第3話「健康と老い」
リビングの窓から、秋の柔らかな日差しが差し込んでいた。落ち葉が舞い、風が季節の移ろいを静かに告げる。
この日、シェアハウスでは久しぶりに”健康診断報告会”が行われた。
舞の提案だった。「ね、せっかくだから、皆で健康の話しようよ。もう若くはないんだから!」
予期せぬ診断結果
葵蘭は病院の封筒をテーブルに置き、ふう、とため息をついた。
「ちょっと、血圧が高めだったんだって。あと、骨密度もギリギリ。昔、怪我したところ、また痛むことがあるの」
舞が心配そうに身を乗り出す。
「私もね、眼圧がちょっと…緑内障の手前かもって。もう、パソコンとかスマホばっかりだったからかな」
健太は、苦笑いを浮かべて言った。
「俺はね、逆流性食道炎ってさ。ドラマの撮影中、コンビニ飯ばっかりだったから」
傑だけが静かに、自分の診断結果を見ていた。しばらく沈黙の後、ぽつりと漏らす。
「…心臓に、ちょっとリスクがあるって言われた」
一瞬、空気が重くなった。
「定期的な経過観察で大丈夫って言われたけど、正直、怖かった。ピッチに立てなくなるかもしれないって思ったら…」
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恐れと向き合う
誰もが、どこかで”老い”という現実にぶつかっていた。
若い頃は勢いで突っ走ってきた。だが、今は違う。身体は正直で、心にも重みが残る。
「でもさ」
健太が言った。
「怖いのは、そうやって黙って一人で抱え込むことだよな。だから、ここに集まった意味があると思う。俺ら、何でも話せる仲間じゃん」
舞が微笑んだ。
「老いを受け入れるって、弱くなることじゃないよね。私たち、大人になっただけ。ちゃんと労わって、また笑い合えるようにしよう」
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小さな変化、大きな絆
その日から、4人はゆるやかに生活を見直すことにした。
朝の散歩、夜の軽いストレッチ。バランスの取れた手料理。たまには断酒の日も設けて、健太と傑は本気で取り組んだ。
ある日曜の朝、リビングに集まっていた4人。
「この味噌汁、優しい味だね。芽依ちゃんに教わったの?」
「うん。GRT48の活動中も、体調管理にすごく気を使ってたって言ってた」
彼らの会話は自然体で、温かかった。若き日の情熱も大切だったが、今はこの穏やかな時間こそが宝物だった。
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未来を刻む
葵蘭がふと、ぽつりと言った。
「私ね、これからエッセイ書こうかなって思ってるの。“シェアハウスで生きる”ってタイトルで」
「いいね、それ。舞台化もできそう」
健太が乗り気で答えると、傑が笑った。
「じゃあ俺が、その舞台に出る役者を推薦するよ」
「自分でやるんじゃなくて?」
「いや…俺はもう、裏方がいい。若い子たちに任せたいんだ」
それぞれの想いが、形を変えて未来へ向かっていた。
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そして今日も
秋の夕暮れがリビングを優しく包み込む。
どこかでテレビの音が流れ、キッチンでは湯気が上がっている。
老いは避けられない。
でも、共に生きていける。共に笑っていける。
それこそが、かけがえのない幸せなのだ。




