『ー 結婚の先にあるもの ー』
第一章:はじまりの生活(葵蘭と健太)
結婚して半年。都内の静かなマンションの一室で、葵蘭と健太は新婚生活を送っていた。
朝は葵蘭が先に起きる。
寝ぼけ眼の健太を横目に、丁寧に朝食を作り、彼のためにコーヒーを淹れる。
「今日の撮影、午後からだよね?」
「うん。でも企画の書き起こし、今朝中にやらないと」
そんな会話を交わしながらも、どこかぎこちなさが残っていた。
健太は映像制作会社のディレクターに昇格し、帰宅は日付を超えることも増えた。
葵蘭も、モデル業と編集者としての二足のわらじで忙しくしていた。
──幸せなはずの生活。だけど、何かがずれていく。
ある晩、健太が疲れた様子で帰宅すると、リビングには葵蘭の書き置き。
「先に寝てます。冷蔵庫にスープあります」
シンプルな文字。それだけなのに、胸がチクリと痛んだ。
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第二章:交わらない夜(舞と傑)
舞と傑は郊外の小さな一軒家に住んでいた。
休日には家庭菜園をいじり、夜は一緒にワインを飲みながら映画を観る。そんな穏やかな生活。
だけど、舞の心には小さな不安が芽生えていた。
「ねえ、傑。最近、曲作りどう?」
「まあまあ。今日もレコーディングあって、少し遅くなるかも」
傑は音楽スタジオでの仕事に没頭し、家でもヘッドホンをつけたままのことが増えていた。
舞は小学校の担任として、子どもたちの成長を支えながらも、誰にも言えない孤独を抱えていた。
──私たち、夫婦って呼べるのかな。
夜、傑の帰りを待つリビングで、ひとりぼっちのワイングラスが、冷たく光っていた。
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第三章:すれ違いの中で(葵蘭と健太)
ある日、葵蘭が出版社の仕事で地方出張になった。
帰ってきたとき、健太はリビングでうたた寝していた。
彼のそばに、女性の名前が記された名刺。
葵蘭はふとそれを拾い上げる。
「この人……誰?」
健太は慌てて起きて、何でもないと弁明したが、その表情に自信がなかった。
「信じてる。でも……疲れるね、全部が」
葵蘭の言葉には、怒りよりも哀しみが滲んでいた。
忙しさを言い訳に、言葉を交わさなくなったふたり。
それでも手を離したくないと思うのは、きっと愛が残っている証だった。
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第四章:沈黙と対話(舞と傑)
ある夜、舞が思い切って切り出した。
「傑、今日、ひとつ相談があるの。……わたし、妊娠してるかもしれない」
傑の顔が驚きに染まり、次第に緊張に変わる。
「……それって、本当?」
「まだ確定じゃない。でも、怖かったの。もし、あなたが望んでないって言ったらどうしようって」
沈黙。
舞の目に涙がにじむ。
だが、傑は優しく手を取り、ゆっくりと頷いた。
「俺は、何があっても君と生きていきたい。子どもがいてもいなくても、君がそばにいればそれでいい」
静かに涙をこぼした舞。
ようやくふたりの心が、同じリズムで鼓動を刻み始めた瞬間だった。
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第五章:結びなおす手(葵蘭と健太)
クリスマスイヴの夜。
葵蘭は、仕事帰りにイルミネーションをひとり見上げていた。
そこに、健太が息を切らせて現れる。
「蘭……遅くなった。話したいことがある」
彼の手には、小さな箱があった。
「もう一度、君と未来をやり直したい。忙しさにかまけて、君の不安にも気づけなかった。……でも、今度は見失わない」
箱の中には、新しいペアリング。
「これ、結婚指輪の“次”じゃない。これからをもう一度、誓う指輪だ」
葵蘭はその場で彼に抱きついた。
涙が頬を伝い、言葉より先に心が動いた。
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第六章:家族のかたち(舞と傑)
年が明けてすぐ、舞の妊娠が確定した。
傑はスタジオの仕事を少し減らし、家にいる時間を増やした。
ふたりで育児グッズを見に行き、名前を考え、夜は胎動を感じながら語り合う。
「この子が大きくなったら、あのシェアハウスに連れて行こうか」
「あそこがあったから、私たち出会えたんだもんね」
四人が共に過ごした日々が、やがて次の世代へと受け継がれていく。
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エピローグ:絆は変わらず、そこに
春。再び、あのシェアハウスに四人が集まった。
今度は、少し大きくなったお腹の舞と、互いに寄り添う葵蘭と健太。
ソファに座って、昔話に花を咲かせる。
だけど、誰の目にも、それぞれの困難を乗り越えてきた確かな絆があった。
「きっと、またいろんなことがある。でも、大丈夫。だって、私たちだから」
蘭の言葉に、全員が頷いた。
未来は、誰にもわからない。
でも、この絆だけは、決して揺るがない――。




