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第2話「影を背負う者たち」


プロローグ:割れた鏡の中


真夜中、雨が降っていた。

玄関の靴箱の上、埃をかぶった鏡の前に立つ少女の姿。


早坂光莉ひかり


鏡をじっと見つめながら、自分の顔を指でなぞった。


「ここに住めば、何か変わるのかな。……あたしの何かが」


ふと目に映ったのは、傘をさして帰宅する**坂下彰人あきひと**の姿。


彼の目にも、どこか“影”が宿っていた。



それぞれの夜、すれ違う心


夕食のテーブル。


紬は小さな声で「いただきます」と言い、

光莉はスマホをいじりながらカップラーメンにお湯を注ぎ、

彰人は黙って席を立とうとした。


「ねえ、いつも何してるの?」

光莉の言葉に、彰人が立ち止まる。


「リハビリ。……あと、走ってるだけ」


その言葉の奥には、何かを断ち切ろうとするような強い意志があった。


紬が、おそるおそる尋ねる。


「……ケガ、まだ痛いの?」


彰人は答えない。

ただ、静かに部屋を出ていった。



彰人の過去:砕けた夢


夜の公園、ブランコに一人腰掛ける彰人。

ふとポケットから取り出したのは、折れたサッカーボール型のキーホルダー。


一年前――高校サッカー選手権の準々決勝。

点差を追う中、試合終了間際の接触プレーで右足を骨折。

そのまま復帰が遅れ、レギュラーの座を後輩に奪われた。


「お前がいれば、きっと勝てた」

監督の何気ない一言が、心にナイフのように突き刺さった。


「もう、戻れねぇよ。……前のオレには」


誰にも言えず、ただ一人、蹴ることのないボールを見つめる日々。



光莉の過去:消えた明日


そのころ、家に残っていた光莉は、紬の部屋にふらりと入った。


壁一面の絵――自由に描かれた花や鳥、そして宇宙。

紬の世界は静かで、でもどこか力強かった。


「……あたし、高校やめたんだよ」


ぽつりと光莉が言う。


「いじめられてたとかじゃない。勉強も別に普通。

ただ、朝が来て、制服着て、電車乗って、知らない教室に座って……

なんでそんなこと、ずっとやんなきゃいけないの?って思っただけ」


紬は静かにうなずいた。


「うん。……でも、ここに来たんだね」


「……そう。理由は、ないけど」


光莉の目が、一瞬だけ潤んだ。



はじまりの兆し


翌朝。

雨は止み、空は晴れていた。


リビングに集まった3人。

無言の時間。だけど、昨日よりほんの少しだけ“近い距離”。


彰人がリハビリに出かけると、光莉が小さく呟いた。


「……一緒に行ってみようかな。走るの、少しだけなら」


紬が頷く。


「……わたしも、スケッチブック持っていく」


ドアが開く音がした。


今日からまた、新しい1日が始まる。



エピローグ:彼らの影が、光になる日


それぞれが過去の傷を抱えながら、それでも前に進もうとしている。

秘密のシェアハウスは、そんな彼らを静かに見守っていた。


壁には、新しく小さな紙が貼られていた。


「夢って、つくるものらしいよ」――誰かのメモより


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