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捨てる神あれば拾う神あり~踏み台令息は失恋を得て成長する~  作者: 夢子


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未来のソラリス公爵

「父上、お話とは何でしょうか?」


 夏休みに入ってすぐ、ソラリス家の養子ジェイドは父親の執務室に呼び出された。


 姉のシャーロットが出かける日を選んでの呼び出し、もしかしたらジークハルトへ対する姉の言動や態度の悪さについての相談だろうか? とジェイドはそう考えた。


 ジェイドがソラリス家に養子に来たのは五歳の時。

 丁度シャーロットとジークハルトの婚約が正式に決まった時期だ。


 ソラリス公爵夫人オリビア・ソラリスは、他国の元王女。

 シャーロットを産んだ後体調を崩し、もう無理をして子供を産むことは叶わなくなったため、複数人いた養子候補者の中からジェイドが選ばれることとなった。


 ジェイドは元々子爵家の四男坊だった。

 その為、候補者の中でも選ばれる順位は低く、両親も期待はしていなかった。


 けれどジェイドは幼いころから頭が良く、また見た目も良かったため最終選考まで残ることが出来た。


 当時のことは幼すぎてジェイドはあまり覚えていないけれど、養子候補者と実子であるシャーロットとのお茶会を開き、その中でシャーロットが一番気に入った子供がどうやらジェイドだったらしい。


「ジェイドは可愛い子なの、弟にしたいわ」


 養子に来てからシャーロットは確かにジェイドを可愛がってくれた。

 一緒に勉強したり、遊んだり、両親が不在の時はシャーロットが親代わりのようにジェイドの面倒を見てくれたりもして、実親と別れた寂しさもシャーロットのお陰であまり感じなかった。


 ジェイドだってそんな優しい姉が大好きだったけれど、ジークハルトの友人に選ばれ、王城で過ごすことが多くなればなるほど、姉の冷たい部分を知り、ジークハルトに対する傲慢な姿を見て、ジェイドのシャーロットへの愛情は失せていった。


(ジークハルト様の婚約者であるならばもっとあの方に寄り添うべきだ!)


 妃教育が進めば進むほど、姉からのジークハルトへの進言という名の注意は多くなっていった。

 自由があまりないジークハルトが少しでも街へ出れば、姉はその行動を注意し呆れた顔をした。

 ジークハルトが疲れて勉強に実が入らない日があれば、姉は癒すどころではなく、王子としては甘い心構えだと失笑したりもして、姉の本性を知った気がした。


(あれではジークハルト様の御心が離れるのは当然だ)


 ジークハルトに必要な相手は安らぎを与えてくれる女性なのに、シャーロットはそれとは真逆、婚約者以前に女性として愛されるわけがない。


 だからきっと今日は両親に姉の態度について聞かれるのだろう。

 ジークハルトの相手としてシャーロットが相応しいか相応しくないか、そんなことを聞かれるのだろうと、ジェイドは勝手にそう思っていた。


(正直に姉上はジークハルト様に相応しくないと伝えてしまうか……だけどそうなるとマリーは殿下のものになってしまうし……)


 ジェイドの初恋は、実は姉のシャーロットだった。

 けれどその想いは姉弟である以上叶うことはなく、当然早い段階で消すしかなかった。


 姉は王子の婚約者、義弟が想いを向けていい相手ではない。


 最初は酷くショックを受けたけれど、いつしか姉への想いは家族愛に変わっていった。

 それでも姉はジェイドの中で一番の女性だったし、幸せになって欲しいと願っていた。


 だけど、孤児院で偶然マリーと出会って、ジェイドの心は動いた。

 飾らない笑顔を浮かべ可愛らしく素直な性格のマリーは、これまで会ったどんな女の子とも違った。


 孤児院では辛い生活だろうに、自分は幸せだと言って笑う純粋さ。

 誰にでも優しく周りに気を使い、ジークハルトの心を癒してくれる希少な女の子。

 理想そのものな女の子に出会って、ジェイドの心が動かないはずがなかった。


(ジークハルト様の傍で笑っているマリーが好きだけど……僕のことも見て欲しいって思ってしまうんだよな……)


 今の様子ならば、正妃になれなくてもマリーは側妃には確実に選ばれるだろう。


 でももし万が一、ジークハルトがマリーを選ばなかったら……

 側妃や妾妃など嫌だと言って、マリーがジークハルトの申し出を断ったとしたら……


 マリーがジェイドを選ぶ可能性はぐんと高くなる。

 マリーと仲良く過ごす時間が増えるほど、そんな期待を持ってしまう。


(マリーが僕を選ぶことだってある訳だし……)


 ジェイドの心の中にそんな考えが浮かべば、姉とジークハルトが上手くいって欲しいと願ってしまう。

 だけどジークハルトの苦労を思えば、姉とは別れたほうが良いとそう思う気持ちもある。


 思春期特有の恋の悩みを抱えながら父の執務室に着けば、やっぱり両親二人がジェイドを待っていた。


 そしてジェイドも席に着き、人払いがされると、父が思ってもいなかった言葉を発した。


「ジェイド、お前は何のために我が家の養子になったかを分かっているのか?」


「えっ……?」


 姉のことを聞かれるとばかり思っていたジェイドは、父の問いかけに反応が遅れ、間の抜けた声が漏れる。


 目の前のテーブルの上にバサリと書類が置かれ、それが学園から届いた成績表だと分かる。


【ジェイド・ソラリス 一学年前期、学年順位第三位】


 入学時は一位の成績で通ったジェイドだったけれど、今学期の成績は三位だったようだ。


 試験結果はそれほど悪くなかった。

 そう思っていただけに、張り出される成績順位を見に行くこともしなかった。


 仲がいいジークハルトやマリーが上位に入ることは無いため、目に入らないようにワザと避けていたともいえる。


 それにそもそもジークハルトは勉学があまり得意ではないため、試験後はテストのことなど話題にも出さなかったし、当然一位だと思っていた自分の成績をジェイドが調べることなどしなかった。


 なので今、初めて自分の成績を知りジェイドは驚いた。

 まさか自分が三位になっていたなんて……言葉を失った。


(怒られている? でもジークハルト様に比べればずっといい成績だ)


 学年上位であることは変わらない。

 三位だって立派な成績だ。


 そんな言い訳を心の中で唱えたジェイドだったが、顔を上げて両親の顔を見れば、言い訳の言葉を飲み込むしかなかった。


 両親の失望が目に見えて分かったからだ。


「あの、父上……これは……」


「体調でも悪かったのか? それとも試験の範囲を間違えたとかか? まあ、そんな言い訳はソラリス公爵の子供には通用しない。いいか、我が家は公爵家だ、他家の模範とならねばならない存在だ。実子であるシャーロットが三年間一位を維持しているのに対し、養子のお前がこれでは話にならん。シャーロットと同等とまではいかなくとも、せめてそれに近い努力をしろ。何のためにお前を養子にしたのか、これでは恥ずかしくてソラリス家を任せられん」


「……はい、申し訳ございません……」


 ジェイドは両親の前で頭を下げる。

 姉が成績優秀なのは知っていたが、入学以来ずっと一位であったことは今知った。


 ジークハルトが可愛げのない女だとシャーロットのことを言っていたが、その通りだと思う。


 ジークハルトへの当てつけのように試験で良い成績を取っているのかと思うと、怒られているせいもあってか嫌な気分になる。

 

 幼いころから妃教育を受けている分、姉は有利なのだ。


 自分の努力の足りなさを素直に認められず、責任転嫁の先をシャーロットに押し付ける。


「ジェイド……成績はともかく、貴方、婚約者であるカトリーヌ様との時間を取らずに他の令嬢と仲良くしているようね? そのことはどう考えているのかしら?」


 母の思わぬ問いかけに、ジェイドはもう顔を作れない。


「いえ、それは……その、ジークハルト様に付き添っているためで……」 


「あら、そうなの? ジークハルト様がいなくとも、貴方とその少女がいつも一緒にいると私の耳に入っていますが? それが間違いだと?」


「いえ、それは……その、同じ学年なので……」


「あら、カトリーヌ様は同じクラスなのに、可笑しい話ね?」


「……」


 確かに、短い休み時間でもジェイドはマリーに会いに行っている。

 婚約者であるカトリーヌが同じクラスにいるが、カトリーヌとは姉を挟んでの交流が多いため、あまり気にもしていなかった。


「その、彼女は、ジークハルト様の友人でもありますので……」


「ご友人? 貴方たちは婚約者よりも友人を優先するというの?」


「……」


 ジークハルトの名を出し言い訳をしてみたが母に通用するはずがない。

 そもそもジェイド自身がマリーに会いたいという気持ちから、休み時間になればマリーの元へ行っている。

 そんな様子を母は耳にしたのだろう、誤魔化せるはずがなかった。


(もしかしてカトリーヌが焼きもちを焼いて告げ口をしたのか? 姉好きなだけあって卑怯な女だな……)


 カトリーヌとシャーロットのことを心の中でなんて卑しい女なんだと舌打ちしながらも、ジェイドは「事情があってのことです」と苦しい言い訳をし、両親にまたため息を吐かれた。


 どうやらこれも両親が望んだ答えではなかったようだ。

 けれど今のジェイドにはそれ以上の答えが出なかった。


「ジェイド、次の試験ではこんな恥ずかしい結果を残すな、ソラリス家の子供であることをもっと自覚しろ、良いな」


「はい、次は必ず! 父上、母上、ご期待ください!」


「ジェイド、カトリーヌ様にもお詫びをしなさいね。貴方にないがしろにされているという噂でもたてば彼女の不名誉になります。今後は婚約者としてカトリーヌ様に寄り添いなさい、良いですね?」


「はい、すぐにカトリーヌ嬢に連絡をし、会う約束を取り付けます。父上、母上、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」


 カトリーヌへの愛情は無いけれど、婚約者であることは確かなので仕方なく両親と約束をする。


 けれどソラリス夫妻にはジェイドのその様子がこの場限りの行動に見え、心のない謝罪に映った。


 長い人生を貴族として生きている両親の目をジェイドは甘く見ていた。






「はあー、全く、ジェイドはいつからあんな勘違いをする者になったんだ。養子であるという立場を全く理解していない」


「本当ですわね、シャーロットが弟だと可愛がって甘やかしていたから勘違いしたのでしょうか? 一度の失敗が命取りになる、養子としてのそんな覚悟が無いように見えますわ……」


 部屋を出てホッと息を吐いたジェイドに、両親の呟きは聞こえない。


 乗り切ったと勘違いしているジェイドは、実子と養子の違い、自分の立場を理解していなかった。


「あの方も、第一王子だと大きな顔をしていらっしゃいますが、それが誰のお陰か分かっていないようですし……」


「ああ、そうだな……陛下がどうしてもと頭を下げられたからシャーロットとの婚約を決めたが、可愛い娘をあの方に託すには不安しかない。この現状が続くようならこの婚約も見直すべきだろうな」


「ええ、そうですわねー。私の国にシャーロットの相手を打診してみましょうか……」


「そうだな、シャーロットが望めばそれもありだな」


 シャーロット付きの諜報員たちからの報告に、ソラリス夫妻は憤りを隠せない。


 本来シャーロットを守らなければならないはずのジェイド(養子)までもがジークハルトの味方になっている。普通に考えてもあり得ないことだった。


 そんな息子の愚行が許せず、今日厳しく注意をしたのだが、自分しかソラリス家の跡を継ぐ者はいないと思い込んでいるジェイドの認識は、どこまで行っても甘いものだった。


「シャーロットが卒業するまで……それが見極めの期限だな……」


 マリーしか見えていないジェイドは、人生の分岐点に立っている自身のことに気付いていなかった。

 

おはようございます、夢子です。

いつも応援ありがとうございます。


ジェイドは可愛い系男子です。

今は恋に夢中で周りが見えていない状況です。

残念……

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