婚約者とのお茶会
「……遅かったな」
両陛下との面談の後、シャーロットが婚約者同士のお茶会会場へと着けば、ジークハルトが不機嫌な顔で待っていた。
待たされたことに対し隠すことなく顔に出すジークハルトにシャーロットは呆れてしまう。
(自分はいつも遅れてくるくせに……)
子供っぽいジークハルトに溜息を吐きたい気持ちを抑え、シャーロットは美しい礼で挨拶をする。
「遅れまして申し訳ございません、ジークハルト様。両陛下に呼ばれておりましたので……そちらにも連絡が届いていたと思いますが、聞いていらっしゃらなかったのですか?」
両陛下に呼ばれたと同時に、ジークハルトには連絡が行ったはずだ。
それを知らないということはジークハルトの確認ミスか、ジークハルト付きの使用人の連絡ミスかのどちらかだろう。
シャーロットについての話は聞きたくないと言っているジークハルト本人のミスだとは思うが、普段茶会で待たされてばかりのシャーロットはそれをフォローするつもりはない。
ジークハルト本人にもお付きの者たちの態度にも、日ごろから言いたいことを我慢しているのだ。
いい気味だと思っても罰は当たらないだろう。
「ハハッ、私を待たせても陛下の名を出せば許されると思っているのだな、お前の性格が良く分かるいい訳だ」
「あら、許されるも何も、両陛下との面談は本当のことですから……納得していただけないようでしたら連絡を怠った使用人を陛下にお願いして探し出していただきますが、いかがいたしましょうか?」
シャーロットの言葉を聞き、ジークハルトの使用人たちの顔色が悪くなる。
使用人たちのミスだと陛下が認めれば、この場に居られなくなるどころか城で働くのも難しくなるだろう。それが分かっているからか、皆下を向きシャーロットとは視線を合わせない。
主の真似をしてシャーロットを馬鹿にしていたようだが、今までのことを含め全て陛下に届くとなればクビだけでは済まなくなる。そのことに今更気付いたようだ。
シャーロットがどんな生まれの女性であるか今頃分かったのかもしれない。
遅すぎるぐらいだが……
「フンッ、本当にお前は可愛げのない女だ、素直に謝れば許してやるところを……」
「まあ、オホホ、それは失礼いたしました。今後陛下に呼ばれた際は、ジークハルト様にまず謝るようにと皆に周知させておきますわ。これで伝達ミスもなくなるでしょう、それで宜しいでしょうか?」
「チッ、小賢しい。これだからお前との茶会は嫌なんだ、気分が悪くなる」
「まあ、でしたら待っていただかなくても結構でしたのよ? 今までのように遅れていらっしゃればそんな気分にもならなかったでしょうし……」
「フンッ、ああ言えばこういう、お前は嫌味しか言えないようだな」
「はあ……私が何を言っても嫌みと受け取られるようでしたら、今後の茶会も取りやめにいたしましょう。ジークハルト様のご希望でと伝えさせていただきますが、それで満足ですか?」
「……」
シャーロットとの茶会を中止に出来ないことはジークハルトが一番良く分かっているはずだ。
婚約者と不仲、そんなことが今陛下に伝われば何を言われるか分からない。
マリーとのことも詮索される、そう思っているはずだ。
ジークハルトが気に入らなくとも婚約者は陛下自ら決めた相手。
仲が悪いなどと思われ、問題になることはジークハルトも望まない。
まあ、それも若葉の宴であれだけのことをした後だ、今更だとは思うが、何も注意をされていない現状、ジークハルトは自分は上手く立ち回れているとそう思い込んでいる。
なので公の場ではシャーロットを婚約者扱いもするし、遅れはするが茶会にも出席する。
要はジークハルトは小心者なのだ。
悪いことを両陛下には知られたくない。
我儘な子供そのもの。
王命で決められた婚約者でなければ、シャーロットはとっくに離れていただろう。
「チッ、茶会は我慢してやる、仕方がないからお前の顔を立ててやるが、勘違いするなよ」
「……そうですか……それはとても残念ですね……」
「チッ」
シャーロットの笑顔を見てジークハルトは舌打ちする。
見ているだけで気分を害する男、それが今のジークハルトだ。
言葉を誤魔化すことなく言ってもいいならば、シャーロットの最も嫌いな男がジークハルトだ。
王子として尊敬できない男でもあるが、何よりまったく紳士らしくなく、本当にどう育てられたのか、そう言いたくなるほど愚か者に変わってしまった。
だからこそシャーロットは婚約破棄できるように動いているのだが……
この男はシャーロットのそんな気持ちにも気づかない。
シャーロットは王子妃に固執し、ジークハルトに執着している、そう思い込まれている。
シャーロットのどこを見てそう思ったのかは分からないけれど、きっと周りの言葉を聞いての判断なのだろう。
昔から思い込みが激しいところも、ジークハルトの嫌な部分だった。
(昔は可愛いところもあったのに……すっかり傲慢な王子の出来上がりですわね)
幼いころからジークハルトには我儘な部分は合ったけれど、それでもシャーロットを毛嫌いしてはいなかったし、可愛いところもあった。
自分が悪いと思えば謝ることも出来たし、シャーロットを自分の大事な婚約者だと、今よりは気遣うことも出来ていた。
季節ごとの贈り物だってちゃんとジークハルト本人が選んでいたし、手紙も代筆ではなかった。
(私が嫌われるようなことをしてしまったと悩んだこともあったけれど……ここまでくると本人の資質の問題でしょうね)
誰のどの言葉を聞き入れるかはジークハルト本人次第だ。
シャーロットに劣等感を抱えるジークハルがどんな言葉を選んで聞き入れたのかは分からないけれど、今の態度を見れば自分に都合がよく、甘い言葉ばかりを選んでいたことは分かった。
「「……」」
会話も何もないままジークハルトと向き合って座りお茶を飲む。
ジークハルトから話しかけてくることもないし、何を言っても聞き入れないジークハルトに対し、シャーロットが声を掛けることもない。
本当に不毛なお茶会。
時間の無駄でしかない。
早くこんなバカげた茶会を止めたいが、陛下がこの婚約を決めた以上従うしかない。
けれどシャーロットだってただ従っているわけではない。
両親には勿論ジークハルトの行いを伝えているし、彼の行動は王家だけでなくソラリス公爵家も見張っている。
だから尚更時間の問題。
もう未来は決まっていると言っていい。
きっとあと少しの辛抱。
ジークハルトが次に何かをしでかせば、この話は消え去るはずだ。
そう分かっているけれど、自分を嫌う相手を前にすればシャーロットの心は削られる。
そんな時つい思い出すのは、子犬のようなエリックの笑顔。
『シャーロット様』
キラキラした瞳でシャーロットを見つめ、憧れを前面に出しシャーロットの名を呼ぶエリック。
最初はマリアンヌ・アレースの幼馴染という少年だと聞いて興味をもったけれど、今は違う。
あのかわいい子にまた会いたいとそう思ってしまうのだ。
(フフフ……エリックは焦るとくりくりした目がきょろきょろと動いて可愛いのよね……)
高位女性として生まれ、王位継承権も持つシャーロット。
恋や愛などには目もくれず、政略結婚を当然とそう思ってきた。
けれど……
最近は本当にそれでいいのかと考える毎日だ。
特に決められた相手であるジークハルトの行動を見ているとその思いが強くなる。
自分の選んだ相手と結婚できるとしたら、今のシャーロットは誰を選ぶだろうか。
(……彼にはこれ以上迷惑を掛けられないわ……)
自分の心の変化に、まだ素直になれそうにはないシャーロットだった。
「おい、何を考えている」
窓の外を見て子犬のことを思いだしていたシャーロットは、自然と口元が緩んでいたようで、ジークハルトに怪訝な目を向けられてしまう。
「いえ、特には……庭が綺麗だと感心していただけですわ」
「フンッ、お前に花を愛でる心がある訳がないだろう、嘘を言うな」
「あら、まあ、心外ですわね……私はこう見えても可愛いものが好きなのですよ。まあ、あまり親しくない方は知らないことでしょうが」
「なんだと」
貴方は私の友人でもなければ親しい相手でもない。
遠回しにそう伝えればジークハルトにもちゃんと伝わったようで、ガシャンと音を立ててカップを下ろすとシャーロットをギロリと睨む。
親しくないことは本当なのに、何故睨むのだろうか。
自分がシャーロットを非情に扱うことは許されても、シャーロットがジークハルトを無常に扱うのは許されないようだ。
「……では、ジークハルト様は私の何をご存じですの? 教えて下さいませ」
「……っ!」
ジークハルト自身がそう行動しているのにシャーロットを責めるのはお門違い。
子供の癇癪のようなその態度を見て、呆れて溜め息を吐きそうだったが、シャーロットは笑顔で飲み込んだ。
「もういい、茶会は終わりだ!」
席を立つジークハルトをシャーロットは礼をして見送る。
その美しいカーテシーを見ることもなく、ジークハルトは部屋を出ていった。
「……両陛下も心配していらっしゃいましたよ、ジークハルト様……」
シャーロットの呟きは当然ジークハルトには届かない。
ジークハルトの心がシャーロットから離れていると同様に、シャーロットの心もまた、とっくにジークハルトから離れていた。
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