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第10話「永遠のシェアハウス」


冬の静寂が包む早朝。

東京の片隅、古びた木造家屋――そこが、彼ら4人の青春のすべてが詰まった「秘密のシェアハウス」だった。


家の表札には、何十年も変わらぬ文字。


「佐野・岡田・早坂・坂下」


そして、その横には、葵蘭の母・眞理が丁寧に掲げたもう一枚の札があった。


「永遠の住人たちへ――この家は、あなたたちの帰る場所」



変わらぬ朝、変わってゆく日々


葵蘭は、朝の光を浴びながら、昔と同じようにキッチンに立っていた。

手には、目玉焼き。少し焦げ目がついている。

――でも、それでいい。

この香り、この音、すべてが“日常の証”。


舞が新聞を読みながら、「今日の天気、晴れ。大掃除日和ね」と笑う。


健太はテレビを見ながら、「やっぱ芸能界は忙しいな」とぼやくが、

実は彼の言葉も、何十年も変わっていない口癖だった。


傑は朝からリハビリを終え、柔らかなストレッチをしてから席に着く。

「今日のサッカー、録画予約してくれた?」

舞が頷く。

「もちろん。日本代表、今でもあなたのこと話してたわよ」



子供たちの訪問


その日の午後。

玄関のチャイムが鳴った。


「ごめんくださーい!」

明るく元気な声が響く。

それは、かつて4人が育てた子供たちの声だった。


舞と傑の孫、葵蘭と健太の姪っ子甥っ子、そして近所の子供たち――

みな「この家」に集まってくるようになった。


理由はただ一つ。

ここが「夢を語ってもいい場所」だから。


誰かが落ち込んだら、傑が言う。


「挑戦して失敗したって、いいじゃないか。失敗しない奴の人生なんて、味気ないぞ」


誰かが恋に悩んだら、葵蘭が言う。


「誰かを好きになるって、素敵なことよ。怖がらないで、ちゃんとその気持ちに向き合って」


誰かが将来に迷ったら、舞が言う。


「自分で決めるしかないけど、あなたが何を選んでも、私は応援するわ」


健太は笑って言う。


「お前たち、今のうちにいっぱい悩めよ。そしたらきっと、大人になった時、楽しくなるからな」



最後の夜


その夜、リビングで4人が集まっていた。


いつもと同じ、ソファに腰掛け、カップを片手に。

だが、どこか静かな空気が流れていた。


「……なあ、今日も楽しかったな」

健太がぽつりと呟く。


「うん。今日も、昨日も、全部が宝物だよ」

葵蘭の目に、少しだけ涙が浮かんでいた。


「ねえ、覚えてる? あの日、初めてこの家に来たときのこと」

舞が懐かしむように微笑む。


「うん、緊張してたよな。でも、あの時から今まで、全部つながってたんだな」

傑の声は、まるで夜空を見上げるように優しかった。


4人は、ただ静かに、その瞬間を味わった。


もう、この日々は永遠に続かないかもしれない。

でも、それでもいい。

この記憶は、彼らが生きた証であり、

誰かが未来で「夢」を語る時、きっと背中を押してくれる“声”になる。



最後の言葉


夜が更けていく。


ふと、葵蘭が立ち上がり、窓を開けた。

風が吹き抜ける。


「……また、明日も一緒にご飯、食べようね」


「うん、もちろんだよ」


「明日はカレーにしようかしら」


「また舞の辛口か……覚悟しとくよ」


笑い声が、静かに夜に溶けていく。


そして、それはずっと響いていた。

その家のどこかに、時間の層に、未来の子供たちの胸の中に。



終章:永遠のシェアハウス


それは、「家族」でも「恋人」でもない、

けれど、何よりも深く強く結ばれた4人の物語。


彼らの人生は、決して特別なものではなかったかもしれない。

だが、その“日々”は、確かに誰かの希望になる。


そして今日もまた、新たな若者たちが、玄関の扉を開ける――

この「秘密のシェアハウス」へ。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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