第4話「恋の三角関係」
秋の風が少しずつ冷たさを増してくる季節。
再びシェアハウスに集まった4人は、ほんの一瞬だけ高校時代の“あの空気”を思い出していた。
だが、それぞれの心の奥には──言葉にできない“感情”が静かに渦巻いていた。
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【舞の視線】
舞は、ふとした時に健太の背中を目で追ってしまっている自分に気づいた。
(どうして今、気になるんだろう……私には傑がいるのに)
大学生活の中で、日々成長していく健太の姿。
ふとした優しさや、ちょっとした気遣い。
それらが、心にしみ込むように舞の中で“想い”へと変わっていった。
ある日のシェアハウスの夜。
舞は、リビングで健太と二人きりになった。
「健太……今、誰か気になる人って、いる?」
突然の質問に、健太は少しだけ驚いた顔をした。
「……気になるっていうか、いつも考えてる人なら、いる。」
「……そっか。そりゃ、そうだよね。」
舞はそれ以上聞けなかった。
でも──その「誰か」が葵蘭であることは、痛いほどわかっていた。
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【健太の戸惑い】
健太にとって舞は、葵蘭の親友であり、信頼できる“仲間”だった。
けれど最近──ふとした仕草、笑い方、目の奥の寂しさに、彼の心が揺れる瞬間があった。
「……ダメだって。俺には葵蘭がいるんだ。」
そう言い聞かせても、舞の声や存在がふとした瞬間に心の隙間に入り込む。
ある晩、彼は葵蘭に訊ねた。
「なあ、葵蘭。もし俺が……他の誰かに少しでも心が揺れたら、どうする?」
葵蘭は少し黙って、そして静かに微笑んだ。
「うん。正直に教えてくれるなら、私は……ちゃんと向き合うよ。でも、健太。私はあなたを信じてる。」
その言葉に、健太は目をそらした。
自分がいま、心のどこかで“揺れている”ことが──
どれほど残酷なことなのかを、痛感したからだ。
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【傑の疑念】
舞と健太の間に流れる微妙な空気に、傑は薄々気づいていた。
(アイツら……もしかして)
傑は舞を責めることも、問い詰めることもできなかった。
なぜなら、彼自身も最近、あるモデルとの密かな噂が立ち始めていたからだ。
「俺は……誰を守りたいんだ?」
舞との婚約。夢だったサッカー選手としての未来。
でも、“日常”の中にいたはずの絆は、少しずつ軋みを始めていた。
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【葵蘭の覚悟】
健太の迷い、舞の揺らぎ、傑の沈黙。
その空気を、葵蘭は感じ取っていた。
けれど、彼女はあえて何も言わなかった。
「誰かを疑うより、自分が信じたい人を信じる。」
彼女の強さは、決して感情を押し殺しているのではなく、
その裏にある“覚悟”から来ていた。
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ある夜、シェアハウスのダイニング。
葵蘭は、みんなに言った。
「一度、4人で旅行しようよ。気持ち、リセットしよう。ね?」
誰もが驚いたが、誰も否定しなかった。
お互いの距離が微妙に揺らぎながらも、まだ「壊れたくない」と思っているからこそ──
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そして、4人は週末、冬の箱根へと向かう。
揺れる感情、すれ違う想い、変わっていく関係。
その先に待つのは──試される「本当の絆」。




