03
教室……誰もが絶望していた。
ああ言った僕でさえ、何をどうしていいのか分からない……。
しばらく沈黙が続く中、突然、学級委員長の小里生乃が喋りだす。
「私はみんなと生き残りたい……でも、私だけがそれを言ってても無駄だし、だからみんなの力を貸してほしいんだ」
まるで、西基さんみたいなことをこいつは言った……。
だから、僕は反発してやる。
僕は隣で悠長にどこにもつながらないはずの携帯を触っている金島の背後に立ち首元に持っていたナイフを突きつける……。
まるで、刑事ドラマで人質を取って「動くな!」みたいな姿勢をとる。
「僕は、そんなことは無理だと思ってる……第一、君がみんなを殺さないって保証はどこにある? 誰がみんなを信じると思う? 僕は少なくともこの状況で人を信じるなんて無理だ!」
そう言って僕は、突きつけていたナイフを一気に引く……。
金島の首からは鮮血が飛び散る……。
生まれて初めて僕は……人を殺した。
殺す寸前に金島が何か言っていたような気がするが、今の僕には聞こえていなかった。
「そ、そうだ……誰が殺さないなんて言える」
「結局、裏切るかもしれないじゃない……」
「ダメだ! もう終わりだぁああ!」
クラス中の人間が泣き叫び、そして、恐怖に落ちた。
誰も僕が金島を殺したことに関心を示さなかった、たった一人を除いて。
「なんで……なんで、金島君を殺したの! 弥仁君!」
「ふっ、ふふ、なんで? 君はバカか? 今この状況では、殺すのが当たり前なんだ、自分が生き残り外の世界に出るためにも! だから、僕は誰も信じない……全員殺して、僕は生き残ってやるんだあああああああああああああああああああああ!」
まるで、僕の咆哮が、スタートの雷管のようにクラス中で殺し合いが始まった……。
ある物はカッターナイフで、ある者はハサミで、さらには、窓側にいた人間を付き落とし機械に射殺させるもの。
殺し方は千差万別、クラスは一瞬にして血まみれになった……。
他のクラスもどうやら、殺し合いが始まっているらしく、学校中に多くの血が流れた。
今だに、金島の首を切った感触が忘れられない……。
僕は、後悔なんて考えないことにした……そして、腕の中にまだいた金島の死体を放り捨てて、次に殺すターゲットを探す……手に持っていたナイフは自然と僕の手になじみだしていた。
僕は目の前に立つ人間をナイフで首を一突きした。
金島を殺したときと同じ、首元から鮮血が飛び散った……。
返り血で僕の制服のカッターシャツはほとんど紅に染まっていた。
教室の隅っこで「やめて! やめて!」と叫ぶ学級委員長の声は悲鳴や笑い声で掻き消されてしまっていた……。
戦おうとしない彼女はまさに風前の灯だった。
別に、ここで見捨ててもよかったかもしれない、けれど、僕の足はすでに小里さんの方へと向かっていた。
誰もが正気じゃない、こういう悠長な考えを持つ奴以外は……。
そして、小里さんは囲まれた……ハサミ、カッターナイフ、針、バットが小里さんに向けられる。
「いやあああああ!」
僕は全員の首を斬る……血が飛び散る……そして、死ぬ。
「どうだい? これで分かっただろ? これが今の現実、夢や幻想ではなく紛れもない真実なんだ……君は僕が生きてる間は生き残らしてあげるよ、そして知ればいいさ、君らが言ったことは、この状況では通用しないってことを……さ」
きっと、西基さんはすでに死んだんじゃないか? それは、残念だな……僕はあの人にこそ現在を見てほしかったんだけど。
まあ、いいか……どうせ、あの人だって『今』に流されれば、結局人を殺すさ。
このゲームで生き残るなら『殺さず』は無理って話さ。
「私は絶対人は殺さない、だから、これだけは信じて……」
「信じるなんて言わない、裏切りはゲームの中で一番怖いからね」
こうして、クラス中の人間は僕たちを除いて全員死んだ。