第3話「交わるフィールド、すれ違う心」
1. 新緑のキャンパスと、姉妹の影
春の風が、大学キャンパスの新緑を揺らす。
陽菜(18歳)は、体育館のベンチに腰掛け、スポーツ新聞をめくっていた。
隣に座るのは、妹の永遠(15歳)。まだ高校一年生だが、姉と同じくらいしっかりしている。
ふたりは血のつながった姉妹でありながら、どこか距離がある。
「ねえ、陽菜。あんまり私のこと、学校で話さないよね?」
「……まだ、ちょっと難しいんだよ。お姉ちゃんも、家のことはみんなに言えてないから」
陽菜は視線を伏せる。ふたりの両親、修斗と苑香のことはまだ世間には秘密。
それを守るために、陽菜はいつも気を張っていた。
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2. サッカー部の試合、兄弟の葛藤
一方、町のサッカーグラウンドでは、彰人(19歳)が熱戦を繰り広げていた。
彼は碧(17歳)の兄であり、陽菜の幼なじみでもある。
サッカーの実力は県内でもトップクラスだが、何か心の奥底で葛藤していた。
「兄ちゃん、もうちょっと手を抜けよ」
碧が笑いながら言った。
「抜けるかよ、試合だぞ。将来のこともあるんだ」
「でも、その“将来”って、ホントに自分が望んでること?」
碧の言葉に彰人はふと止まった。
幼いころから「サッカー選手になる」と決めていた彰人。
だが、近年の怪我やチーム内のしがらみで、自分の気持ちを見失っていたのだ。
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3. 陽菜と永遠、秘密の共有
放課後、陽菜と永遠は公園のベンチに座っていた。
永遠は陽菜に質問した。
「ねえ、私たちのこと、みんなに言わないのは、どうして?」
陽菜は深呼吸して、妹にそっと話した。
「ママとパパは、芸能人だから、私たちのことが広まったら大変なんだ。だから、ずっと秘密にしてる」
永遠はうつむいた。
「でも、私、姉ちゃんみたいに強くないよ。学校でも、誰にも相談できないし……」
陽菜は妹の手を握りしめた。
「私も不安だよ。でも、ふたりで秘密を守って、支え合っていこう」
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4. 修斗と苑香の苦悩と決断
夜。リビングで、修斗と苑香が話し合っていた。
「もう限界かもしれない」
苑香の声は震えていた。
「娘たちが成長して、秘密を抱え続けるのは辛いわ。いつか、真実を話すべき時が来る」
修斗は黙って頷いた。
「でも、今はまだ……」
「うん。でも、近いうちに考えよう」
二人の目には決意の色があった。
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5. 陽菜の恋心、芽吹く初恋
そんな中、陽菜の心には密かな恋が芽生えていた。
大学のサークルで出会った悠依、柔らかくて優しい青年だった。
「陽菜さん、今度、一緒に映画を観に行きませんか?」
初めてのデートの誘いに、陽菜は胸の高鳴りを感じていた。
しかし、悠依に自分の家族の秘密を話す勇気はまだなかった。
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6. 永遠の反発、姉妹のすれ違い
ある日、永遠は陽菜に怒りをぶつけた。
「どうして私だけ、秘密にされるの?私もみんなと同じように普通の生活がしたい!」
陽菜は言葉を失った。
「ごめん、永遠……でも、ママとパパのことがバレたら、大変なことになるの」
「それなら、私だって隠すよ。でも、姉ちゃんだけに全部背負わせるのはズルい!」
姉妹の間に、一瞬の沈黙が訪れた。
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7. サッカーの試合、兄弟の和解
碧は兄・彰人のプレーに声をかけた。
「兄ちゃん、もう自分を追い詰めなくていいよ。私たちはいつでも味方だよ」
彰人は涙をこらえ、碧に微笑んだ。
「ありがとう、碧。俺、もう一度、自分の夢を見直してみるよ」
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8. 家族の絆、未来への一歩
その夜、陽菜と永遠は母・苑香に抱きしめられた。
「ふたりとも、強くなったわね。秘密はまだあるけれど、それは家族だけの宝物よ」
修斗もそっと言った。
「これからも、ふたりで支え合いながら、歩んでいこう」
家族の絆は、静かに、しかし確かに深まっていった。
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第3話「交わるフィールド、すれ違う心」──完




