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覇王の走狗(いぬ) ~皇華走狗伝 星無き少年と宿命の覇王~  作者: 喜多村やすは@KEY
六ノ戦 落花流水

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12 男と女 その2

男と女 その2



 嫁下して何日経ったのか。

 しかし、皇女・そめ姫は――

 いや、正しくは皇女・染姫は、数える気にもなれない。

 気に入らなかった。

 何が、と問われれば全てが、と即答出来る。


 嫁に行きそびれた大年増なだけでも恥を知れ、と言われる年齢であるのに、女としての厄年を控えているから早々に婚家へ下がれ、と命じられた。

 ――下がれ、じゃと!? このわらわをなんと心得ておるのじゃ!

 嫁下先は、母親の実家である大使徒・じゅうの一門。

 良人おっとたる男は、充の後継である長子の大保・じゅだ。染姫とは従兄妹同士の間がら、という事になる。

 禍国内において、帝室に名を連ねる者以外では、禍国帝室開闢以来これ以上の血筋はなく、一目置かれる門閥を率いる大貴族だ。

 だが染姫は、この母の一門の実態も、受という男の地位すらも、良くは知らなかった。

 当然だ。

 王城の奥まった部屋で安の手により、蝶よ花よと愛くしまれ、守られてきたからだ。いや、長ずるにしたがい染自身が、姫とは、皇女とは、深窓にて珠のように磨かれ、愛でられるだけの存在であるもの、と己に課して厳しく周囲を律してきた。

 皇后である安の腹から産まれた、皇帝・景の血を正統に引き継ぐ唯一の御子。

 誰よりも高貴なる身にして、誰よりも尊い身である姫君。

「最も高い御位の妾の分身である姫が賤民の目にとまり、共に息をし汚される事があってはならぬのじゃ。奴らへの目溢しは、妾が与える慈悲であるのじゃ」

 傅かれ、敬われ、尊ばれ、愛くしまれるるべき存在。

  ――それが、わらわじゃ。

 其れ故、染姫にとっては異腹弟おとうとである皇子も王子も、父帝・景以外は下品の母親の血を引いてしまっている以上、下等な存在と映っている。ましてや王宮外で息をする男などは、どれも同じ、五十歩百歩、十把一絡じゅっぱひとからげの野獣に等しい。

 それ故王宮暮らしの間、異腹の弟や妹との血族としての交流は、何一つなかった。染にとっては、奴らから慈悲を乞うてくればよし、なければ触れ合うなど以ての外であったから、それで全く構わなかった。寧ろ深窓の高嶺の姫君としては、そうでなくてはならなかった。

 ただ受の事は、何かの式典の折に顔は見かけるし、一族郎党での宴であれば席を同じくもしてきた。だから当然、顔くらいは知っていた。

 しかし染にとっては、大保如きが自分の視界に入るのを許され、認め覚えていて貰えるだけ有難いと思うがよいのじゃ、と顎をあげてせせら笑っているだけ。

 その程度の認識と存在だ。


「あああああ! 気に入らぬ! 頭にくる! むかむかする! 何故、何故じゃ! このような処、妾には相応しゅうない!」

 しかし、染姫の不機嫌の原因はそんな事ではなかった。

 ――そもそも何故、不具の輩を、我が神聖なる禍国王都の中核たる王城に入るのを許されるのじゃ!

 彼女の良人おっとが、その不具なる者、そう吃持ちの男である。

 この一点に尽きていた。

 不具、所謂、障害は悪鬼が振るう障碍しょうげと重なるとして、不浄なる存在とし忌み嫌われる。

 当然の事、品位官職を得られるものではない。

 大保・じゅ為人ひととなりや政治手腕などは知らぬが、吃音持ちである男だとは知っていた。

 幾ら普段、気にならぬ程度にまで治したといえ、その穢れた事実は消せないのだ。受がその地位を追われないのは、父親が帝国随一の門閥勢力の長、大使徒・じゅうであるからに過ぎない。

 ――吃如きが、妾の良人おっとじゃと……!? 反吐が出る……!


 嫁ぎ先が決定したようだ、と内々に齎された折、それが露国王の元であるやもしれぬ、と知らされた時、染は年甲斐もなく胸を時めかせた。

 2年前の、異腹弟おとうと皇子・戰の郡王としての戴冠式の折に直々に朝貢に参じた露国王・静の、美麗にして艶美なる姿に、染は一目で心を奪われていたのだった。

 瓜実顔の細面に、きりりと細く引き締まった唇が実に高貴さを感じさせる。

 透き通るような白い肌に、奥二重の黒曜石のような瞳がきらりと光る。

 すらりと伸びた眉、高い鼻筋はほのかに西方の血筋を感じさせて雅極まりなく、微かな癖を感じさせる墨のように黒々とした髪を美しく結い上げた上での堂々たる立ち振る舞いは、父帝・景に次ぐ気高さを醸し出していた。


 ――あの御方でのうては、嫌じゃ。わらわの夫となるべきは、露国王じゃ。

 心に決めると染の行動は早かった。

 母親である安へ、嫁ぐのであれば露国王の元しか考えられぬ旨を伝えたのだ。

 だが、同時に、彼女の耳は様々な嘲笑と侮蔑の言葉、痛いほどの軽視が突き刺さった。

 ――共に戴冠式に望まれた、祭国の王女である椿姫、かの姫君のような清艶 にして優婉、可憐なる御姿とお心根であらせられれば……ねえ?

 ――確かに、かの露国王陛下の華麗なお姿に引けを取るどころか、これ以上はない似合いの御方となりましょうけれど……ねえ?

 ――さて……我らが姫君様では……ねえぇ?

 後宮の他の妃たちに仕えている宮女たちは、明白に、くすくすと嘲り笑う。

 ぼそぼそと悪様に言う言葉を態と耳につくように、こそこそと此方を垣間見しては気を引いて、時に嬌声すら上げてくる。

 女は己の悪口に対しては、神風など足元にも及ばぬ耳の聡さを持つ。

 染は己を噂話の糧とした宮女たちを、黙らせる事にした。

「其方らに、慎み深さを教えてやろう、感謝することじゃ」 

染は彼女たちを、鞭打ちと舌切りの拷にかけ、一生口がきけぬ身体にした上で、衣服を剥いで野晒状態で王宮から放逐した。途端に、周辺が静かになるのを、染は満足感を持って眺めたものだ。

 ――妾は皇后腹出の、皇女じゃ。

 全ては、皇后腹の唯一の御子である、という矜持が成せる技であり、自分には許されて然るべき行為、逆鱗に触れた輩が愚かなのだ。

 ――血の確かな王家以外に嫁ぎ先なぞない。今に見ておれ、妾の嫁ぎ先を知って平伏しても遅いわえ。

 染は、母親似の肥え太った腹を、怒りでぐつぐつと煮え立たせながらも新たな沙汰を耐えに耐えて待ち続けた。

 ――婚姻は、嫁ぎ先は、必ずや妾に相応しいものとなるはずじゃ。

 だがそれすらも、無残に打ち砕かれた。

 染は嫁下した。

 いやさせられのだ、受、程度の男の花嫁に。

 しかも、命じてきたのは、代帝・安――己の実母、その人なのだ!


 自分が行かず後家と揶揄されているにも関わらず、あのような吃の嫁として肌を合わせるなぞ怖気がたつ、と明言して染は憚らない。

 堂々と、良人おっとである大保・受を撥ね付け、袖にし続けてきた。

 ――同衾の辱めを受けるくらいであれば堂々と死ぬる覚悟じゃわえ。

 染姫は言葉にも態度にも開けっ広げに出して、改めようとなどはしない。それこそが己の矜持を示すものとばかりに、日々声高になる位だった。

 そうつまり、大保・受と皇女・染はまだ実質的な夫婦となり得ていないのである。

 ――妾が、帝室の、皇后の腹出唯一の御子であるこの妾が、何故、きつ如きの元になぞ、嫁下せねばならんのじゃ!


 堂々巡りだ。

 と、染とても流石に理解している。

 しかし、怒りの渦は毎日毎日、答えのない問答を押し付けてきて、染の胸をざくざくと荒らしながら駆け巡る。

 早々仕立て上げられた嫁下の支度は、5年前に嫁下した、異腹妹である王女・薔姫の当時と相手共々に比べられた。

 仕方がない。

 何しろ、蓮才人は染姫と歳が近い。

 彼女が後宮入りした際において何かと比べられれば、蓮才人とその子供である薔姫共々憎しとなっても当然だ。

 染自身が何かとこの王女を見下げて馬鹿にし続けてきた為、人々は染といえば比べる相手として薔姫を思い出すまでになっていた。

「『男殺し』の宿星を持つが故に、何処にも嫁に行けぬじゃろうな。いや、いけたとしても、碌でもない男の元に嫁下させられるに決まっておる。ほほ、まあ下賤なる血を持つが故に品位卑しき身分の腹出の姫には、それが似合いじゃ」

 蓮才人の気質を知る染は、彼女を苦しめる為に態々娘である薔姫をあげつらって笑い者にしてきた。

 そんな中、突然、薔姫が嫁下するという内達が、激震と共に王宮内に走った。

 しかしよくよくその話を聞けば、相手の男は兵部尚書・優の息子ではあるが、無位無官、品位どころか人扱いされぬ側妾腹の子であるとし、更には、先の戦に目付として従った皇子・戰の怒りを買っての仕儀であると知れ渡るにつれ、あっという間に冷笑と失笑に変わった。嫁入り道具などはそれなりに設えられたようだが、相手が相手だと、誰もが蔑んだものだ。

 だが、その笑い声は今は聞こえはしない。

 薔姫の良人おっととなった少年は、幼い姫君の持つ『男殺し』の宿星を、其れこそ、ひらりひらり、のらりくらり、と躱し続けている。何と気付けば能天気にも、へらへら5年以上も生き延びているではないか。

 どころかこの2年間に限って言えば、だ。

 続く皇子・戰を総大将とした戦を完全勝利へと導いた影の功労者、立役者だと専らの噂だった。

 郡王として赴任した祭国でも、様々な改革を施しているといい、商人たちが取り扱う品、特に織物などが祭国産が今年よりぐんと増えた。

 ――男殺しどころか、姫君様におかれましては、夫君の運気上昇を助け、家門を支え郎党の発展を支えるなんて。

 ――ほんに、ほんに、誠に素晴らしい星をお持ちではありませぬか。

 ――男殺しとは、仕事に良人おっとを盗られるという意味ではありませぬか?

 そう言って蓮才人に擦り寄る者も王宮内に増え、今や彼女の一派が出来上がりつつある程だった。

 それも気に入らない。

 高々、属国として組み入れられた弱小国家の王家の一族程度の血筋の女が。

 4品従4位下の才人の身分で後宮内に己の派閥を作ろうなどと、身の程を弁えぬにも程がある!



「何もかもが気に入らぬわえ。何故、妾がこんな目に遭わねばならぬのじゃ」

 独り言ちつつ苛々するままに、染は扇を持つ腕を振るい、ぴしり、ぴしり、と花畑を彩る花々を打ち払っていた。

「御正室様、旦那様がお戻りになられました」

 下女が伝えに来たが、染は返事もせず、出迎えにも行かなかった。かわって、花を打ち据えるように、下女を叱責する。

「誰が旦那・・じゃと! 帝室の血を正しく引き継ぐ唯一の身であるこの妾が、きつおのこなぞに仕えおると、己は申すのか!」

 染の形相に、下女はひぃ! と短く叫んで、礼儀も作法も忘れて飛ぶように逃げ去った。

 ふん、と突き出た腹を揺すって、染は下女を嘲笑う。

 ――最初から、伝えに来ねば良いものを。

 再び、扇を握り締めて立っている花畑に視線を落とす。

 秋の花は凛としてはいても、基本的に侘しさを誘う。

 だからか、花畑、といっても華やかさはない。それがより一層、染のしゃくに障る。ひたすら、むしゃくしゃと苛立つ心のままに花畑を徘徊し、花を蕾を打ち続ける。

 腹立ちの勢いのまま突き進んでいた染は、ふと上げた視線の先に、一重咲の可憐な花が植木鉢に植えられているのを発見した。

「なんじゃ? 何故、この花がこんな処に植わっておるのじゃ」

 秋風に、清楚な桃色をした一重咲の花弁がふわふわと揺蕩う様が、何とも一途でいじらしく、愛らしい。

 だが、その美しさも愛らしさも、染には憎らしいものとしか映らない。

 ずかずかと大股で花に近づくと、腕をしならせて花を打ち据えようとした。

 その時。


「秋の庭は、花も少なく寂しいもの。そんな中健気に一輪で咲いている可憐な花に、そのように無体な事をするものではない」

 染の横から、静かな男の声が掛けられた。

 遠巻き過ぎる程、遠くに控えていた下女たちが、一斉にこうべを垂れる。

 この館の主人あるじ、そして染姫の良人おっとである大保・受が、其処に立っていた。

 それでなくとも二重顎で弛んでいるというのに、ぶす、と嫌味たらたらに頬の肉を揺らして染は嗤う。

「妾に命ずる事ができるのは、この世でただひとり、皇帝陛下のみじゃ」

「其方は既に私のさいだ。其方が命を聞かねばならんのは、皇帝ではなく良人おっとたる私の言のみ、といい加減で覚えるがよい」

「はっ! このような、陽も明るいうちより王城から執務を放り出して退室してくる無能者なんぞ、妾の良人おっとに相応しゅうない!」

「私が役目を取り上げられしは、其方と縁を結んだからだ。言うなれば、其方が無駄に皇女であったからだ。私に責はない」


 頬が、カッと熱くなるを染は覚えた。

 ――吃如きが、妾に対してなんと無礼な言いようじゃ!

 扇を振り上げ、打ち据えようとする。

「宴を開く。じきに妓館より、芸妓の一座がやってくる」

「春を鬻ぐ穢れた女どもを、妾の目に触れさせそうとするのか!?」

「客は直にやってくる。さいとして一切を采配せよ」

 しかし、受は勝手に申し付けるだけつけると、くるり、と染に背を向けて歩き去った。



 ★★★



 甲高い女の叫声きょうせいと共に、派手に調度類が倒れる音が響いてきた。

 続いて、女童のものらしき、涙に濡れた、おろおろとした弁明の声が続くが、覆い被さる煥乎かんこが打ち消してしまう。高い脚音も、荒ぶる一方の喚き声にのり、乱れに乱れている。

 家の門をくぐり、馬丁に手綱を渡したばかりであったが、優は再び奪い取って馬にのり、何処かに繰り出したい欲求に駆られた。

「貸せ」

「――は? は、はい、いえ、あの……」

「貸せと言っておろうが」

 欲求の赴くままに、馬丁から手綱を取り戻し、優は踵を返す。

 ひらり、と鞍に跨るやいなや、金切り声が背中に突き刺さった。

「あなた! ようは!? わたくしの息子はどうして祭国から戻って来ないのです!?」

 苦虫を10億匹ほど一度に噛み潰しながら、優は馬上から振り返った。

 怒りに肩で息をしている、正室の妙が其処にいた。

 結髪を乱してざんばらにし、衣服もあられもなく崩し、悪鬼夜叉の形相である。

 何より見ていて居た堪れなくなるのは、その、眉間にある一本の深い皺だ。

 見ているだけで、その皺に機運が抜き取られていくのでは、とげんなりさせられる。


 ――人を不愉快にさせる才能だけは、やたら抜きん出た女だ。

 思わず本音を零しかけたが、以前、思わず本音を口に出した時のたえの発狂具合が凄まじかったのを思い出し、優はぎりぎりの処で耐えた。

「何度も説明しておろうが。祭国にて、命定めの病である赤斑瘡あかもがさが、恐ろしい勢いで感染域を広げていると。其れ故、郡王陛下の采配にて全ての関門を閉ざしておるのだと」

「ですから! 鷹は、鷹は、赤斑瘡あかもがさにまだ感染した事がないのですよ!? そのような処に閉じ込められて、感染でもしたら!? 一門の長子たる鷹の命が、儚くなりでもしたら!? 一体、誰が責任を取るというのです!?」

 ――馬鹿めが、女の浅知恵だけで喚き散らすな。

 聞くに耐えぬ事は聞かぬが上策、とばかりに馬ごと取って返しかけると、お待ち下さいませ! と感情を抑制せぬままの妙の興奮した叫び声が呼び止める。

「何だ」

 うっそりと答える優の何もかもが、カンに障るのだろう。

 きぃぃ! と妙は金切り声を上げる。

「あの辻立ちのよだかの子は何をしておるのです!? このような時に兄を助けずして、何の命を得た意味があるというのです!? 一門がため、弟の使命を果たさんと命を賭して兄の命を救うのが筋でありましょうに! 矢張、鵟如きの子ですわ! 兄に仕えねばという弟の勤めを忘れて、何を己を惜しんで!」

「黙らんか!」

 こうが引きずり出されてきては、優も黙ってはいられない。

 くわ! と目尻を裂いて馬上から雷喝する。


「そもそも、分不相応に出世したのが間違いなのだ! 己の力量に沿わぬ役目を背負い、勝ち過ぎた荷に勝手に潰されおった奴の事を兎や角云うな!」

「何ですってぇ!?」

 妙は叫び、顳かみの辺りを両手で覆ったかと思うと、ぐしゃぐしゃと胸を掻き乱し始めた。地団駄を踏む妻の錯乱など構いもせず、優は苛立ちのままに続ける。

「兄の命を救えだと!? ふざけるな! 兄なれば弟の模範規範となるべきであろうが! だが此度の為体ていたらくを見よ! 鷹の阿呆めが、郡王陛下が収めておられる祭国に疫を振りまいた恐るべき事実は、既に王都の隅々まで、襁褓の取れぬ童子にまで知れ渡っておるわ! まして助けようにも、郡王陛下に仕える真の立場を悪くしておるのは、その鷹自身の馬鹿さ加減であろうが!」

「わ、我が子を、つ、捕まえて、な、な、なんっ、なんっ、なんて非情な仰りようなのでしょう! あ、あ、貴方は其れでも、鷹の父親なのですか!?」

「黙れ! そもそもお前たちは真を私の息子として、鷹の異腹弟として、我が一門の者して一度でも認め、扱った事があるか!? あるまいが! 都合のよい時だけ兄弟面してたかるな! この糞田分けめが!」

「――ぎ、ぎぎぎっ……!」


 優の怒鳴り声に妙の黒目が、ぎゅるり、と反転し、白目ばかりとなる。

 途端に、意味不明の絶叫を放ち、その場に仰向けにぶっ倒れた。唇の端から蛙のように泡を吹いて、びくびくと痙攣を起こしている。

 下女たちが、右往左往しつつ部屋を整え妙を運び、医師を呼びに走っていく。

 喧騒を横目にしながら、優は腹立たしげに肩を怒らせて嘆息すると、手綱を振るった。


 ――好がおらぬ家なんぞ、心も身体も休まらん。


 優は知らぬ間に、時のたなへと馬首を向けていた。




【 注意 】


今話には差別用語が何度も入りましたが、作者はそれを容認するものとしておりません。あくまでも表現上のことですので、ご了承ください

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