若葉の宴
入学生を歓迎する夜会、若葉の宴の日を迎えた。
美しく着飾った令嬢たちや、初めてのお洒落に緊張気味の令息たち。
初々しい新入生を迎えるため、主要な家門の上級生たちは今日の夜会のため準備に奔走してきた。
当然未来の王妃であるシャーロットもその一人。
婚約者である第一王子ジークハルトの瞳の色である緑色のドレスを着こなし、主催者として壇上に立ち可愛らしい新入生たちを笑顔で迎え入れる。
薔薇のような容姿のシャーロットは豪華なドレスを着ているせいか、制服姿の時よりもその美しさが際立って見える。
一人だけ学生ではないような大人っぽさを見せていて、新入生として入場してきたエリックはこんな時なのに見とれてしまう。
(シャーロット様……美しいなぁ……)
そんなシャーロットの隣には婚約者であるジークハルトも立っていて、シャーロットと仲がよさそうな様子で笑顔を浮かべている。
だが会話はないし、二人が視線を合わせることはない。
二人の今の状態を知っているエリックだからこそ気づくことだけど、見てはいけないものを見てしまったような気持になりドキドキとしてしまう。
今宵は婚約者がいる生徒たちは婚約者と一緒に参加していて、若葉の宴は成人してから迎える夜会の予行練習の場ともいえる。
けれど学園で婚約者を見つける生徒も多いため、一人での参加も当然許されている。
エリックもあんなことがあったため、残念ながら婚約者などいないので一人での入場だ。
マリーに「一緒に行こうよ」と声を掛けられたが、当然そこは遠慮させていただいた。
「マリー嬢、気遣いを有難う。でも夜会の場ではジェミナイ商会の宣伝もしたいから一人が良いんだ」
「ふーん、そうなんだ。夜会でもお仕事なんてエリックは働き者だねぇ、尊敬しちゃうよ」
断る言い訳のような言葉を掛けたのだが、マリーは納得してくれた。
新入生の歓迎会の夜会で店の宣伝をする気はあまりないのだが、マリーはなんの疑問も浮かばなかったようでホッとする。
そんなマリーはジークハルトの髪の色だと思われる黄色のドレスを着ている。
もちろんジェミナイ商会が特急で作った力作のドレスだ。
男爵令嬢が着るには相応しくない高価なドレスだが、シャーロットからそれでいいと言われているため、エリックは頑張って目立つように作った。
レースたっぷりでふわふわの可愛らしいドレスに包まれたマリーは花の精のようで可愛らしい。
会場に入ってきた瞬間から多くの令息や令嬢の目を引いているが、それはいい意味でも悪い意味でもあった。
「あの方、男爵令嬢ですわよね? あのドレス、身分不相応ではなくって?」
「殿下のお気に入りだから仕方がないのではないかしら? でも一体どなたが贈られたドレスなのかしらねぇ……」
「マリー嬢、美しいが……」
「ああ、ダンスに誘って殿下に睨まれるのはごめんだよなぁ」
そんな声があちらこちらから聞こえるが、マリー本人に気にした様子はなく、いつもの仲間たちの顔を見つければ、笑顔でそちらに近づいていく。
「みんな、会えてよかったー、一人で寂しかったの」
今来たばかりで寂しいとは大げさな気もするが、マリーのお友達たちは心配そうな表情を浮かべる。
「マリー、大丈夫だったかい? 変な輩に声を掛けられなかったか?」
「入場から一緒に居られたら良かったのだが」
「今からはずっと一緒に過ごそう」
「ここからは可愛いマリーのことは皆で守るから安心していいぞ」
「うん、みんな、有難う」
学園内でも目立つ集団は今日も当然目立っている。
婚約者を会場に放置しマリーを優先しているのだ、誰だって可笑しさを感じるだろう。
彼らの婚約者であるエリザベスもクリスティーネもゾフィアもカトリーヌも、婚約者の色のドレスを着て会場内にいるのだが、ここまで一緒に来たはずなのに彼らの目にはもうマリーしか映っていないようだった。
エリザベスは青いドレス、クリスティーネは赤いドレス、ゾフィアは水色のドレス、カトリーヌはキャラメル色のドレスで皆とても美しい。
婚約者から離れ、これから始まる挨拶を待っているのか、壇上近くに皆で集まっている。
だがどの集団よりも美しく目立ち華々しい。
婚約者がいなければ多くの令息から声を掛けられていただろう。
分かっていても彼女たちに見惚れる令息が多くいるのも当然だった。
「ではこれから新入生のための夜会、『若葉の宴』を開催する!」
ジークハルトの掛け声でわーっと会場内に歓声が上がる。
そして音楽が鳴り出すと、ジークハルトのエスコートを受けシャーロットと二人壇上から降りてきて会場中央に進む。
お似合いすぎる二人の姿に感嘆の声があちらこちらから上がるが、エリックは「素敵な二人」だとは思えなかった。
シャーロットの本当の笑顔を知っているだけに、ジークハルトへ向けるシャーロットの笑顔にはどこか冷たさを感じていた。
「マリー、お待たせ、さあ、踊ろうか」
「はい! ジーク様! よろしくお願いします!」
シャーロットとの最初のダンスが終わると、ジークハルトはあり得ないことにマリーがいる場所へと自ら赴きマリーをダンスに誘う。
自分の役割は終わった、仕事はここまでだ。
義務的なシャーロットとのダンスは終わらせたとばかりに、マリーの傍へと駆け付け自らダンスに誘ったのだ、エリックだけでなく周りの子息たちも当然驚いている。
ざわつく会場内。
けれど注目を浴びる本人たちは全く気にしていない。
「マリー、今日の装いはとても素晴らしい、月の女神のようだ」
「ジーク様、有難うございます。ジーク様もとっても素敵です」
開いた口が塞がらないではないけれど、普通に考えればジークハルトはまずシャーロットの側近である令嬢の中から家格順に令嬢をダンスに誘い、一通り礼儀を通してからマリーをダンスに誘うのが王子として許される範囲だろう。
学園内の夜会だからか、若葉の宴という名の無礼講だからか、あり得ないジークハルトの行動にエリックだけではなく会場中の生徒たちが茫然としている。
中にはダンスを止めるカップルもいて、中央で楽し気に踊るジークハルトとマリーは多くの視線を集めていた。
「エリック」
「シャ、シャーロット様?!」
「うふふ、こんばんは、エリック。花の方のドレスの準備を有難う。時間がなくて大変だったでしょう? 無理をさせたわね」
ダンスをする者たちを見つめながら壁際にいたエリックの元にシャーロットが来て声を掛けてくれた。
きっとその姿は、慣れない夜会に参加した生徒に声を掛ける優しい令嬢に見えているだろう。
シャーロットの浮かべる笑顔はジークハルトの隣にいた時とは違い、いつもの優しい微笑みだった。
「いえ、シャーロット様が前もって指示を出していて下さったお陰でそれほど大変ではありませんでした」
それは嘘だった。
マリーのドレス選びはあの令息たちからの色々な注文や横やりが入り、型選びから大変だった。
それにフリルやリボンといった可愛いものを沢山取り入れたいというマリーの可愛い我儘のお陰で難航した部分も大いにある。
だけどエリックだって男の子だ。
シャーロットの前ではちょっとぐらいカッコいいところを見せたかった。
「まあ、うふふ、エリックは素敵な紳士なのね、有難う、全部あなたのお陰よ」
「……っ!」
どうやらシャーロットにはエリックの強がりなどお見通しだったようで、お礼を言われながらもクスクス笑われてしまい、ちょっとだけ恥ずかしい。
「エリックが居てくれて良かったわ……」
「シャーロット様……」
「ふふ、これは本心よ、貴方といると心が和むの」
そう言って微笑んだシャーロットの視線の先では、ジークハルトとマリーが友達としてはあり得ない二回連続のダンスを始めていた。
友人とのダンスは一度だけ、連続して踊るのは恋人同士や婚約者のみ。
そして三回続けて踊れば家族同然、深い仲だとそう宣言しているも同じ。
楽し気な二人を見てシャーロットは扇で顔を隠した。
「シャーロット様……?」
「お似合いの二人ね……」
「……そんなことは……」
無いと言いたいがエリックは言えない。
どう見てもジークハルトとマリーは恋人同士そのものだった。
「良いの、分かっていたことだもの」
泣いているのか笑っているのか隣にいるエリックにも分からなかったけれど、シャーロットが傷ついているのは分かる。
彼女の優しい笑顔を護りたい。
シャーロットのために何かしたいと、そんな感情がエリックの中で強くなりつつあった。
こんばんは、夢子です。
本日もお読みいただき有難うございます。
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エリザベスとゾフィアは婚約者の瞳の色、クリスティーネとカトリーヌは婚約者の髪色のドレスです。
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