戦闘準備
「凪様。まもなくつきます」
運転席のハイヤーが声をかける。
今日はデートの相手だ。
どうせ食事はコースだろうし、どこによるのでもデート代は女の子持ちだ。
僕はひたすら楽しませることを考えればいい。
全てが終わったときに相手が気分がよければいい。
僕の仕事はそれだけ。
この仕事を出会い系と勘違いするやからが多い。
でもそういうやつはクレームばかりだ。
自分が楽しむことを優先しちゃ駄目なんだ。
楽しんでもらえるのがうれしい。
そう、僕らはサービス業なんです。
ぶっちゃけ僕には食事を楽しむ余裕もないし、
組んだ腕の先にくっついてるであろう顔も関係ない。
お客様がバッグを触った瞬間に、僕はライタ-・ハンカチ・ティッシュの用意をするし
コートを脱いだ瞬間に香るようなフレグランスも、
客種に応じたものを選んでいたり
小物も靴も服もすべてがお客様を引きたたせるための道具だ。
僕自身がカスミソウになることでこの時間を楽しんでもらえたらいい。
天候やアクシデントやオプション(SEX なんてスパイスだ。
全ては最後の別れ際に「またあえるかな」って言わせるためのね。
車から降りて今日の客を待つ。
10月の寒くなりかけた心地よい風が僕を包む。
霞のかかった月が仕事終わりの客を僕のほうへ引き寄せる。
ドアを開けてシートに座らせる僕。
隣にかけた僕の手をとり頭を預ける彼女の疲れた肩をひきよせる。
客がハイヤーに行き先を告げた。
さて、戦闘開始だ。