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捨てる神あれば拾う神あり~踏み台令息は失恋を得て成長する~  作者: 夢子


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尊い方からの願い

「ジェミナイ君、少しいいかな? 相談があるのだけど」


「ソ、ソラリス君……もしかして教材のことかな? うん、あの、今なら大丈夫だよ。その、喜んで話を聞くよ」


「そうか、助かるよ、有難う」


 シャーロットたちとのお茶会から数日後、エリックは同学年で同じクラスでもあるシャーロットの義弟ジェイドに声をかけられた。


 シャーロットのお陰で心構えが出来てたとはいえ、これから無理難題を押し付けられるのかと思うと体に力が入り緊張しているのが自分でも分かるし、受け答えもぎこちなくなっているように思えた。


「ジークハルト様、ジェミナイを連れてまいりました」


「そうか、ご苦労」

「エリック、久しぶり!」


「……」


 相談があると持ち掛けられ、エリックがジェイドに連れていかれた場所は、皮肉にも先日シャーロットたちとお茶会をしたラウンジの同じ個室だった。


 ジェイドが部屋の扉を開けると、第一王子のジークハルトとその側近たちが居て予想通りだった。

 皆の視線がエリックに集まり、ごくりと喉が鳴ってしまう。


 ジークハルトとその側近と言えば、エリックを呼び出したジェイド・ソラリスに、パトリック・クロノス、アルフレッド・バッカス、アンドリュー・ヴェスタと有名どころの子息たちだ。


 それとその中には当たり前のように男爵令嬢でしかないマリーもいて、分かっていたこととはいえエリックは言葉を失った。


(驚いたらダメだ、笑顔、笑顔だぞ、エリック!)


 子息しかいない個室に一人きりのご令嬢。

 どう考えてもいけない噂や醜聞が流れそうな状態なのだが、マリーもこの部屋にいる子息たちも何も気にしていない。


 それに第一王子の言葉と同じタイミングでマリーがエリックに話しかけてきても誰も注意をしないのだ。彼らの中でマリー中心に世界が回っているのが分かり気持ち悪くなった。


「マ、マリー、その、久しぶり……だね……」


「もう、エリックったら同じ学校に通っているのに全然会わないんだもん、あたし寂しかったんだよー」


「そ、そうか、はは、ごめんねー」


 マリーの中でエリックとの別れ話のことなど無かったことになっているようだ。

 気まずさなど何も見せずいつも通り話しかけてきて、子息たちからの冷たい視線にエリックの方が気まずさを感じる。


「ううん、良いよ、許してあげる。でも今日エリックに会えてよかったー、えへへ、嬉しいなぁ」


 ジークハルトの鋭い視線を感じながらも近づいてきたマリーと挨拶を交わす。

 エリックが学園内でマリーを避けていただけあって、マリーときちんと顔を合わせるのは入学式以来となるかもしれない。


 引き攣りそうになる笑顔をどうにか堪え、エリックはマリーに笑顔を向ることが出来た。これも先に情報をくれたシャーロットたちのお陰だろう。有難さしかなかった。


「……お前が、マリーの幼馴染のエリック・ジェミナイか?」


 ジークハルトが羽虫でも見るような視線をエリックに向ける。

 マリーが会えたことに喜んでいるからなのだろう。

 敵意むき出しのその態度にエリックは引き気味になる。


「は、はい、私がエリック・ジェミナイです。第一王子殿下にお会いできましたこと、嬉しく思います」


「ふん、あまり賢そうではないな……本当にこいつで大丈夫なのか?」


 この部屋にいる可笑しな男たちよりも冷静に判断出来ている分エリックの方が絶対に賢いと自信があるが、エリックは軽く頭を下げたまま笑顔でジークハルトの不躾な言葉を躱す。


 相手はこの国の王子。

 怒るだけ無駄だ。

 そんな言葉を心の中で自分に言い聞かせる。


 それにしても、こんな人と結婚しなければならないシャーロットが可哀そうだと思う。

 高位貴族は自分で結婚相手を選べないとはいえ、目の前にいるジークハルトはあまりにも酷い相手だと思う。


 エリックの名を優しく呼び、美しい笑顔を浮かべるシャーロットを思い出せばなぜか胸がずきりと酷く痛んだ。


「もう、ジーク様、そんなことを言わないでください、エリックは私の幼馴染なんですよぉ、大事なお友達なんですから」


「……ふん、大事な友達で幼馴染か……」


 マリーの余計な一言のせいでジークハルトの視線が益々鋭くなった気がするが、エリックは視線を下に向けているので本当のところは分からない。

 ジークハルトの許可が下りるまではエリックは顔を上げられないからだ。

 相手の顔が見えなくて良かった。

 少しだけ痛いと感じる視線を受けエリックはそう思った。


「まあ、良い、ここは学園内だ、不敬を許す。エリック・ジェミナイ顔を上げろ」


「……はい、有難うございます」


 エリックが顔を上げればジークハルトはふふんと鼻で笑う。

 ジークハルトは第一王子だけあって金髪に緑の瞳、そして当然整った顔をしていて王子様らしい王子様な容姿だった。

 それに引き換えエリックは子犬のような容姿ともいえる、可愛い系の男の子だ。

 一年生のエリックはまだ成長途中、三年生であるジークハルトに男らしさで適うわけがない。


 だからだろうか、ジークハルトの中でマリーとエリックの仲の良さに嫉妬していた気持ちが落ち着いたようだった。

 この程度の男ならば問題ないだろう……と、勝ち誇っている顔だともいえた。


「お前の商会でマリーのドレスを作ってもらいたい、「若葉の宴」に間に合うようにだ」


「「若葉の宴」に……でございますか?」


「ああ、そうだ、絶対に間に合わせろ」


 驚いた表情は浮かべているけれど、エリックは(シャーロット様の言った通りだった)と心の中では頷いていた。こんな時期になってからの申し込みだけでもあり得ないことなのに、第一王子自ら男爵令嬢のドレスを申し込む愚行。その上相手(マリー)は婚約者でも何でもない令嬢だ。


 もしドレスを準備する相手がエリックならば、幼馴染が困っていたからマリーにドレスを贈ったで通せるかもしれないが、ジークハルトをはじめ、ここにいるメンバーは皆婚約者がいるためそれは通用しない。


 本気で言っているのですか?


 エリックがそんな視線を送れば、流石にジークハルトも側近の皆も少しだけ気まずい顔となった。


「んんっ、そんなに驚くことではない、マリーは我々の友人だ、困っているなら力を貸す、それだけのことだ」


「困っている……? ですがマリーには養父であるアレース男爵がいらっしゃいますし、ドレスは男爵が用意されるべきではないでしょうか?」


 当然の疑問を口にしたエリックをジークハルトが睨む。

 そしてその横にいるマリーはうるうると目に涙を溜めだした。


「ううう……お父様はドレスのことには疎くって……用意してくれたドレスは「若葉の宴」に合わないものだったの、ぐすん」


「……」


 アレース男爵は一応はドレスを準備してくれたようだ。

 でもきっとマリーはそのドレスが気に入らなかったのだろう。

 いや、ジークハルトの隣に立つには相応しいものでは無かったのかもしれない。


(既製品か……それとも中古のドレスとかだったのかなぁ)


 男爵令嬢ならばそのレベルが当たり前ともいえる。

 中には母親や祖母のドレスをリメイクし、何とかして出席する(令嬢)だっているのだ。

 マリーのその言葉はただの我儘、贅沢でしかない。


 これまでマリーのお願いを何でも聞いてきたエリックだけど、今はちゃんと現実が見えていた。


「エリック・ジェミナイ、ジェミナイ商会で何とかしろ、これは()()()()だ」


「……」


 有無を言わさぬジークハルトの言葉。

 彼こそが今、マリーのお願いを何でも聞いてくれる相手のようだ。


「……畏まりました。ですが、我が商会も商売です、無料でとは行きません。それにこれからドレスを作るとなれば、特急料金とドレスの生地や形によってはかなりのお値段がかかりますが、そこはご理解していただけますでしょうか?」


「何?! 貴様、私から金をとるのか?」


「……殿下、私がマリーに私の資金でドレスを用意すれば、マリーと私の仲を会場中の生徒たちに勘違いさせることになりますが、それでも宜しいのですか?」


「……っ!」


 エリックはシャーロットたちと話し合った通りの受け答えを返す。

 王子であるジークハルトの資産は厳しくチェックされている。

 ドレスを作るほどの大金を使えば、必ず陛下や王妃に知られてしまう。

 それはマズイと彼も分かっているようだ。


 他の子息たちもきっと同じなのだろう。

 エリックの答えを聞き気まずそうな顔をする。


 だからこそ彼らはマリーの幼馴染であるエリックに声を掛けた。

 エリックならば商会の力を使いマリーのドレスを無料で準備してくれる、そんな期待があったからだろう。もしかしたらマリー自身がエリックに頼もうと持ち掛けたのかもしれない。


 これまでマリーの願いを何でも叶えてきたエリックにも悪いところがある。

 そしてシャーロットにあの喫茶店で声を掛けられなければ、エリックは喜んでその通りに行動していただろう。


 でも今のエリックは違う。

 ジェミナイ商会の跡取りとしての自覚がある。

 無料でなんてドレスを作ることは絶対にしない。

 それに危ない橋だって渡る訳にはいかないのだ。


 エリックは心の内を隠し、ニコリと笑いお客様に良い提案を出した。


「では、皆さまで少しずつお金を出し合って、ご友人としてマリー様にドレスを贈られてはいかがでしょうか?」


「……ここにいる、皆で? ということか?」


「はい、そうすればマリー様は助かりますし、友人を助けた皆様の行動を怪しむ者もいないでしょうし、特急ドレスの代金もさほど負担にはならないはずです」


「……ふむ、なるほど、それはいい案かもしれないな」


 納得し微笑んだジークハルトの声掛けに側近たちも笑顔で頷く。


 連帯責任、それは時に自分の過ちを軽くする。


 マリーのドレスを作ることは婚約者に対し立派な裏切りだ。


 マリーのドレスが婚約者に贈るドレスよりも高価ならば尚更。


 けれど皆で割る、ということで高価ではないと間違った判断に行きつく。


 皆で一緒という気持ちが彼らの後ろめたさを無いものにした。


 ドレスの申し込み用紙に署名し自らの過ちを書き残した彼らは、全員がそのことに気づいていないようだった。

こんばんは、夢子です。

そして新年あけましておめでとうございます。


年末に投稿を開始しようと思っていましたが、なんだかんだとバタバタしておりまして遅くなりました。

暫く週一程度になりますが投稿を再開します。

宜しくお願いいたします。

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