次世代特別編 「陽葵と凛翔の新婚日記」
第一章:ふたりの朝、はじまりのキッチン
結婚して初めての朝。
まだ家具も揃いきっていない新居のダイニングには、カーテン越しのやわらかな光が差し込んでいた。
「ひまりー……コーヒー淹れようか? それともお味噌汁?」
「うーん……ねぼけてるからどっちもほしい……」
陽葵はふわふわした声で、エプロン姿の凛翔に身を預けた。
「朝が弱いの、ほんと変わってないよね」
「昔から“朝は妖精”って言われてたんだよ、私」
「誰に?」
「自分に」
ふたりは顔を見合わせて笑った。
炊きたてのごはんの匂い、湯気の立つ味噌汁、ちょっと濃いめのコーヒー。
それだけで、もう十分だった。
⸻
第二章:ささやかな衝突
新婚生活は夢のように始まった――
……と思ったのもつかの間、ひとつ目の壁は「家事分担」だった。
「ねえ凛翔、洗濯物は“干す→たたむ→しまう”までが洗濯って知ってた?」
「えっ、しまうのも含まれるの……? 干した時点で終わった気でいた」
「ダメだよ、それじゃ“やったつもりマン”だよ」
「ぐっ……じゃあ俺、たたむ係になる!」
「うん、今の“やらされる感”がすごく伝わった」
ふたりは軽口を叩きながらも、顔は笑っている。
ぶつかることもあるけれど、喧嘩にならないのは、お互いを大切に思っている証だった。
⸻
第三章:シェアハウスへの帰還
ある週末、ふたりは久しぶりに、かつて両親が暮らしていたあのシェアハウスへ足を運んだ。
扉を開けると、懐かしい空気が流れてくる。
「ここ、パパとママが住んでた場所なんだよね……」
「そう。僕の両親も。なんか、ここで“青春”を重ねた人たちが、次の家族を作ったって……すごいと思わない?」
陽葵はソファに腰を下ろしながら、静かに頷いた。
「私たちも、ここから何かを始めていいのかな?」
凛翔はそっと、彼女の手を取った。
「ううん、もう始まってるよ」
そしてふたりは、同じ場所で、小さな未来を誓った。
⸻
第四章:夫婦って、なんだろう
ある晩。疲れ果てて帰ってきた陽葵は、リビングで寝落ちしてしまっていた。
気づけば、毛布がかけられ、キッチンには温かいスープが置かれていた。
「……凛翔?」
「おかえり。お疲れさま」
陽葵は、なぜか泣きそうになった。
「こういうの、ずるい……」
「ずるくないよ。夫婦って、疲れたときにそっとそばにいて、なにも言わなくても“いてくれる”のが、いちばん大事だと思う」
涙が頬を伝ったあと、ふたりは手を取り、食卓についた。
その夜、心があたたかくて眠れなかった。
⸻
第五章:そして、ふたりの日々へ
結婚して数ヶ月。
陽葵と凛翔は、失敗も笑いも抱えながら、少しずつ「夫婦の形」を築いていた。
朝のパンケーキが失敗してもいい。
寝る前の会話がくだらなくてもいい。
疲れて帰ってきて、一緒に食べるカップ麺が最高のごちそうになる日もある。
「……ねぇ凛翔、私、これからもずっと、君と笑ってたい」
「約束する。どんな日でも、君の“帰る場所”になるから」
そう言って、ふたりは手を繋いだ。
新しい家、新しい生活。
それは、誰よりも近くで、心を重ね合うことの美しさを教えてくれていた。
⸻
―次世代特別編・新婚生活編:完―




