神の娘7
「わたしは、…この短い期間で後悔ばかりしたわ。何か行動を起こしていれば、こんなことにはならなかったのにと」
言葉遣いが変わった。先ほどまで敬語で話していたのに急にだ。イオルは何かを感じた。
「もう、そんな後悔なんてしたくない!」
そういうとシルヴィアは馬のたてがみを思いっきり引っ張った。ヒヒヒーンと馬がいななき、棹立ちになる。
「なっ!」
油断していたイオルは、馬の勢いに振り回され、後ろにひっくり返った。
ドサッ
「っ」
痛みにうめくイオルを申し訳なさそうに顧みたが、彼女はそのまま馬を駆り、走り去っていった。
「イオル様!」
突然のことに部下たちは、イオルに駆け寄る。
「イオル様。大丈夫ですか?」
そんな部下たちをイオルは叱責し、怒鳴りつけた。
「俺のことはいい! 姫を追えーー! ロンバルディアに向かった」
「はっはい」
「わかりました」
姫を追う部下たちを見送るイオル。そこにまだ一人残っていた。
「見事にやられたな~」
モシャスだ。
「で、どうするよ。お坊ちゃん」
おもしろそうにフフッと笑っている。してやられたイオルは不機嫌そうに馬上のモシャスを見上げる。
「姫を守る。それだけだ」
イオルはシルヴィアが消えた街道を見つめ続けるのだった。一方、シルヴィアは馬を駆り、ロンバルディアへ向かっていた。強い意志に導かれて。シルヴィアは馬に一人で乗ったことなど今までに一度もない。普通なら馬に振り落とされたり、自分の意思どおり動いてくれないこともあっただろう。だが、このときは違った。なにか普通とは違う力を感じていた。
『お願い。ロンバルディアへ急いで』
そう念じるだけで、自分の意思が馬に伝わるようだ。馬の走る速度が上がる。
『アスター様。アスター様。無事でいて。お願い』
シルヴィアは心の中でアスターの名を呼び続けるのだった。