次世代編 「君とまた、春を迎える」
第一章:旅立ちの朝
高校卒業式の朝。陽葵は鏡の前で小さく深呼吸をしていた。
制服のリボンを整えながら、胸の奥が静かにざわめいている。
「ひまり、もう出るよ〜!」
玄関から葵蘭の声が聞こえる。健太はすでにカメラを準備しており、張り切っている様子だった。
「じゃ、いってくるね」
「待って! 写真! 写真だけは撮らせて!」
玄関先で撮った写真には、大人びた微笑みの陽葵と、涙目の母が並んで写っていた。
一方、舞と傑の家でも――
「凛翔、ネクタイ曲がってる」
「え、マジ? どこ?」
「ここ。……よし、直った」
舞が小さく頬を叩き、息子の胸元を整えると、凛翔は少し照れくさそうに笑った。
「行ってくる」
その背中には、頼もしさと、どこか少年のままの透明な光があった。
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第二章:再会とすれ違い
大学生活が始まって1年。陽葵は演劇部で脚本を担当し、凛翔は海外で建築を学んでいた。
――会えない日々が続く。
けれど、時折送られてくるLINEの一言が、心の支えだった。
「こないだ、建築モデルで“未来の家族”ってテーマだった。気づいたら、君が書いた脚本のリビングを再現してた」
その言葉に、陽葵の目頭が熱くなった。
返信をしようとして、指が止まる。
「ありがとう。きっとまた、会えるよね」
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第三章:桜の下で
凛翔が日本に帰国した春。4年ぶりに再会したふたりは、かつて一緒に遊んだ公園にいた。
桜が満開の下、陽葵はふと昔のことを口にした。
「覚えてる? 小さい頃、ここで言ったの。“ひまりちゃんとけっこんする!”って」
凛翔は笑った。
「覚えてるよ。でも、あのときは子どもだったからね」
「今は?」
陽葵の問いに、凛翔は真剣な眼差しで彼女を見つめた。
「今は……大人になって、それでもやっぱり、君がいいって思ってる」
その瞬間、風がふわりと舞い、桜の花びらがふたりの間にひらひらと舞い落ちた。
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第四章:家族の前で
後日。ふたりは葵蘭・健太、舞・傑の前に並び、真剣な表情で言った。
「僕たち、結婚を考えています」
沈黙のあと――舞が涙をこらえながら言った。
「子どもたちが、ここまで大きくなって……こんな日が来るなんて……!」
「葵蘭、泣くとこっちも泣きそうになる」
健太が目元をこすり、傑が横でうんうんと頷く。
「……反対なんてするわけないでしょ。あなたたちを、ずっと見てきたんだから」
「ありがとう……ございます」
手を取り合う陽葵と凛翔。その手は、かつて互いを追いかけていた子どもたちの小さな手とは違って、大人として支え合う覚悟に満ちていた。
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第五章:未来へ
結婚式の日。場所はかつて4人が暮らしていた、あのシェアハウスの近くのガーデン。
家族と友人だけの小さな式。
ドレス姿の陽葵と、スーツ姿の凛翔が並んだその瞬間、舞と葵蘭がそっと手を取り合った。
「私たちが歩いてきた道、子どもたちがまた歩きはじめるのね」
「きっと、またここから“新しい物語”が生まれるんだよ」
健太と傑は並んで、カメラのシャッターを切っていた。
――花びらが舞う。笑い声がこだまする。
春風のなか、また新たな家族の物語が幕を開けていた。
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―特別編・次世代編:完―




