第4話 偽りの歌、真実の影
この前書きと後書きにはこの作品を補完する大事な情報を結構描きます。是非是非読んで頂けるとありがたいです。
小説家になろうはこの前書き、後書きがあって良いですね。
死隠部隊の拠点。その一室に、いつもと違う緊張感が立ち込めていた。
「……こんな部署に、わざわざお偉いさんが直々に来るとは。俺たちも出世したもんだな。」
騎士団の上層部――白の軍装に身を包んだ幹部のロイ・バルゼンは冷たい視線をレイモンドに向けていた。その背後には、無言の随行者たちが並んでいる。
「お前たちは過去のグレアム統括の数々の功績と名誉により特別に設立された精鋭団だと聞いている。」
「それが何か?」
「我々は国を守る騎士団総長の名の元、正義と秩序、そして輝かしい名誉のため国を守り、民を守るのを誇りとし、命をかけ戦う。」
「それで?」
「君たち死隠部隊は我々と違い、不名誉な殺しの任務が主らしいな。」
「……下らん話を聞かせに来たなら、お帰りいただこうか?」
すると後ろの上層幹部に付き添う純白の鎧を身に纏う騎士が口を開いた。
「貴様!無礼であろう!!こちらは数々の名誉を勝ち取られてきたロイ・バルゼン殿であらせられるぞ。立場を弁えよ!」
蒼井はイラッとした様子で怒鳴る騎士を睨んだが、すぐに目を瞑り、冷静に返した。
「で?早いとこ話の要件をお聞かせ願おうか?」
ふんっ、と騎士は後ろに下がり、ロイ・バルゼンに会釈をする。
「早いところこの異常な殺人を犯した者を捕らえてもらおうか?」
「聞いているだろ。捜査をしているが何の手がかりもないんだ。そう簡単な奴じゃない。だから俺達が動いてるんだ。
それにしても、殺された芸能人は児童買春をしていて、自分も小児愛者で強姦、殺しもしてたって話だ。
それと最初の被害者の騎士団の上層部の奴はあらゆるところと繋がり、犯罪を揉み消していたそうだな。」
「それ以上言うな!!」ロイ・バルゼンは激昂しテーブルをバンッ、と叩き立ち上がる。
「貴様こそ、どこぞの幼稚な陰謀論を持ち出すな!!いいか!?さっさと殺人犯を捕らえないといくらグレアム統括といえど、権威は失墜。死隠部隊は解体だ!」
ロイ・バルゼンの怒号が部屋に響く中、そこへ扉がノックされ、エリック・モーガンが姿を現した。
「お疲れさまでーす。失礼しまーす。」
優しげな笑顔を浮かべたエリックは、長身の体を軽く傾けて一礼し、空気を読んで口を開いた。
「現在、私たちは犯人の特定に全力を挙げております。すでにいくつかの有力な情報も出ていますので、ご安心を。騎士団の名を汚すような真似はしません。」
ロイ・バルゼンはわずかに顔をしかめた。
「お前達死隠部隊が我々と同じ名誉ある騎士団と一緒にされるのは困る。…だが良いだろう。
…ならばさっさと取り掛かれ!」
吐き捨てるように怒鳴り、レイモンドを睨みながら踵を返す。扉が閉じられた。
「……助かったぞ。」
レイモンドが苦笑を漏らすと、エリックは肩をすくめた。
「慣れたもんさ。俺がフォロー入れないとな。」
「……相変わらず、あいつは自分の保身しか考えちゃいない。」
そう呟いた蒼井の横で、エリック・モーガンが腕を組んで頷く。
「ま、上層部ってのはだいたいそんなもんだろ。でも……あの焦り方、今回の件で何かバレると困ることがあるって顔だったな。」
「腐った果実ほど、潰された時に匂い立つ。」
「詩人かよ、お前は…。」
その時、部屋のドアがノックもなく開いた。
最初に入ってきたのは、機動外骨格に似た強化スーツを脱ぎかけた筋肉質の男――カイル・マクレガーだった。
「おーい、帰ったぜ。……ったく、調べても大したことはわからなかったよ。だが魔力の痕跡は少し残ってた。」
カイルに続いて姿を見せたのは紫髪のクールな女性、ユミナ・クロフォード。手に持った魔導端末を操作しながら、淡々と状況を報告する。
「死体の表面と内部の器官、それから頭をぶっ飛ばしたから脳は調べられないのが残念だったけど、何らかの“操られた痕跡”がありました。通常の洗脳系魔法とは違う。死体を動かすのは闇魔法の力。今は禁忌とされてるけど、外国では今でも使われてるところはあるけど、その魔法とも質が違う。」
話すユミナを追い越し、奥のソファに腰掛けたのは長い黒髪の少女――セラ・アルバーノ。他の二人に比べて年若く見えるが、目の奥に鋭さを宿していた。セラはユミナの話に割り込んだ。
「“意志のない人形”を作るには、かなり高位の精神干渉魔法が必要。それでも死体を動かしたとしてもあんな力で襲うなんて出来ない。せいぜい鈍いゾンビ程度のもの。つまりこの世界の力じゃないってことになる。」
沈黙が少し落ち着いた頃、扉が再び控えめに開いた。
「すみません、遅れました。」
暁月シュウが部屋に入ってきた。少し汗ばんだ額を拭いながら、全員に会釈し、奥のソファへと向かう。セラ・アルバーノが座るソファの端から、少しだけ離れた場所に腰を下ろすと、軽く息をついた。
「お疲れさん、シュウ。」
そう声をかけたのはカイルだった。肩肘をついて気だるげに見えながらも、その声にはどこか優しさが滲んでいた。
「お前もはじめての事だらけで疲れたろ。今日はゆっくりメシでも食って、風呂でも入って、音楽でも聴いて寝ろよ。」
「……そうですね。」
シュウは、わずかに笑って頷いた。だが、その表情にはまだ疲れとどこかの不安が残っている。
「でさ、シュウ。お前、最近話題になってるアイドル知ってるか?」
「アイドル……?」
「おう。名前はリエルと言って、やたらとミステリアスで、歌がクソうまいって評判だ。顔もスタイルも完璧らしくて、何か……不思議な魅力があるらしい。最近ネットでも爆発的に人気出てる。」
カイルは携帯端末を取り出し、画面を開く。
「ほら、この子だ。」
シュウが画面を覗くと、そこには、どこか見覚えのある少女の姿があった。艶やかな黒髪と、切れ長の瞳、整いすぎた顔立ち。 そして、美しい緑の瞳。それはシュウの脳裏に焼きついている、あの“少女”だった。
喉元が、ひどく乾く。
――まさか、な。
だが、その“まさか”が、今の世界では簡単に現実になる。
「……お前は見たことあるか?
それにしても、こんだけ人気で目立つ姉ちゃんなのに熱狂的なファンやパパラッチのストーキングが通用しないんだとさ。
まるで幽霊みたいだと。」
カイルの問いに、シュウは軽く首を横に振る。
「リエル…?あっ…いえ……わかりません。でも、何か……引っかかるものがあります。」
カイルはニヤける。
「そりゃあ引っかかるよなぁ。お前もそろそろちゃんと経験したい年頃だからなぁ、へへ。」
カイルはシュウの肩をポンポンッと叩く。
「いえ、そういう意味ではっ…。」
隣に座るセラは脚を組み、横目でシュウを見ながら、ふと呟く。
「その歌手の子が気になるんだったら、見に行けば良いんじゃない?今日はその歌手のライブがあるみたいよ。」
シュウが驚いたように顔を上げる。セラはそのまま、静かに続けた。
「ライブは会場だけでなく、配信も無料。しかも、全国放送もされるみたい。」
カイルは驚いたように間に入る。
「おい、そりゃスゲェな…。普通放送なんてやらねえし、配信も無料って…、そんな収益考えねぇなんて、金と目立ちてぇだけの今時のビジネスらしくねえな。」
カイルの声が落ち着いたところで、セラがカップを置きながら、ふと呟いた。
「……だから、余計に気になるのよ。普通じゃないよね。金にもならないことに、全力を注げる人間なんてそういない。まして、芸能の世界で、ね。」
彼女はソファに深く身を沈め、シュウの方に視線をやる。
「自分を使い捨てるように輝こうとするやつは、どこか怪しい。あなた、そういう匂い……感じてるんじゃないの?」
沈んだ空気の中、シュウの胸の奥で、何かが静かにざわめいた。
シュウは立ち上がり、無言のままコートに袖を通す。
「お、決まりか?」カイルが笑って言う。
シュウは振り返りカイルとセラに笑顔で会釈し一言返した。
「……行ってきます。」
その背中に、蒼井隊長、エリック副隊長、ユミナが静かに見守る。
シュウは無言で廊下を抜け、エレベーターに乗る。
下がっていくフロア数の表示を眺めながら、ポケットの中のリヴェレイターを軽く指でなぞる。
胸がざわついている。期待じゃない。不安でもない。
これは──直感だ。あの子に、もう一度会わなければならないという。
地上の扉が開き、夕の風が顔を撫でた。
眩い光と音に包まれた街の向こう。シュウはまっすぐ、ライブ会場の方向へ歩き出した。
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ステージの灯りが、控室のカーテン越しに差し込んでくる。
リエルは鏡の前に立ち、衣装の肩紐をゆっくりと直した。
「歌うだけじゃない。今日は“世界に知らせる”日。」
鏡に映る自分の瞳が、ほんの一瞬、赤く揺れる。
“招かれた者たち”のリスト。政治家、騎士団、財団、教会、企業のトップの面々もやってきている。
「ここから先は、もう戻れない。」
リエルは深く息を吸い、ドアに手をかけた。
観客の歓声が、波のように押し寄せてくる。
——咎の鐘が、鳴り始める。
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暗転した満員のライブ会場。二万人の観客が息を呑み、舞台を見つめていた。スポットライトも音もない、完全な沈黙。にもかかわらず、熱気だけがじわじわと満ちてゆく。
──その瞬間。
ステージ中央に、唐突に浮かび上がる一筋の光。
浮かぶシルエットは美しい少女のものだった。静かに両腕を広げ、まるで“処刑台の天使”のように立っている。
「……リエルです。皆さま、今宵もお越しいただき、ありがとうございます。」
その声は甘く柔らかく、それでいて心の奥底まで届くように鋭い。音響ではなく、魔力が織り混ぜられているのだと気づける者は、この場にどれだけいるだろうか。
光がふわりと広がる。
ステージには、白銀と黒を基調にした美しくも荘厳な衣装の少女がいた。
──リエル。今、世界中の注目を集める謎多き歌姫。
髪がゆるく揺れ、その目はどこか冷たい。
けれど、誰もが見惚れてしまう。その姿に。声に。雰囲気に。
静かなイントロが、まるで天上から落ちてきたように会場に降り注いだ。
リエルの唇が静かに開く。
「──願いは、届かぬ星の彼方。けれど、咲いて──消えるまで。」
その瞬間、ステージが眩い光に包まれた。
天井から光の羽根が舞い落ち、ステージ全体に広がる。幻想的な霧が足元を包み、リエルの姿を神話の女神のように浮かび上がらせる。
背後のホログラムには、満天の星が映し出され、星座がリエルの歌に合わせてゆっくりと動き出す。
音が広がる。
ピアノ、ストリングス、シンセサイザー、すべてが彼女の声に導かれるようにひとつとなり、壮大な音の波となって観客を呑み込む。
──美しい。
まるで、世界がこの瞬間、彼女のためだけに作られたようだ。
ルナの衣装が魔力の流れに応じて変化する。
黒から青、青から白銀へと滑らかに色を変え、星が降るドレスのように煌めいた。
彼女は歌い続ける。
「偽りに満ちたこの世界で、
咲いてはいけない花が、
それでも──咲いた。」
サビに入ると同時に、舞台左右の巨大な壁面に、花が咲き誇る映像が映し出された。
枯れた大地にひとつ、またひとつと咲く幻想の花。その色は、赤。まるで血のように鮮やかに。
観客の誰もが、息を呑んでいた。
叫ぶ者も、声を上げる者もいない。ただ、見つめる。
この奇跡のような光景と、彼女の歌に──心を奪われて。
だがその裏で、ルナの瞳だけは冷たく光る。
“彼女”にとってこれはただの演出ではない。
これは、“始まり”なのだ。
支配の魔力が、花の香りのように会場全体に染み渡っていく。
優しく、甘く、抗えぬほど美しく。
カイル・マクレガーというキャラはまだ物語の中心に入ってきていませんが、物凄くこれからの物語において重要になってきます。
彼は元外国の紛争地域の傭兵でした。
そこで当時死隠部隊が創設される前の騎士団の戦闘部隊所属の頃にカイルと出会い、今に至ります。
その話はこれからお楽しみに。