4 即位戴冠 その1
4 即位戴冠 その1
いよいよ椿姫が、祭国女王として、即位戴冠の礼を受ける日が迫ってきた。
それは同時に、戰が祭国郡王として正一品従一位に就くことになる事をも、意味している。
通常では有り得ない二王擁立は、正しく牴牾するしかないであろうと周辺諸国に思わせるには充分過ぎるが、それがまやかしであると知る人物が訪れていた。
「真とやらは何処におる」
百人隊長であった克は、この数ヶ月の間に出世していた。
即ち、殿中侍御史の配下に配され、警備の一角を任されていたのであるが、背後から声を掛けられ、危うく飛び退りざまに平伏するところを、辛うじて堪えた。
声の主は、剛国王・闘のものであった。
背後に控える臣下たちの列も、数ヶ月前に祭国で見た覚えのあるものばかりだ。
存在感のみで、肺腑を握り潰す威厳を持っているのは以前と変わらず、否、この数ヶ月の間により凄みを増している。
皇子・戰とさほど年齢の変わらないこの闘と、二人の間の何がこの差を生むのだろうかと、冷や汗を流しつつ、克は怯えを抑え込む。
「剛国王陛下、真殿は、殿中に御出仕叶う身分にあられず……」
「そんな事は聞いておらん。真とやらは何処におるのかと、聞いている」
「陛下」
「この国の奴は揃いも揃って、こぞって話の通じぬ阿呆ばかりだ。埒が明かん。真とやらを呼び出せと言っておるのだ」
剛国王の苛々が募った声音に、ふと、克が視線を上げかけると、城内の一角で僅かな騒ぎ声が上がった。ふん、と剛国王が忌々しげに目を眇めると、外套を殊更にはためかせて、踵を返す。
「部下がどうやら騒ぎを起こしているようだ。収めてくる。良いか、真とやらを呼び出しておけ」
不機嫌そうな声音を残して、闘は克の元を去っていった。
★★★
戰に「済まないが、火急の用だ」と呼び出され、何事かと真が彼の部屋に赴くと、珍しく秀麗な面構えを渋面体に変質させた主人が出迎えた。
珍しい事もある、と思いながらも、こうなるという事は好ましいとは言い難い事態が起きたな、と真は腹をすえる。
「如何なされましたか?」
「乱兄上が動いた」
言うなり、戰は真に机の上に広げたままの巻物を視線で確かめろ、と示してきた。この様に怒り心頭な彼は珍しい。何事かと目を落とすと、それは戴冠式の席次表と、祭国郡王として戴冠式に臨む戰に、皇帝・景より下賜される宝冠と礼装の決定書のようだった。
先ずは、席次表に目を落とす。
北を背に禍国皇帝・景、その前列に祭国新王・椿女王と祭国郡王・戰王がならぶ。対して南側に賓朝した各国の国王が居並ぶのであるが、その正式な席次と思しき列席者の名を目にし、ははぁ、これは面倒くさい事を考えついたものですね、と真は項を軽くかきあげた。
列席者の席次は、即ち、彼らの力関係がそのまま出るに至る。
早い話、早く名が呼ばれれば呼ばれるほど、進貢入貢が成り立ったという事になる。
此度の朝貢で、一番の栄誉を賜ると見なされているは、剛国であった。
かの国も国王が代替わりしたばかりの折であり諸外国に自らを誇示する為に、先に真が述べたように相当の朝貢をしたものらしいとの噂が各国の使節団の間に喧しく飛び交う程であったし、何よりも国王直々のお出ましとあれば無下にはできまいというのが人間の心情だろう。
しかし、一番を得たのは、過日、剛国が攻め立てていた露国であった。
国力から見れば、これは相当な暴挙であると言える。
横槍を入れてきた人物が、現れたのだ。戰の兄皇子・乱である。
「祭国と露国は元々は、同種族から成る国柄と言われておる。故に、遠く同族の列席もないままの椿姫の心情をおもんぱかれば、露国国王からの慶事の賀詞を与うる事こそ、より第一として相応しかろう」
実に最もらしい。
それ故に、反駁の余地を与えるところがない。
克にも請われて、戰の元に理由も知らされず取る物も取り敢えず、速さのみを求めてやって来た真は、唸る。
さて、本当に『これ』を、乱皇子様が考えつかれたものなのでしょうか? と、訝しみつつ、項のあたりを再びかきあげながら、席次表の巻物を見詰め直した。
先頃の謀事とよい、この様な頭の回る御方であれば、まず父上が此れまでに見逃す事はないだろうし、自分も気がつかずにいるとは思えない。
顎に手を当てて考え込む様子を見せる戰に、真は、彼も同様の意見を持っているのだと悟り心強くしていた。
しかし火急の案件として。
剛国か。露国か。
何方かを戰は選ばねばならない。だが、何方か一方のみを選ぶ事は不可能だ。
今後の事を鑑みれば――戰と椿姫が、共に統治者として祭国を治めるには、両国ともどもに誼を通じておかねばならない。統治する前から、今ここで、波風を立たせる訳には行かないのだ。
そして、剛国と露国も、互いの尊厳をかけて譲ることなど考えられまい。
共に互いに、一歩も引くことの相成らぬこの状況。
さて、どう収めたものか。
ひとしきり、つらつらと席次を舐めるように眺めつくすと、真はぽりぽりと頭を引っ掻いた。
そして、ふと、戰がもう一つ差し出した、決定書に目を通す。
途端に、此れまで真が見せたことのない表情を浮かべた。目に怒りが宿っている。それを隠す為に、珍しく、前髪をごしごしと引っ掻き回した為、適当にしか髷を結い上げていない真の髪は、鳥の巣のようにぼさぼさになってしまった。
そんな真に、多少、訝しげに目を瞬かせたが、戰は何も言わなかった。
「戰様」
「なんだい、真」
「取り敢えず、椿姫様が傷付かず、剛国王陛下と露国王陛下の顔がたてば宜しいでしょうか?」
戰が嬉しげに頷く。
それは、「その他の奴がどうなろうと構わない、許すからやってしまえ」という事だった。
しかし、真はそれだけで終わらせるつもりは、当然なかった。
――この始末は、自分の躯で、とことんまで思い知っていただきますよ、乱皇子様。
★★★
乱は部屋の中をそわそわと、漫ろ歩き回らずにはいられなかった。
思わず親指の爪を激しく噛む。
幼児の頃より、苛々が募るとついしてしまう癖の一つなのであるが、この間から止むことがないため、遂に両の親指がぼろぼろに噛み砕かれてしまっていた。
おのれ、戰め。
いつまで、いや何処まで、この私に楯突けば気が済むのだ!
強く噛み過ぎて、また爪が砕ける音が鈍く苦く、口中に広がる。しかし、乱は構わずにうろうろと冬眠前の熊のように部屋を歩き回る。
――皇子・乱。
言わずと知れた、貴妃・明の腹から出た初めての皇子だ。
年が近いせいか何かと比べられる徳妃・寧の皇子・天と、貴妃・明の皇子・乱、そして皇子・戰であった。
出生時の占いによりその運気は、
――乱れし世においてこそ、揺蕩う己を耐えてゆかれる運勢をお持ちになられておられます。
という、何処かで聞いたようなものであった。
先に、いずれ皇太子に、と胸を時めかせた天が生まれているせいもあり、皇帝・景はその星見たちの言葉をそのままに、皇子の名を『乱』と定めた。その為、王宮内においての人気は、やはり皇太子であると定められた天が数倍先を行く。
何が劣っている訳ではない。
だが、遅れて生まれいでた乱皇子は、全てにおいて天皇太子と比べられては「星見や占師たちの一言が何かが一歩足りぬように、ご本人にも足りぬものを感じる」と評されていた。更に乱は、出自が出自であるだけに、利用しようとする者も多々あれど、その多くは彼を踏み台にして立身出世を試みる腹黒い者が中心だった。
しかしそんな彼らの諍いなど、瑣末な事だと後宮が激震する事態が起こった。
そう、攻め滅ぼした弱小国家の王族出である麗美人が、皇子を、それも彼らの運気なぞ一掃してもなお、飽き足らぬ程の輝きを持つ宿星を背負った皇子を産み落としたのだ。
皇帝・景の喜びようは、幼い乱の目からもまさに狂喜と言って良く映った。
産褥により儚くなった麗美人の命を奪ったのは、皇子であると赤子を疎まれれば良いのに、と歯噛みし地団駄をふみ嫉妬にのたうち回る母・明貴妃の呪詛の言葉は、だがそれこそが儚いものだと、その後の弟皇子の待遇を見せつけれられて乱は幼心に決めた。
乱れし世においてこそ、揺蕩う己を耐えて行く。
そう、この乱れた濁流の如き世に揉まれながらも、己はそれを耐え抜いて最後に栄誉に到達するのだ。
それからは、己を敢えて暗愚に見せるように努めた。年のほぼ違わぬ兄である皇太子・天に一歩を譲りつつ、変に彼とは兄弟であると思わせる為に、だらしなく装う。
母親の身分、叔父の身分、そして産まれいでた僅かな差のせいで、人は此処まで泣かず飛ばずの生活を送るしかないのかと、密かに軽んぜられるのを逆に耳に心地良く聞いていた。己のまやかしにまんまと乗せられているとも知らずに、母親・明貴妃すら不遇を託つ胸をかき抱いて病的興奮状態に陥っても、おろおろと泣き濡れる演技を楽しむ自分を、脳の片隅で冷たく凝視していた。
一方で、煌びやかで眩い愛情を注がれる弟・戰を腹の底で冷たくせせら笑う喜びは高かった。愛情を受けていれば良い。己こそが頂上に相応しいのだと思っていれば良い。
高みに存在すればするほど、堕ちた時の衝撃はより大きいものなのだ。
せせら笑いながら、戯れ程度に啄む様に兄と弟とに絡んでいるつもりでいた。
しかし、3年前、母と叔父が要らぬ世話を焼いたお陰で、計画の足元が音をたてて狂いだした。
どうにかせねば。修正せねば。
とりわけ、弟には、いや弟が囲い始めたという、やたら目聡く勘働きの良い『目付』とかいう奴に、自分を掴ませてはならない。
だからこそ、兄皇太子・天が弟皇子・戰が連れてきた祭国の王女に、兄と同じく良からぬ行いを為出かす『振り』までしてきた。兄と同じでありながら兄の劣化した只の添え物、そして予備品であらねばならぬと努めてきたのだ。
怒りにより、怒髪天を衝くを必死で押し込めながら。
この凄まじい迄の感情の激流を露顕させぬが為に、皇子・乱は以後、折にふれまるで表情というものがない、無情な、のぺりとした顔になっていった。
だが、彼の本質は淫湿で凄惨な程に凶悪なものだ。押し込めたそれらが更に爆発しかかるのを、爪を噛むという行為で沈めねばならない程、追い詰められる時もある。
そして今がそうであった。
弟皇子・戰の祭国郡王を邪魔し、兄皇太子・天を追い落とす絶好の機会だったあの宴で、逆に全ての機会が失われた。
兄皇太子・天は何かと酒に酔った上での悪行が多い。
あのように宴を開けば、酒の勢いを借りて予てより懸想していた祭国の王女に暴行を働くに決まっている。上手く事が運べばよし。
そうでなく、王女が逃げおおせたとして、頼るとなれば弟皇子・戰のところと決まりきっている。戰は普段は朴念仁でならしているが、なに、想いを寄せ合っているのは隠し仰せぬ事実。王女が涙に濡れて逃げ延びて来た時、奴とて男だ、欲望が堪えきれる筈がない。
もしも仮にだ。それも上手く行かなかったとしても、二人が共に夜を過ごしたのだと噂が経てば良い。それだけで良いのだ、実に簡単なことではないか。
それであるというのに、持ち上がった噂と言えば、天兄上が舞師を部屋に連れ込んだらしくそれを大司徒・充が揉み消したらしいという事、弟・戰の所には、後見を買って出ている義理母の蓮才人が彼の母の廟に詣った折に、郡王となろう者がなかなか妃を娶らぬままで居るとは何事かと、腹を据えかね癇癪を起こしたらしいといった事くらいであった。
事態が露呈した折の工作として、残しておいた礼簡の木端は何時の間にか何処かに消え、己の思い描いた事態は何一つ起こりえず、蝋燭の炎程の火すらおこらず鎮火させられた。
馬鹿にしている。全く馬鹿にしている。
どいつもこいつも、この私をなんだと思っておるのか!?
「くそ、クソ、糞! ちゃんと言う通りにしておるのに、何故上手くいかぬ!?」
うろうろと歩き回る。
弟・戰に、あの『目付』となった宰相・優の息子が張り付きだしてから、自分には碌な事が起こらない。いや、あの宰相の息子を引っ張り上げてきたのは、縁を巡って考えれば確かに我が母と叔父の仕組んだ事、其処から全てが始まっている。
あのような、下賤で不浄な人間を王宮内になぞ入れるから、呪われるのだ。
だが、この堂々巡りの苛立ちを元から絶ってくれる。そう、弟と祭国の王女、椿とかいう女の即位戴冠の儀式において、此れまでの陰鬱な懸案を一掃してくれる。
がりがりと爪を噛む音が、乱の部屋に惨めに響いていた。
★★★
冕冠・袞衣という礼装に身を包んだ戰は、正しく王者の威厳を醸し惜しげもなく振りまいていた。冕冠の垂は皇帝が前後に五色・即ち黄玉・白玉・碧玉・紅玉・黒玉の十二連・計二十四、白玉288珠の旒をなし、以下、品位が下るにつれ、旒の数は減っていくし、袞衣の12章の刺繍の章数も減ってゆくのである。
戰の冕冠の旒の数は五連・計十、黒玉120珠の旒、袞衣5章の刺繍となっている。
本来であれば、郡王として即位する筈の戰がこのような下品の扱いをうけようとは。扱いとしては『王』ではなく『州牧』に近いのは、冕冠の旒の数と袞衣の章数から三品扱いとされている事実から明白だ。
諸侯ですらない、卿大夫並み――皇子が郡王を拝命したのにも関わらず、だ。
この事実は、先頃、戰に届けられた宝冠と礼装の決定書にあった。
最早覆す事の不可能のこの暴挙に、彼を慕う者は遣る瀬無さに思い思いに顔色を変えた。これに最も忿然となったのは真の父である宰相・優であった。憤怒の赤鬼の表情で抗議に向かいかけるのを、息子である真が止める。
「拗れるだけです」
短く言い放った息子のやる気のなさそうな声音に、父・優は毒気を抜かれて顔を顰めるしかなかった。
確かにそうだ。
此処で下手な横槍を入れ、戰が祭国に向かう堂々たる理由を刈取る訳にはいかない。それを知っているからこそのこの暴挙あると知りつつも、「堪えろ」と短く息子に諭されてしまっては父親としての立場がない。怒り肩でどすどすと足音を響かせて去っていく父・優の後ろ姿を見つめながら、真は深く嘆息したのものだった。
さて戰に対して、女王として即位する椿姫は堂々たる太后服袞冕という礼包に宝冠を被る。日章瑞雲の装飾と、鳳凰の嘴とから溢れる華菱形の垂下と笄が黄金と各色の玉で彩られている。
古くは巫女による神饌を統治を行う寄す処とした卜占国家であった祭国は、時代を遡れば女王も幾人か存在する為、椿姫は古式にある程度則った様式を用いている。
真も時も、此度の即位の礼と戴冠の式事に出席など夢にも描けぬ立場だ。
だからこそ戰は、二人を自室に呼び、式事に先んじて二人にこの姿を披露目したのだった。
舎人や宮女を下がらせ部屋に四人のみになると、漸く真は嬉しさを噛み締める。
「お二人共、御立派です」
真は時と共に拝礼の姿勢をとりつつ、戰と椿姫の礼装を眩しい思いで見上げるが、戰はもそもそと身動き取り辛そうに、巨躯を揺すっている。
「どうも、偉そうな格好は苦手だな。早く脱ぎたいものだよ」
「ほっほっほ、皇子様、主人が部下の言葉に影響されて、如何なされますな」
「え?」
「恐れながら皇子様、真様の口調に、よう似ておられましたぞな」
時は鰻の触覚のような髭を指の腹で紙縒りながら、梟のように笑う。隣で、真も苦笑いしており、椿姫も楽しげな微笑を浮かべている。
「そうかな? そんなに似ていたか?」
「そっくりですぞい」
今度は、真が時の口調を真似る。皆の間に、どっと笑い声が上がった。
和やかな笑いのうずの中で、しかし、と真は思った。
『皇子様』と戰が呼ばれるのも、今日が、いや此処までが最後。
この先は『郡王陛下』となる。
ただ一途に、椿姫と彼女の祖国の為にと立ち上がった戰であるが、その選択がどのような風雲を呼び込むのか、また維新を巻き起こすのか、彼は深く考えてはいない。いや、全く考えてない、というよりも考えようと頭の端に浮かべて事すらないだろう。
それで良いと思う。
戰様には、一途さは似合っても、強欲さは似合わない。
それにそもそも、事此処に至ってしまった以上、戰が望むと望まざるとに関わらず、彼の宿星は、彼と彼を敵と見做す者を絡め取って逃そうとはすまい。
戰が抱く『覇王の宿星』が、今後、彼にどのように作用するのもなのか。
臨機応変という名の『出たとこ勝負のやったもの勝ち』で当面行くしかないし、それがうまく回るものであるのか監視するのは、自分たちの役割であるべきであり、此度の乱皇子の行いを終息させえる事はその第一歩となるだろう。
戰には、覇王の宿星に頼りかかった上で、己の道を歩んで欲しくなどない。
意識もせずに放り出された覇道かもしれないが、それ故に、彼には最後まで彼らしくあって欲しい。決して、既存の覇王の道を歩んでなど欲しくない。
例えそれが。
王者としてはどれほど甘く、また、本質からかけ離れたものであったとしても。
『自分の戰様』であり続けて欲しい。
彼が『真の覇王』となり王道に降り立った瞬間に、自分が無用となるまで。
それでいいし、それが正しい。そうでなくてはいけない。
ただ其れまでの間、傍にと望む、此れはただの自分の我儘だ。
だからこそ、役にたち続けねば意味がない。
分かっている。
そして苦い汁を飲むのは、自分だけで良いのだ。
ちらり、と時が髭を紙縒りながら真を盗み見てきた。目を伏せて、探りを入れようとする時の視線を封じる。しかし、年の功を持つ時には見通されているだろうな、と内心で真は苦笑いした。
穏やかな空気の中、真は、戰の何の屈託もない笑顔がただこのまま続いていて欲しいと、願っていた。
銅鑼の唱和する音が、王宮内に鳴り響いた。
刻が来たのだ。
「では、参ろうか、姫」
「はい」
静かに宣言する戰に、椿姫が静かに落ち着いて答える。
その二人の背中を、真と時は最拝礼でもって見送った。
★★★
二人の姿が従者の行列を従えて消えると、さて、と真は腰を伸ばした。
「此処から、しっかりと動いて貰いますよ、時」
「ほっほっほ、お任せあれ。真様も、まあ、お気張りなされ」
戰に対する非道非礼な扱い。
此れを目論見、許しを与え実行せしめ、かつ似合いだと嘲笑する全ての人間に思い知らせてやらねば。
いや、思い知らなければならない。
二人は何処か悪戯ぽく笑い合うと、それぞれの目的地を目指して姿を消した。




