表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/43

目覚めの朝5


アスターが執務室に戻ると、そこには副司令官のアービスの姿があった。入ってきたアスターの常ならぬ雰囲気に心配そうに尋ねた。


「アスター様。何かあったのですか?」


アービスの言葉にハッとするが、瞬時に動揺を消し、冷静に対処する。


「いや。なんでもない。ところで、シェファーズ国民の様子はどうだ?」


「特に問題は起きてはいないようです。大半の民が素直に我々に従っておりますが……」


アービスが言いよどむ。


「なんだ? はっきり言え」


「特に気にすることはないと思うのですが、シェファーズ近衛軍の将校数名が姿をくらまし、行方がわかりません」


「そいつらの扇動で反乱が起こる可能性があると?」


「ないとは言い切れません」


アスターは、少し思案すると、アービスに指示を出す。


「確かにな。一応、警戒しておけ」


「分かりました。引き続き、行方を追います」


「それから、あれを実行する。今すぐふれを出せ。明日、王都に住む民は王宮前に集合しろと」


「はい。ただシルヴィア様が承諾なされるかどうか……」


「問題ない。それに関しては手を打っておく。ところで、ローザリオンはどうだ?」


アービスは困ったように眉を下げる。


「それが、これといった情報があがってこないんです」


その言葉にアスターは眉をひそめる。


「何もなければ、それにこしたことはないが……。不気味だな」


「ええ。アルグリア王妃とディアナ王女を擁するローザリオンがこのまま引き下がるとは思えません。必ず占領して間もない今を狙うはずなのですが……」


アスターも同感だった。ローザリオンが動かないはずがない。


「あいつに連絡はとれたか?」


「はい。マルリオーザ侯爵家を探るそうです」


「そうか。なら、あいつの報告を待つしかないな」


「そのようですね」


「明日の準備は任せたぞ」


「はい。わかりました」


アービスは敬礼すると、退室していった。アスターは、はあと一息つくと拳を振り上げ、ドンッと机を殴りつける。

脳裏には先ほど別れたシルヴィアの顔が浮かぶ。シルヴィアの名を大声で叫んだとき、アスターは自分自身に驚愕した。あのときの胸の痛みは、恐れから来る痛みだった。シルヴィアがどこかへ行ってしまう。そう思ったら、とっさに名を呼んでいたのだ。

イオルが贈ったなずなの花束を見た瞬間から、わけのわからない感情がアスターを振り回していた。許せなかった。なずなの花を贈ったイオルではなく、その花を見つめ続けるシルヴィアが……。

シルヴィアの心に自分以外の者が入り込むなど、到底許せるものではない。そう思った。

シルヴィアの心からイオルを消す。そのためにシルヴィアを抱き、シェファーズ国王の墓に連れて行ったのだ。こんなことは初めてだ。女のために何かするなど。鬼神ともあろうものが女の顔色をうかがうようなことをするなど。

そして、鬼神が何かに恐れを感じるなど。

このときアスターは必死に自分を取り戻そうとしていた。


「俺は鬼神だ。人じゃない。鬼なんだ。愛だの、恋だのという感情はない。恐れなどもない。それにあの女は俺のもの。あいつの顔色をうかがう必要などない。利用できる者はとことん利用する。利用価値があるからそばに置く。ただそれだけだ」


そう自分に言い聞かせ、ある計画を実行することに決めた。


『たとえ泣き叫んでも、抗おうとも、どんな手を使ってでも従わせる』


その決意を胸にアスターは動き出すのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ