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捨てる神あれば拾う神あり~踏み台令息は失恋を得て成長する~  作者: 夢子


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事件

 季節は過ぎ、三年生の学園生活も残りわずかとなっていた。


 残念ながら薔薇の会でシャーロットに会うことはもう無くなり、学園内で見かけることも少なくなった。


 シャーロットは今、ソラリス公爵領について公爵から学んでいるようで、石鹸工場へ顔を出すことも難しくなり、ソラリス家に呼ばれ新商品について話し合うことも殆どなくなっていて、エリックは何とも言えない寂しさを感じていた。


(ソラリス家をシャーロット様が継ぐってことは……もしかしてジークハルト様との婚約は破棄されるってことに決まったのかな?)


 最悪な場合、ジークハルトが王位に就かないだけでソラリス家に婿養子に入る可能性もある。

 そんなことになったら、シャーロットの苦労は今以上の物になるだろう。


(シャーロット様と話がしたいな……)


 会えない上に個人的な情報のため、婚約について聞くに聞けないエリック。

 それにシャーロットとジークハルトの婚約は王命だ、迂闊なことを話せばシャーロットに迷惑をかける可能性もある。


 それにシャーロットがエリックに話したくても話せない理由があるかもしれない。

 何よりエリックはシャーロットにとってただの友達であり、家族でも恋人でもない。


 そんな相手に対し国の重要な情報を流すことは難しい。

 噂にも上がっていない時点で隠匿されている可能性は高い。


 そんな機密をシャーロットがエリックに伝えることが出来るはずがないし、エリックだって無理に聞き出したいとは思わない。


 だけど、シャーロットの事情が気になるのも本当で……


 もしジークハルトとの婚約が解消されたのなら、自分にも少しぐらいチャンスがあるのでは?


 と思ってしまうのも男としては仕方がないことで……


 でも実際公爵家のご令嬢と男爵家の子息が釣り合うはずもなく、現実を見ればこの恋が叶うことは無いと分かっているのだが。


(想像するぐらいは良いよね……誰にも迷惑かけないし……)


 シャーロットと両思いになるなど到底無理だと分かっているけれど、夢見るぐらいは良いのではないかとシャーロットとの楽しい未来を想像したりするエリックだった。




「エリック様、今少し宜しいかしら?」


「カトリーヌ様、どうかされましたか?」


 お昼休みも間もなく終わりを迎えるというところで、カトリーヌが久し振りにエリックに声を掛けてきた。


 ジェイドから「はしたない」と注意されてからというもの、ジェイドが教室内にいる限り、エリックに声を掛けることを止めていたカトリーヌ。


 けれど今はまだジェイドがお昼休みの休憩から戻っていないからか、久しぶりにエリックに声を掛けてくれた。


 エリックがきょろきょろとしながらカトリーヌの声掛けに心配気に反応すると、カトリーヌがフフフと可愛らしく笑う。


「そんなに心配しなくても大丈夫ですわ、ジェイド様がまだラウンジにいらしたことはちゃんと確認していますから」


「あ、そうなんですか、良かったです……勘違いからの嫉妬で恨まれるのは面倒なんで」


「まあ、エリック様は正直ですわね、フフフ」


 カトリーヌのことは可愛いと思うけれど、エリックの心の中にはシャーロットがいるのでジェイドに色々と疑われるのは正直面倒だった。


 そんな思いが顔に出ていたのだろう、カトリーヌにまたくすくすと笑われてしまった。

 そんな彼女の様子は一層可愛らしく、教室内の男子生徒の視線を集めているのが分かる。


 カトリーヌもクラスの生徒の視線を感じたのだろう。

 そっと教室の端へ移動し、小声で話を始めた。


「実は、私の婚約のことなのですけど……」


「カトリーヌ様の婚約ですか?」


「ええ、実はお相手の方との婚約がもう間もなく解消される予定なのです」


「えっ……それって……」


「ええ、まだお相手の方の耳には届いていないのですけれど、両家の話し合いは既に付いていますのよ。あの方をお姉様と呼べなくなるのは残念ですけれど、仕方がないですわね。それに私は学園卒業後はあの方のお傍で働かせていただく予定ですので、寂しさはあまりないのですよ」


「あ、あの、カトリーヌ様……僕にそんな大事なことを言っても言いのですか?」


「ええ、私とお相手の婚約は王命ではありませんから、お友達に解消を秘密にする必要はありませんの。ですが私のお相手の方には内緒にしていただけますか? お相手の方にお伝えするのは薔薇の方の卒業後となっておりますので」


「……分かりました、彼はまだ何も知らないってことなんですね……」


「ええ、一学年の間だけは学園へ通わせてあげようという公爵様の優しさですわ」


「……そうなんですね……」


「ええ」


 確かにソラリス家から学園へ通えることは公爵の優しさかもしれないけれど、婚約解消をした瞬間、ジェイドを家から追い出す気満々なような気がして少しだけ気の毒に感じる。


 けれどカトリーヌへの態度や、シャーロットへの言葉を思えばそれも仕方が無いと思う。


 そもそも養子のジェイドは本来カトリーヌと協力しシャーロットを守る立場だ。

 それなのにジークハルトの味方をするどころか、シャーロットの障害にしかならないマリーに心を奪われているのだ、公爵の怒りも分かるというもの。


 本人が家族やカトリーヌの様子に違和感を持ち、自分の危機を感知すればいいけれど、あのジェイドにそんな様子は見られず、その時になって慌てふためく姿が目に浮かぶ。


 何の準備もなく公爵家を追い出されたら、実家に戻るしかないだろうけれど、ジェイドに戻る場所があるのかどうか……


 以前廃嫡して欲しいと父に願ったエリックはジェイドの未来が想像できる。

 輝かしい未来はきっと彼にはもう訪れることはないだろう。

 ソラリス家での生活に慣れてしまった彼を少しだけ気の毒に感じる。


 でも、それよりも気になることがエリックにはあった。

 カトリーヌが婚約解消をした、ということは、シャーロットが公爵家を継ぐと()()に決まったということだ。


 つまりそれはジークハルトとの婚約が解消されたということで、遠回しにエリックへ伝えてくれたカトリーヌには感謝しかなかった。


(シャーロット様は女性公爵になられるんだ……)


 エリックの顔に喜びが広がったのが分かったからか、カトリーヌにも笑顔が浮かぶ。

 彼女もシャーロットとジークハルトの結婚には反対だったようだ。


「えっと、おめでとうございますで良いのでしょうか? その、カトリーヌ様はあの方の傍でどんなお仕事を?」


「ええ、私はあの方の侍女にーー」


「キャーーーーッ!」


 カトリーヌの言葉を遮るように、女性の悲鳴が聞こえエリックは驚く。

 悲鳴はクラス中に聞こえていたらしく、クラス内の生徒皆が驚きざわざわと騒ぎ出した。


「何があったのかしら……」


「廊下でしょうか? 見に行って見ましょうか」


「ええ……」


 悲鳴が聞こえた方へカトリーヌと向かってみる。

 するとそこには多くの生徒がいて、その中央にはジークハルトとその側近たちが居た。


「マリー! マリー! しっかりするんだ!」


「ジークハルト様、頭を打っている可能性があります、揺らしてはいけません!」


「意識が無いんだぞ! 医師を、学園の医師を呼べ! 今すぐにだ!」


「はい、私が行ってまいります!」


 大騒ぎするジークハルトは倒れたマリーを抱えていて、ジークハルトの腕の中に包まれているマリーは意識が無いようで、目を瞑ったまま青い顔をしている。


「誰か! マリーを階段から突き落とした犯人を見なかったか?!」


 パトリックが校医を呼びに行っている間にジークハルトが周りの生徒たちに声を掛ける。

 どうやらマリーは何者かに階段上から突き落とされたらしく、その犯人を捜しているようだった。


「僕たちは見ていません」

「私たちもです、もうすぐ午後の授業の時間ですし」

「声がして来てみたらすでにアレース嬢が倒れていました」


 もう昼休みが終わる時間、当然ほとんどの生徒が教室内にいた。

 この時間にまだ廊下をうろうろしているマリーたちの方がどう考えても可笑しい。


 もしかして授業をサボるつもりだったのだろうか?


 この場にいる皆が言いたい言葉を飲み込んでいた。


「殿下はアレース嬢とご一緒ではなかったのですか?」


 人ごみの中を抜け、カトリーヌがジークハルトに声を掛ける。

 ジークハルトは声を掛けた人物に顔を向けることも無く、マリーを見つめたまま首を横に振る。


「教室に戻ると言ってマリーとは別れたばかりだったんだ……まさかこんなことになるだなんて……分かっていたら教室まで送って行ったのに……」


 この国の王子が男爵令嬢を教室まで送る。

 誰も何も突っ込まないけれど、それはちょっと可笑しいと思っていることが皆の顔で分かる。


 それにジークハルトがどれだけマリーに本気なのかも、その表情でここにいる者には伝わったようだった。


「ジークハルト様、医師を連れてまいりました」


「ああ、パトリック、助かった……先生、こちらの生徒が階段から落ちたようなのです、診ていただけますか」


「そうですか……どれどれ……殿下、彼女を揺さぶって起こそうとはしていませんね? 見た限り怪我もないようですし……取り敢えずここでは何ですので、彼女を保健室へ連れていきましょう」


「はい……」


 女子生徒であるマリーの体を大勢の生徒がいる前で詳しく診るわけにはいかない。

 騎士団長の息子であるアンドリューがジークハルトからマリーを受け取り、抱えると、当然のようにジークハルトたちは皆で保健室へ向かいはじめた。


 そして数歩歩いたところで集まる生徒たちへ振り返る。

 ジークハルトの顔には怒りのような厳しいものが浮かんでいて、エリックの喉が自然にごくりと鳴った。


「いいか、この場にいる生徒に伝えておく、この事件は私が捜査をする。このような非道な行いをする犯人は必ずこの私が突き止めて見せる! この国の王子である私の名に懸けてもな!」


 生徒に向け宣言するジークハルトの背を見つめながら、エリックは思う。

 不安になる生徒を安心させるための言葉かもしれないが、全く安心できない。

 犯人が見つからなかった場合、シャーロットを犯人役に仕立て上げそうで恐ろしくてたまらない。


 ただ、通学の必要が無いのにマリーに会いに来ているジークハルトやパトリックなどとは違い、他の三年生は学園に来ていない可能性が高い。


 ただしあのジークハルトだ、どう因縁をつけてくるか分からない。


 もし階段から突き落とした相手がシャーロットだと言い出したら……


 エリックは嫌な予感がして顔色が悪くなる。

 それはカトリーヌも同じだったらしく、青白い顔色になったカトリーヌと視線が合った。


「エリック様、大丈夫ですわ、今日はシャーロット様は学園には来ていませんから」


「そうなんですね……なら良いのですが……」


 お互いにホッとしながらも、エリックもカトリーヌの顔も晴れない。

 マリーに夢中なジークハルトならば何をするか分からない。

 どうしてもそんな考えが浮かんでしまう。


(シャーロット様にはこれ以上苦労をしてほしくないな……)


 そんな思いを浮かべ、ジークハルトたちが消えていった廊下を見つめる。


(シャーロット様がこのまま無事に卒業できますように……)


 エリックは心の底からそう願わずにはいられなかった。

こんにちは、夢子です。

本日もお読みいただきありがとうございます。

集中投稿して三月中に踏み台令息終わらせたかったのですが、無理そうです。w

体調が悪くて辛すぎる……

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