《 陽菜と悠依の恋愛編 〜心をつなぐ言葉たち〜 》
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◆登場人物簡易まとめ(先におさらい)
•陽菜:修斗と苑香の長女。芯が強く明るい性格。母に似た透明感と父譲りの真面目さを併せ持つ。
•悠依:光莉の息子。音楽や詩に造詣が深く、静かで繊細な感受性の持ち主。幼い頃から陽菜とは家族ぐるみの付き合い。
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【第一章】再会の春
春の陽射しがキャンパスを包んでいた。
陽菜は、大学3年の春を迎え、新しいゼミに緊張しながらも胸を躍らせていた。そこにいたのは、想像もしなかった顔――
「……悠依?」
教室の隅でノートに何かを書き込んでいたその人が顔を上げた。
「……陽菜?」
少し伸びた前髪、繊細なまなざし。中学生の頃、家族ぐるみの旅行で一緒になったきりだった。あの頃より少し背が伸びて、大人びた彼に、陽菜の胸が小さく波打つ。
「同じゼミなんだ……!」
「うん……びっくりした。陽菜がいるなんて」
悠依は、昔と変わらない柔らかな微笑みを浮かべた。その笑顔が、なぜか記憶よりずっと鮮やかに胸に残った。
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【第二章】ゆるやかな距離
ゼミ後、キャンパスのカフェで二人は再び言葉を交わした。
「ねえ、悠依、まだ詩書いてるの?」
「うん、たまに。いまは音楽と文章を組み合わせた表現に興味があって」
「かっこいいなあ……。あたしはまだ、“なりたい自分”がぼんやりしてて」
陽菜は正直な気持ちをこぼした。
「でも、それでいいんじゃない? 陽菜って、ちゃんと自分の心に耳を傾けてる感じがする」
そう言った悠依の言葉に、陽菜は少しだけ救われた気がした。
“この人の前だと、自分を偽らずにいられる――”
心の奥で、そんな予感が芽生えていた。
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【第三章】ふたりきりの夜
春学期が進むにつれて、自然と二人の距離は縮まっていった。
ある日、大学での発表準備の帰り、終電を逃した陽菜が悠依の家に泊まることに。
「……母さんには連絡しておいたほうがいいよ」
「うん……うちの親、ちょっと過保護だから(笑)」
修斗や苑香の顔が浮かぶ。けれど、なぜか悠依の家では、その重さがふっと軽くなった気がした。
「……静かだね、ここ」
「うん。音がない場所って、落ち着く」
ベッドの脇に置かれたスピーカーから、小さく優しいピアノの音が流れていた。陽菜はソファに座りながら、ぽつりとこぼした。
「ねえ……悠依。わたし、君といると、呼吸が自然になるんだ」
悠依が、ゆっくりと陽菜の目を見つめた。
「僕も、そう思ってた」
そして、手が触れ合った瞬間――二人は、初めて、ゆっくりと唇を重ねた。
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【第四章】恋のかたちと、家族との距離
付き合い始めた二人だったが、陽菜には心に引っかかるものがあった。
それは、両親――特に父・修斗の存在だった。
「……父さん、きっと厳しいと思う。芸能界にいたから、人を見る目も厳しいし」
悠依は、陽菜の言葉にゆっくり頷いた。
「うん。でも……ちゃんと話そう。陽菜が大事だから」
週末、修斗と苑香に二人で会いに行った。リビングに流れる重い空気。修斗が、真っ直ぐ悠依を見据える。
「……君は、陽菜に何を与えられる?」
悠依は、躊躇わず答えた。
「与えるだけじゃなくて、一緒に歩きたい。陽菜が迷うときはそばにいるし、僕が倒れそうなときは支えてもらえるような……そんな関係を目指したいです」
修斗はしばらく黙っていたが、やがてふっと笑った。
「……苑香と出会ったとき、俺もそうだった。じゃあ、あとは“覚悟”だな」
苑香がそっと陽菜の肩を抱いた。
「大丈夫。あの人が厳しいのは、陽菜のことが大事だからよ。信じて、進みなさい」
陽菜の目に、涙が浮かんだ。
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【第五章】すれ違いと再確認
順調に見えた二人だったが、悠依が新人アーティストとして活動を本格化させる中で、すれ違いが生まれ始めた。
「最近、全然話せてないよね……」
「ごめん、リハも撮影もあって……もう少しだけ、待っててほしい」
陽菜は笑顔を作ったけれど、胸がぎゅっと締めつけられる。
“わたし、ただの応援団になってるだけ?”
そんな不安が、彼女を孤独にさせた。
ある夜、陽菜は悠依に告げた。
「少しだけ、距離を置かない?」
悠依はショックを隠せない表情を浮かべたが、強く頷いた。
「……うん。陽菜がそう言うなら」
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【第六章】言葉の橋
離れていた数週間。陽菜は、自分を見つめ直していた。
何が欲しかったのか、なぜ涙が出たのか。
そんなある日、悠依から一通の手紙が届いた。
『陽菜へ
君が隣にいないとき、僕は初めて“本当の孤独”を知った。
それでも、君の幸せを願いたいと思ったとき――
ああ、僕は本気で恋をしていたんだって、気づいたんだ。』
陽菜は、涙をこぼしながらその手紙を胸に抱きしめた。
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【最終章】ふたり、あらためて
クリスマスの夜。街のイルミネーションの下で、二人は再会した。
「……また会えて、よかった」
「うん。伝えたいこと、いっぱいある」
陽菜は笑って、悠依の手を取った。
「私ね、未来の不安より、今の“好き”を信じることにしたの」
悠依は、深く頷いた。
「僕も。これからは、ふたりで一歩ずつ」
その言葉に、すべてが繋がった気がした。
ふたりの恋は、決して派手ではない。
けれど、言葉を、想いを、きちんと重ねて育てる愛だった。
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エピローグ:心の中の約束
数年後、大学卒業後も共に歩み続ける二人は、それぞれの道を進みながら、時に悩み、時に寄り添っていた。
ある日、陽菜が言った。
「わたし、あなたと出会って、ようやく“自分の本音”と向き合えるようになったの。ありがとう」
悠依は、そっと手を重ねた。
「僕の中には、いつも君の声があるよ。これからも、聞かせて」
そしてふたりは、未来に向かってまた歩き出した――。
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― 完 ―




