、優の心情も分かるので、真は強く出られないでもいる。
長兄である鷹により不具の身体にさせられた真への気遣いと、好への負い目の思いから自分を責めているのだ。
正室・妙との確執は、あの政変で決定的となった。
二男である鷲を改めて長子扱いとすべく戸部へと申請を出してはいるが、一行に赦しは下されない。
此のままでは、兵部尚書・優の栄光と誉ある家門は、彼の代で潰える事になる。
そしてその罪は、正室である妙の子らに帰されるのだ。
妙の性格からして我慢ならないのは当然であり、躍起になって鷲を家長にすべく走り回っている。
其れを見るのも嫌な優は、遂に敷地内別居するようになった。
息子大事で家門一途の妙は、最早、息子しか見ていない。
金切り声を上げなくなったのを此れ幸いとばかりに、優は東北の対屋にて一人で暮らせるようになったのだ。
対屋におれば、刑部尚書・平たちと秘密裏の会合も可能だ。商人・時たちを呼び寄せて密談謀議にも勤しめるようになったので、その辺は妙に感謝している。
この密談時に得た情報を祭国に齎すのが優の主な役割の一つでもあるのが、今更いちいち此方の仕事ぶりに気を使って貰っても、というのが真の率直な気持ちだ。
幾ら顔立ちから年齢より若く見られるとはいえ、自分はもう25歳になった。
壮年期、男として最も価値のある年齢になったのだ。
――いい加減で、剣比べをした頃のままの扱いは、やめて頂きたいものなのですが……。
ぽりぽりと額のあたりを掻きながら、真は深い溜息をついた。
★★★
さて、と懐の中でもぞもぞと手を動かして、真は帯を直しにかかった。
普段、城で仕事をしている時は左腕を紐に掛けて吊り手にしてるが、かえって邪魔になるというか危険になりそうな今日のような場合の時は、懐手にしている。長手袋をしたままで帯を直す位の芸当が出来るようになってきているのだが、実はこの成長は娃には不評だった。見かけると、ぷりぷりと頬を膨らませる。
「お兄ちゃま、お行儀わるしちゃ駄目」
「そうですか?」
「そうよ、娃がして差し上げますから、お行儀わるは駄目」
要は、手伝いの機会が奪われる、という事でむくれているだけなのだが、薔姫からそう教えてもらった真は以後、なるべく娃の前では彼女に帯を手入れして貰うように心得ている。
帯を掴んで緩みを直すと、真は立ち上がった。
「私は施薬院に参りますが、戰様は如何なさいますか?」
「ああ私は一度、星の稽古の様子を見てからにするよ」
「分かりました」
戰の第一皇子の星は、つい先頃、杢と克を師匠として剣技の稽古を初めた。
まだ木の棒を振り回す程度のもので筋がいいとかどうとか言う以前の問題ではあるが、親馬鹿ぶりを発揮している戰は息子の成長を少しでも目にして、椿姫に話してやりたいのだろう。
笑いを堪えながら、戰と別れて施薬院に向かう。
畝に足を取られぬよう、ゆっくりと歩く真の方へと、ばたばた、というよりはどたどたと気小忙しい脚音をたてて駆け寄ってくる影が現れた。施薬院で那谷の手伝いをしている、類と豊の娘の福だ。
「福? どうしましたか?」
真に見つけて貰った福は走るのをやめ、ふうふうと大きく突き出たお腹を摩りつつ、手招きする。
「ちょ、ちょっと、真様! は、は、早く、此方に早く!」
「どうしたというのですか?」
粟を食って叫ぶ福の様子に、尋常ではないと真も駆け出す。
途中、何度か泥の塊に足を取られながらも傍にたどり着くと、ああ良かった、と福はふくよかな胸を上下させた。
「姫奥様が! 姫奥様がね! もう、大変なんですよ! 早く、お早く院へ!」
「――姫が?」
★★★
祭国内に入領して2日目。
優は順調に王都へに辿り着いた。
此度は偵察を早めに切り上げる事が出来た為、好と娃の元で過ごす時間が多く持てる。逸る心を抑えながら、優は馬を進めた。
ここ数回の逗留では王城に入る前に別宅に寄り、好と娃に会うのが常となった。
今回も、別宅に先ず馬を寄せた。従者が門から声を掛けると、大きな影と小さな影が玄関に浮かび上がった。優の姿を認めたのか小さな影が小躍りしだし、隣の大きな影が、これ、と嗜めているのを微笑ましく見ながら、優は馬から降りた。
「お帰りなさいませ、旦那様」
「お帰りなさいませ、お父ちゃま」
大きな影の好が腰を折り挨拶をする横から、小さな影であった娃が手を伸ばして駆け寄ってくる。おう、と優は目を細めて破顔して、娃を軽々と抱き上げた。
「また大きくなったか、娃」
「はい、直ぐにお父ちゃまを抜かして差し上げます」
「そうかそうか、それは頼もしい事だ」
片手で娃を肩に担ぎ上げ、優は大笑いする。
嫌な顔一つせず頬を摺り寄せてくる娃の温もりが愛おしい。長く顔を合わせておらずとも父と慕い甘えてくれるのは嬉しい限りだ。
「娃、父様はまだ旅の汚れを払っておらん。汚れるぞ」
「良いの、娃はお父ちゃま好きだから汚れたって平気だもん」
そう言って娃は、ぎゅ、と優の首筋に抱きついてくる。
「そうか、娃はそんなに父様が好きか」
「だーい好き。娃、お父ちゃまのお嫁ちゃんになるんだもん」
そうかそうか、と笑う優は、顔面が蕩けて消えそうな位だ。兄様と何方が好きか、と尋ねぬあたりずる賢い処だが、好は笑って見逃している。
逗留は正式なものではないとはいえ、身分から本来であれば雲上に際して正装せねばならない。
本来であれば鴻臚館で行うべき身支度を、別宅で整えてから優は雲上するようになっていた。言い訳の一つにもたつし、好と長く触れ合える、一石二鳥という訳だ。
好も優の袖を引くように寄ってきた。
息災であったか、と問いながら娃を話して差し出す優に、はい、と短く答えて娃を抱きとめる好の顔色が微かに曇っている。
そう言えば、何時もであれば共に出迎えて呉れる息子には過ぎた嫁――薔姫の姿が見えない。
「姫様は如何なされた? また体調を崩されでもしたのか?」
真が倒れたと聞かされるよりも狼狽えた視線を、優は周囲に巡らせる。
障碍を得たとは言え、真が生還したのは、偏に薔姫の甲斐甲斐しくも健気な看護があればこそだ。
――馬鹿息子には分不相応な過ぎたる室だ。
妙を引き合いにするのは不敬の極みであろうが、それにしても薔姫程出来た嫁というのは好をおいて他に、優は知らない。
「本当にどうなされたのだ? 天候が不順な時期だ、もしやまた、お悪いのか、ん?」
狼狽が声の揺れに出ている。そんな優の肩に手を添えて三和土に座らせ、下男に脚の汚れを拭わせながら、好は慌てて微笑んだ。
「いいえ、何でも御座いませんわ」
「何でもないだと? 姫様は舅に対して斯様な不義理を働く御人ではないぞ?」
好はにっこりと微笑むと、珍しく、仕方のないですわね、と悪戯っぽい含みのある仕草で優に寄って来た。
ん? と顎を突き出して自らも顔を寄せてくる優に、好はくすくすと笑い声をあげる。
耳朶に掛かる好の息吹きにどきりとしながら、優は何だ? と短く訪ね直す。
手で口元を覆い隠しながら、実は……、と好はひそひそと話し始めた。
★★★
そろそろ来る頃かな、と真が思っていた処に、忙しない沓音が聞こえてきた。
グングンと此方に迫ってくる。
同じ部屋で水揚車の設計図の複製画作りに協力してくれている類と顔を見合わせて笑い合った。よいせっ! と気合を入れながら、類は水揚車の取扱方を書した木簡の束を担ぎ上げる。
「真殿の予想通りになりましたなあ」
「ええ、ですねえ」
母親の好から事情を聞きつけた父・優が、戰と学との謁見を済ませた後に此方に飛んで来るだろう、と話していた処だったのだ。
しかし、足音が急に止まった。
んっ!? と再び顔を見合わせ直す真と類の耳に、勢いで怒鳴り散らす父・優の声と、声変わり前の甲高い少年特有の声が混じり合いながら聞こえてきた。
「えぇい、其処を退かんか、糞生意気な小僧が!」
「喧しいやい! 何処の糞親父か知らねえが、この俺・陸様が居る間は勝手に真さんの部屋に入らせやしねぇぜ!」
やれやれ、と真は苦笑いしつつ椅子から立ち上がった。
部屋の戸を、すらり、と開け放てば、父・優と、啖呵を切っている10歳そこそこの少年とが、真剣に額を突き合わせて怒鳴りあっている。
「――何をやっておられるのですか、父上、陸も」
「ちち・うえ……って、うへぇっ!? じゃ、んじゃあ、このおっさん、本気で真さんの父ちゃんなのかよ!?」
怒鳴り過ぎて顔を赤くしていた少年は、目を丸くする。
何度も言っておろうが、と姿勢を正しながら優は肩を上下させた。孫に近い年頃の童相手に、本気で怒鳴り合っていた処を息子に見られた罰の悪さを、必死で隠しているのだ。
ふん、と鼻を鳴らす優を、腰に手を当ててふんぞり返った姿勢で少年は上から下まで、じろじろと無遠慮に睨めつける。
「真さんの父ちゃん・ねえ……へえ、なら、おっさん、娃ちゃんの父ちゃん・ってこったよなあ……」
「何だ小僧、その言い草は」
「いやぁ、娃ちゃん、好さんに似て良かったなあ、ってよ、そんだけさ」
「喧しいわ! 小僧、人の娘の名を許しもなく馴れ馴れしく呼ぶな馬鹿者が!」
思わず怒鳴り飛ばした優の迫力に、ひゃ! と少年は青くなって飛び上がり、さっ、と真の背中側に身を隠した。
余りの素早さに苦笑しつつ、真は優を部屋に招き入れたが、通り抜けざまに、べ~・と舌を出して指で下瞼をひっくり返している辺、やんちゃ坊主の面目躍如、といった処だろうか。
少年の名は、陸、という。
3年前の赤斑瘡の流行と台風による堤切りの折り、協力してくれた農民たちの首領的な役を担っていた重の息子だ。
口の悪さは父親の重譲りで全く物怖じしないこの少年は、つい先日、克に憧れて邑を出てきた。
長男である為、当然、後継として大事に思っていた重は相当に渋ったのだが、諌めたのが『重の嬶様』として名高い禾だった。
「息子が男を上げようって一念発起してるんだ! 親が足止めしてどうしよってんだい!」
背中をぶっ叩いてうじうじする重を一喝する。
「いいかい、男が漢になろうって故郷を出るんだ。逃げ帰ってきたら尻叩いて追い出すからね、その覚悟だけはしておいで」
「おう、母ちゃん、俺、行ってくる!」
母親・禾の発破を背に、陸少年は意気揚々と克の元にやってきた。
やって来たといっても、紹介状があるわけではない。
面食らいつつも、正式に鍛錬を詰んだ者しか兵部には入れないと陸に伝える。
歓迎して快く部下にしてくれるとばかり思っていた克に渋られて、陸少年は慌てた。
「克兄ぃ、俺、喧嘩で鍛えてっからよ、腕っ節にゃ自信あるぜ?」
「いや、自信があるとかないとかの話しじゃなくてな……」
出来れば克も、陸少年の少年らしい立身出世の志に力を貸してやりたい。
兵部に入り、共に戦えるようになりたいというのであれば、協力してやりたい。
しかし、自分は祭国郡王・戰に仕える身だ。
基本、禍国の者しか兵部に正式に採用されない、出来ない。
軍を司るのであるから当然だが、祭国の民である陸は、自分が任されている一軍の武人として認めてやれないのである。
「な、ならよ、部下じゃなくて、克兄ぃの手下でも子分でもいいんだぜ?」
「いや、そう言う問題じゃなくてなあ……」
剣の柄でごりごりと頭を掻いて困り果てていた克に助け舟を出してくれたのが、意外にも杢だった。
「良いではないか、克殿。学陛下も何れ祭国の民にも禍国と同等の兵馬をと願っておられる。その少年には、先ずは学陛下の理念を現実のものとする軍規を整える為の第一期の人材として登用しよう」
杢は禍国からの入植者の中から、祭国軍に帰属したいと自ら志願してくる者たちの育成を担っている。
その一人として陸を受け入れよう、と杢が快諾してくれた。
本気か? と疑わしそうに寄り目をする克に、騒ぎを聞きつけてやって来た真も請け負った。
「いいじゃないですか。学様ご自身の生涯の生抜きとなるお身内をと思っていた処ですので」
「真さん、ほ、本当に!? お、俺、陛下にお仕え出来んのか!?」
「か、どうかは、陸の精進次第ですね」
何れ、地方の人材を広く登用する制度を確率しなくてはならないが、其れが叶うのは平安太平の世となって後の事だろう。
今は兎も角、ありとあらゆる分野の人物を遍く呼び集める方が寛容だ、という真の態度に、陸は逆に何やら胡乱げな横目をしてみせる。心配になってきたらしい。
「なあ、でもさあ、俺の父ちゃん、農民だぜ? いいのかよ? 真さん、俺みたいなのが、お城に上がっても」
「制度だの身分だのの問題は、何とでもなりますよ、私がお城に上がっていられるくらいなのですからね」
目を輝かせて飛び跳ねる陸を横目に、いいのか? と克の方が心配気だ。
「まあ、真殿と杢殿が許して呉れるっていうのなら、な……だが陸、なんだ、その……その言葉遣いをだな、先ずは改めんとな」
「おう、兄ぃ! がってん承知! まかしとけって!」
腕捲くりをして力瘤を自慢しながら俄然張り切ってみせる陸に、駄目だこりゃ、と克は苦笑いしたのだった。
 




