第2話「交差する電波と、秘密の夜」
春の暖かさが少しずつ初夏の気配を漂わせるようになったころ。
紬の大学生活は、想像以上に慌ただしくも充実した日々を迎えていた。
文学部の講義、演劇サークルの練習、友人たちとの昼食。
毎日が新しい刺激に満ちていて、彼女の目は常に輝いていた。
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その日、大学のキャンパス内のベンチで、紬は千夜、綾華、瑞稀と昼食を取っていた。
千夜「ねえ紬、演劇サークルってそんなにハードなの?」
紬「うん、ハードっていうか、やりがいがすごくあるって感じ。セリフを覚えるのも大変だけど、やっぱり舞台って生きてるって思えるの」
綾華「わかるなあ。私も韓国語のプレゼンがあって超緊張したけど、やり切ったときの達成感って最高だよね」
瑞稀「私、今度のゼミで国際ニュースのディスカッションがあるの。もう、お腹壊しそう…」
紬(微笑みながら)「みんなそれぞれ戦ってるんだね。でも、負けないよ、私も」
ふと、ポケットのスマホが通知を震わせた。画面には修斗からのメッセージが。
「今日の19時、都内FMラジオ生放送に苑香と出るよ。聴けたら聴いてね!」
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その夜、紬はシェアハウスのリビングに戻ると、リラックスした格好でラジオアプリを起動した。
「…続いては、スペシャルゲストをお迎えしています!本日は、ドラマ『残響の詩』で共演中の若手俳優、佐野修斗さんと、女優・モデルの苑香さんです!」
パーソナリティの明るい声がスピーカーから流れる。
新城悠依「苑香さん、最近はテレビでもよくお見かけしますが、女優とモデルの両立はどうですか?」
苑香「ありがとうございます。忙しいけれど、すべてが楽しいです。特に最近は、役に入り込む瞬間が本当に好きになってきました」
仲山栄輔「修斗さんも、デビュー作からすごく反響がありましたよね?」
修斗「正直、まだ実感がないです。でも、毎日現場に行くのが楽しくて。苑香さんとはもう、二人三脚みたいな感じで(笑)」
リスナーからの質問コーナーが始まり、苑香が柔らかく笑う。
苑香「あ、これはよく聞かれるんですけど、私生活でも修斗さんとは仲良くしていますよ。ただ、プライベートのことは……内緒ってことで(笑)」
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その頃、別の場所──青葉学園グラウンドの控室で、碧と彰人がトレーニング後にラジオをつけていた。
碧「あれ? これ苑香と修斗じゃん」
彰人「まさか生放送? なんか照れくさいな…知ってる人がこうやって声だけで話してると、変な感じ」
碧「……これ、サプライズで行ってみない? あいつら、今たしかFMスタジオは渋谷のほうだったよな」
彰人「マジで!? お前、ホント突発だな。行こう。ちょっと冷やかしてやろうぜ」
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数十分後、スタジオのビルの前で、帽子とマスクをした二人が受付のスタッフに声をかける。
彰人「あの、佐野修斗さんに…伝言だけでも。旧友が来たと」
碧「『青と赤の背番号が、今日だけスーツで来た』って言えば、わかるはず」
受付嬢は笑いながらメモを受け取り、ブースの外で待機してもらうよう案内する。
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番組終了後、スタジオのドアが開き、修斗と苑香が出てきた瞬間。
「おつかれーっす!」
碧と彰人が手を挙げて笑顔で登場。
苑香「えっ…!? え、ちょ、なんで!??」
修斗「……マジかよ。お前ら、ほんとに来たのか」
碧がウィンクする。
碧「声だけじゃ物足りなかったからさ。こうやって目の前で驚いてるお前らの顔、見たかったんだよ」
彰人「仲の良さ、リスナーにバレバレだったぞ?」
苑香は照れ笑いを浮かべながら修斗の腕にそっと手を添えた。
苑香「まぁ…シェアハウス内ではすでに公開済みだから、いいんだけどね」
修斗「でも、他の人にはナイショだぞ。五人と家族以外には…」
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夜、シェアハウスに戻った修斗と苑香は、いつものキッチンで紬と夕食を囲んでいた。
紬「二人とも、本当に仲良いよね。でもあのラジオ、すごく良かった。自然体で、言葉に想いがあった」
苑香「ありがとう、紬ちゃん。…あなたの言葉には力があるね」
修斗「演劇やってると、言葉の重みがわかるんだよな。俺たちも負けてられないな」
紬は微笑むと、小さく頷いた。
紬「私も、私なりの舞台で輝けるように頑張るから」
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そしてその夜、5人の住むシェアハウスの窓からは、温かな光が漏れていた。
その光の中には、誰にも言えない秘密と、それぞれの未来への覚悟が、静かに灯っていた。




