冬編「ぬくもりのかたち」
第一章:初雪の記憶
12月の初め、今年最初の雪が舞った。
「ママー! ゆき! ゆきー!」
陽葵が窓の外を指さして歓声をあげる。
葵蘭はキッチンから顔を出して、彼女の隣に座った。
「ふふ、ひまりにとっては“今年”の雪じゃなくて、人生3回目の雪かな」
「ゆきって……おいしいの?」
その無邪気な質問に、健太がリビングから叫ぶ。
「味は……ないけど、かき氷っぽいかもなー!」
一方、舞と傑の家でも、同じような光景があった。
「凛翔、雪って冷たいだけじゃなくて、静かに降るとなんだか心まで静かになるよね」
「パパ、それ詩?」
「うーん、パパの心の声ってことで」
笑い声とともに、冬の足音が家族に静かに寄り添っていた。
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第二章:灯りのなかの時間
クリスマスが近づき、4人家族は一緒に過ごす計画を立てていた。
「今年は、合同クリスマスパーティしようか!」
「賛成! 子どもたちにも、プレゼント交換とかさせたいね」
会場は舞と傑の家。ツリーを囲みながら、子どもたちはオーナメントを飾り、大人たちはキッチンで一緒に料理を作った。
「これ、オードブルのつもりだったんだけど、ひまりが全部フルーツだけにしちゃって……」
「逆に天才!」
健太と傑は大笑いしながら、グラスを傾けた。
夜になり、キャンドルの灯りだけの静かな時間。ツリーの下で、陽葵と凛翔が眠っていた。
「……あったかいね、こういう時間って」
舞が呟くように言った。
「寒いからこそ、こうして心が近づくのかもしれないね」
葵蘭の言葉に、みんなが頷いた。
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第三章:年の瀬、ふたりのこと
年末。子どもたちは実家に数日預け、大人4人で久しぶりの「大人の時間」を持つことに。
「……こうやって改めて4人だけって、いつぶりだろう」
「ほんとにね。シェアハウスの頃みたい」
夜のダイニングテーブルに4人が並び、それぞれワインやお茶を手に語り合う。
「最近、家族のことを“守る”だけじゃなくて、“育てる”って言葉の意味をよく考えるようになったんだ」
健太が静かに言った。
「俺も、子どもを育ててるつもりで、実は自分のほうが育てられてるんじゃないかって思うことがあるよ」
傑の言葉に、舞と葵蘭がふっと微笑んだ。
「じゃあさ、今年の終わりに、4人で約束しようよ」
「約束?」
「来年も、ちゃんと“4人で語る時間”を忘れないこと」
グラスを重ね、冬の静けさのなかで、ぬくもりが生まれていった。
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第四章:新しい年へ
年が明け、凛翔は6歳になり、陽葵も4歳を迎えようとしていた。
「ママー、もう赤ちゃんじゃないよ」
「うん、ひまりはお姉さんになってきたね」
「だからね、いもうとがほしいな〜って」
突然の言葉に、葵蘭はお茶を吹きそうになりながら笑った。
一方、舞の家では、凛翔が真面目な顔で傑に語っていた。
「パパ、ぼく、しょうらいひまりちゃんとけっこんする!」
「……え!? ちょっと待て!」
舞と傑は顔を見合わせ、大爆笑。
「でも……かわいいわね。子どもたちがそう言ってくれるくらい仲がいいって、奇跡だよ」
雪はまた、静かに降り積もっていた。
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第五章:ぬくもりのかたち
冬の終わり、4人家族はまた一緒に公園に出かけた。
寒空の下でも、陽葵と凛翔は元気に走り回る。
「子どもたち、どんどん世界を広げていくね」
舞の言葉に、健太が頷いた。
「でも、帰ってくる場所があるからこそ、思いきり冒険できる。そうだろ?」
葵蘭と傑は、その言葉に何も言わず、静かにうなずいた。
冬の終わりは、いつも春の始まり。
家族のぬくもりは、それぞれの手のなかに、確かに形を持ってそこにあった。
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―冬編:完―




