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咎に咲く、暁の華  作者: 福村ネス
第一章 咎のはじまり
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第1話 咎のはじまり 

【主要キャラクター】


暁月シュウ(あかつき・しゅう)

死隠部隊に配属された新人。

穏やかで優しい性格だが、戦闘の才と冷静な推理力を持つ。

葛藤を抱きながら任務に挑み、成長していく青年。


紅咲ルナ(くれさき・るな)

真っ直ぐな正義を信じる少女。

だがその正義は次第に狂気と紙一重となり、人の枠を超えた存在へと変わっていく。

地底世界に足を踏み入れる数少ない者のひとり。


蒼井レイモンド(あおい)

死隠部隊・隊長

日本人と白人のハーフで、冷静沈着な青年。

騎士団の裏側に存在する「死隠部隊」を率いるが、その在り方に疑問を抱きながら任務を遂行している。

任務には忠実だが、心の奥底には揺るがぬ正義感と、汚れが進む社会に対する怒りもある。

 なぜ人を殺してはいけないのか?


 私はいつもそう思っていた。世界をしっかりと感じればわかる。この世には存在してはいけない人間が確かに多く存在する。


 いくら綺麗事を並べてもそれがこの世界の紛れもない真実なのだ。


 私は紅咲ルナ。


 神に逆らいこの世界をキレイな世界に変える。


 正しきを成すために私は選ばれたのだ。


 -------- 


 鉄製のドアが静かに閉まると、室内は再び静まり返った。防音処理のされたその部屋は、基地の地下層にある戦術指令室の一角。コンクリート打ちっぱなしの壁には、作戦地図や部隊の記章が整然と並んでいる。


 中央の木製のテーブルには、タブレット端末と数枚の書類が広げられている。空調の低い唸り声と、時折端末が発する電子音だけが、静寂を破っていた。


 椅子に座るのは、騎士団の隊長の蒼井レイモンドだ──黒い戦闘服の上に白いジャケットを羽織り、腕を組んでタブレットの画面を睨んでいる。年齢よりも若く見えるが、目の奥には場数を踏んだ者特有の冷静さと重みがあった。


 向かいの席には副隊長のエリック・モーガン。彼は長年の相棒でもあり、リラックスした態度で紙コップのコーヒーを啜っていた。


「おいおい、そんな顔すんなって。作戦前なんだし、少しは肩の力抜けよ。じゃなきゃ、部下まで緊張する。しかも今回は入りたての新人もいる。」


 蒼井は短く息を吐いて、顔を少しだけゆるめた。


「……今回の任務、情報が少なすぎる。」


 エリックは黙ってコーヒーを置くと、やや冗談めかして言った。


 「……それより眠れてねぇだろ、隊長。」


 蒼井は視線を動かさず、わずかに口元をゆがめた。


 「お前がそれを言うとはな。副隊長。」


 「俺は眠る努力はする主義だ。結果はともかくな。」


 ふっと笑い合ったあと、エリックが椅子に腰を落とす。重々しい作戦概要のデータがタブレット端末に浮かんでいる。被害者の情報、現場の状況、そして――対象の異常性。


 蒼井はいつもの調子に戻して続けた。


「しかし、こんな人通りのある場所で全くの痕跡がなく、誰も犯人を見ていないっていうのは…。」


 エリックもその事件の話に眉をひそめた。


「ああ、死体発見場所から解析するに殺人現場は確かにその場所だったようだ。裏路地とはいえ人通りが多く、人目に付きやすい場所で目撃者なしはさすがにあり得ないと思うんだが…。


それにあの惨殺死体の様子だとさぞ長時間の間、拷問をされたに違いない。


死体の顔が苦痛のあまり捻れてた。舌を噛み切って死んでしまわないように猿ぐつわもされていた。」


 人間の常識では説明出来ない前代未聞の事件だ。


 蒼井は冷静にタブレットに写る死体の写真を見ながら言葉を返す。


「長い苦痛を持って殺すのは深く激しい憎悪がなければ出来ない。


それかイカれたサイコパスの類だ。だが、この死体を見るに俺が感じるのはサイコパスではないような気がする。」


 その話を聞いてエリックは冗談だろと言わんばかりに肩をすくめて言い返した。


「おいおい、こんなやり方をする奴がサイコじゃないわけがないだろ。」


 しかし蒼井は話を続ける。


「しかもこの死体の人物は俺達騎士団の人間で賄賂や売春の斡旋、犯罪組織との深い付き合いで有名なクズ幹部殿だ。正直俺達が手を出せない悪党が死んでくれてラッキーだったよ。」


「確かに…。」エリックは視線を逸らしながらも小さく頷いた。


「この幹部の汚職具合は度を越えていた。騎士団内でも皆知ってるようなことだったが上級貴族だから声を上げることは誰も出来なかったしな…。」


 皮肉混じりで蒼井はエリックに続く。


「それでこの上級貴族様が殺されたから俺達にその殺人犯を捕まえろと。いつもは殺しの任務なのにこれに限ってか。」


 複雑気持ちもあるが、エリックは蒼井に真摯な態度で伝える。


「まあ俺達は俺達の任務をこなすだけだし、殺された奴が誰であれ異常な殺人犯であることは間違いない。」


 蒼井はわずかに息を吐いて、視線を前に向き直し席を立ち上がる。


「そうだな、早いとこ取り掛かろう。まずは殺人者の特定だ。ったく俺達は探偵じゃないんだがな。取り敢えずは俺とお前、後は新人の暁月の3人で探るぞ。まずは殺人現場だ。」


 --------


 朝靄の残る現場には、騎士団の規制線がすでに外されていた。


 かつては雑居ビルの影に隠れて人通りの多かったこの裏路地の一角も、今は静まり返り、立ち入り禁止の黄色いテープが風に揺れていた。


 「通行人の証言なし、監視カメラの映像も不自然に飛んでる。まるで幽霊がやったみたいだな。」


 副隊長エリック・モーガンが腕を組みながら周囲を見渡す。壁際には血痕の跡がこびりつき、床に拡がる黒ずんだ染みは、雨が降った程度では消えそうもない。


 「……死体があったのはここだな。」


 隊長・蒼井レイモンドはしゃがみ込み、指先で染みをなぞる。眉間に刻まれた皺が、経験の深さと苛立ちを物語っていた。


 「噂通りだ。どこをどう見ても、ここで殺されてるのに……通報まで誰も気づかなかった。通報者は死体に足を引っ掛けて転んでから気づいたらしい…おかしいだろ。」


 傍らに立つ新人、暁月シュウは、じっと現場を見つめていた。若い顔に張りつめた表情。足元のガラス片に膝をつき、何かを確かめるようにしゃがみ込む。


 「……血の量と飛び散り方。ここで長時間拘束されてた可能性が高いです。」


 「拷問……か?」とエリックが顔をしかめ、蒼井隊長と目を合わせる。新人である暁月シュウのお手並みを拝見するためあえて情報は伏せていたのだ。


 「たぶん、口は猿ぐつわで塞がれていた。……舌を噛み切らせないために。」


 静かな声の中に、若さとは裏腹な確信と冷静さが滲む。蒼井は視線を落とし、わずかに目を細めた。


 「……見えてるな、シュウ。何が起きたかが。」


 「まだ断片だけです。でも、何か……異常な空気が残ってる。ここにいた“何か”は、人間じゃない気がします。」


 その一言に、場の空気がわずかに張り詰める。風が吹き抜け、ビルの影がゆっくりと街角を舐めた。


 エリックは目を見開き、口元がわずかに開く。


「……どういうことだ?蒼井隊長もどうした?超能力か何かに目覚めたのか?」と、言葉より先に表情が問いかけていた。


「いえ、信じてもらえないと思いますが何となくそう感じるんです。殺人犯は人間じゃないと言っても姿は人間だと思います。ただ何かこの世界の人間には不可能な能力を持った奴の仕業ではないかと。」


 暁月シュウの言葉に、静かに風が吹いた。隊長・蒼井レイモンドは、しばし無言のまま路地裏の血痕を見下ろしていた。鋭い眼差しが何かを測るように動く。


 「……お前も、そう感じたか。」


 ぼそりと漏れた声は、確信めいていた。


 「レイ?」とエリックが問いかける。


 蒼井は顔を上げ、灰色の空を仰いだ。


 「この異様な静けさ、誰も目撃していない痕跡のなさ、やり口の異常さ……すべてが“人間の行動パターンから逸脱してる。なのに、それを隠そうとすらしていない。むしろ見せびらかしてる。」


 「なるほどな。脅し――いや、宣戦布告ってとこか。」とエリックが肩をすくめた。


 「だったら……誰に向けての?」


 「おそらくは…人類そのものじゃないか…。」


 蒼井の口調は低く、冷たい。


 暁月シュウは二人の表情を交互に見つめ、静かに口を閉じた。ほんの一瞬、かすかに背筋が粟立つのを感じる。自分の推測が、ただの考察ではない――“正解”に近づいていると、彼の本能が告げていた。


 それにしても血の匂いが、まだ生々しく残っていた。空気が淀んでいる――目に見えない何かがまだこの街の一角に居座っているようだった。


 現場検証が終わっても暁月シュウは、現場に立ち尽くしていた。ブーツの裏から伝わる冷たい石畳の感触にすら、どこか異常を感じた。


 これが、自分に課された初めての“死隠部隊”としての任務。そう理解していても、彼の胸には拭いきれない違和感と重さがのしかかる。


 暴力の痕は単なる殺意ではなかった。意思があった。誰かに見せつけるために、残した痕。


 彼の瞳は、やがて静かに怒りを宿す。


 悲惨な現実の中に確かにあった命と、語られぬ真実――その両方に、彼は向き合う覚悟を少しずつ深めていくのだった。


 ---------


 静かな夜の街。ビルの谷間に、ひときわ異質な気配が漂っていた。


 人気のない路地に、紅咲ルナは静かに佇んでいる。白い肌に淡く光る月明かりが差し、長い黒髪が風もないのに揺れた。


 彼女の瞳が、すっと閉じられる。


 まるで呼吸するように、その意識が街に染み出していく。


 ――感情の渦。


 ――怒り、欺瞞、欺き、罪の匂い。


 脳裏に広がるのは、この世界に満ちた「穢れ」の気配。


 彼女にとってそれは、音楽のようなものだった。人の心が放つ濁った旋律――それを辿って、ルナは“選別”する。


 「……見つけた。」


 ぽつりと、彼女が呟いた。


 視界には何も映っていない。だが、彼女には見えている。


 どこかのビルの一室、明かりの下で笑う男の顔。偽りの善を装い、誰かを喰い物にする者。


 ルナの口元がわずかに笑みを描いた。どこか哀しげで、それでも揺るぎない決意を秘めた微笑みだった。


 「あなたの罪は……もう、赦されない。存分に苦しめる。」


 音もなく、彼女の身体が闇に溶けるように姿を消す。


 まるでこの世界のルールに従っていないかのような、異常な静けさとともに。



この咎に咲く、暁の華という作品は私にとって現在の社会や人間性の闇に迫るものだと思っています。

これから、長くこの作品を書いていくので、どんな感想や意見もお待ちしております!

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