第9話「最後の大冒険」
夕暮れの光が、シェアハウスの縁側にやさしく射し込んでいた。
葵蘭、健太、舞、傑――。
4人が再び同じテーブルを囲んでいた。
歳を重ね、髪には白が混じり、皺の数も増えた。
それでも、目に宿る光は変わらなかった。
「……なあ、最後に、やってみないか?」
傑がゆっくり口を開く。
「旅だよ。4人で。昔みたいに、思い切り馬鹿して、笑って、叫んで……。
それが、俺らの“最後の大冒険”ってやつさ」
静寂の中に、微かに心が震える音があった。
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決意と出発
「私……行きたい」
舞が真っ先に手を挙げた。
「体力はないけど、それでも心は若いつもり。傑と、みんなとなら、大丈夫って思える」
「俺も行くよ」
健太が笑う。
「スケジュール? そんなもん、今の俺には無いし、作ればいい。
でも、こういうのは、今しかできないだろ?」
そして、葵蘭。
彼女はしばらく目を閉じて、何かを思い出すように静かに息を吐いた。
「行こう。私たちの“最後”を、未来の子たちに語れるような、そんな旅にしよう」
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北へ
4人が選んだ行き先は「北海道」。
若い頃、行こうと言いながらも実現しなかった旅先だった。
旭川、美瑛、富良野、函館。
草原の風を感じ、星空の下で語り、温泉で心をほぐす。
旅の中で、4人は“失ったもの”より“守ってきたもの”の価値を知る。
夜、焚き火を囲みながら傑が語る。
「俺さ、プロとして戦ってきたけど、最後まで一番大切だったのは、
こうして戻れる場所があるってことだった。
……舞がいて、みんながいて、だから俺はずっと戦えた」
舞がそっと傑の手を握る。
「私もよ。あなたが夢を追ってくれたから、私も立ち続けられたの。葵蘭にも、健太にも……感謝してる」
健太が笑って言う。
「結局、全部繋がってたんだな。あの時、あの家で出会えたことが、全部の始まりだった」
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旅の終わり、そして始まり
旅の最後の日。函館の港で、朝日を見つめながら、4人は黙っていた。
だが、心には同じ思いがあった。
――これは終わりじゃない。
また次の誰かが、この“秘密のシェアハウス”の扉を開けてくれる。
「私たち、帰ろうか」
葵蘭が静かに言った。
「そうだな。帰って、また皆で一緒に朝ご飯を食べよう」
健太が微笑む。
「そして、あの子たちにバトンを渡すんだな」
傑が空を見上げる。
「そう。次の世代にね」
舞の言葉に、みんなが頷いた。
4人は、再び旅立つ。
新たな日常へ。
だがそれは、人生最大の“宝物”を胸に抱えたままの帰還だった。




