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「お黙りなちゃい!」転生した悪役令嬢は幼児語が抜けない 〜幼女で暴君を目指したら、なぜか聖女と勘違いされて溺愛されています〜

作者: 天地サユウ
掲載日:2026/03/04

新作です。

「覚えておきなさい! お前たち、王家の無知が招いた愚かな行為を、私は死んでも忘れないわ! 必ず……必ず復讐してやるわ!」

 

 断頭台の刃が振り下ろされる瞬間まで、私は群がる民衆と愚かな王族たちを睨みつけ、最期まで誇り高く、そして優雅に散った。

 

 かつて『断罪の狂花』と呼ばれた初代悪役令嬢、エリザベート・フォン・ローゼンブルク。

 数百年の時を経た今、伝説と化した彼女が、何を隠そう他ならぬ私である。

 

 信じていた者たちに裏切られ、愚民どもに石を投げられ、断頭台で華々しく散ったあの日を、私はたった今、思い出した。

 

 私を殺した王家、嘲笑った民衆、この世界そのものが私の復讐の対象だ。

 すべてを絶望の淵に叩き落とし、血の雨を降らせてやる。


 それが、公爵令嬢ヴァレリア・フォン・アルジェント(五歳)として転生した私の、ただ一つの目的である。

 

 ◇

 

「身の程を知りなさい! 貴女のような平民が、この場にふさわしいと、本気で思っているの!?」

 

 王城の美しい庭園で開かれたお茶会。

 アナスタシア王国の悪役令嬢と名高い、伯爵令嬢アリッサ・フォン・アイゼンベルクが、平民のミーナ嬢を壁際に追い詰めた。

 

 その光景を呆れながら見つめる私。

 私は頭を抱えて嘆く。

 

 浅はかだ。あまりに浅はかすぎる。

 あのような、ただ喚き散らすだけの小娘が悪役令嬢? 私からすれば、三流の小悪党もいいところだ。

 

 真の悪役たる格の違いを見せつけてやろうと、私は堂々たる足取りでアリッサの前に進み出る。

 

「……これは、ヴァレリア様。な、何か用でもあるのかしら? 今は大人の話をしていまして――」

「お黙りなさい! 貴様のような愚民が生意気にも程があるわ!」

「……え?」

 

 第一声から冷酷無比な暴言。

 私は完璧なる悪役ムーブを決めた。

 アリッサは目を丸くしたあと、燃えるような赤い瞳からボロボロと涙をこぼし、その場に両膝をついた。

 

(ふん、この程度で泣くなんて、やはりこの時代の悪役令嬢は所詮その程度ね。これも長きに渡る平和が続いた産物か)

 

 しかし、私の考えとは裏腹に予想外の言葉が返ってくる。

 

「『お黙りなちゃい』……? ヴァレリア様は、まだ五歳だというのに一生懸命背伸びをして、あえて悪役を被り、私を正そうとしてくださったのですね? あぁ……ヴァレリア様。このアリッサ、生涯あなた様に忠誠を誓わせていただきますわ!」

「……はい?」

 

 なぜだ? なぜ、突然そうなる?

 意味が分からない私が戸惑っていると、騒ぎを聞きつけた少年が駆け寄って来た。

 私の婚約者である、第一王子ルーファス・フォン・オーレライ殿下だ。

 

 その顔を見た瞬間、私の中のドス黒い憎悪が激しく燃え上がった。

 金糸の髪に、見下すような青い瞳。

 この男は、前世で私を断頭台に送った憎き王太子と瓜二つなだけでなく、忌まわしい名前すらも同じなのだ。

 

 彼と私には十もの年の差があるが、私が生まれたばかりの頃、顔を見に来た当時十歳のルーファスが、運命を感じたそうだ。


「なんて可愛いんだ!? 決めたよ! この子を、僕のお嫁さんにするね!」


 そう、無邪気に言ったそうだ。

 王家との強固な結びつきは、公爵家にとってこの上ない名誉。両親も国王陛下も大喜びで賛成し、当の私(赤ん坊)の意思など問われることなく、強制的に決まった政略婚約。

 よくある話ではあるが、私は認めない。

 十五歳にもなって、温室から出たこともないような者男なんて虫酸が走るほど甘い。

 こんな男など、ただの復讐の的でしかない。

 

「殿下も、このような幼稚な騒ぎ一つ収められないとは、王族である以前に男として未熟すぎるわ! 本当に情けない! 腑抜け王子など、この私に相応しくないわ!」

 

 これぞ完璧な追撃。

 殿下のプライドも粉々のはずだ。

 しかし、彼は熱を帯びた瞳で私を見つめ、陶酔したように頬を染めた。

 

「『ふしゃわしくないわ』だと……。あぁ……舌足らずで、なんて可愛いのだ!」

「……はい?」

「自らの至らなさに甘んじる僕をわざと悪ぶり、一生懸命に叱咤激励してくれたんだね? ヴァレリア、君のその気高く不器用な優しさに、僕は心から惹かれているんだよ」

「え……?」

「僕の生涯をかけて、君を愛し抜くことを許してほしい」

 

 ルーファスは感極まった様子で私の小さな手を取り、額を押し当てて忠誠の誓いを立てた。 

 周囲を取り囲む貴族や令嬢たちも、「なんという美しい愛の形だ」「まだ幼いのに殿下を導かれるなんて……」と、涙ながらに温かい拍手を送っている。

 

 ――違う。

 私はただ、完膚なきまでに罵倒しただけだ。

 伝説の悪役令嬢たるこの私が、なぜ、こんなにも甘ったるい空間の中心で溺愛されてしまうのだ。

 

「なぜだ? なぜ、こうなった……」

 

 ◇

 

 王城から屋敷に逃げるように帰った私は、ダイニングテーブルで突っ伏していた。

 

「もう、最悪でちゅわ……って、でちゅわじゃないのよ!」

 

 まだ五歳だからか、幼児語が抜けないとは片腹痛いにも程がある。

 だが、私はあきらめない。

 手始めに、このアルジェント公爵家から、恐怖のどん底に叩き落としてやる。

 

「ヴァレリアお嬢様、夕食の準備が整いました」

 

 使用人たちが恭しく運んできたのは、琥珀色の美しいコンソメスープ。

 私は即座に立ち上がり、スープ皿を両手で掴む。

 

「こんなゴミみたいなスープ、犬も食べないわ!」

 

 言葉がダメなら行動で示すまで。

 私はスープ皿を床に激しく叩きつけた。

 ガシャンッと甲高い音が響くと同時に、琥珀色のスープが絨毯に染み渡る。

 

(さあ、私の理不尽さに震え上がるがいいわ!)

 

 しかし、スープが触れた絨毯が不自然に変色し、突如として、ジュウッと不気味に泡立ち始めた。

 

「こ、これは毒だわ……!? まさか、スープに毒が盛られていたなんて!?」

 

 メイド長が青ざめながら悲鳴を上げた。

 その場にいた使用人たちの視線が、呆然と立ち尽くす私に集まる。

 

「『ゴミみたいなしゅ〜ぷ』と仰りながら、お嬢様は食材に盛られた毒をいち早く察知されたのですね!」

「わざと癇癪を起こして器を割ることで、私たち全員に確認させて、毒牙から救ってくださったのですわ!」

「本来なら毒見役や料理長が処刑されるところを、お嬢様がわざと悪役を被って、責任をうやむやにしてくださるなんて……ううっ、なんて、お優しい方なの!」

「「「ヴァレリア様! 我らの命、お嬢様に捧げさせていただきます!」」」

 

 屋敷中に響き渡る熱烈な忠誠の誓い。

 床に額をこすりつけ、感動の涙を流す使用人たちを前に、私は天を仰いだ。

 

「なぜだ? またしても、なぜ、こうなるのだ……」

 

 伝説の悪役令嬢たる私の絶望の呟きは、使用人たちの狂信的な歓喜の声にかき消されていった。

 

 ◇

 

 この時代の王都は狂気に包まれている。

 王城の者たちも、我が家の使用人たちもそうだ。  皆、頭がおかしくなっているとしか思えない。

 これも数百年という平和の年月がもたらした、血の劣化と精神の退化なのだろうか。

 

 私は息が詰まるような溺愛空間から逃れるため、父である公爵に頼み込み、アルジェント家の辺境領地へとやってきた。

 

 数日間にわたる馬車旅を経て辿り着いたその場所は、王都の華やかさとは無縁の荒涼とした大地だ。

 

 窓から見える景色は、どこまでも続くやせ細った農地と、今にも倒れそうな古びた家屋ばかり。

 すり切れた衣服を身に纏い、疲労困憊しながら土を耕す領民たちの姿があちこちに見える。

 

 噂によれば、この領地は長年の天候不順により、慢性的な貧困と重労働に喘いでいるらしい。

 

 ――素晴らしい。

 実に素晴らしい環境ではないか。

 かつて、私が処刑される時、歓喜していた愚民どもの末裔がここにいる。ここで領民から徹底的に搾取し、血を吐くまで働かせ、地獄の苦しみを与えてやる。

 

 王都での忌まわしい聖女扱いなど消し飛ぶほどの、恐怖の独裁政権を築き上げるのだ。

 

 ◇

 

 領主の館に到着した翌日。

 私は領地の政務を取り仕切る代官や文官たちを広間に集めた。

 

 集まった男たちは、皆一様に目元に濃いクマを作り、ひどく痩せこけている。

 わざわざ王都から視察にやってきた私を、侮ったような、あるいは面倒事に巻き込まれたとでも言いたげな目で見下ろしていた。

 

(ふん、ちょうどいいわ。その愚かな目を見開かせて、底知れぬ恐怖を刻み込んでやるわ!)

 

 私は豪奢なソファに傲慢にふんぞり返り、分厚い書類の束を、テーブルに力いっぱい叩きつけた。

 

「よく聞きなさい! 明日からこの計画書通りに、休むことなく馬車馬のように働くのよ! 領民どもから骨の髄まで搾り取りなさい! おーほっほ!」

 

 冷酷無比な搾取宣言。

 私は再び完璧なる暴君ムーブを決めた。

 書類の内容は、前世の記憶を頼りに書き上げた『過酷な労働計画書』。

 

 休耕地をなくし、一年中土地を休ませることなく、四種類の作物を強制的に植え続けさせる。さらに、無駄に複雑な水路を新設させ、農民たちに終わりのない土木作業を強いるのだ。

 今まで通りのやり方を根底から覆される、理不尽極まりない嫌がらせに他ならない。

 

(さあ、私の無慈悲な命令に震え、絶望の声を上げるがいいわ!)

 

 代官はビクッと肩を震わせると、恐る恐る計画書を手に取った。

 

「『搾り取りなちゃい』……ですか?」

 

 クソッ、まただ。

 威圧的な命令が、気の抜けた幼児語に変換されてしまう。

 これでは伝説の悪役令嬢も名折れだ。

 私が内心で盛大に舌打ちをすると、計画書に目を通していた代官の目が、みるみるうちに驚愕に見開かれた。

 

「いや、これは、まさか農地を四つに分けて順番に作物を育てろということか!? 確かに、これなら土地の養分が偏らず、休耕地を作る必要がない! さらに極めつけは、この水路の配置図だ! 自動で畑の隅々まで水が行き渡る計算になっている! 最も過酷な水汲み労働まで無くなりますぞ!」

「……はい?」

「我々はこれまで収穫量を減らし、毎年のように冬の飢えに耐えてきた。しかし、この計画書があれば、領民は飢えることなく、労働時間まで半分以下になります!」

「……これは凄い! この乱雑に見える青い線は、地形の起伏を完璧に把握した緻密な計算式だぞ!?」

 

 代官たちのただならぬどよめきに、私は内心で首を傾げた。

 

 おかしい。明らかにおかしい。

 私が覚えているのは、休む間もなく作物を植えさせ、無駄に複雑な水路を作らせたという、かつて自らが周囲に強いた悪行。

 だからこそ、前世と同じ嫌がらせをして領民を苦しめ、確固たる悪名を得ようとした。

 

 そこから導かれる答えは、実は当時の私がやっていたことは悪逆非道などではなく、計算された『ホワイト改革』だったとでもいうのか?

 

 私のエリザベートの記憶は、肝心な部分が抜け落ちているかもしれない。

 そうであるならば、非常にまずい。

 このままでは復讐ができないではないか。

 ――いや、まだだ。ここで諦めては『断罪の狂花』の名が廃る。

 私は、再び彼らに無理難題を突きつける。

 

「休む暇など与えないわ! その辺に生えている雑草でも三日三晩煮詰めて、高く売り払って私に貢ぎなさい!」

 

 農作業が減るのであれば、無意味かつ無理難題な重労働を課すまでだ。

 領地の至るところに生い茂る、赤黒い雑草の群生地。

 牛や羊の家畜でも絶対に食べない毒草。

 領民たちが毎日汗水垂らして刈り取り、ただ燃やすしかない厄介者のゴミを、三日三晩煮詰めるだけでなく、「高く売ってこい」という理不尽極まりない命令。

 

 これなら間違いなく、強欲で残酷な暴君として、悪名が轟くはずだ。

 しかし、代官は書類から顔をバッと上げ、信じられないものを見るように私を見つめた。

 

「『みちゅぎなしゃい』!? 『三日三晩煮ちゅめる』!? ……はっ! まさか、あの厄介な毒草――ルミナ草の真の価値にお気づきで!?」

「……はい?」

「この辺境を行き交う隣国の商人が昔言っておりました。隣国で蔓延する流行り病の特効薬は、ルミナ草を三日三晩煮詰めて分解した成分なのだと! 我々はあの時、怪しい行商人の戯言だと思いすっかり忘れておりましたが……それを隣国に輸出できれば、確かに莫大な富になるのは間違いありませんな!」

「……はい?」

 

 代官は震える手で『労働計画書』を掲げ、高らかに声を上げる。

 

「皆様、お気づきか! お嬢様はあえて厳しい言葉を使い、我々に自立の道を示してくださったのだ! 飢えをなくす画期的な農法ばかりか、病を癒やす特効薬と莫大な富を生む産業まで同時に授けてくださるとは!」

 

 「おおおっ!」と文官たちはその場で歓喜し、私に深く平伏した。

 

「なんという深き御心! 年端もいかないというのに、これほどの救済策をもたらしてくださるとは! あなた様は、我らに遣わされた救済の聖女様だ!」

「「「我らが聖女様に永遠の祝福を!!」」」

 

 広間に響き渡る、熱狂的な大合唱。

 誰もが私を崇拝の眼差しで見つめ、中には感動の涙を流して両手を組んでいる。

 

 ――違う。

 私はただ、独裁政権を敷いて徹底的に搾取し、理不尽な嫌がらせをしようとしただけなのだ。

 私が、なぜ過酷な労働計画で『超絶ホワイト改革』を成し遂げ、ただの暴言で『莫大な富を生む新産業の創出』に繋がっているのだ。

 

「なぜだ? いつもいつも、なぜ、こうなるのだ……」


 私の絶望に満ちた小さな呟きは、広間を揺るがす彼らの歓喜の声に、かき消されていった。

 

 ◇

 

 数ヵ月後。

 領地の視察に出た私の乗る馬車は、「「「我らが聖女様に栄光と祝福あれ!」」」と、花吹雪を撒き散らす領民たちの大歓声に包まれていた。

 だが、事態はそれだけではない。


「聖女様! どうか将来は我が家の自慢の息子をご伴侶に!」

「なっ……!? 抜け駆けはずるいぞ! 聖女様、うちの息子の方が、よっぽど器量が良いですぞ!」

 

 村長や有力者たちが、これ見よがしに顔だけは無駄に整っている息子たちを、馬車の前に連れてきては、血走った目で婚姻を迫ってくる始末だ。

 

「あぁ……聖女様、なんて神々しく愛らしいお姿なのでしょう。どうか、この僕をあなた様の忠実な犬としてお傍に置いてください!」

「いいえ、僕の愛こそが本物です! 聖女様、僕の生涯をかけて、あなたを愛し抜くことを誓います!」

「いや、俺だ! 俺こそが聖女様に相応しいのだ! どうか、この俺をお選びください!」

「「「聖女様!」」」


 当の本人たちまでも、親に無理やり連れて来られたのかと思いきや、熱を帯びた瞳で求婚してくる始末。

 初対面、かつ五歳の幼女に対して、この時代の者たちは、やはりどうかしている。

 

 恐怖の支配者になるつもりが、狂信的な崇拝と重すぎる愛を向けられている。

 それに、王都よりも狂信の度合いが悪化しているのは気のせいか。


 私は馬車の窓枠に手をつき、花吹雪の舞う空に向かって、深く、深く、絶望の溜め息を吐いた。

 

 結局、過酷な労働を強いたはずの農地は、休耕地をなくす手法として、今では『四輪作法』と呼ばれ、劇的な豊作を迎えた。

 さらに領民を苦しめるはずだった水路建設は、重労働を永久に消滅させ、嫌がらせで煮詰めさせた毒草は、隣国で飛ぶように売れる特効薬の原料となった。

 

 結果として、私は『聖女』として他国にまで轟くこととなった。

 

 ◇

 

 領地での隠居生活では失敗に終わった。

 狂信的な領民たちから逃げるように王都へ帰還した私を待っていたのは、さらなる地獄だった。


「あぁ、ヴァレリア。君がいてくれるだけで、僕の世界は光で満ち溢れるんだ」

「ヴァレリア様! 本日も尊いですわ!」

「「「我らが聖女様!」」」

 

 どこへ行っても、何をしても、私の振る舞いはすべて『善行』として解釈され、全方位から重すぎる溺愛となって私を締めつけていた。

 これ以上の勘違いに耐えかねた私は、ついに重大な決断を下す。

 

 事の発端は、領地へ向かう前に王城で過ごした忌まわしいお絵描きの時間だった。

 私が憂さ晴らしに描いた『断頭台』の絵。

 それがなぜか『神聖な祈りの祭壇』と勘違いした王族が、王都の中央広場に巨大で禍々しい実物を建造させてしまったのだ。

 

 私にとってこの上ないほど好都合だった。

 今度は私があの刃を使い、私の死を喜んだ者たちを処刑してやろうではないか。

 

 完成を知らせるお披露目の鐘が鳴ると、広場には数え切れないほど民衆が押し寄せた。

 

「どうかな? 君の描いた通りの祭壇になったかい?」

「あのような立派なモニュメントまで建造されて、私、胸が高鳴りますわ!」

 

 最前列で期待に目を輝かせるルーファスやアリッサたちを見下ろし、私は断頭台の真下に立った。

 さあ、世界に向けて最悪の宣戦布告を行う時だ。

 私は大きく息を吸い込み、冷酷無比な声で叫んだ。

 

「愚かな者たちよ! この世界は私のものよ! 私に逆らう者は、この断頭台の露と消えなさい!」

 

 極悪非道な暴君の宣言。

 さあ、怒れ。私に罵声を浴びせ、憎悪の眼差しを向けるがいい!

 しかし、最前列にいたアリッサが、両手で口を覆いながら悲痛な叫びを上げた。

 

「『つゆと消えなしゃい』……? おおおっ! なんという、お痛ましい!」

「……はい?」

 

 クソッ、まただ。

 だが、言っていることは極悪非道な世界征服の宣言。

 大丈夫だ。必ず怒り狂うはずだ。

 しかし、アリッサはまたも大粒の涙を流しながら、群衆に向かって叫ぶ。

 

「皆様! ヴァレリア様は、あえて世界を憎む悪役を演じることで、ご自身の命を絶とうとしておられるのです!」

「……はい?」

「近頃、王都で不穏な空気が満ち、人々の心に闇が広がっているという噂がありますわ! ヴァレリア様は、この国に蔓延る悪意を一人で背負い、この断頭台で犠牲となって、王国を救おうとしておられるのに違いありませんわ!」

 

 そんな噂は初めて聞いたが、なぜかアリッサの言葉が群衆の間に広がっていく。

 

「そうだ! 気高く慈悲深い聖女様が、ただ、悪逆非道な宣言などするはずがない!」

「我々を救うために、たった一人で罪を被ろうとしているんだ!」

 

 群衆がどよめく中、ルーファスが涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら断頭台の階段を駆け上がってきた。

 

「ヴァレリア! 君のその不器用で優しすぎる嘘には、もう騙されないぞ! 君一人に国を背負わせたりなどしない! 僕が……僕が、君を一生守り抜くよ!」

 

 私が威圧する間もなく、ルーファスは私の小さな身体を力強く抱きしめた。

 

「ああ、なんて華奢な身体なんだ! こんな小さな肩で、今日までどれほどの重圧に耐えてきたんだい? もういい、もう一人で背負わなくていいんだ!」

「……はい?」

 

 五歳の体では、青年の力強い抱擁から逃れることなどできない。

 謎の展開に私が言葉を失っていると、ルーファスが近衛騎士たちに向かって叫ぶ。

 

「騎士たちよ! あの忌まわしい処刑台を破壊するのだ!」

「「「はっ!!」」」

 

 近衛騎士たちが、一斉に断頭台を支えていた太いロープを剣で切断した。さらに、斧や鎚を手にした騎士たちが、台座や支柱を次々と破壊していく。

 轟音と共に、せっかく用意された処刑台が、無惨な木屑と鉄屑の山へと変わり果てた。

 

「もう大丈夫ですよ、ヴァレリア様! これからは私が、全力でお守りいたしますわ!」

 

 いつのまにか階段を上ってきていたアリッサまでもが、感極まった様子で私の背中に抱きついてきた。

 その光景を見て、メイド長が泣き崩れながら叫び、広場を埋め尽くす何万という群衆が、天に祈りを捧げた。

 

「あぁ……聖女様! なんという尊き自己犠牲!」

「我らが聖女様に永遠の祝福を!」

「聖女ヴァレリア様に、生涯の忠誠を!!」

 

 王都全体を揺るがす祈りと感謝の大合唱。

 断頭台の残骸の上で、私はルーファスとアリッサに前後から抱きしめられ、国民からの重すぎる愛と崇拝の眼差しを一身に浴びた。

 

 私は世界に復讐したかっただけだ。

 伝説の初代悪役令嬢たるこの私が、なぜ聖女として、一生を過ごさねばならないのだ。

 

「もう、嫌でちゅわ……」

最後まで、お読みいただき、ありがとうございました!

こんな意味不明な世界もありかなと。

ちなみに、幼女主人公を書いたのは二回目ですが、個人的には上手く書けたかなと思ってます。


ぜひ、ブックマークと、↓【★★★★★】の評価を、よろしくお願いします m(__)m


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今後とも、よろしくお願いします( ´∀`)ノ

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