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覇王の走狗(いぬ) ~皇華走狗伝 星無き少年と宿命の覇王~  作者: 喜多村やすは@KEY
一ノ戦 祭国受難

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終幕 幼妻・薔(しょう)姫

終幕 幼妻・しょう




 毎日毎日、門の前で佇むしょう姫の姿は、ここ最近王都の町民たちの噂の的だった。何しろ、その宿星が『どのような男の運気をも一蹴する』とされる所謂『男殺し』である姫君だと、知らぬ者はないのだ。

 その彼女が、齢5歳という幼い身の上で、宰相・優の息子の元に、しかも側妾腹の真という息子に嫁がされて来たとなった3年前。噂を嘴で啄きたくて仕方の無い町雀たちは、注視したものだった。


 しかし全くの期待はずれだった。その後、何事もなく日々を重ねて、早3年。そろそろ、皆が注目することに飽きてきた今日この頃に、なんと今回、しょう姫の夫である宰相・優の側妾腹の息子とやらが、祭国に皇子・戰の名代の使者として出立したという噂話が、瞬く間に広がったのだ。


 彼女の『男殺し』の宿星が、如何様にその夫である側妾腹の息子とやらに働くものかと、興味半分・出歯亀根性半分で固唾を呑んで見守り続けて、彼らは噂話をたてることに余念がない。

 そのしょう姫も、流石に自分が周囲にどのような目で見られているかくらい、解る年齢になっていた。此処に来る前は、どこか遠巻きにしてこそこそとして涙を流されるのを、不思議に思うばかりだったが、もう彼女も8歳だ。


 大人が子供扱いする程、内面は子供ではない。

 否。居られなかった。

 自分がどの様な存在であり、どの様な好奇な視線で見詰められている存在か思い知らされたのだ。普通であれば、蝶よ花よと愛されるばかりの王女の立場であれば、しくしくと泣いて泣いて母親と王宮を恋しがって過ごすものだろうが、しょう姫は幸いに、というべきか、普通ではなかった。

 時に王女の尊厳をちらつかせて首根っこを掴んで叩き伏せてみせ、時に幼女であると弱々しくぶって同情を態と買うなどして、やり込めてみせる。

 実に逞しい。


 何よりも、しおしおと泣いて時間を潰すなどと、その暇が勿体無くて、していられなかった。

 此処に来てから、夫となった人の後をこちょこちょついて歩くのが、楽しくて楽しくて仕方がないのだ。


 王宮では、まだ幼いからと突っぱねらる事も「仕方ないですね」と言いつつも、結局は手助けしつつ、一緒に過ごさせてくれる。危ないから、危険だからとさせてもらえなかった、木登りや魚釣りや馬術の鍛錬など、いつの間にか自分の方が彼よりも上手くなっていた位だ。

「やれやれ、姫には敵わないですね」

 と笑って、一緒に食べる手作りの弁当も、また彼は褒めてくれる。


 外の風景を楽しみながら、格好に構わず手掴みで食べる食事は、いつもと同じものでも、何故かとても美味しいのだとか。

 二人で足音を忍ばせてくりやに忍び入り、宴用にと椿姫が用意した菓子をこっそりとつまみ食いするのは、凄く楽しいのだとか。

 義理の兄である戰を、事あるごとに誂うのはなかなか、いや相当に面白いのだとか。

 その戰の元を訪ねてくる色々な人を、こっそり観察するのは、結構刺激的なのだとか。

 王宮では絶対に知らないままで過ごす世界を見せてくれたのは、夫となった真という青年だ。


 そのくせ彼女の夫は、甘いばかりではなかった。

 間違いや、此れは流石にやり過ぎだとの事を起こし、騒ぎが勃発すれば、「それはいけません、何故悪いのかよく考えてから、謝りに参りなさい」と毅然とした態度を崩さない。すごすごと立ち去り、小さく謝っておずおずと戻ってくると、「一緒におやつにしませんか?」と干棗を差し出して、いつもと変わらずにっこり笑ってくれる。


 甘やかすばかりの王宮の生活は、何も考えなくても済む。

 確かに楽だ。けれど、気持ち悪いのだ。

 誰も彼もが、自分の気持ちを偽ったり隠したり、そして相手を惑わせたりする。そんな処にいて、いつの間にか自分も同じようになってしまうのかと思うと、怖くて怖くて堪らない。

 今の、多少不便でも、色々な人の表情がはっきりと見える生活の方がうんといい。


 自分にこんなにも色々教えて与えてくれる、大切な『我が君』に、でも、何もしてあげられない。それどころか『男殺し』の宿星を持つ自分などが妻として傍に添ってなどいたら……。

 そう思うと、居てもたってもいられなくて、この間、椿姫の為に占師を呼んだ折に自分の運気も見てもらったのだ。

 宿星や人相などはそうそう変えられない。

 けれども、名前を変えれば、あるいは。真という青年の運気を上げることのできる名前に変えれば、少しくらいは役に立てるかも知れない。


 だって、わたくしは『我が君』の『妻』なのですもの。

 『妻』たるもの、夫である我が君のお役に立たなければ、いけないのよ。


 ふぅ……と、しょう姫は、年齢に似合わぬ憂いを帯びた溜息をつく。鼻息も荒く、そう張り切っていたというのに、すっかり腰をおられてしまった。出立前の真に、様々な文字を書いた書を見せたのは、実は、占師に予見されたからなのだ。


 沢山の、綺麗な名前をお書きなさいませ。その内の一つ、夫君が選ばれた一つを貴女様のものとなされませ。きっと、運命の歯車は夫君にとって良いように廻りますよ――と。


 それなのに、夫である真は、事もあろうに「貴女の名前が無いから書いて欲しい」と云い、あまつさえ書き上げた、自分の名前をしたためたその書を、選んでしまった。

 そもそも、しょう姫は自分の名前が大嫌いだった。

 母親のれんや、椿姫のように、綺麗な名前が欲しかった。いや、そこまでとは行かなくてもいい。せめて人並の名前が欲しかった。


 よりにもよって、『しょう』とは。

 しょう。即ち、たでの別称の事だ。

 辛くて苦くて、大抵の者は毛嫌いするこの草の名前を皇帝である父が何故付けたのか。それはその名前から悪運が逃げ出すようにとの計らいだと、母親・蓮才人から何度も聞かされている。が、しょう姫はそんな事は母・蓮才人が、自分を傷付けぬ為に、尤もらしい嘘を考えてくれたのだろうと、とうの昔に察しなどついている。


 父親である皇帝・景は、面倒くさかったのだ。

 御位の低い母親から生まれたとは言え、王女には変わりない。嫁ぐという手段は外交上の最も有益な方法となる。しかしこのような宿星を持つとなれば、全く役に立たない、穀潰しも良いところだ。

 だから、苦いばかりでものの役に立たぬと、しょうと名付けたのだ。


「こんな名前、大嫌い」

 それなのに、真はこの名前の書が良いと言って、持って行ってしまった。

 綺麗な名前なんかじゃないのに。それなのに、どうして選んだりしたの?


 その胸の内を訪ねたい相手は、出立してから8日ほどたつ。

そろそろ、というか漸く祭国に到着した頃だろう。だからまだ、門の所に立っていたって、何にもなりはしない。そんな事は分かりきっているけれど、でもしょう姫は、どうしても真の帰りを毎日待っていたかったのだった。

 


 ★★★



 陽が傾いて、空は茜色に染まりだした。足早に家路に着く人々の、好奇の視線が自分に集中しているのを感じる。しょう姫の頬がほの赤く染まっているのは、夕陽を照らしての事だけではなかった。

 徐々に傾いていく優美な陽の光を眺めながら、ふぅ・としょう姫は溜息をついた。子供らしからぬ、憂いを帯びたそれに、くすりと笑い声が被さる。

 慌てて振り返ると、声の主が手に荷物を抱えて、よろけながら馬から降る所だった。


 う、嘘!? だって、だって、出立なされたのは8日前よ!? 今頃、丁度祭国に到着なさる頃の筈なのに、どうして我が君が此処にいらっしゃるの!?


 頭の中で疑問符が、ぐらぐらと駆け巡る。

 目の前がぐるぐると回りそうだ。

 も、もしかしたら偽物……いえ、幻なのかもしれないわ。会いたい・って思いすぎて、神様が幻をお与え下さったのかもしれないわ。


 小さな握り拳をつくって、ごしごしと目を擦る。ばっ! と大きく黒目を見開いて、じぃ~……と真を見つめる。

 もう一度、ごしごしと目を擦る。目玉が零れおちそうな程見開いて、真を見つめる。さらにもう一度……と、何度も繰り返すしょう姫の額に、真は優しく手のひらをのせた。やっと、しょう姫の動きがとまった。


「わ、我が……君、なの……?」

「そうですよ、いやですね、たった1週間ほどで忘れてしまわれましたか?」

「だ、だって、だって……!」

 慌てて手足をばたばたさせるしょう姫に、真は笑う。

「ただ今帰りましたよ、姫」

「う、うん……じゃない! はい、我が君! お帰りなさいませ!」


 しょう姫の笑顔が、ぱあ! と弾ける。 

 ああ、帰ってきたのだな。

 心底、真は、ほっとした。



 ★★★



 手にした荷物を机の上に置くと、真はよろよろとそのまま寝台の上に俯せに飛び乗った。ふわり、と程良く陽に乾された寝具の暖かみと、埃を吸った陽光の香りとが、真の鼻腔を擽る。

 そのまま、とろとろと目蓋が要求するままに閉じようと仕掛けたところに、しょう姫が手桶に手拭いをかけて、元気よく駆け込んできた。手桶からは、ほかほかと湯気がたっている。真の旅の疲れを癒そうと、用意してきたのだろう。

 しかし、その湯気の香気すらも、真には眠気を誘うものでしかない。目蓋がいよいよ落ちようとしかけている真の背を、しょう姫がゆさゆさと揺さぶって許そうとしない。


「まあ! 我が君、いけません! さあ、目を覚まして、御御足をお出しになって! 清めになってからでないと、寝具が汚れてしまいます」

「う~ん……ひめ……いいですよ、寝具くらい……汚れても……死にゃしません……よ……」

「いけません! さ、ほら、起きて!」


 殴りかからんばかりのしょう姫の勢いに、真はようよう目頭を擦りる。ぷぅ! と頬を膨らませている幼い妻に、真は何とか笑みを向け、眠気に震えながら机の上を指さした。


「それは、そうと……実は、お土産が……ある、の……ですよ……」

「お土産? なあに?」

「まあ……開けて、みて、くだ・さい……」


 実は、ずっと気になっていたのだ。真が大事そうに抱えていた包は、赤いきぬに包まれているにも関わらず、そこから大層良い香りがするのだ。

 お土産って、何かしら? いい匂い……お花のようだけど、どんなのかしら?

 どきどきしながら、包を解く。しゅるん、と衣擦れの音をたてて、包が開かれると其処には、小さな鉢植えに、赤い大輪の花が我を主張して咲き誇っていた。

 纏い付く衣から逃れた花は、ここぞとばかりに匂いを周囲に振り立てる。その余りにも痛烈な甘い香りと、そしてまるでこの世の花の頂点に立つのだと言わん張りに咲き誇る真っ赤な花の美麗さに、しょう姫は思わず、わあ! と歓喜の声を上げた。


「気に、入って……ください、ました・か……?」

「うん、我が君、有難う! とても綺麗!」

 鉢植えに抱きつかんばかりにして小躍りしているしょう姫の、素直な喜びように真の頬が緩む。


「ああ……気をつけて下さい……。その花……は、茎に、刺がありまして……ね。刺さると……酷く、指を疵付けてしまい……ます、ので……」

「え? あ、本当! 凄い棘ね」


 鉢植えの下から覗き込むようにして、しょう姫は花の茎を確かめる。確かに、茎にはびっちりと荒々しい刺が突き出ている。まるで、己の美しさを知るがゆえに、摘まれるのを拒むために自ら武装してるかのようだ。だが、この異様な程の姿こそが、この花の気高さを象徴しているようにも思えて、しょう姫は一層うっとりと花を見詰める。


「綺麗な花ね、我が君。何ていう、名前なの?」

「……ん……ばら……という、そうです……よ……」

「ばら? ばら。ばら……。ね、我が君、何て字を書くの?」

「……え……あぁ、この字です…………」


 真は懐をごそごそと弄ると、白絹の小さな包を取り出してしょう姫に差し出した。わあ! と小さく喜色の叫び声をあげたしょう姫が、包を開くと、見覚えのある紙の背が現れた。どきん、と高鳴る心の臓を抑えつつ、かさこそと紙の音をたてて開くと、それはやはり、出立前に真に贈った自ら書き上げた『薔』の一文字の書だった。


「わ、我が君、これって……?」

「本当は、とても難しい漢字二文字で書き表すのですが、一文字で表すと、その文字になるのです」

 俯せになったまま、それまでの眠りに旅立ちそうなか細い声ではなく、真がしっかりした声で伝えてくる。


しょう。とても美しい名前です。変える必要なんてありませんよ。いいえ」

「わ、わがきみ……」

「変えないで下さい。私は、貴女のその名前が、大好きなのですから」

「わがきみぃ~っ!」

 しょう姫が、足元に置いた手桶をひっくり返しながら飛び、寝台の上に俯せになっている真の上に、どすん! と飛び乗ってきた。


「ぐわっ!?」

「有難う、ありがとう、我が君! 大切にするわ、大切にする! 一生の宝物にするわ!」

 ごんごんと背筋に頭突きをせんばかりに身体をぶつけてくるしょう姫の手荒すぎる愛情表現方法に、真は、ぐはぁ~……っ! と肺腑を口から吐き出さんばかりに悶絶したのであった。



 ★★★



 小柄な身体を一層小さくさせて、平謝りに謝るしょう姫に、真は手を振りながら苦笑いをする。

「御免ね、御免ね、御免なさい! 痛かった? 我が君、痛かった? 痛かったでしょう?」

「いえ……その、まあ、ぼちぼち痛くはありましたが……もう大丈夫ですよ……」


 痛みが去れば、今度は眠気が鎌首をもたげてくる。再び寝具に顔をうずめた真の様子に、しょう姫は痛みのせいで呻いているのかと勘違いして、一層喚きたててくる。

「うわぁあああん、我が君、御免なさい、御免なさい~!」

「いえ、その、姫……本当に大丈夫ですって……ば? うわぁぁぁぁぁ……」

 涙を流して真の襟首を掴み、興奮のままにぶんぶんと振り立てる。眠気で動きの止まっている脳を攪拌されて、流石の真も目を回した。


「だ、大丈夫です、本当に大丈夫ですから……ひ、姫、さ、白湯を一杯、い、頂けますか?」

「白湯? うん、分かった! 直ぐに持ってくるわ」


 目の前がぐわんぐわんと回る。必死になって頭を支える真の呆けた視界に、走り去るしょう姫の小さな背中がうつっていた。短く微笑んで、俯せに寝直す。ふと、懐の中で、何かががさりと鳴って不平を漏らしたように思え、手を突っ込んだ。弄ると、紙が指先に当たる。取り出してみると、小さく丸めた用紙だった。


 ……ああ、あの時の。

 広げてみると果たして、自筆の『暇』という文字が目に飛び込んでくる。


 今回の事で、祭国郡王を拝命する戰は、とうとう、政治的にも軍事的にも否応なしに表舞台に立つことになる。

 覇王の宿星を持つとされる戰が、この先どのような大道を歩む事になるのか。

 その彼の大道に、自分は何処まで寄り添う事が叶うのか。

 自分が他者より誇れるのは、知識のみ。しかしこの知識は、所詮は机上のものでしかない。己の実践躬行じっせんきゅうこうで得られた血肉なる知識には、所詮太刀打ちできるものではない。


 いずれ。

 いずれ、戰はまことの覇王となる事だろう。

 覇王として名を馳せるには、恐らくこの10年程先を行った時の事。

 その時、自分は逆に足手纏いになっている事だろう。元手のない、上っ面の知識しか持たぬ自分が、立ち入る隙間などない世界に戰は飛翔するのだ。

 それでいいと思う。戰には、その資格があると思う。

 けれど、その飛び立つ彼の脚を引っ張るのは、御免だった。


 そして10年も経てば、しょう姫も年頃を迎える。

 それまで、自分が無事に命を長らえていれば、『男殺し』の宿星などまやかしだと周囲に知らしめる事が出来るだろう。

 なんの憂いもなくしょう姫は、本当に好きあった者を選び、夫婦のえにしを交わしあう事が叶う筈だ。


 自嘲気味に、真は笑う。

 何が、僅かな幸運に満足できるなどと。一体どの口が、ご立派にほざいたものなのでしょうか。自分ほど、強欲な人間はこの世にいないでしょうね。先の戦いから3年。昼行灯の皇子様の相手は、とても楽しいものでした。手放したくない、ずっとこのままでいたいと思うほど。


 でも、この先は、楽しいだけではすみません。

 けれども、そう、10年。


 10年。

 それまでの間だけで良い。

 戰様の傍で、彼の為だけに、役に立ち続けたい。

 10年。

 それまでの間だけで良い。

 しょう姫の為に、絶対に、死なずにいたい。


 自分が役に立つまでの間、痴れ者よ邪魔者よと蔑まれるまでの間でいい。

 父が言うように、己のような者が差し出がましく心配する事ではなくなるまでの間でいい。

 何も欲してはいけない自分も、側妾腹の自分だって、『人間』として、夢を見たい。

 けれど。


「……けれど、覇業の道半ばであろうとも、私が邪魔になりましたなら。いつでも『これ』を、私に呉れて下さい、戰様……」

 呟きつつ、真は目蓋が誘うままに、目を閉じていった。



 ★★★



 しょう姫が、白湯を満たした茶碗を載せた盆を手にいそいそと戻ってくると、真はくぅくぅと小さな寝息をたててすっかりと寝入っていた。


「もう、我が君ってば……」

 本当に、殿方は仕方ないのだから、とちょっと大人ぶって肩を竦める。もう一度、仕方ないの、と呟きながら薄上掛けを引きずりあげて、真の背中を覆う。


 ふと、真が手に握り締めたままの紙が気になり、そ……と手のひらを開かせてとってみる。広げたその紙には、真の手で『暇』と書かれていた。

 小首を傾げつつ、何度も何度もなめるようにその文字を見つめ続けたしょう姫は、肩を竦めると、びりびりとその用紙を手で引き裂いた。くるくると丸めて小石程の大きさにまとめてしまうと、えい! とばかりに部屋の隅に置いてある屑入れ目掛けて投げる。それは、ぽす、と乾いた音をたて、屑入れに見事に収まった。


 やった! と飛び上がり、囁かな喜びを大袈裟に噛み締めると、しょう姫は、寝台の上で俯せに寝入っている真に視線を向けなおす。

 うふ、と肩を竦めてもう一度笑うと、しょう姫は、靴を脱いで真が横たわる寝台の上に上がった。先程かけた上掛け布団を捲り上げ、もぞもぞと真の傍らに寄り添い、一緒に横になる。


 くぅくぅと寝息をたてている真の息遣いと、とくとくという心の臓の音が、密着したしょう姫の頬と身体に、優しい体温と共に伝わってくる。


「おやすみなさい、我が君。お疲れ様でした」


 肩に薄上掛けをかけながら、しょう姫は、静かに目蓋を閉じた。




 覇王の走狗いぬ  一ノ戰 祭国受難     了




覇王の走狗、一ノ戦、これにて了を迎えました。


本来は先の【その6】で了を迎えるつもりでしたので、この終幕はちょっと蛇足的になってしまったかもしれません。しかし話の流れ的に、二ノ戦に持っていくのもちょっと……と思い、此方に持ってこさせていただきました。


さて、二ノ戰は【楼国炎上】

そう、戰の母・麗美人の母国、『楼国』が舞台です。『炎上』とありますが、さて一体、どこが炎上しますことやら?


お楽しみいただけるよう誠意執筆中ですので、これからもよろしくお願い致します✽○┓ペコリ


                2014/10/5      作者拝

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