11 夫婦 その2
11 夫婦 その2
真が出払っている間に、薔姫は厄落しを行っていた。
椿姫と苑が手配してくれた菊の被綿を使い、身体を清めるのだ。
古来より、菊の花は千代見草、翁草とも呼ばれており、邪気払いの妙薬であるとされている。其れ故、菊華に綿を被せて夜露を移したもので身体を拭うと、穢と邪気を落とす事が出来るとされているのだ。
次に、茱萸嚢という、邪気払いの御守を身に付ける。これは緋色の拳大の袋に、呉茱萸、またの名を秋茜の実を詰めたものだ。そして髪には、呉茱萸の造花の枝も指す。
最後に、三方に飾られていた菊の花をとり、酒に浮かべる。菊華酒と言われるものだが、これを頂いて、厄落しは終る。最も、薔姫はまだ初他火も迎えておらず、前髪を振り分けたのみの元服も済ませておらぬ子供であるから、盃を口に付けるだけの真似事である。
珊が飾ってくれた、赤い実を付けた呉茱萸の造花は、薔姫の髪にまるで簪のように揺れている。
「ああでも、姫奥様。こんなにこんなに、お元気になられて。本当に良かったですわねえ」
福が笑うと、手伝いに来ていた豊も、ゆさゆさと腹を揺すって笑う。米俵のような身体を二人して揺すっていると、大迫力だ。別れを惜しんで来ていた下男や端女たちも、釣られて笑っている。
「後は、旦那さんが迎えに来るのを待つばかり、ですわねえ」
笑い過ぎて疲れたのか、ふう、と豊は胸をさする。
有難う、と答えながら、薔姫は久しぶりに綺麗に着飾った自分の姿を、何度も何度も手鏡に映しては、頬を染めていた。
赤斑瘡の湿疹はつい5日前くらいから、赤色から茶色い滲みに変色した。と思っていたら見る見る間に、その茶色い滲みは、ぼろぼろと皮がむけるように刮げ取れいった。あれだけ食い込むように広がっていた頬の湿疹が、あれよあれよと云う間に綺麗になっていき、今や、病気の痕跡は殆ど残っていない。言われて、目を眇めつつ、注意深く見詰めなければ気が付けないだろう。
しかし、まだ咳は残っている。
喉の痛みも続いていて、だからか、なかなか食欲も回復してくれない。
だが、赤い湿疹が消えてくれた。
病気に打ち勝ったのだ、と実感させてくれる。
それが、嬉しくて堪らないし、それに何より。
――綺麗に治らなかったらどうしよう、って思ってたのが嘘みたい……。
鏡を見ながら、薔姫は何度も頬を撫でる。
まだ青白く、しかも痩せてしまって貧相になってしまったが、染みがあるよりずっといい。
――嫌われないわよね、此れなら、我が君に嫌われないわよね……?
見入っているうちに涙が浮かんできて、ぐずぐずと鼻が鳴ってしまう。
「良かったねえ、姫様ぁ」
珊も、ぐず、と鼻を鳴らしながら薔姫の荷物を纏めている。
其処へ、ふらふらしながら真が現れた。
「……ひ、ひめ……帰る、し、したく・は……で、できました、か……?」
「我が君!」
すっくと勢いよく立ち上がり、薔姫は縁側から飛び降りて、真の元に駆け寄った。
どすん! と、体当たりするように薔姫に抱きつかれた真は、おおっと、と足元をふらふらさせて体勢を崩し、遂に尻餅をついた。しかし薔姫は構わず、ぎゅ、と首筋に抱きつき、覆い被さった状態まま離れない。真も、胸の中の薔姫の背中を、抱き寄せる。
「お帰りなさい、我が君! お疲れ様でした」
「……はい、姫、有難う御座います……今、帰りましたよ」
飛びついた拍子に斜めになってしまった呉茱萸の枝を、真はそっと挿し直した。
★★★
病み上がりの身体には馬の方が良いのだが、真と歩いて行きたい、と薔姫がだだをこねた。
「我が君と一緒に歩いて帰りたいの、ねえ、いいでしょう?」
「いやしかし……姫様、折角此処までよくなられたのですから。ゆっくりとですね、馬に乗ってゆかれた方が、きっと宜しいかと思うのですが」
「そうだ、薔。那谷の言うことを聞きなさい。芙殿に頼んで手綱をとって貰うがいい。薔は馬で、真は歩いて行けばいい。一緒に帰れるのだから、それでいいじゃないか」
薔姫の剣幕に、それでも那谷は医師の意地を見せて食い下がる。見送りに来た戰も、同然強い口調で止めた。流石に、1ヶ月近く横になっていて体力をなくした義理妹の我侭を、何時ものようにすんなりと聞き入れてやる事など出来ないようだ。
しかし、ぷぅ、と薔姫は頬を膨らませて脚を鳴らした。
「嫌、そんなの。本当の一緒がいいの。我が君と手を繋いで帰りたいの」
「薔、そんな小さな子供のように聞き分けのない事をしてはいけない。今まで、何れ程多くの人に、どんなに心配させてきたのか、知らない訳ではないだろう? 駄々を捏ねてはいけないよ。もうこれ以上、皆の心を痛めさせるような事をしてはいけない」
「だって、だって」
尚もごねる薔姫の後ろで、虚海が瓢箪型の徳利を傾けながら、独特の笑い声を上げた。
「ほっほ、そらそうやな、姫さんはまんだまんだ、子供やでなあ、我儘言うたかて、構へん構へん。姫さんの好きにしたったら、ええのや」
ぐび、と喉を鳴らしつつ要らぬ助けを出す虚海に、戰は大きく肩を上下させて嘆息し、薔姫は逆に大きな瞳を輝かせて、忙しなく何度も頷く。
「お師匠様は医師でしょう。煽ってどうするのです。止めてもらわねば困ります」
「儂ゃ、お医者の前に、別嬪さんの味方なんじゃわ」
のほっ、のほっ、と瓢箪型の徳利を抱えて笑い転げる虚海と、呆れるやら困るやら、の戦と那谷を横目に、す、と真が立ち上がった。そのまま、部屋の軒に吊るされていた風鐸の処まで歩いていき、組まれていた紐を解いて静かに外す。
「では、この風鐸を一つ頂いて共に帰りますよ。きっと、風鐸が守ってくれます」
「真殿まで……」
真の妻への助け舟に、薔姫は満面の笑みで頷く。
「我が君、大好き!」
真の腕に絡みついて燥ぐ薔姫の笑顔は、病を得る前の彼女のものだ。
こんな笑顔を見せつけられてしまっては、那谷や戰如きでは止められるものではない。
深い嘆息を吐きつつ、厩で預かっていた真の家の馬を連れて背後から芙がついて行く事で、那谷と戰はしぶしぶ了解を出した。
「長らくお世話になりました。戰様、虚海様、那谷、福、珊、そして施薬院の皆様のおかげをもちまして、私の妻はこうして元気に家に帰ることが叶う身となりました。どのように何処までも、感謝の言葉を連ねても足りません。本当に有難う御座いました」
施薬院の入口で、薔姫と真は、揃って頭を下げる。
ええて、ええて、こそばいくて適わんわ、と虚海が瓢箪型の徳利を傾ける。その鼻の頭が赤いのは、何も酒の酔いのせいばかりではなかった。
「早よ、帰りぃな。お母さんや娃ちゃん、首長ぉして待っとるで? ん?」
「はい」
「真、まだまだ手が掛かるだろうが、義理妹を宜しく頼む」
「はい、言われませずとも」
「姫様ぁ、暫くの間はゆっくりするんだよ?」
「本当ですよう、姫奥様、大事になさって下さいね」
「うん、有難う、珊、福、豊、それからみんなも、本当に」
有難う御座いました、ともう一度、真と薔姫は頭を下げると、何方からともなく腕を伸ばして手を繋ぎ、家に向かって歩いて行った。
「やけど、ほんま、元気になって良かったわなあ」
「はい、良かったです」
ぐじゅぐじゅと鼻水を啜り上げている那谷に、福が、もう若先生汚いですよ! と晒を手渡している。顔中に、鼻汁を擦り付ける勢いで、那谷は晒でゴシゴシと顔を拭いて、福に更に怒られていた。
施薬院に携わる人々が、良かった良かった、と呟きながら、ぼちぼちと戻っていく。
戰も、長く見送っていたが、真と薔姫が最後の辻に消える前に此方を振り向いて頭を下げたのを契機に、城で待つ、椿姫と我が子の元に帰っていった。
だが珊は、真が歩く度に手にした風鐸が、カチン、カロン、と鳴く音が聞こえなくなるまで、見送っていた。
★★★
ほぼ1ヶ月ぶりの我が家となる。
その間に、季節すら動いていた。
木々に停まって鳴き散らす蝉に変わって、葉陰で軽やかに歌う鈴虫や松虫にとって変わらられているし、庭先に舞うのは、蝶々から紅蜻蛉の群れになっている。
花の匂いも草の匂いも、土と風と空と雲の色さえも。
何もかもが、夏の暑さを象徴する濃さから、秋の涼やかさを感じさせるものへと移り流れていた。
けれど。
温かい家の佇まいは、変わらなかった。
真と薔姫は、手を繋いだまま、門代わりの松の枝をくぐった。
「母上、只今帰りました」
薔姫を座らせて、先に足に付いた泥を落とさせている間に、真が三和土から声を掛ける。
声が家の奥に届くやいなや、好がらしくなく、ばたばたと脚音をたてて走ってきた。
いや、母親に先んじて、突撃してきた小さな、柔らかい塊があった。
真の妹の、娃だ。
「にー、にー! ねー、ねー!」
長く不在であったのにも関わらず、顔を忘れずにいてくれた。ばかりか、まだはいはいしか出来なかった筈の妹がしっかりと立っている。しかも、よちよち走って出迎えてくれているではないか! 小さな手をいっぱいに広げてつきだし、襁褓で膨らんだ腰周りを左右に振りながら、懸命に走ってくる姿は愛らしさしかない。
「にー! ねー! かーりぃ! かーりぃ!」
「はいはい、兄が娃の大好きなねーと一緒に帰ってきましたよ。娃、長らくのお留守番、ご苦労様でした」
脇に手を入れて、ひょい、と娃を抱き上げると、随分大きく重たくなっている。しかし、きゃっきゃっ、と燥ぎながら足をばたばたとさせる仕草は、変わらない。涎まみれの手の平で、ぺちぺち、ぺちぺち、と額や頬を叩きまくるのも、変わらない。
「い、い、いた、いたた、いたたたたたたたたたた! あ、娃、娃、いたい、いたい、い、痛いですって!」
「ただいま、娃ちゃん。お義理母上様も。御心配おかけしました」
伸ばしてきた娃の手を握りながら、薔姫は深く頭を下げと、ゆら、と髪に差してあった呉茱萸の造花が揺れて、ぽろりと落ちそうになる。
あっ、と薔姫が声を上げる前に、好のほっそりとした腕が伸びてきて、呉茱萸の枝を受け止めていた。そのまま、好は幼い嫁の髪に挿し直してやる。
はっ、と薔姫が顔を上げると、涙ぐみながらも微笑む好の姿があった。
義理母上様、と声をかけようとすると、ぎゅ、と肩から抱き竦められた。それは、この線の細い好の一体何処に、と驚く程の強い力だった。
「よく、お元気になられて……何れ程心配した事でしょうか……良かった……本当に良かったこと……」
「……ご、御免なさい、お義理母上様、私、わたし……」
そうだった。
城に行きたくて、娃をだしにして家を飛び出し、そのままずっと空けていたのだ。
帰ってこない理由を聞き及び、そして病を得てしまった上に症状が重く、帰りが遅れに遅れたのに、怒りもせねば厭味の一つもない。
ただ自分の身を、祭国にいる母・蓮才人と同様に、案じて明け暮れ過ごしていてくれたのだと思うと、改めて、薔姫は申し訳なさに何も言えなくなる。
「御免なさい、お義理母上様、御免なさい……もう、我儘も、勝手も、しません……。……ほんとうに……本当に、ごめん、なさい……」
「良いのですよ、もう謝らないで、何も言わないで。元気になって下さった、それだけで、もう、よいのですよ」
祭国の母・蓮才人がするように、胸に抱いてくれる好に縋って、薔姫は、わんわんと声を上げて泣き出した。
★★★
その日は、好が用意した、ささやかな祝いの膳を、皆で囲んだ。
出来る事なら、世話になった人を全てを呼びたい処だった。
だが、薔姫の体調は万全とは言い難いし、何よりも真も強行軍で仕事をこなした後だという事で、好が気を使ったのである。
「本当に元気になられましたら、その時こそ、珊や福たちも呼びましょう」
好が栗ご飯を茶碗に盛り付けると、娃が真剣な面持ちで胡麻と塩を振りかける。
鳥の羹、人参と大根の炒め煮、萵苣菜のお浸しの胡麻和え、胡瓜の酢漬け、瓜の漬物。
川魚の燻製を照り焼きにし、豚肉は角煮に、里芋と葱は山羊の乳で煮てあるし、大豆と川海老を醤で味付けした炒め物には、鶉の煮玉子も添えてある。
蒸した百合根の素揚げ、桑の実の砂糖漬け、胡桃の胡麻味噌和えを蕎麦麺にかけたもの、乳餅には岩塩だけでなく蜂蜜と葡萄が合わせられているし、病気無しに懸けて梨もある。
身体に良いものや、縁起物ばかりが用意されている。
無論、禍国で揃える宴の膳とは比べられるものではない。
唯一、豪華かつ高価だと言えるのは、真の好き棗餡の月餅と、薔姫の好きな胡桃と松の実の入った宮餅が、一つずつ仲良く揃えてある事だろうか。
だが、喩え素朴な料理であったとしても、人が呼べずとも、母・好が腕に寄りをかけて心を尽くした祝いの膳である、と伝わってくる。
その証拠に、目の前に並んだ夕餉の膳に、娃が大興奮で手足をばたばたとさせている。矢張、食いしん坊の血は、兄妹揃いのようだ。
「にー! ねー! んまー! んまー!」
「はいはい、娃、『んまー』ですね。では、頂きましょう」
「はい」
家族と蔦の一座の者が揃っての夕食、久しぶりの団欒のひと時となった。
★★★
ゆっくりと夕餉に舌鼓を打った後、真は風呂に向かう。
烏の行水の真だが、遠出をした後であるし、折角の我が家だ。一番風呂を、と好に勧められたのだ。
「では、有り難く頂戴してきます」
一方、薔姫は、というと、施薬院で身体を清めているので、逆にいつもの真さながらに、手水を取るだけだ。
着替えを済ませて、手に緋色の茱萸嚢を握り締めて部屋に戻ろうとすると、好が早々に床の用意を始めていた。
好と娃の部屋に、である。
薔姫は一瞬、ひく、と胸を戦慄かせた。戸惑い、視線をあちら、こちら、に忙しなく動かすも、なかなか声がでない。漸く、思い切って機嫌よく敷布を広げている好の背中に声をかけた。
「お義理母上様、あの……」
「あら、薔姫様。お手水はお済みになられましたか? まだ、完全に元気になっておられないのですから、私が姫様のお世話をさせて頂きますわね」
「……で、でも……」
「真の事ですから、夜も何かと書物を広げたり筆をとったりと落ち着かないでしょうし、暫く、私の部屋にお床の用意をさせていただきますわ。狭くなって、しまいますけど、我慢して下さいませ」
「……あ、あの……」
「でも、なんと言っても、ゆっくりと寝むるのが病の一番の薬ですものね。さあ、姫様、もう横になられて下さいな。娃も姫様と一緒に、休みたがっておりますわ」
「……はい……」
我儘を言わない、と言ったばかりであるし、其処に更に娃を引き合いに出されてしまっては、薔姫には返せる言葉がない。
薔姫の布団の上で、ころんころんと寝返りをうって遊び出した娃が、ねー、ねー、と誘ってくる。
――ど、どうしよう……。
戸口でもじもじとしていると、すっ、と影が横切って部屋に入ってきた。
誰かと思えば、あっという間に風呂から上がってきた真だった。
「おやおや、娃、人様の布団の上で遊ぶのは、ちょっと、いただけませんねえ」
真は。布団の上で、ごろごろ転がって遊びだした娃を、ひょい、と抱き上げて座らせる。そして、驚き目を見開く母・好の目の前で、くるくると手際よく薔姫の分の布団を畳んで、すい、と持ち上げた。
「し、真、貴方、そんな、一体何を、するつもりですか?」
「母上、お心遣いは有難いのですが、姫は何時ものように、私の部屋で休んでもらいます」
「――し、真、でも」
「姫は、私の妻ですから。私が責任をもって看ますよ」
「……」
嘆息と共に、今度は、好が押し黙る番だった。
鞠が跳ねるように、薔姫は真の胸に飛び込んでいく。
「では、参りましょうか、姫」
「うん――でも、重たくない?」
「大丈夫ですよ、この十数日間の姫の抱っこ抱っこで、すっかり鍛えられましたから」
よ、と腕捲くりをして、二の腕に力こぶを作ってみせる。
確かに、かつてのひょろひょろしたそれよりは、幾分筋肉質になったようにも見える。ぷっ、と小さく吹き出す薔姫の髪に、真は呉萸嚢の造花を挿し入れた。
布団を抱えたまま、真は好に向かって器用に礼を捧げる。
「母上、では、今日は此れにて失礼致します。どうか、ごゆっくりお休み下さい」
「御免なさい、お義理母上様、お休み、なさい……」
布団の上でうつらうつらし始めた娃にも、お休みなさい、娃ちゃん、と小さく呟くと、薔姫は枕を抱えて、真と共に好の部屋を出た。
★★★
二人は並んで、真の部屋に向かう。
途中、咳をしだした薔姫の背中を、歩きながら真はそっとさすると、薔姫は決まりが悪そうに、見上げてくる。
呉萸嚢の枝の赤い実も、どこか所在無げに揺れる。
まだ、何とも言えない表情をして小さくなっている薔姫の前髪を、真は、くしゃ、と音をたてながら撫でて、笑いかけた。
「姫」
「……なあに、我が君?」
「もっともっと、元気になって下さい。登高に行きましょう」
登高とは、高い丘や低めの山に登る事だ。しかし、厄落としの意味合いもあるし、薔姫にとってはそれだけの体力がついたのが、という証にもなる。
元気になったのだ、と感じられるように、真は誘っているのだ。
「うん、でも……」
「はい?」
「お花見には、ちゃんと、行くんでしょう?」
「勿論ですよ、嫌ですねえ。ああ、お花見なんて聞いたら、姫のお弁当が今から楽しみ過ぎてお腹の虫が鳴きますよ」
「いやだ、我が君ったら、もう。お弁当にしか、興味ないの?」
「おや、だって、美味しいご飯を食べる楽しみがなくなってしまったら、生きている喜びの半分以上が吹っ飛んでしまいますよ?」
「もう、食いしん坊なんだから」
笑い合う二人の姿が、仲良く部屋に吸い込まれていくのを、カチン・カロン、と鳴く、風鐸の音が優しく見守っていた。
【 薔姫の厄落とし 】
9月9日の重陽の節句(菊の節句とも)を下敷きに致しました




