秋編「色づく日々に、寄り添って」
第一章:秋風の始まり
9月中旬。朝晩の空気がひんやりとしはじめた頃、陽葵は初めての運動会に向けて練習に励んでいた。
「ママー! かけっこ、1番になれるかな?」
「もちろん、なれるよ。でも大事なのは、楽しく走ることだからね」
葵蘭は陽葵の髪を結びながら、やさしく微笑んだ。健太は仕事を調整して、当日ビデオ係を申し出ていた。
一方、舞と傑の家では、凛翔の“芸術作品”が増え続けていた。
「これ、見て! 秋の虫、いっぱい描いたの!」
「おぉ……これはコオロギ? いや、カマドウマ……?」
傑は笑いながら、舞の顔を見た。
「なんだろ、秋ってさ。子どもたちも、少し“考えるように”なってきた気がしない?」
舞はうんうんと頷いた。
「大きくなるって、こういう季節を知っていくことなのかもね」
⸻
第二章:運動会の朝
運動会当日。空は高く晴れ渡り、校庭には保護者たちのカメラと応援の声が飛び交っていた。
「陽葵ー! がんばれーっ!」
「凛翔ー! こけてもかっこいいぞー!」
健太と傑は、望遠レンズを構えて奮闘していた。舞と葵蘭は並んでシートに座り、子どもたちの姿を見守る。
リレー、玉入れ、親子競技――。どれも子どもたちが一生懸命で、見ているだけで胸が熱くなった。
「……泣いちゃいそう」
舞の目が潤んでいるのを見て、葵蘭は微笑んだ。
「泣いていいよ。うれし涙って、心が育った証だから」
⸻
第三章:木漏れ日の下で
運動会から数日後、4人は久しぶりに森林公園でピクニックをしていた。木々は色づきはじめ、子どもたちは落ち葉を集めて遊んでいる。
「陽葵、見てー! この葉っぱ、ハートみたい!」
「ほんとだー! おそろいにしよ!」
ふたりの声を聞きながら、健太が静かに言った。
「……子どもたち、あっという間に大きくなるんだろうな」
「そうだな。気がついたら、手をつなぐのも“恥ずかしい”って言われるかも」
「そしたら、その代わりに、手紙でも書いてもらおうか」
傑の冗談にみんなが笑った。
秋の風は、心の深いところにそっとしみわたるように吹いていた。
⸻
第四章:父と母のあいだで
その夜。舞は傑とベランダに座りながら、ぽつりと呟いた。
「最近、凛翔が“パパばっかりいいな”って、ちょっとすねるの」
「そうか……意識して、時間取ろうか?」
「ううん……逆に、ママとパパが仲良くしてると安心するって」
舞は傑の肩に寄りかかって、笑った。
「だから、夫婦の時間も大切にしようね。私たちが手を取り合ってるって、あの子たちにとっても支えになるから」
傑は、そっと彼女の手を握った。
⸻
第五章:色づく未来へ
11月、紅葉がピークを迎える頃。葵蘭と健太、舞と傑は合同で「家族写真」を撮りに出かけた。
陽葵と凛翔は、お揃いのチェック柄のシャツを着て、はしゃぎながら枯葉を投げ合っている。
カメラのシャッター音とともに、4人家族の笑顔がフレームに収まった。
「この写真、10年後も一緒に見ような」
「うん。あのとき、こんなに笑ってたねって、きっと思えるから」
秋の静けさの中に、温かな未来が確かに息づいていた。
⸻
―秋編:完―




