変革の波 嵐の一夜8
シルヴィアは一心不乱に走っていた。
草木で顔や腕が切れようとも、つまずいて転んで足から血が出ようとも、かまわず走り続けた。
目指すは王城。
『お願い。間に合って!』
シルヴィアは薔薇のアーチをくぐると一旦立ち止まった。はあはあはあと荒くなった呼吸を整えると周りをうかがった。目の前には王城の入り口がある。ここは、もう王城の敷地内だった。シェファーズの王宮は政治を行い、尚且つ王の寝所がある王城と妃や姫たちが暮らす後宮とが別の建物にあり、その間には通路と迷路のように入り組んだ庭園がある。
シルヴィアはその庭園を突っ切って来たのだ。
オオオオオォォォォォーーーーー
遠くで兵士たちの声や鎧兜、剣がぶつかり合う音が聞こえる。恐怖で足がすくむ。ここは、王城の裏口付近。下仕えの者が使う扉が見えた。リリィアード軍の姿は見えない。シルヴィアはタイミングを計ると、一気に飛び出した。扉をすばやく開け、中に滑り込む。シルヴィアの心臓は爆発寸前のようにドキドキしていた。頭の中でここから王城内の地図を描く。
『ここは王城のはずれ、おそらく皆、謁見の間にいるはず。しかし、王城の中心部に向かえば、リリィアード軍と鉢合わせしてしまう』
シルヴィアは考えた。元々、剣を持ったこともなく、人と争うことも苦手なシルヴィアが一人で戦場を走り回るのは、とても無謀なことだ。運動が苦手で、足もそれほど速くはない。見つかったら終わりだ。
『そうだっ!』
シルヴィアは妙案を見つけた。リリィアード軍が絶対に知ることはない、見つけることができない道が一つだけあった。それは、リリィアードの王族のみが知る通路。
『謁見の間に通じる隠し通路を使おう!』
シルヴィアは祈りながらまた走り出した。
『死なないで!お父様!』