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神の娘5


「おしっ。全員そろったところで、さっさとずらかろうぜ」


モシャスの提案に、イオルも賛成するかのようにうなずく。イオルに対するモシャスのぞんざいな言動と、それを許容するイオルの態度にシルヴィアは首をかしげた。


「あの、モシャスさんは一体……」


シルヴィアの戸惑いに、モシャスはガシガシッと頭をかきつつ、自らの正体を明かした。


「ああ、俺は間者なんだ。リリィアードのな。リリィアードのシェファーズ侵攻と前後して、ローザリオンを探っていたんだ。アスターの命令で」


『アスター』という名にシルヴィアは、イオルの方をすがるようにみつめた。


「イオル様。アスター様! アスター様は……」


緊張して声が震える。最後まで言葉を紡ぐことができなかった。聞きたいけれど、聞きたくない。そんな複雑な心理状態だった。

それを察したイオルは、シルヴィアの体を馬上に乗せ、的確に彼女の聞きたいことを話してくれた。


「アスターは生きていますよ」


シルヴィアは上から真摯なまなざしでイオルを見下ろした。


「それは、本当ですか?」


まだ信じられないようで、再度確認してくる。イオルもまた同じ答えを繰り返した。


「ええ。生きています」


シルヴィアの瞳から涙が溢れる。しかし、その涙はいつか見たことのある悲哀の涙ではなく、初めて見る喜びの涙だった。


「よかった。よかった。本当によかった」


全身から彼女の喜びが伝わる。だが、予想外の彼女の反応にイオルの心境は複雑だった。

あのとき以来自分の前ではもちろんアスターの前でも笑うことなどなかったシルヴィア姫が、こんなにもアスターが生きていることに対して喜ぶとは思わなかった。アスターが姫にしてきた仕打ちを考えると尚更だ。イオルは『もしや』と思った。そして、その予想は外れてはいないだろう。いいことだとは思えない。なぜなら、アスターはあの性格だ。シルヴィア姫が幸せになれるはずがない。心の中がもやもやする。出口の見えない迷路に入り込んでしまったような感覚だった。


「それで、お怪我のほうは……」


シルヴィアの声にイオルは揺れる心をすっと奥底に隠し、何事もなかったかのように話を続けた。


「はい。決して軽い怪我ではありません。本当なら絶対安静なのですが……」


そこまで言ってイオルは後悔した。ここへ来る前にアスターから口止めされていたのだ。


「イオル様。アスター様はベッドで治療を受けているわけではないのですか?」


不安そうなシルヴィアに言うべきかどうか考えあぐねていた。


「教えてください。イオル様。アスター様は今どちらにいらっしゃるのですか?」


『滅びたとはいえ自国のことだ。彼女には知る権利がある』


イオルはハッと息を吐くとシルヴィアに現在の緊迫した状況を語った。


「ローザリオンの軍が国境を越え進軍中との報告がありました」


あまりのことにシルヴィアは言葉を失った。


「ローザリオンはリリィアードの支配を良しとはしないシェファーズ軍の残党兵を取り込み、王女ディアナを旗印に進軍してきたのです」


「ディアナお姉さま……。お姉さまも軍に?」


「いや、彼女はいませんが、リリィアード軍をシェファーズから追い出したあと、入城しにくるはずです」


イオルの言葉にシルヴィアは納得した。兵士がやってくると怯えていたディアナが軍に加わるはずがないし、命の危険がある所にアルグリアがディアナをやるわけがない。


「それで、ローザリオン軍は今どこに」


「ロンバルディア平原です」


ロンバルディア平原。ローザリオンとの国境近くにある広大な平野。青々とした草原が広がり、民たちはそこに家畜を放ち生計を立てている。


「アスター様もそこに?」


「はい」


「あのお怪我で?」


「ええ。鬼神が負傷したと聞いて兵士たちの士気が落ち込んだのです。これで、戦にでないといことになれば、脱走するものも増えるのではないかと…。止めたのですが、アスターは強情ですからね」


その言葉にシルヴィアの意志は固まった。


「わたくしも行きます」


「えっ?」


イオルは我が耳を疑った。


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