02
今回は別の人視点です。
ちょっとした、回想的なお話になっています。
凶器になりえるものは時として、刃物や鈍器だけではない。
水や壁これも十分な凶器になるだろう、ただ、これらを使って人を殺すためにはそれなりの腕力が必要になる。
現在の状況で化学薬品を手に入れるのも難しくはないが、自分も巻き添えを食う可能性だってある。
ノーリスクハイリターンの凶器なんて無いと思っていたけど、この空間には意外と簡単なものがあった、人を押せるだけの筋力さえあれば簡単に殺せる、つまり、場外にさせること……。
ここの空間では外に出た者には『死』が与えられるわけで、自らが手を下すことなく、死に追いやることが可能な空間なんだ。
つまり、外の空間こそが凶器そのものなんだ。
俺はこれが知りたくて突き落としたわけじゃない……。
おそらく全校生徒が見ていただろう、あの銃撃は、俺がやったこと。
調子に乗って暴れていたら、たまたま、その子が端っこによろめいて、窓が開いていたことに、気が付かず、その子は、『無い窓』にもたれかかった……。
結果転落した。
さて、これが俺の犯した最初の罪、けど、ここの空間からでるには選んでいられないだろう。
生き残るために、大切な友達でも殺さなければいけない。
この時までは、まだ、正常だった俺の思考はだんだんとおかしくなっていった。
俺は、生徒会長だ……なのに、みんなの代表なのに、俺はそのみんなを殺さなければいけない。
いや、代表だから……みんなの代表だから俺が生き残るべきなんだ!
「は、ははは……あーはっははははは!」
どこかで思考が狂った。
正常な判断ができない。
俺は、まるで殺れと言わんばかりに近くにおいてあった重たいセロハンテープの台を手にして、何かをしゃべっている男子に向かって、重力に従って、その男子の頭部に思いっきりぶつけた。
ものすごい音がした、その子は血を吐いた、そして、倒れた。
どうしたことか、それが快感になってしまった。
今度は、その男子のものと思われるカッターナイフを手にして、教室の隅っこで固まって震えている集団を見つけた。
どうやら、俺に怯えているらしい。
それが、何ともたまらなかった。
俺は、セロハンテープの台を集団めがけて思いっきり投げつける。
固まっているんだ、誰かに当たった。
当たった誰かは頭から血を流して死んだ。
さらに怯える集団。
ただ、怯えれば怯えるほど、俺の快感と、狂った思考は増していくだけだった。
今の俺には殺していくのが楽しくて仕方なかった。
ありきたりなで繰り返しの日常から突然の非日常に変わったことが何より刺激的だったのかもしれない。
手に握っている、1本のカッターナイフでどれだけの人間を殺せるか、俺の思考は狂っていくばかりだった。
集団の前列にいた奴の頭をわしづかみにして、にやりと笑う俺、次の瞬間、カッターで右目を刺した……その子の右目から大量の血が流れる。
たまらなかった、ぞくぞくした、どうやら、その子は生きているようだったので、今度は首に突き刺した。
少しは動いていたみたいだけど、数秒で完全に止まった。
次にこの子を使って近くにいたやつと頭同士をぶつけてやった。
痛かったのか怖いのか、両手で頭を押さえていた……。
その子にはありとあらゆる脈を切った……。
予想をはるかに超える大量の血が流れた。
どれだけ殺したのだろう俺はあることに気が付いた。
誰も俺に反撃してこなかった。
それに気が付いた時、俺は正常な思考へと戻っていった。
どっちかっていうと、たぶん殺すことに萎えたんだろうな。
けれど、気づけば、クラスには1人の女の子しかいなかった。
たしか、西基さんだったかな……。
「俺は……間違ってたのかな?」
突き落とした後、初めてしゃべった気がする。
「……はい、平間戸さんは考えるべきだったんじゃないですか?」
怯えつつ喋っている彼女は自分が周りにいるクラスメイトみたいに殺さるんじゃないかと心配しているようだった。
怯えている彼女を見てあの時の快感が湧いてこなかったのは正常な状態の証だろう。
「そうだな、俺はもっと考えて行動するべきだった」
生徒会長なら、会長らしくするべきだったかもしれない。
「ありがとう、でも、俺はもう後戻りはできない、殺してしまったクラスのみんなの分も生きて行かなくちゃいけないだろう、俺はこのゲームで生き残ってみせるさ……」
それが、最後の言葉だと思った彼女は座り込んでギュッと目をつぶっていた。
「君だけは殺さない……決意したばっかりだけどさ、もし俺が死んだらその分も君に生きてほしいんだ」
彼女は疑っているようだった。
それは仕方のないことだった、クラスのほとんどを俺が殺したんだ信用してもらえなくて当然だった。
「ここから出て行くといいさ、誰かに会って殺されそうになっても、逃げきるか戦うんだ」
俺は彼女の居る反対側に行って腰を落とした。
すると、彼女はこの場から逃げ去るようにさっていった。
「――必ず、君は生きるんだよ……」