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捨てる神あれば拾う神あり~踏み台令息は失恋を得て成長する~  作者: 夢子


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22/28

悪女

 学園の後期授業が始まった。

 社交シーズンもあり、貴族学園の夏休みは長いものだった。

 ただそのお陰もあって、エリックは週に一度は仕事だと言ってシャーロットに会うことが出来たため、新学期を迎えても気分が良い。

 シャーロットの笑顔を思い出せば空も飛べる、そんな気分だった。


「前期の成績も良かったし、家業は順調だし、シャーロット様と出会ってからは良いことばかりな気がするなぁ」


 マリーとお付き合いをしていたころは、マリーの願いを叶えるために一人奮闘していたエリック。

 時には内緒で商会に届いたお菓子を持って行ったり、マリーに似合う装飾品をプレゼントしたいからと、お小遣いを貯めては何でもない風を装ってマリーに渡したりもしていた。


 今思えば学園の受験勉強も疎かだったし、とにかくカッコつけてはマリーの気を引きたくて仕方がなかった時期だった。


 シャーロットと出会わず、失恋してもあのままマリーを想い続けていたら今頃自分はどうなっていたか……


 自分の物と店の物の区別もつかないどうしようもない跡取りになっていて、親を泣かせていた可能性はとても高い。

 それに学業もどこまで集中できたか分からない。

 あれだけの男性に囲まれるマリーの気が引きたいと、きっと学業そっちのけでマリーのために自分の時間を全てつぎ込んでいただろう。


(つまりシャーロット様は僕にとって救いの女神ってことかなぁー)


 今だからこそ自分の愚行が分かるが、マリーに恋している時は自分の可笑しさにまったく気付けなかったのだから尚更恐ろしい。


 シャーロットと出会って、シャーロットの言葉を受け入れ、シャーロットの後押しで仕事が出来たからこそ、今の自分がある。


 エリックは恋愛抜きにしても、シャーロットには感謝しかなかった。




「エリック様、ごきげんよう、今学期も切磋琢磨し、お互いに頑張りましょうね」


「おはようございます、カトリーヌ様、今学期も頑張りますので、どうぞ宜しくお願いいたします」


 一学年のAクラスへ行くと、カトリーヌに笑顔で声を掛けられた。

 エリックのことを友人として見てくれているらしく、気軽に話しかけてくれて、夏休みの視察のことなど、薔薇の方(シャーロット)の名前を出さずとも、彼女のことを話し合えることが楽しい。


「私も是非一度その工場へ行って見たいですわ」


「カトリーヌ様なら大歓迎です。あの方も未来の妹様とご一緒なら尚更喜ばれるでしょうし」


「まあ、未来の妹だなんて……ウフフ」


 ジェイドと結婚した様子でも思い浮かべたのか、カトリーヌの頬が少しだけ赤くなる。

 可愛らしい見た目のカトリーヌのテレ顔にクラス中の男子の視線が集まり、なんだかエリックまで注目されているような気までした。


「えっと、その、すみません、妹とかは少し早すぎましたか? でもあの方は既にカトリーヌ様のこと妹だと思っておいでのようでしたよ」


「まあ、そうなの? それならとても嬉しいですけど」


 益々頬が桃色に染まり、喜んでいるカトリーヌ。

 小さな声だけどシャーロットの話をすることがエリックだけでなくカトリーヌも嬉しいようで、同士を見つけたようで嬉しい気持ちになる。


 シャーロットは可愛いものが好きらしく、カトリーヌは可愛くて自慢の妹なのだと良くエリックに言っている。

 弟兄弟しかいないエリックは、目の前の可愛らしいカトリーヌの姿を見て気持ちが分かると頷いていた。

 

「カトリーヌ、婚約者以外の男性と長時間話し込むなど少しはしたないのではないかい?」


 時間にして五分程度だろうか。

 カトリーヌの友人を含め教室内で話していただけなのに、婚約者であるジェイドが珍しく声を掛けてきた。それもあからさまな不満顔で。


「あら、ジェイド様、ごきげんよう、珍しく早いのですねぇ……それよりもはしたないだなんて、私は友人たちとお話をしていただけですのよ、ねえ、皆さま」


 自分の行動は棚に上げ注意してきたジェイドに対しカトリーヌは冷ややかな態度だ。

 当然だろう、常にマリーべったりなジェイドにはしたないなどと注意されるのは可笑しすぎる。

 カトリーヌの友人たちも笑顔だけれど、冷めた視線を向けていた。


「……っ! ジェミナイ君! 君ももう少し僕の婚約者に気を使ってくれるかな? 下手な噂が立つと彼女に迷惑だからね!」


 カトリーヌが取り合わないと分かったからか、怒りの矛先をエリックに向けてきた。

 まだ少年っぽさが残るジェイドの癇癪は子犬が吠えているようでちっとも怖くはない。


「……あ、はい、その、ソラリス君、すみません、次からは気を付けますので……」


「ああ、本当に、気を付けてくれよ、我が家の品位を落とされてはかなわないからな!」


 低血圧なのか、朝からマリーに会えず機嫌が悪いのか、ジェイドはエリックが謝ると満足したようでフンッと鼻を鳴らし自分の席へ向かって行った。


 本気でカトリーヌを心配しているのならば、一緒に連れ出すのが普通だと思うが、そうではない。


 彼は一体何がしたかったのか? ただ誰かに当たりたかっただけなのか?


 公爵家の子息にエリックが反論できるわけがなく大人しく従ったが、心の中では(なんで今更?)と首を傾げるしかなかった。


「……エリック様、私の婚約者が失礼いたしました……あの方、成績が悪くてお父様に注意された様ですの、ですから自分の上にいるエリック様に八つ当たりしているのですわ、本当に情けない方ですこと……」


 カトリーヌがそっとそんなことを教えてくれた。

 確か首席で入学したはずのジェイドは、前期の試験結果では三位だった。


 上位十位までは試験結果が張り出されるだけに、それは皆が知っている事実だった。

 何で今頃八つ当たりを?という思いはあるけれど、夏休み中に親に叱られたのならば仕方がない。


 それにシャーロットは入学してからずっと一位の成績を取り続けていると聞いている。

 そんな姉がいるのだ、三位で恥ずかしいと男のプライドが傷ついたのかもしれない。


「カトリーヌ様が謝る必要はありませんよ、僕は全く気にしていませんし」


「まあ、エリック様は優しい上に心も広いのですね、流石あの方が認めたご友人ですわ」


「いえいえ、そんなー、えへへ」


 エリックは夏休みの機嫌のよさからジェイドの幼い行動は許すことにした。

 カトリーヌからシャーロットの友人だと言ってもらえた嬉しさもあったと言える。


 ただジェイドのその行動が、マリーとジークハルトの恋が成就したことによる失恋からの行動だとは気づかなかった。


 ジェイドの目には隈があり、良く見れば何かに悩んでいると気づいたのだろうが、友人でもないエリックが気づくことは当然無く、婚約者として諦めているカトリーヌもジェイドの苦しみに気付くことはないのだった。





「エリックー、久しぶりぃー、元気だったー?」


 エリックは浮かれていた。

 いや気持ちが緩んでいた。

 その言葉はどちらも正しい。


「……マリー……」


 エリックは前期中あれだけマリーに会わないようにと気を付けていたのに、後期初日にマリーに出くわしてしまった。


 まあ、同じ一年生という同学年のため完璧に避けるのは難しいけれど、出来れば会いたくなかった、それが正直な気持ちだった。


 今更マリーに心が揺れ動くことは無いけれど、多くの男性を虜にしているマリーと仲良しだとは周りに知られたくない。それが一番の理由かもしれない。


 けれどどうにか笑顔を作りマリーと向き合った。


「や、やあ、アレース嬢、お久し振りですね、夏休みはいかがでしたか?」


「うん、すっごく楽しかったよーって、エリック、どうしたの? 変な喋り方だね? いつもみたいにマリーって呼んでくれていいのに」


「いや、うん、それはね……」


「うふふ、エリックってば変なのー」


 マリーが笑いながらエリックに近付き、自然な行動で制服の上着をそっと掴もうとしてきたのでエリックは一歩後ろに下がる。


 婚約もしていない男性に親し気に近付くマリーは相変わらず貴族令嬢とは呼べない状態だ。

 ジェイドもカトリーヌに「はしたない」と注意するよりも、マリーに注意するべきだろうと思ったが、そんなことは当然口には出さない。


 出来るだけ早く話を終えようと、エリックは「ジークハルト様は?」と彼女の恋人の名を出した。


「うふふ、エリックってばジーク様が気になるのぉ? 仕方がないなぁ、特別に教えてあげるねっ。ジーク様はねー、短い休み時間の時はあまり会えないの、寂しいけれど三年生の教室は離れているから仕方がないんだー」


「ああ……」


 そうでした!

 今更ながらにそのことを思いだす。

 夏休みボケなのだろうか、それとも幸せボケなのだろうか、今日のエリックは頭の動きが鈍いようだ。


 そういえば短い休み時間にマリーの傍にいつもいたのはジェイドだった。

 けれど今日は一緒にいないらしい。

 もしかしたら不機嫌だったジェイドは、その顔をマリーに見せられないのかもしれない。


 けれど出来るだけマリーと一緒に居たくないエリックは「じゃあ、今からジェイド君のところへ行くの?」とその名を出してみた。


 するとマリーは唇を尖らせて、くねくねと体を振って上目遣いにエリックを見つめてくる。

 以前ならば可愛いと思ったマリーのその行動が、本物の貴族令嬢を知った今はおかしなものに映ってしかたがない。いや、これがシャーロットだったとしたら可愛いし嬉しいと思うのかもしれないが。


 それにしても、ジークハルトたちは一体この子のどこが好きなんだろう? 

 ほぼ平民のようなエリックとは違い、生まれた時から本物の貴族令嬢を知る彼らは、マリーのこの仕草をどう思っているのだろうか?


 笑顔が引き攣っているエリックには気づかず、マリーはちょっとだけ不機嫌な顔で話し出した。


「それがねー、ジェイのお姉さんが意地悪なんですって」


「は?」


「学年で三番の成績を取ったジェイはそれだけで凄いのに、自分が三年生で一番だったからってお姉さんがお父さんにそのことを告げ口したんですって、酷いでしょう?」


「は?」


「ジェイのお姉さんって、美人だけど性格が悪いんですって、ジーク様も呆れてたんだから。だからね、ジェイは今遊ぶ時間がないの、自由がないだなんてジェイが可哀そうよねー」


「は?」


 マリーの言葉が脳に正常に伝わらない。


(シャーロット様が性格が悪い?!)


 その言葉はまるで異界の者の言葉のようで、エリックには理解できなかった。


「ジーク様も言っていたわ、アイツは最悪な女だって、ジェイの姉でなきゃとっくにこの国から追いだしただろうって、当然よねー」


「は?」


 自分の婚約者に対しジークハルトは何という言葉を吐いているのだ。

 マリーの気を引きたいが故の強気発言かもしれないが、許せない。


 エリックは第一王子に対し、もう笑顔など作れるような気がしなかった。


「だから暫くジェイとは一緒にいられないんだってぇー、でもお昼の時だけは一緒、後は教室から出られないみたい、ほんとに可哀そうよねー」


「……」


 いや、それは自業自得。

 悪い成績を取ったジェイドの責任だろう。


 けれどそれで朝から機嫌が悪く、エリックに八つ当たりしてきたのかと納得しかない。


「ジェイのお姉さんは悪女だって噂を聞いたわ」


「は?」


「お友達がみーんな言ってたの、ここだけの話しぃ成績もズルをしてるから良いんですって、それに休みになると出かけて色んな男の人と遊んでもいるらしいのよぉ。みーんなが言ってたから本当のことだと思うわ。エリックも気を付けてね、弱い者いじめが好きな人らしいから」


「は?」


「あっ、もうすぐ次の授業ね、戻らなきゃ、じゃあ、エリック、またねー」


「はぁっ?!」


 言いたいことだけ言って去っていくマリー。


 その後ろ姿を見ながら、意味が分からず大きな声が出てしまう。


(シャーロット様が意地悪で男好きで弱いもの虐めが好きな嫌な女で悪女だとー?!)


 エリックの中でこれまでにないほどの怒りが沸く。


 一体どこの誰がそんな噂を流しているんだ、見つけ次第殺してやる。


 それにマリーの友人とは誰だ! 絶対に許さない。


 噂を流すみーんなとは誰だ、この場に連れてこい!


 全員晒し首だ。


 絶対に許せるはずがない。


「マリーの友人って……みんなって……どう考えてもあいつらしかいないよな……」


 マリーの友人など、あの男たちしかいない。


 シャーロットの嘘の噂を流すなど、貴族男子の風上にも置けない所業だ。


「絶っっっ対に許さない……!!」


 エリックの中で怒りの炎が灯った瞬間だった。

こんにちは、夢子です。

今日もよろしくお願いします


タイトル「悪女」にするか「意地悪で男好きで弱いもの虐めが好きな嫌な女で悪女」にするか悩みましたが悪女にしました。簡単な方が良いかと思って……

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