変革の波 嵐の一夜12
「下ろして! 下ろしてよ!」
シルヴィアは大声でわめき散らし、アスターは右腕に漆黒の大剣を左肩にシルヴィアを担いだ状態で颯爽と歩く。回廊にはシルヴィアの声とアスターの靴の音だけがこだましている。アスターは目的の場所にたどり着くと、勢いよく足で扉を蹴り飛ばした。中に入ると、シルヴィアの体をベッドの上に乱暴に放り投げる。
「きゃっ」
シルヴィアの身体はベッドの上で跳ね、アスターはベッドの上に身を乗り出す。シルヴィアはすかさず身を起こし、彼を睨み付けた。すると、彼は笑っていた。口の端だけを持ち上げ、笑っていた。そんなアスターにシルヴィアは我慢ならなかった。娘の目の前で、その父を殺したことに、微塵も後ろめたさを感じていない彼の反応に。シルヴィアは自分のその怒りと憎しみを自らの手に込め、近づくアスターの左頬を力いっぱい叩いた。その勢いでアスターの顔は横を向く。
「ハアハアハア」
シルヴィアの荒い息遣いだけが木魂する。1拍の後、黒い瞳から放たれた一筋の刃のような視線がシルヴィアの心臓を貫いた。
ゾクッ
その眼差しに射抜かれ、シルヴィアは氷の彫像のように、動けなくる。
「あっ」
恐怖に震え、言葉をなさぬ声が漏れた瞬間、アスターの手がシルヴィアの身体を引き倒し、片手でその場に押さえつける。そして、シルヴィアの顔の脇を黒い塊が通り抜けた。
ドカッ
一瞬の出来事だった。
シルヴィアの髪が数本犠牲になり、ベッドに銀糸の髪が散らばる。シルヴィアは、指先すら動かすことができず、固まっていた。目の前に突き立てられたのは父王の命を奪ったあの漆黒の大剣。その刃には血がこびりついたままだった。あまりの恐ろしさに声も出ず、シルヴィアはただただ震えるばかり。
シルヴィアの体を押さえつけていたアスターの手が動く。アスターはシルヴィアの胸元を両手で握り締めると、左右に思いっきり引っ張った。ビリッとドレスが破れる音がする。
シルヴィアは恐怖におののきながら、からくり人形のようにゆっくり、そしてぎこちなくアスターの顔を仰ぎ見た。何の感情も見えない冷たい顔。絶対零度の瞳。シルヴィアの首筋をなでる手袋に覆われた冷たい手。頭からつま先まで黒一色のアスターは、まるで彼が手にする剣、そのもののようであった。触れれば切れる。そんな抜き身の剣のような…。抵抗する力を失い、ベッドの上に投げ出されたシルヴィアの体を見下ろしながら、アスターは鎧を脱ぎ捨てた。手袋を放り投げ、ブーツを脱ぎ捨てて…。
シルヴィアはその様を黙って見守ることしかできなかった。アスターの上半身が徐々にシルヴィアの体に近づいてきた。アスターの手が彼女の衣服の下に潜り込む。
「・・・・何をするの?」
そのアスターの手の動きが一体何を意味するのか、シルヴィアには全く理解できなかった。
シルヴィアに、その方面の知識がないことが今の一言でアスターにはわかった。フッと暗い笑みを浮かべるアスター。
「おもしろい」
そう静かに言うと、アスターはシルヴィアに襲いかかった。残ったドレスを引きちぎられ、シルヴィアの体は嵐にあったかのように翻弄された。
「何? やっ。いやっ。やめてっ。やめてっ」
シルヴィアの口から漏れる弱弱しい懇願は、アスターの嗜虐心を煽るだけだった。
そしてアスターはシルヴィアの体を勢いよく貫いた。体がバラバラになるような痛みにシルヴィアは目を見開いた。
「かはっ」
シルヴィアの口からは言葉にならない悲鳴が聞こえる。そんなシルヴィアの反応にアスターは満足そうにしていた。容赦なくシルヴィアの体を激しく揺らし、翻弄していった。
「あっ。いやっ。いやっ。やめてっ。もうやめてっ。おねがい」
シルヴィアの瞳から涙が零れ落ちる。
しかし、アスターの動きは激しさを増していった。シルヴィアが泣けば泣くほど酷くなっていく。シルヴィアにとって、その時間は拷問のようなひと時だった。
「いや。やめて。やめて。いやーーーー!」
「くっ」
シルヴィアの一際大きな悲鳴を聞いたとたん、アスターの顔がゆがむ。
「あーーーーー!」
そして、シルヴィアの体が弓なりにしなると、アスターの腕が腰を抱き、彼の腕にきつく抱きしめられた。だが、シルヴィアにはそんな些細なことに気づく余裕などありはしなかった。目の前に火花が飛び散ったような感覚が襲い、シルヴィアの精神は持ちこたえることができず、そのまま、シルヴィアはアスターの腕の中で意識を失う。
「ふはははははは。あーっはっはっはっはっ」
そして、アスターはシルヴィアを抱きしめながら、勝ち誇ったかのように笑った。
『シェファーズ国王。冥途で見ているがいい。お前の大切な娘が俺に汚され、堕ちていく様を』
そして姫君は捕らわれた。
漆黒の鬼の腕の中に。