第3話「大学の壁」
学園祭から数日後──。
それぞれの大学生活は、またいつものように静かに流れ始めていた。
しかし、4人はそれぞれ“壁”にぶつかり始めていた。
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【葵蘭】
連ドラの2作目に抜擢された葵蘭は、今や業界内でも“次世代女優”として期待されていた。
だが、彼女には乗り越えられない“芝居の壁”が立ちはだかっていた。
「佐野さん、演技が表面的すぎる。役の感情が伝わってこないんだ。」
演出家の厳しい声に、彼女は俯いた。
何度テイクを重ねても「正解」が出せない。
撮影が終わった夜、彼女は久しぶりに舞に電話をかけた。
「舞……私、もう、向いてないのかな。」
「葵蘭。あなたが“向いてない”って言うなら、私たちの高校生活も全部、無意味だったことになるよ。」
電話越しのその言葉に、葵蘭はこらえていた涙をこぼした。
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【健太】
海外からの仕事が絶えず舞い込む一方で、日本の芸能界の“期待”と“過去の自分”とのギャップに苦しんでいた。
「岡田くん、もっと“少年らしさ”が欲しいんだよ。最近の君、ちょっと“老けた”感じがしてさ。」
日本のプロデューサーのその一言に、健太は思わず言い返してしまった。
「俺、いつまでも“少年”じゃいられないっすよ。」
撮影現場を出て、人気のないスタジオの外でスマホを開く。
ふと、あのシェアハウスのグループトークが目に入る。
舞:
「みんな元気? 久しぶりに夜通しで他愛ない話したいな」
健太は思わず笑い、返信を打ち込んだ。
健太:
「今すぐ戻れるなら、戻りたい。マジで。」
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【舞】
順調そうに見えた大学生活にも、影が差し始めていた。
ゼミでのプレゼン、チーム活動、そして学業──
「なんでそんなに完璧にやれるの?」という周囲の視線が、舞の胸を重くしていた。
「私は、自分が選んだ道を歩いてるだけ……だけど、誰かと比べられるたびに、私って何なんだろうって、わからなくなる。」
そんな独白をこぼしたのは、ゼミ帰りの帰宅途中、傑からの電話だった。
「俺もさ。周りの“期待”って、嬉しいけど怖い。だからさ、たまには怖がってもいいんじゃない?」
傑の言葉は、飾らないからこそ、心に染みた。
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【傑】
代表候補としての合宿では、熾烈な競争が繰り広げられていた。
自分より年下の選手にポジションを奪われそうになる試合もあった。
夜、ホテルの部屋で一人──。
「舞に何を偉そうに言ってんだ、俺。」
そうつぶやきながら、携帯を開く。
そして、ふとした思いつきで、メッセージを送った。
傑:
「シェアハウス、一回集まらない? リセット、必要だと思う。」
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そして──
週末、久しぶりに4人は、再び“あの家”に集まった。
夜のリビング。
4つのマグカップと、ホットココアの香り。
言葉は少なかったけど、沈黙さえも心地よかった。
健太がぼそりと言った。
「やっぱ、ここが俺たちの“帰る場所”だな。」
誰もがうなずいた。
社会という名の“大人の世界”に飲み込まれかけても──
この場所がある限り、また立ち上がれる。




