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変革の波 嵐の一夜5


『私、ここで死ぬの?』


シルヴィアは死を覚悟した。そうしたら、急に意識がふわっと遠ざかろうとする。死神がシルヴィアをあの世へと誘おうとしたその時。


「何をやってるんだ! 早く飛び降りなさい!」


突然乱入してきた誰かの怒鳴り声がシルヴィアの意識を現実の世界に繋ぎ止めた。シルヴィアは驚きとともに窓の下を見る。そこにいたのは一人の男性。シェファーズ兵士の鎧をまとっていた。


「でもっ!」


「大丈夫! 私が君を必ず受け止める! だから、早く!」


そうは言われても、彼がいるところまではかなりの距離がある。恐る恐る窓辺に足をかけるが、どうしても飛び降りることができない。


「さぁ、早く飛び降りるんだ!」


男の人は鎧を脱ぎ両手を広げ、シルヴィアを待つ。窓にかけた手も足も震え、背後からは火がバチバチといいながら近づき、シルヴィアに迫っていた。

一向に飛び降りないシルヴィアに再度男性が呼びかける。シルヴィアの体が恐怖で固まってしまっているのが、離れた距離からでも見て取れた。


「私を信じてくれ。君には傷一つつけないと約束する。勇気をだして。今から三つ数える。三つ数えたら飛ぶんだ!」


シルヴィアは青ざめながら大きくうなずく。


「いくよ。1、2、3っ!」


シルヴィアは目を瞑り、えいっとばかりに勢いよく飛び降りた。


ガシッ ドサッ


次の瞬間、青年はシルヴィアを抱きとめ、反動で後ろにひっくり返った。ハアハアハアと互いに息が荒い。心臓が早鐘を打つ。二人は、しばらく、そのまま動けないでいた。しばらくそのままでいたが、だんだん動悸の激しさも和らぎ、シルヴィアはそーっと目を開けてみた。目の前には広い胸板。シルヴィアの身体は見ず知らずの男性の胸に抱きしめられ、自分はその人にしがみついていた。自然と顔が赤くなる。青年の右腕はシルヴィアの腰を抱き、左腕は頭をかばっていた。


「大丈夫かい?」


青年はその問いにシルヴィアがコクンとうなずくのを見届けたのち、腹筋運動のように勢いよく上半身を起こした。


「きゃっ」


青年の腕の中にいたシルヴィアも必然的に身を起こすことになり、今度は、青年の膝の上に乗る格好となってしまった。これ以上は心臓がもたない。そう思ったシルヴィアは青年の胸元にすがりついたままだった手を放し、パッと立ち上がると、一歩下がり、彼に礼を言った。


「助けてくださって、ありがとうございます」


すると青年は立ち上がり、何事も無かったかのように先ほど脱ぎ捨てた鎧を身にまとい始めた。


「無事で何より。怪我はないね」


「はい。ありがとうございます」


何度も礼を言うシルヴィアの耳元で青年がささやいた。


「礼を言うのであれば、私の顔を見て、言ってほしいな。それとも私は、あなたにとって顔を背けたくなるほどの存在なのだろうか……」


「いえっ。そんなことっ……」


恥ずかしくて顔が上げられなかっただけで他意はない。そういおうとしてシルヴィアは青年の顔を仰ぎ見た。が、青年の顔を見たとたん、口と目を大きく開き、そのまま停止してしまった。彼は確かに顔を背けたくなるような顔をしていた。

ただし、醜いからではなく、その美しさと圧倒的な存在感によってだ。戦場ゆえに金髪は輝きを失い、その手も顔も砂埃で汚れていたが、そのような些細な点など気にならないほど、彼は麗しい容姿をしていた。彼がまとえばシェファーズの下級兵士たちに配給される量産品の鎧も王侯貴族が着る鎧と大差なく感じる。ほうけているシルヴィアを見て、苦笑いすると、彼はシルヴィアの手を取り、早足で歩き出した。


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