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波乱の幕開け3


王宮では第一皇子が突然放り投げた爆弾発言をめぐり、すぐに緊急会議が行われた。


「どういうことですかな。アスター様! シルヴィア王女との結婚など、わしは今日初めて聞きましたぞ!」


今回の戦に付き従った老将軍が椅子を蹴倒さんばかりに立ち上がり、アスターに意見した。

そんな老将軍の様子とは正反対のアスターは足を組み、腕を組み、怪しい笑みを浮かべている。そんな不遜な態度に老将軍の額に青筋が立つ。


「聞いておられるのですか! アスター様!」


ドカッ


老将軍がその年に似合わぬ鋼鉄の如き拳を円卓に叩きつける。すると、拳型に卓の表面がへこんだ。拳がめり込んだ様を見た周りの臣下たちの顔は一斉に青くなったが、アスターは恐れることなく、冷静に口を開く。


「俺がシェファーズ王女を娶るのがそんなに気に入らないのか? それとも、シェファーズ王女は神聖リリィアード帝国第一皇子の妻には相応しくないと考えているのか?」


その言葉に老将軍の怒りのボルテージも少し下がる。


「いえ。そういうわけではございません。しかし、アスター様は第一皇子。あなた様の婚姻は国の未来を左右するほどの重大なもの。勝手に決められては困ります!」


将軍の言を聞いた臣下も皆うなずく。


「将軍のおっしゃることももっともです。しかも、シェファーズの民は基本的に大人しく、争いを忌避する傾向にあります。反乱や抵抗などの心配もほとんどないでしょう。そんな亡国の姫を娶っても得る利益はさほどありません。愛妾になさるなら、反対しませんが、正式な妻、正妃になさるのはどうかと……」


皆一様に賛同する。だが、アスターの反応は変わらない。フッと笑うと静かにつぶやく。


「甘い」


「はっ?」


側近くにいるアービスが聞き返す。すると、ゆっくり立ち上がり皆を見下ろした。


「甘いと言ったのだ」


その瞳は視線は氷のようだった。


「確かに、シェファーズは我らリリィアードの手に落ちた。それに、シェファーズの民は従順だ。リリィアードとの併合は問題ないだろう。だが、問題がないわけではない」


「問題」


「ローザリオンだ」


その場にいた者全員がアスターの言葉にハッとした。


「ローザリオンにはシェファーズ王妃アルグリアと第一王女ディアナがいる。おそらくこれから、ローザリオンが彼女たちを擁し、正統性を主張してくるだろう。ローザリオンにシェファーズの正統な王位継承者がいる以上、我々もそれに対抗しなければならない」


「その対抗手段がシルヴィア王女だと?」


老将軍が聞く。アスターは無言で肯定する。

老将軍が再度口を開こうとしたところへ別の声が割って入った。


「しかし、シルヴィア王女は第二王女。継承権は第二位。正統性では向こうが上では?」


アスターの双子の弟イオルだ。

イオルは挑むような強い瞳でアスターを見つめる。


「ははははは」


アスターは笑う。その場に似合わぬ反応に皆注目する。


「それが、そうでもないんだよな」


勝ち誇ったかのようにアスターはイオルを見る。


「どういうことですか?」


もったいぶったようにアスターは口を開く。


「俺は、ここ数日、シェファーズの法典から王位継承に関する記述をさらっていた。そこに興味深い記述があった」


すると、アスターは背後に控えている侍従に合図する。侍従はあらかじめ持ち込んでいた分厚く巨大な書物をアスターの前に置く。アスターはその本を手で支え、ある部分を指で指し示した。小さい字なので遠くの臣下には見えない。そこで、アービスがその記述を読み上げる。


「王位は、第一に血筋を重んじる……」


周りはとても、静かだった。アービスが読み上げた内容はこうだ。


―― 王位は第一に血筋を重んじる。正妃に男子なくば女児が王位を継ぐべし。正妃に子がなくば第二妃の男子が継ぐべし。第二妃に男子なくば女児が継ぐべし。――


アービスの言葉を聞いていた者すべてが絶句する。アスターがにやりと笑う。


「どこにも書いていないだろう? 長幼の順については」


イオルがアスターの言葉の真意を説明する。


「つまり、先の正妃の姫君であるシルヴィア様にもディアナ姫と同等の権利を有しているということですか?」


アスターは笑みを深くする。その意地の悪い笑みにイオルは驚く。


「他にも、何かあるのですか?」


こういう反応をしているとき、アスターは必ず何かを隠し持っているのだ。ゴクッと誰かが唾を飲み込む音が聞こえる。


「法典に書かれていたようにシェファーズでは血筋が重んじられる。長幼の順と後ろ盾、宮廷内の権力という点ではシルヴィア王女はディアナ姫には勝てない。だがシルヴィア王女はある一点だけ、ディアナ王女に勝っている点がある」


ここまでお膳立てされてアスターが何を言いたいのか分からない人間はいなかった。


「シルヴィア王女はディアナ王女より正統な血筋なのだ。実は、シルヴィア王女の母上の生い立ちを調べたんだ。皆もおかしいと思わなかったか? リリィアードの王室とも縁遠い、片田舎の貧乏貴族の姫をなぜ正妃に選んだのか。誰が見ても、ローザリオンきっての名家の出であるアルグリアの方が正妃にふさわしい。なのにだ。しかし、何よりも血筋を重んじるシェファーズならその理由はわかる。シルヴィアの母上は先の国王の姪だからだ」


誰も二の句がつげなかった。そんな話は聞いたことがない。初耳だった。イオルも例外ではなかった。


『そんなばかな。シェファーズについて私も調べたがそんな情報は一切上がってこなかった』


みんなの驚愕に満ちた反応を満足そうにアスターは眺める。


「知らなくて当然。このことを知っているのは、ソレンド男爵と夫人と皇帝陛下のみ。この情報は今日皇帝陛下からもたらされた」


その事実に一同絶句した。


「つまりシルヴィア王女が真の王位継承者だ」


アスターは会議に出ていたものすべてに宣言した。


「とりあえず明日、姫と結婚式を挙げる。理由は、言わなくても分かるな」


ローザリオンがいつ動くか分からない以上、先手を打っておくということだ。


「異存は?」


アスターの言葉を合図に、臣下は膝をつき、アスターに最上級の礼を示した。

そうイオル以外は……。


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