《 蒼馬と紗良の芸能界サイドストーリー 〜交差する光と影、その舞台の上で〜 》
◆登場人物整理
•蒼馬:修斗の親戚の子。若手俳優として注目を集め、清潔感あるルックスと演技力でブレイク中。周囲からの期待に応える中で、芸能界の厳しさに直面している。
•紗良:苑香の姉の娘。モデル兼女優。気の強い性格で“完璧”を演じ続けているが、実は繊細で自分を守るために殻を作っている。
•悠依・陽菜:2人の親戚であり友人。同じ芸能界に身を置くが、今回は脇役としてさりげなく登場。
•マネージャー陣・先輩俳優:芸能界のリアルを象徴する存在。
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【第一章】まばゆい光の裏で
とある撮影スタジオ、真夏の午後。
テレビドラマの撮影現場で、主演を務める蒼馬は、控え室で台本を繰り返し読んでいた。
「……“君のためなら、すべてを投げ出せる”。軽いな、このセリフ」
彼は、笑顔で完璧に演じることが求められる若手スター。だが心のどこかで、演じる“役”と“本当の自分”の乖離に悩んでいた。
その現場に、ヒロイン役として現れたのが紗良だった。
「……あんた、演技、変わったわね」
「紗良……久しぶり。お前こそ、冷たい目は相変わらずだな」
2人は過去に何度か共演したことがある“犬猿の仲”。
けれど、それは一種の照れ隠しであり、互いに気になる存在でもあった。
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【第二章】過去と仮面
撮影の合間。紗良はメイク室で静かにため息をついた。
「“完璧”って言われるたび、苦しくなるんだよ……」
幼い頃から「苑香の姪」という肩書で見られ、常に“美しく、凛としていること”が求められてきた。
だが、舞台裏では何度も泣いていた。恋も、挫折も、SNSで叩かれる日々も──すべてが“商品”になる世界。
そんなとき、蒼馬が入ってきた。
「……あのな、別に完璧じゃなくていいだろ。俺は、お前のこと、ずっと見てきたよ。怖がりで、強がりで、でも真っ直ぐな紗良をさ」
紗良は驚きつつも、口元を引き結ぶ。
「……余計なこと言わないで」
でも、心はほんの少し、温かくなっていた。
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【第三章】選ばれることの痛み
ドラマのプロデューサーから、追加キャストの発表があった。
新たなライバル役に選ばれたのは、蒼馬と同じ事務所の新人。
若く、勢いがあり、ネットでも「蒼馬より演技が自然」との声が飛ぶ。
「……“消費される”って、こういうことか」
事務所の期待、世間の評価、ファンの反応──
すべてが渦を巻く中で、蒼馬は深く孤独を感じていた。
同じく、紗良もブランドのイメージモデル降板が決まった。
「“もっと柔らかいイメージの子”がいいんだってさ。……あたし、何のために笑ってたんだろ」
夜の帰り道、2人は偶然にも同じ時間に事務所を出た。
「なぁ、逃げるように一緒に行こうぜ。どっか、遠くに」
「……バカ。でも、少しだけ、いいかもね」
その夜、2人は人気のない海辺の町へ向かった。
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【第四章】仮面を脱ぐ夜
宿もないまま、海沿いのベンチで語り合う2人。
「演じるの、嫌いじゃない。でも……自分を“ごまかしてる”って思う日があるんだ」
蒼馬の言葉に、紗良はうなずく。
「わたしもそう。でもね、最近気づいたの。誰かの役になることで、自分の奥底にある何かと向き合えるんじゃないかって」
ふいに、波の音が風にかき消される。
沈黙のなか、蒼馬が静かに言う。
「紗良。……俺、お前のこと好きかもしれない」
紗良は一瞬、目を見開き、それからゆっくりと笑った。
「“かもしれない”じゃなくて、ちゃんと言いなさいよ」
夜が明けるころ、彼らは小さな港町で一夜の“逃避行”を終えた。
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【第五章】選び、立つ
東京に戻った2人は、それぞれの現場に立ち返る。
蒼馬は主演ドラマの最終回に臨み、堂々とした演技を見せた。
“蒼馬の再起”はネットニュースでも大きく取り上げられ、逆風を跳ね返す結果となった。
紗良も新しい映画に出演し、「冷たい美貌」ではなく“人間らしさ”を演じることで、初めて本当の自分を表現できた。
記者会見で、ある記者が聞いた。
「紗良さん、“完璧すぎる”という批判もありますが、それについてどう思われますか?」
紗良は少し笑い、こう答えた。
「“完璧”じゃなくていい。そう言ってくれる人が、ようやく現れたから、もう怖くないんです」
控え室で蒼馬はそれを配信で見ながら、スマホにメッセージを打った。
《なぁ、“俺の好きな紗良”は、今日もすっごく綺麗だったよ》
返ってきたのは、たった一行。
《あんたもね、ちょっとだけ、かっこよかった》
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【最終章】光のなかへ
数ヶ月後──蒼馬と紗良は、同じ映画で再共演が決まった。
テーマは「再生と愛」。
それはまるで、彼ら自身の物語のようだった。
カメラの前で向かい合ったとき、蒼馬がそっとささやく。
「今度こそ、本気で好きって言ってもいい?」
紗良は、照れ笑いを浮かべて答えた。
「……何度でも言いなさいよ。あたし、何度でも“演技”するから」
そして──演技でも、リアルでもない、
ただ一度きりの“本物”が、スクリーンの中で輝いた。
⸻
― 完 ―




