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覇王の走狗(いぬ) ~皇華走狗伝 星無き少年と宿命の覇王~  作者: 喜多村やすは@KEY
六ノ戦 落花流水

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6 疫 その2

6  疫 その2



 ――国王、だと!?

 この小坊主が!?


 茫然自失となりかける中、必死でようは己を守ろうとするが、狼狽の色は隠せない。聞いてもいない事態に、どうすればよいのか、鷹の中で疑問と疑念が渦を巻く。

 年端も行かぬ少年王は、しかし、毅然とした態度を見せる。

 きらり、と目尻を光らせると、手にした笏でもって、す・と鷹を指し示す。

「其処な者、成る程、あれと吾国は貴国に対して、恭順の意を示し宗主国として崇める立場である。が、吾と吾国は、貴国の天守の主上であらせられる皇帝陛下に対して敬意を払う身である事を、忘れてはならぬ」

 少年王の口から出た言葉に、はっと我にかえった鷹は、慌てて最礼拝を捧げる。

 同時に、冷や汗が背筋を流れて行くのを感じ取った。

 落ち着け、と言い聞かせながらも、鷹の心の内は嵐が吹き荒れている。

 国王自身が、本来、謁見時に鷹のような身分の者に対して、直接の声を掛けることなど有り得ない。不意打ちを喰らわせるには、よい機会であろう。しかし祭国には、後継者と成りうる御子は女王となった椿姫以外にいなかったのではないのか?


 ――この小坊主、一体、何処から現れたのだ……?

 高らかに打ち鳴らされていた、銅鑼どら繞鉢にょうはちの音の韻律が変化すると、御成筋に新たな影が生じた。

 郡王である、皇子・戰が現れたのだ。

 立場的には、国王である学の風下にたたねばならぬ皇子であるが、王者のみが纏う事を許された袞衣に身を包んだ威風堂々たる体躯からは、2年前、屋敷に異腹弟・真を訪ねてきた時には感じなかった脅威を纏っていた。

 戦場と、そして禍国の熾烈な帝位争いを繰り広げ、その荒波を乗り切っているからか? 眼光すら、それまでの柔和なものではなく、まさに竜眼と言わしめるに相応しいものになっていた。


 ――背後で、郡王がこの小坊主の手を引いているのか……?

 女王である椿姫を正式に妃の地位に押し上げたは良いが、何か不都合でも生じたのか?

 ならば、丁度よい。

 その辺も啄き回せば、どうでも大令・兆様に従わねば、禍国にての立場が危うくなると悟られる筈だ。そうだとも。

 無理やり落ちかせる為に、必死で纏め上げた考えであるが、なかなかどうして的を得ているではないか、と鷹は自画自賛する。

 ちらり、と隅に控えた異腹弟・真に視線を走らせる。

 忌々しさが矢張り胸に悪心となって煩わしてくるが、今はそれに気取られている場合ではない。

 一瞬、打ち鳴らす銅鑼の音が途切れた。

 その合間をぬって、また、ぽうぅぅ……という独特の音が去っていく。

 ――真の奴は、あれを『蟇目ひきめの儀式』とか言っておったが。あれもまた、事と次第によれば、責め立ての要因になるか。

 腹の奥で算段を付けながら、声が掛かるのを待つ。


「禍国帝室よりの御使者殿、右丞・よう殿に御座います」

「ご尊顔を仰ぐ誉れを得、恐悦至極に存じ上げます。わたくしは、禍国にて右丞の役を預かりし鷹と申します」

 以後、宜しくお見知りおきを、と捧げる礼拝に、少年王は凛々しい面差しで頷く。

「此度、禍国においては急ぎの使者をたてられた理由を知りたい」

 玉座に深々と腰掛けた少年は、身の丈に合わせて設えられた袞衣を纏っている。その姿が過分なものとは思われない不思議が、少年にはあった。

「その前に、国王陛下、お聞きしても宜しいでしょうか」

「何か、右丞殿」

「此処、祭国の主上たる御方は、大上王・順陛下の王女・椿姫様が、我が禍国先帝・景陛下のお許しを経て、女王として定められた筈。其れが何故、学陛下に譲位なされましたのでしょうか?」

「……」

「いえ、そもそも、学陛下、貴方様の御身分は如何なるものなのでしょうか? 宜しければ、此処で明かして頂きたく存じ上げます」


 じろり、と欲に浮かされた舐めるような熱い視線を、少年王に絡ませる。

 鷹がそう出るとふんでいたのであろう、戰が、静かに手を振り、控えるよう示す。禍国の序列でいえば、郡王の品位は従一品だ。右丞如き、その一言で、異国であろうとも消し飛ぶ身の上だ。慌てて、鷹は平伏する。

「かの御子は、我が妃となった椿の兄王子にして先の王太子であった覺王子の御子だ」

「なっ、何と!?」

 許しもなしに、思わずこうべを上げ、頓狂な声で叫ぶ鷹を、戰の視線が射抜く。再び、冷や汗を散らしながら床に這い蹲る。

「右丞の言いたき事は分かる。血筋は確かであるのか、母となる女性の身分は如何程か、と」

「……」

「だが右丞、心配はいらん。この御子の母親である女性は、確かに先の王太子の承衣の君だ。我が妃が遺品を確かめた、何よりも」

 戰が言葉を切る。

 すると、舎人を従えた真が、戰の傍に静かに歩み寄った。ぎろり、と目尻を裂きたくなるのを堪えながら、必死で平伏し続ける。


「許す。その双眼で、此れなるを、然と確かめるがいい」

 戰に促され、背筋を伸ばした鷹と、そして従う使節団は、思わず知らず、おお・という感嘆の声を漏らしていた。


 其処には、国王の姿で玉座に座る少年では、とまさに見紛うばかりの、11歳で立太子式を行った先の王太子・覺の似姿図が広げられていた。



 ★★★



 似姿図は、必ず、その人物に似せて描かれねばならない。

 何故ならば、運気を変節させてしまう大罪は、天涯の主である天帝の怒りをどの様に買い、且つ、咒いを受けるかしれないからだ。それは絵を描く者だけではなく、命じた者にこそ、深く強大な咒いがのしかかる。故に、誰も似姿図に細工を施そうとはしない。

 ましてや、次代を担う王太子の似姿図なのだ。

 誰が手をかけようというのか。


 覺王子の少年のみぎりの姿。

 椿姫の兄王子である覺の立太子式を行った年頃と、同じ時分の少年王は確かに瓜二つだ。

 利発そうに輝く瞳の色。

 髪の流れる癖、目鼻だちのつくり(・・・)

 黒子の位置まで似通っているとなれば誰も嘴を挟めない。


 呻きつつ、呆然と似姿図に見入る不敬を犯している事に気が付けぬ鷹を尻目に、戰は舎人を下がらせる。

「見ての通りだ。先の王太子・覺殿下の姿をまるで紙に吸い取ったかのように、学陛下は似ている。これ以上の証はあるまい」

 呻きつつ、己の失言をどう取り繕うべきであるか、思考能力の全てを叩き込んで考え尽くす鷹の目の前で、別の舎人が顔面蒼白になりながら、駆け込んできた。

 真の耳元で、素早く何かを申し伝えると、異腹弟の表情も、厳しいものとなった。


 ――何をいっぱし(・・・・)を気取っておるのだ、如きが。

 けっ、と鷹が腹の中で毒付いていると、真が郡王・戰と少年王に向け、何か小言で申し伝えた。少年王も、郡王・戰の顔ばせも、こわいものとなる。

 厳しい表情のまま、ぐるりと向き直され睨まれた鷹は、恐れの為に飛び跳ね方を忘れた蛙のように無様に震え、縮み上がった。


「右丞、其の方にも、禍国にての役があればこそ、遠きこの祭国まではるばる使者としてまいったのだろう。が、今は其の方らの言葉を聞いている余裕はなくなったようだ」

「は? 郡王陛下、それは、何とした……」

「右丞、其の方らが通り過ぎた関にて、疫病が発生している。最早止めようがない程にまで拡大している地域もある」

「――は?」

「しかも、だ。今また、休んでいた拾遺しゅういの一人が倒れた、との話が入った。病状は、先の関で倒れた子らと同じだ」


 戰の言葉に、鷹は目を剥く。

 すると、後方に控えていた男がするすると平伏の姿のまま這いずって前に出た。よくぞそのような姿勢で這いずる事ができる、といっそ感嘆している鷹の背から、ぼそぼそと事実を伝える。

 確かに途中の関で、拾遺しゅうい見習いとして共に連れてきている少年仕人つこうどが幾人か、熱病にて倒れた事。

 流石にそのまま連れて歩くのは足手纏いである為、関所に残してきたとの事。

 だが、病状を診た医師や薬師のみたてでは、ただの熱流感であろうとの事。


 耳孔がむず痒くなる息の粗さで耳打ちされた事実に、鷹は、益々もって面食らう。

 下々がどの様な状態であるかなど、知る必要もない。しかも、下男に近い少年仕人つこうど如きが、途中で数人倒れた程度の事ではないか。なのに、郡王のこの立腹ぶりは、納得できるものではない……。


 戸惑う鷹の前で、少年王・学は無言で立ち上がり、殿侍たちに四方を守られながら、御成筋を逆行し、姿を消した。

 少年王が姿を消すのと同時に、郡王・戰が腰に帯びた剣をスラリ、と引き抜いた。


「右丞! 貴様、此の祭国に何を持ち込んだ」

 ギラリ、と輝く剣のきっさきは、鷹の喉笛をしっかりと狙い定めている。

「事と次第によっては、許さん」


 ――何がなんなのだ!? 全体、何が起こったのだ!? 

 分からない、分からない、分からない!

 大令・兆様の厳命を受け、此の祭国くんだりまで来たばかりに。

 何故、この様な目に遭わねばならないのだ!?


 戰の殺気に震えながら、ゴクリ、と鷹は喉仏を上下させた。



  ★★★



 高熱を発した少年は、直ちに施薬院の虚海の元におくられた。

 今回の禍国の使節団は、通常、城にての使節団が歓待を受ける棟ではなく、城外の鴻臚館こうろかんに宿を定めていた。無論の事、疫病を少しでも城外で食い止め、懐妊中の椿姫を守る為だ。其処で、熱と身体の痛みを訴えて、この少年は倒れたのである。


 克に背負われて運び込まれた少年は、用意された布団の上に横たえられた。

 目が潤み、息もあがり、頬は赤らんでいる。

 汗が滝のように流れ、額に髪がべっとりと張り付いている。

 誰の目にも、長く高熱で苦しんでいたのだ、と分かる切なさだ。

 緊張した面持ちで、手首を取って脈診しつつ首筋を探っていた虚海は、不安そうに見上げてくる少年に、のほっのほっと笑いつつ、目を細めた。汗で濡れた額を撫でてやりながら、優しくいたわる。

「こらあ、辛かったやろ、よう堪えとったなあ、ぼん

 横たわった少年は、難儀そうに首を左右に振った。悪寒からか、真夏だというのにがたがたと身体が震えている。

「身体のふし(・・)の他に、どこぞ痛い所はないか? ん?」

 虚海の顔面に刻まれた簾模様に傷痕に慄きながらも、少年は、身振り手振りで喉が痛いのだと訴えた。

「熱は何時からや?」

「ちょっと前……2~3日位……」

 衿を緩めて脇に手を滑らせ熱の深さを探りながら、同時に、口を大きく開けさせ喉の奥を診る。その目が、ぎょろりと大きく動いた。

「そんな前からか!? 何で熱出した云うて、休まんかったんや?」

 虚海の剣幕に、少年はびくり、と身体を縮こまらせて目を伏せた。

「ちょっと、お爺ちゃん、そんな言い方したら駄目だよぅ」

 手桶に冷水を満たし、腕に晒をかけて、ぱたぱたとさんが駆け寄りつつ虚海を嗜める。

「言いたくっても、言えないんだよ、この子たちみたいな立場の子ってのはさぁ」

「は~ん?」

「お偉い様の言う通りにしなきゃ、食ってけないんだよ。生きてく為に、自分って奴を殺さなきゃやってけないのさ。何で分かんないの!?」

 虚海を勢いよくどやしつけながら、珊は手際よく、晒を冷水に浸して固く搾った。冷えた晒で額や首筋の汗を拭ってやると、やっと少年は表情を和らげた。ぎろっ、と珊に睨まれた虚海は、そら悪かったな、ぼん、と謝り、ペチ、と自らの額を叩く。


「お爺ちゃん、それでどうなの、この子? 随分熱が高そうだけどさ」

「ほやな、こら、予想通りかもしれへんで」

 え? と訝しむ珊の前で、虚海は、こらえらいこっちゃで、と珍しく表情を引き締めた。


 

 ★★★



 虚海に呼び出されて、真が施薬院に赴くと、熱を出しているのは少年だけでなくなっていた。

 使節団の末端にいる下男の中にも、発熱疼痛を訴える者がいたのだ。

 克が部下をやって、その男たちを戸板に乗せて施薬院に運び入れる処に、出くわした。


「おう、真殿。いよいよまずいぞ」

「はい、まだ鴻臚館で留まっていてくれれば良いのですが」

 克と共に虚海の元に行くと、くいくい、と指先を動かしてこっちに来い、と示してきた。遠慮をしている場合ではない。沓を脱いで縁側から、じりじりと膝を使ってにじり寄ると、がば、と首根っこに腕を回して捕まった。

「おわっ!?」

「おおっ!?」

「黙っとらんかな、真さんも、かっさんも。ちょっと、お二人に聞いときたい事があるんや」

 ぎりぎりと首を締め上げられて、うんうんと頷くしか方法がない。真と克は、虚海の意外な馬鹿力に辟易しながら、何度も首を縦に振る。

「お二人共、小童わっぱの頃に、熱病にかかった事はあるか?」

「熱病? それは、まあ……」

「はい、それなりに幾度も」

「ほんなら、もうちょっと細かい事、聞くで? ええか?」

 やっと首に回した手を離すと、虚海は、今度は手の平を見ろ、と手をひらひらさせてきた。

 不思議に思いながらも、真と克が素直に虚海の手の平に注目する。

 虚海は、皺と傷痕の刻まれた手の平に、酒で濡れた指先を走らせた。


 ――赤斑瘡あかもがさ


 書かれた文字に、真と克の顔に恐怖に近い緊張が走った。

「お二人共、やっとるか?」

「私は、3~4歳かそこらの時に済ませています。母にその時の騒動の顛末を、何度も聞かされていますので」

「ああ、私も真殿と同じ時分にやっているな」

「ほんなら、大丈夫やな。此れ(・・)は、一回かかってまったら、もう二度とならへんでな」

「虚海様、何故、その病だと思われたのですか?」

 さっき、担ぎ込まれてきたぼんがおったやろ、と言いつつ虚海は、瓢箪型の徳利を引き寄せた。

「あのぼんの喉の奥にな、独特の白いみたいなんが見えたんや」

「それだけで、分かるのですか?」

「禍国ではな、12~11年位前やな、いっぺん、王宮もひっくり返る大騒動になるほどな、大流行したけどな……覚えとるか、真さん」

「はい」


 その時の大流行は、真も覚えている。

 しかし既に赤斑瘡あかもがさかかっていた自分には病は素通りするので、真は呑気に構えていた。

 逆に、まだ羅患していない兄たちの為に、正室のたえは気狂か、と紛う程に慌てふためいた。真も、やれ祈祷師を呼んで来い、占い師を見付けてこい、薬師を引っ張ってこい、と2ヶ月近くも奔走させられたものだった。そのお陰でか兄3人は、あの大流行の只中であっても病に伏せることはなく、妙は大いに自分の功績を優に語っていた。

 べたべたと纏わりつかれては、鼻高々に言い立てられ続けた優は、心底嫌なそうな顰面をしたものだ。あの当時は、那国と組んで河国と戦うか、蒙国とも戦端を開くのか、との話も持ち上がっていた時節柄だ。それを思えば、優は疫病の蔓延で兵の確保が難しくなるのでは、と気を揉んでいた頃だ、当然ではある。


「そん時に皇子さんも、いの一番にかからはってな」

「戰様も?」

「儂が診たてしたし、治したんやで? 皇子さん以外に、何十人何百人と診察もしたしな。特徴は忘れへん。天帝はんに心の臓賭けて誓ってもええで。やけどな、ちぃっとばかし気になるんや」

「何が、ですか?」


「確かに赤斑瘡あかもがさやと思うんやけどな、今回、熱が高う感じるんや。喉の苔もいっぱい出とるし、身体の節々が痛い痛い、言うて泣きよる。赤斑瘡あかもがさであっても、今まで流行ってきた奴より、うんと症状がきつう(・・・)出る疫なんかもしれん。流行らせたらあかん」

「そんなに、症状が重いのか?」

「診たてたとこ、そう思うんや。ええもん食べて身体が出来とれば、赤斑瘡は確かに苦しい疫やが、養生をうまくすれば、助かる筈や。赤んやない限りな」

「赤子……は、矢張り危険なのですか?」

「熱の症状が長引くでな、体力勝負になるんや。やで、赤んの場合は悪うなったと思ったら一気に手遅れになりやすい」

「そ、そんな!?」

「せやけど、今回は何やらちゃうのや。こない大きなったぼんが、此処まで苦しんどるんはおかしい、同じ赤斑瘡やけど何かが少しちゃうのや。那谷坊なたぼうが帰ってきよっても、儂と同じ診たてを証言する筈やと思うで」

「しかし、そうなると心配なのは、先ず学陛下ですね。准后じゅこう殿下にお話を伺わねばなりませんが、この施薬院で働いている方々も、感染しないか心配です」

「いや、真さん。手伝うて呉れとる嬢ちゃんやふうさんら、つたさんの一座のお人らは、大丈夫や」

 えっ? となる真に、すまんことやなあ、と詫びを入れながら虚海は徳利を傾けた。

「もしかしたら、と目星付けた時にな、蔦さんにゃ話して聞いといたんや」

「そう……ですか」

 そんな予測は外れてくれた方が良かったな、と肩を落とす真に、すまんなあ、と虚海は的外れな謝罪をする。真が、事を知らせてくれなかった事を恨んでいるのだと思ったのだ。

 何度もぺこぺこと簾模様の入った顔を上下させる虚海に、真は慌てて手を振った。


「いいえ、とんでもありません。しかし、虚海様、食い止める事は可能でしょうか?」

「心配せんでええ。けどな、この先の事を考えたら、かっさん、あんたさんの部下のお人に先ず、聞いてまわらなあかんで」


「そうですね、更に関を完全に、厳しく封鎖するには、克殿の部下に頼らねばなりません。那谷が戻れば病の判定は確実になるでしょうが、もう其処まで待ってはいられません」

「薬の処方箋やら、対応の仕方やら、細こう教えなあかんな。邑に用意された施薬院への手紙は、こっちで考えとくわ。かっさんはおんまさんの用意頼むで」

「分かりました。今日中に、聞き取りを終える。真殿は、王城で陛下たちと協議を」

「分かっています」


 三人は頷きあう。

 真が王城に、克が鍛錬場に姿を消すと、虚海は施薬院の奥に向かって叫んだ。


「芙さん! おい、芙さん! ちょ、はよう! 手伝いに来たってくれんか!」


 虚海は徳利に残っていた酒を、一気に煽ると、ぽん! と背後に放り投げる。

 そして両の手で頬を、パン! と叩いて、気合を入れた。



赤斑瘡あかもがさ


赤斑瘡せきはんそうとも呼ばれているようです

古文書の記録から所謂、【 麻疹 】ではないか、と言われており、覇王の走狗でも、麻疹を想定した病気にしています

症状の出方なども、大体、麻疹にそったものになっております

が、過分に想像も混ざっておりますので

【 赤斑瘡あかもがさ= 麻疹みたいな感じの病気 】

と捉えていて下さると助かります……

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